オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし 作:ArAnEl
そろそろドヴァキンの皆様、ペライト討伐に行ってコロナから救ってもいいのですよ?
あとストーリーの関係上一部の国の方々が悪者扱いしている場面ありますが、決して現実でそのような感情はございませんので、ご理解の程お願いします。
どこかの平原にて
砲弾が秒単位で降り注ぐ。155mm榴弾が地面で炸裂するとみるみる地形を変えてゆく。
「ここまで練度が上がっていたとはな……」
陸自の幹部がその光景を見て呟く。だが、よい
それもそのはず、撃っていたのは陸自ではなく、中国の自走砲であった。
100門もの自走砲が砲弾の雨を降らせる。
陸自の総火演ほどの練度ではないが、実戦における練度としては十分に足りるものであった。
日本だけではない。他国も同じような感じで様子を見ていた。もちろん、その撃ち方、間隔、故障頻度など全てデータとして収集もしているが。
「ふっ、
一方、撃たれた側はたまったもんじゃない。
「なんじゃこりゃあ!?」
「こんなの勝てっこないよー!」
「ぎゃああ!」
「私の耳が千切れたあ!」
と亜人、人間男女問わず大変な目に遭って一部は蜘蛛の子散らすように撤退している。
「ふむ、やはり中世程度相手に大人気なかったかな。
馬大校は後ろにいる将校たちに問いかける。
「「……」」
「これは治安維持の範疇を超えていませんか?」
ほとんどの者が口を閉ざしている中、日本人の幹部自衛官が問い詰める。
「何を呑気なことを。戦線布告されてもなお治安維持で留めたいのかね。君たち日本人はお人好しというか、現実を直視したくないだけなのかな?」
馬大校は少し小馬鹿にしたように返す。
「ええ、我々は平和的解決を望みます。たとえ、相手が戦線布告しようと。彼らが停戦に応じるならばすぐにでもこちらも応じるつもりです」
「甘いな。甘い。こういうときは、徹底的に潰さなければならないのですよ。貴方がた日本人が軍隊を持たないという現実から目を背けていた時も、我々は国共内戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、中越戦争、アフガン、ラオス、マリと戦争に何らかの形で参加した。
そこで気づいたのは力こそ全てである。敵は徹底的に潰す」
「しかしここは我々日本の管轄だ」
「だからどうした?ならばなぜ早く収束させなかった?モタモタしてるからこのような結果になったのだろう。我々なら7日で制圧していた。所詮この土地は小国が管理するのには荷が重いだろう」
馬大校の言葉を聞き、自衛官の拳がワナワナと震えているのが見える。
「あと、我々をあまり怒らせない方がいい。
「このっ……」
「健軍1佐!お願いします、ここは堪えてください!」
掴みかかろうとする自衛官を周りの部下が必死に止める。
「小日本は、せいぜい指を加えて見ているがいいさ。全軍前進」
戦車を前に歩兵が追従してゆく。
戦車20両、対空自走砲5両、歩兵2000人に戦闘ヘリ2機が前進始める。
「健軍1佐、我々も進みますか?」
「いや。我々は防戦を担当している。せっかくこちらの世界で積んだ信頼関係を、少しでも無駄にならないようにしたい」
米英露仏も少数のみ進めてゆく。
数は多くはないものの、辺りには遺体が痛々しい姿で散乱していた。
元気な者はすでに撤退していたので、死亡しているか重傷者しかいなかった。
「健軍1佐、せめて負傷者の収容だけでも……」
「……そうだな。許可する」
自衛隊の衛星隊員が、生存者の確認、運搬を始めると他国も続いて救助を始めた。
「……意外ですね」
若い自衛官がふとつぶやく。
「何がだ?」
健軍1佐は双眼鏡で状況を把握しつつ尋ねる。
「世間では散々な評価の人民解放軍も、人道的に救助活動を行なっているのをみると、なんだか不思議な気分だな、とら思いまして」
