オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし   作:ArAnEl

55 / 85
最近モンハン勢が増えすぎているのを痛感しております。反省はしてますが悔いはありません。

それにまだ出し切ってませんし、まだまたでます。
安心してください、かませ犬です。

???「「!?」」


初めては血の味

(完全に舐めておった。ここが、異世界であることを忘れておった……)

 

 

実のところ、アルドゥインが対峙している謎の脳筋龍(ティガレックス)もこの世界の者ではないが、アルドゥインはそんなこと知る由もない。

 

 

(なぜだ、なぜドラゴンレンドが効かない!本当にこいつは龍なのか!?)

 

 

アルドゥインにとってとの(ドヴァ)は彼のように魔法を駆使し、知能が非常に高い存在であり、生物という概念を超えていた。

 

しかし、目の前の龍(ティガレックス)はその常識を覆した。

 

魔力は一切ない。知能というより本能で動いている。

 

 

「こんな野蛮龍などに我が負けるなど認めんわ!!」

 

 

例えるなら原始人と文明人。しかし腕力は原始人の方が桁違いに強い。

 

ファンタジー風に例えるならティガレックスは筋力と防御と体力にポイントを全振りした脳筋狂戦士。対してアルドゥインは不死の加護付きのネクロマンサーあたりか。

 

 

Fus Ro Dah(揺るぎなき力)!」

 

 

今度はアルドゥインが先制する。

 

 

「スゥー……」

 

 

しかしティガレックスもほぼ同時に攻撃体制は整っていた。アルドゥインが発するとほぼ同時に息を深く吸い込む。

 

 

「ギャァァァアオン!」

 

 

そして身体の芯から震えるような咆哮を発した。

 

驚くことにスゥーム(揺るぎなき力)は相殺された。否、上書きされた。

 

 

「は……?」

 

 

アルドゥインの思考が追いつけなかった。

 

 

(待て待て待て待てー!?今何をした?我のスゥームが咆哮如きに消されただとぉー!?)

 

 

どうやらスゥームは万能な魔法ではなかったようだ。あくまでもスゥームは基本的に龍の魂の声によって(ことわり)に干渉する術である。

 

Fus Ro Dah(揺るぎなき力)』が対象の大小、重量関係なく(例外を除いて)同程度吹き飛ばすのも同じような理由である。物理的に吹き飛ばすのではなく、物理に干渉するためである。

 

だからスゥームの干渉を超える『音』という直接干渉できる物理的なもので止めたのだろう。

 

 

「こんな……偉大なスゥームが轟音如きに止められてたまるものかー!」

 

 

アルドゥインは我を忘れてティガレックスに襲いかかる。しかしそれが最大の誤りであった。

 

ティガレックスもアルドゥインの攻撃に合わせて後方に躱し、跳躍して襲いかかった。そしてその大きな顎で食らいつき、太い腕で押さえつけようとする。

 

アルドゥインはまたも驚く。

 

腕力、咬力が予想以上に高い。あのアンヘルとの肉弾戦がかわいく感じるほどに。

 

先も述べたが、ティガレックスが飛ぶことが不得意にもかかわらず自然淘汰の競争を勝ちぬいて種の維持ができたのも、この翼を退化させても筋力を発達させたことが大きく寄与している。

 

空の王者と呼ばれたリオレウスや陸の女王と呼ばれたリオレイアの縄張りに堂々と侵攻できるのも、この強力な身体があってこそである。

 

リオレイアが陸の女王と呼ばれても、あくまでも『女王』止まり。

 

ティガレックスはそれに対し『絶対強者』と呼ばれる。つまり早い話最強である。

 

地球出身の皆さんが炎龍(ヨルイナール)を空飛ぶ戦車と呼んだが、彼らがティガレックスを見れば『空飛ぶ高機動重