「……あまり心の隙を見せるな。悪い評判を聞かせて実はいい人でしたというアピールかもしれん。ストックホルム症候群やマインドコントロールに用いられる手法に似ている」
「何ですか?そのストック何ちゃらとか?」
「簡単に言うと、昔やんちゃしていた人が更生して真面目になったり、不良少年にギャップをおもわせるような優しさがあるとする。
そうすると、なぜか普段いい人よりも良い人、に見えてしまうものなのだ」
「マジですか……気をつけます」
「考えすぎならいいんだがな。この世界は性善説は通用しないと思っておけ(現に自衛官複数人がハニートラップなどに引っかかっていることを考慮すれば、用心にこしたことはない)」
周りには敵か味方かわからない者に囲まれている。もしかしたら隣の米軍将校が黒幕かもしれない。それともあちらのロシア軍のが?それとも……と健軍だけではなく、そこにいる者全員が疑心暗鬼になる中、それは突如起きた。
「スナイパーッ!」
階級、国籍問わず全員がとっさに伏せた。するとすぐに乾いた音が遠くからした。
各指揮官が無線で状況を確認する。
「こちら健軍!状況を知らせろ!」
『隊長!自衛官の負傷者はいませんが、撃たれました!……えっ!?ただ今確認しましたところ、中華人民共和国の衛生兵が撃たれました!重傷です!』
「どれほどだ!?」
『脚が……右脚が膝から下がないそうです!』
「(対物ライフルか!?)総員戦闘用意!銃声の遅れからして長距離狙撃だ!」
『了か……いっ!?』
無線越しに爆音がしたが、大き過ぎて音割れを起こす。
「おい、何が起きた!?」
『だ、大丈夫です。近くの戦車が撃っただけです』
見ると既に中国の指揮官は狙撃位置と思われる位置へ攻撃を開始していた。
戦車、自走砲、戦闘ヘリ全てが見えない敵に猛攻を加えていた。
『わ、お前たち何をするだーっ!?はなせ!』
「どうした!」
『邪魔だからと無理やり退かされましたー!』
「仕方ない、戦闘中として衛生科は後方へ急いで移動しろ!」
『了解!』
こうして、国連軍及び自衛隊は見えない敵と戦うのだった。
***
その後、会議室にて各国の代表指揮官たちが定期的な情報交換のため集まっていた。
しかし、皆の表情は非常によろしくない。
「「「…………」」」
会議が始まって既に10分経過したが、誰も話さなかった。
「……部下の健軍1佐から報告を受けました。衛生兵が、撃たれたようですね」
狭間陸将がポツリと呟く。
「そうだ。我が偉大なる人民解放軍の衛生兵の同志が片脚を失くす重症だ」
馬大校はかなり苛立っている様子で続けた。
「これは重大な国際法違反だ!衛生兵を狙うなど、言語同断だ!」
「確かに、遺憾ではあるが、結局奴らはテロリストなのか?それとも国家なのか?前者なら国際法は適用されないからな。まあ国家と名乗るのだからそれぐらいは遵守してもらいたいところだ」
イギリス軍の大佐がやれやれといった感じで呟いた。
「ただ、これが奴らからの狙撃という証拠は見つかったのか?」
フランス軍の代表が確認をする。
「……」
馬大校は何も言わない。彼を苛立たせているのはこれなのだ。証拠がないから正式に帝国に攻撃する理由が作れないということが。
「そうだな。狙撃手の遺体や装備どころか、薬莢も見つからないとは……」
米海兵隊アンダーソン少将がそう言うと、馬大校は彼を一瞬睨みつけた。
「何を言う、逆に奴らしかいないではないか」
とロシア軍指揮官が言うが、ここにいる全員がそう思っていなかった。
「もう一つ、ありうる可能性としてはあのカトウというテロリストが言ってた、ゲート生成の技術だろうか」
「「「……」」」
イギリス軍将校の言葉に皆が眉をひそめる。
本当に帝国がやったのか。中国の自作自演ではないか。他国が足を引っ張るためにやってるのか。内通者か。それとも、加藤が言っていた新たなゲートの技術なのか……
全員が疑心にまみれたためまともな会議もできない。
挙句には中国の収容した捕虜の人数が合わないから人体実験してるのではないかなど関係ない話まで持ち上がって最初の沈黙とは真逆に罵詈雑言飛び交う喧騒な会議で結局何も解決せず終わった。
「狭間陸将、この状況、似てませんか?」
「健軍1佐、何だ?」
「満州事変も、一発の銃声から始まったと言われてます」
「……まずいな、非常にまずいな」
狭間陸将は各国の歪みが大きくなることを感じた。
***
「どうだ、うまくやったか?」
「ああ、なかなかいい方向に向かっているよ。あんたもなかなか面白いこと思いつくね」
ノッラから加藤は報告を受ける。
「あらかじめその銃とやらを地面に埋めて、作動すると同時に遠隔に設置された爆発魔法陣で音を欺瞞するとはね」
「敵さんもまさか足元から撃たれてるとは思わないだろう」
「あと、可哀想な被害者は他と比べるとやたら目立つマークをしていたな」
「……もしかして、白地に赤い十字か?」
「そうそう」
「……」
「どうした?」
「いや、なんでもない」
加藤は苦笑いでごまかすが、甲冑姿のピニャが勢いよくテントに入ってきた。凄い剣幕である。
「加藤殿!聞いたぞ、赤十字を攻撃したとな!」
「おや、ピニャ殿。いつも
「そんなこと言ってる場合か!ああ、妾たちの国際評価が落ちる……」
「まあ、今回は事故みたいなもんだし。これぐらいあった方がいい」
「……どういうことだ?」
「俺の読みが正しければ、今頃敵さんは混乱して疑心暗鬼だ。陰謀論、俺たちのハッタリ、思わせぶり……このまま奴らの余裕を無くせばいい」
「敵の士気が落ちるのは良いことだが、我々は敵を作ることになるぞ。それにそう簡単にうまくゆくものなのか?」
「まあ殿下、見ていてください。人間まだ余裕あるうちは、向こうも人道的です。しかし、人間余裕がなくなると何しでかすかわからない。今までの歴史通り、彼らはいずれ大きな非人道的なミスをする。過去の日本、アメリカのようにね」
「……うまく行けばよいのだが」
「……堕ちるさ、我々のようにね」
「うむ、加藤殿、何か言ったか?」
「いえ、独り言です。少し休憩しましょう」
加藤は雨の中テントを出ると既に辺りは真っ暗だった。あるのは松明などの僅かな光。
「さて、人類は先の大戦の時のように失望を見せるか、それとも進化を見せるか……頼んだよ」
加藤は雨の中頑張って濡れたタバコに火をつけようとする。
***
次の日
人民解放軍の戦車が列をなして木々をなぎ倒しながら進んだ。
すぐ後ろには
さらにその後ろには、他国の人員輸送車が少数ながら追従する。
「
同席していた米軍将校が吐き捨てるように呟く。
「今日はどこに向かうんだ?」
「イタリカという都市ですね……」
イギリス軍将校の質問にオブザーバーとして参加してるイスラエル軍の士官が答える。
(イタリカか……)
健軍は彼らの会話聞きながらふと思った。
(イタリカはゾルザルのときも帝国領内としながら我々に協力的だった。できればトラブルは避けたい……各国が節度ある行動を取ることを願おう)
彼らの載っている車両は予報もなく緩やかに止まった。
「ん?何かあったかな?」
車内にいる士官達は小休憩を兼ねて輸送車から降りると、状況を確認する。
「先頭で何かトラブルか……戦闘にはなってないようだな」
「中国製だから戦車にトラブル起きたのでは?」
とイギリス軍将校はジョークを飛ばす。
皆が外を気にしている頃、先頭では歩兵が見つけた地雷を処理していた。
対戦車地雷と思しき黒い円盤が適度な間隔で設置されていた。
「やはり相手は未開な人間と亜人だったか?」
「対戦車地雷が地面に置かれているだけだぜ、ありゃ」
歩兵達は笑いながら近づいた。
「しかも旧式と来た。これは簡単に解除できるな」
「まあ、油断しすぎないようにな」
20分もすると5つの地雷全て解除された。
「よし、地雷の解除はできた。回収するぞ」
工兵長が命じると、若い兵士たちが持ち上げる。
「あ、あと持ち上げるときはゆっくり……」
と振り向いて言おうとした時、時が止まったかと思うほど背筋が凍った。
持ち上げた対戦車地雷の下には
持ち上げたことにより、ピアノ線はピンと張った。
それが彼が最後見たものだった。
健軍たちから見て、前方で大きな爆発音と、黒い煙がもくもくと上がるの確認した。そして何やら慌しい。
「対戦車地雷にしては爆発が大きいな。
「ワシはイラク以来だな」
米軍の将校の言葉に対しイギリス軍の老兵が懐かしむように言う。
「戦車3両が吹っ飛んだ?ほうほう……重軽傷者多数……分かった、引き続き監視しろ」
このように無線でやりとりしている米兵が近くにいたもんだから皆状況を把握する。
はて、前線には中国軍が拒否するため米兵はいないはずだが、どうやって知ったのだろうと健軍が不思議に思っていると、空から一瞬光るものが見えた。
(
「色々と復旧には30分かかる見込みだそうだ」
無線をしていた米兵が言う。
「しかし、敵さんもなかなか考えるねえ。これで進軍速度も落ちるな……」
「あー、あれか」
双眼鏡で前線を確認した将校が指を指す
戦車1両の砲塔が離れた場所に落ちており、台座の方は消化中だった。残り2両も大破していた。
「馬大校、いかがなさいますか?一度止まりますか?」
中国の士官が尋ねた。
「……戦闘ヘリに連絡。前方に対地ロケット砲と機関砲で道を作れ、とな」
その旨を伝達すると、戦闘ヘリが後方から現れて地面にロケット砲、機関砲が撃ち込まれ緑色の地は地形を変え、砂と石ころだけになった。
やはり地雷や爆弾が設置されており、ヘリのロケット砲や機関砲により誘爆した。
「……あれだけ余裕あればその金を地雷撤去に支援にしてもらいたいね」
「お前が言うな」
「いや、今こそ紳士の国のパンジャンドラムの出番じゃないか?」
「呼んだか?」
米兵が皮肉るとフランス兵がつっこみを入れ、英国紳士も巻き込む。
そして時間はかかったが、並列だった戦車は縦列となり、地雷は粉砕されたであろう道をゆっくりと進み始める。
「どうやら進み始めたな」
英国将校が双眼鏡で前線を観察しながら呟く。
「まあ、幅が一気に狭くなったから我々が動くのはまだ先だろう。あ、てめえこの野郎!俺のマーマイト取るんじゃねえ!」
目を離した隙に昼食を取られる英国紳士だった。
比較的後方にいる彼らは軽食を摂っていた。
先ほど大爆発が起きた直後でよく食えるなと健軍は思っていたが、彼らの目が先ほどの柔和な目つきから、
食べ終わった者は装備の点検を始めている者もいた。
(忘れていた……)
忘れていた。彼らが各国代表の指揮官であったことを。
未知の土地にハンパな者を寄越すわけがない。彼らは、我々自衛隊が経験したことのない、数々の戦場を生き延びて今の地位にいる。
「だが、特地での経験は我々自衛隊が一番ある。何も卑下する必要はない」
そう自分に言い聞かせると携行食をかき込む。
***
ついでに、東西南北に分かれて偵察、リクルート活動などを行うことにした。
東西南北にそれぞれ
当初単独行動は危険という意見もあったが、元々我の強い龍たちがそもそも協調できるわけないという結論に至り、単独行動することになった。
彼らが結束できていたのも、アルドゥィンという絶対的
「あの中で一番弱いのは私なのはよく理解している……本当に私一頭で大丈夫なのだろうか……」
ヨルイナールは不安になりながらも北へと飛んでいた。
「と言っても北にはほとんど何もないみたいね。あるのは雪山だけか……」
などど少し気を緩めたのが災いした。
真下の死角から大きな岩が三つほど飛んできてそのうち2つがヨルイナールの腹部に直撃した。
「ブフォ!?」
硬い鱗とはいえ、比較的柔らかい腹部に、しかも山を見下せるほどの高度に楽々届く岩である。痛くないわけがない。
そのまま雪山の斜面へと追突し、転がってゆく。
「うぐぅ……肋骨やっちゃったかしら……」
息がしづらい。斜面を転げ落ちるときに鱗を何枚も剥がれる思いをした。
「とりあえず、手当を……っ!?」
遠くから変わった姿の龍が近づいてくる。
「あ……ああ……」
ヨルイナールは完全に戦意喪失した。いや、そもそも戦うことを放棄していたのだから、逃避行動かもしれない。
彼女を恐怖のどん底に陥れた理由は、その龍が明らかにヨルイナールを『餌』と見ていたからだ。
「や、やめてぇ!食べないでえ!」
最後の力を振り絞って叫んだが、首から腹部にかけて貪られ、激痛の中ヨルイナールは意識を失った。
数週間ぶりに餌にありつけた、尻尾を切られたティガレックスは雄叫びを上げるが、すぐになにかに怯えるように去ってしまった。
***
「と、いうことがあったのか」
アルドゥィンはため息混じりで話す。
ヨルイナールは意識を失い、真っ暗闇から出ると不思議な空間にいた。
自身の身体や周りの様子はよく分からなかったが、自我はあることは理解した。
そして目の前にいる無形のものはアルドゥィン様であることもすぐに理解した。
隣に何故か知り合いの魂が並んでいるが。
「で、アンヘルよ。お前はどうしてここにいるのだ?」
「わしはアルヌスの偵察に行ったら、地上と空から大量の鉄の塊が追尾してきてやられてしまった……」
「マヌケだな……で、お前は?……なになに、休憩していたら緑の怪物に食われた?何やってんだか……」
声は聞こえなかったがバルファルクのようだ。
「で、お前はと……西方砂漠で爆弾落としたら何やらすごい形相の龍に角で心臓刺されて死んだ、と。……バカではないか?」
こちらはバゼルギウスの模様。
「貴様ら一体何やっておるのだ。我はまだ修行中の身ぞ」
シュンと(精神的に)小さくなる4頭。もはやお父さんが子供を説教する感じである。
「我々は死んでしまったのだが、一体どうしたら良いのだ?」
アンヘルが不安そうに尋ねる。
「そんなこと我に言われてもな。我の存在自体現世ではないので復活させようにも無理だな」
「そんなあ」
アンヘルが悲しそうに声を上げる。
「まあ、そうだな。取り敢えず我の修行に付き合ってもらうか」
「「「「え?」」」」
「あそこにいるミラルーツは少し疲れたようでな。もう無理などとほざいておるのだ」
姿こそ光のような物体だが、なるほど消滅しかけているほど弱々しくなっているアレがミラルーツのようだ。
4頭の龍達たちは死んだことを死ぬほど後悔したという。
***
最前列の戦車が奇襲を受け停止した。
地面がいきなり崩れ、土砂にあっという間に飲み込まれてしまった。大きな落とし穴らしい。
「敵襲!散開!」
歩兵が素早く展開し、攻撃に備えた。
「うわあぁぁぁああ!」
「死ねぇぇぇえええ!」
「やろう、ぶっ殺してやる!」
すると戦車が埋まった土砂の中からウサギ耳をした獣人たちが飛び出して近くの歩兵に近接戦を仕掛けた。
「落とし穴の中に伏兵がいるなんて聞いてねえぞ!」
「ちっ、撃て!」
指揮官の号令で射撃を開始する人民解放軍歩兵。
しかし人間と比べ物にならないほど俊敏なヴォーリアバニー相手に装備で優れる現代兵士は手こずってしまう。
最前列にいた兵士たちは敵の攻撃範囲内までに侵入を許してしまった。
「がぁ!?」
「くそが!」
「ぎゃあ!」
本気で殺しにきていた。
ボディアーマーを避けて首筋や指や目などを直接刃物で攻撃したり、目潰しとして砂や怪しげな粉を顔に叩きつけて近接攻撃に持ち込むなど高度なテクニックを披露していた。
無論、ヴォーリアバニーたちの被害も大きかったが、今まで自衛隊がこちらの世界相手に無双していたことを考えると、かなり善戦している方だと思える。
「馬大校!このままではまずいですよ!我々に近接戦の戦闘に特化した者は多くはいません!」
「……撃て」
「は?」
「撃てと言ったのが聞こえんのか?」
「しかしこの白兵戦の中では……」
「ふむ、どうやら君は指揮官の命令を理解できないようだな。それは将校としていかがなるものかな……」
「す、すぐに命令します!」
「よろしい」
馬大校含みある言葉と、冷徹な視線に拒否権は無いと判断した将校はすぐに命令を下す。もちろん、下された方も耳を疑ったが、拒否権は無いとすぐ理解した。
一人が震えで照準の定まらない銃口を向け、いつもより数十倍も重く感じる引き金を引く。
一人が撃つと、周りも撃ち始めた。
そしてそれはやがて弾丸の雨となり、射線上の者を蹂躙してゆく。
「な、仲間ごと撃ちやがった……」
後方で様子を見ていた英国将校が驚く。
しかし、そんなことはまだ序の口だった。
「白兵戦など、想定済みだ」
馬大校が合図を送ると、全身防護服に背中にタンクを背負った兵士数名が前に出る。
ヴォーリアバニー数名が白兵戦で敵を倒すことに成功し、タンクを背負った兵士に突撃する。
弾丸をかわすために、ジグザグに進みながら複数人で襲いかかる。
しかし、あと一歩のところで火ダルマになった。
「ぎゃぁぁあああーー!!」
「熱い!熱い!たずげでぇぇぇえええ!」
人民解放軍の歩兵に火がついた際はすぐに火炎放射器兵の消化器で鎮火されたが、ヴォーリアバニーたちは絶命するまで放っておかれた。
火ダルマになり断末魔を上げながら絶命する姿を見て恐怖しながらも、数人は辛うじて攻撃を再開する。
しかし直線的な弾丸と違い、ホースの水のように軌道が自在な火炎放射に隙は無かった。
加えて、熱線で反射的に身体が萎縮してささまう。
火炎放射器複数による炎の壁は、まるでバリアのように彼女らを寄せ付けなかった。
そして容赦なく小銃の弾も降り注ぐ。
仲間がどんどん倒れ、とうとう恐怖が理性を支配すると彼女らは撤退する。
「逃げるぞ、追えー!」
しかし歩兵が一斉に突撃すると、あちこちで地面が爆発した。
「気を付けろ!対人地雷もあるぞ!」
「あいつら地雷原を物ともせず走るぞ。埋めた場所を覚えているのか!?」
歩兵の動きは止まったが、上空のヘリが追撃を行う。
機銃掃射が容赦なく逃げるヴォーリアバニーを襲う。
「ぎゃあ!」
「ああー!」
「うぐっ!?」
幸運なことに、通常の人間より素早くかつウサギのようにかわしながら逃げたため、予想よりかは多く逃れた。
「逃げ足はウサギ並み、と言ったところか。全軍停止、衛生兵は速やかに負傷者と捕虜を収容せよ」
馬大校が命令を発するとヘリも深追いせず戻ってくる。そして衛生兵、憲兵、工兵たちが戦闘後の処理を行う。
「なんということだ……」
前線の様子を見た健軍は言葉を失った。
負傷した歩兵が運び込まれるのは当たり前だが、その殆どが意図的な同士討ちによって生じた者の方が多かった。
そして何よりも炭化したヴォーリアバニーであったと思われる物がかなり心臓に悪い。耳が焼け落ちて殆ど人間のような姿で炭と化していた。
随伴していた陸自隊員の一部はショックのためか、吐いてしまった者、女性よ衛生隊員に至っては泣き出してしまう者もいた。
人民解放軍の中にも何が起きたか理解できず、呆然と立っている者もいた。
「な、何をするだーっ!?」
少し離れた場所でも揉め事が起きていた。
「そのカメラを没収する」
「我々ら広報、記録を行う海兵隊の部隊だ!強行するなら外交問題になるぞ!」
「それなら我々がやっている。情報漏洩防止のためにも我々に従ってもらう」
「クソがーー!」
米兵を始め、他の国の情報収集に使われる類のものは力づくで取られてしまった。
(そんなに記録されてまずいものが他にもあるのか?)
健軍は辺りを見回すと、先程の火炎放射器兵のタンクが少し奇妙なことに気付いた。
(タンクが3つ……火炎放射器と消化剤……残る一つは何だ?悪いことが起きなければよいが)
アルヌス攻防戦よりも短期だが、その時に見えなかった戦争の悪しき部分をこの短時間で垣間見た気がした。
(これが、戦争なのか……我々が、今までやって来たことは戦争ごっこに過ぎなかったのか?)
健軍は自問自答する。
そして犠牲者に対し合掌し短く黙祷する。
***
それ以上の進軍は厳しいと判断され、前哨基地が地雷原と思われる手前に設置された。
ついでに火が沈むめでに地雷の撤去、増援要請、なども行った。しかしながら、地雷は中々探知できず次の日へと持ち越すことになった。
「外の様子はどうだ?」
米海兵隊将校が訪ねる。
「……見回りがたくさんいるな。つまり我々は監視されているということだ」
英国の将校が答えた。
彼らは野営テントにて将校は一か所に集められていたのだ。健軍も例外ではない。
「やつら我々が邪魔なのか、それとも人質としているのかようわからんな」
「にしても変や声聞こえないか?」
「「「……」」」
全員が会話をやめて耳をすませる。
「おい、この声って……」
フランス将校が言い終わる前に健軍がテントを勢いよく飛び出る。
「おい貴様どこに行く!?」
見回りや番兵の静止を振りほどいて声の方へと走る。
辿り着いたのは捕虜収容テント。
中から、悲鳴が聞こえた。
遅れて他の将校たちも着くと、全員で入った。
そして、皆が最初に思ったことは……
人間はここまで残酷になれるものだろうか。
中では捕虜が非人道的、とだけでは表せない仕打ちを受けていた。
暴行、虐待、拷問……生まれてきたことを後悔させるような無惨な姿にされていた。
変態紳士の言葉を借りることは不謹慎だが、敢えてシンプルな表現にするならこうだ。
18禁リョナ状態。
「きっさま何やってるんだぁぁあああ!!??」
健軍は馬大校の胸ぐらを掴んで詰め寄る。
しかし馬大校は眉一つ動かさない。
「何とは。我々はテロリストを尋問しているだけだが?」
「これが尋問か!?それに誰がテロリストだ!?テロリストと断定したわけではないだろう!」
「日本人は本当にお人好し、いやバカなのだな。疑わしきには罰を、怪しきは敵と見なすのだよ」
「この野郎……」
健軍は右拳を振り上げる。
「ほう、やるかね?だがその意味を理解してるかね。他国の指揮官に危害を加える、という行為が」
周りの兵士が既に健軍に銃口を向けていた。
「今頃君の部下のテントの周りにも私の兵士が待機している。そして、アルヌスに待機している我が主力部隊が東京から100m程度しか離れていないことを忘れた訳ではあるまいな?果たして貴方はその重責に耐えられるかな?」
「……くっ、クソがー!!」
健軍は胸ぐらから手を離しヘルメットを地面に叩きつける。
「健軍1佐、貴方は少々疲れているようだ。少し頭を冷やしてもらう。おい、連れて行け」
健軍はそのまま拘束されてどこかへ連れ去られてしまった。
「いやー、皆さんお見苦しいところを見せましたな」
馬大校は諸将校ににこやかに話すが、誰一人としてにこやかな表情をしている者はいなかった。
全員冷ややかな視線を残して、テントから出て行った。
そして間もなくそとが銃声やら怒号で騒がしくなる。
「馬大校、敵が攻めてきました!規模は約5000から10000人!」
「ふん、夜戦なら勝てるとでも思ったか。なら我々もおもてなししなければな。例の物を準備しろ」
「あ、アレを使うのですか?しかしあれは戦時国際法に抵触する可能性が……」
「少校、軍人は上の命令に従えば良いのだ。更に、君は人民だ。人民は党に忠誠さえ示せば良いのだ。それに、我々戦争などしていない。分かるな?」
「は、ハッ!」
少校は敬礼して出てゆく。
「それにちょうど、良い実験機会だ。元の世界で使う前にどの程度のものか確認できるな」
馬大校は上着を着るとテントを出た。
本当はもう少し続きありましたけど、キリが悪くなるのとだらだら書くのもあれなので手短にしました。これでも手短なのか……打作者は本当に計画性がありませんな。
ちなみに打作者は最近ゲームする暇がないのでモンハンアイスボーンの動画見ております。マムタロトのポールダンスは興奮した(錯乱末期)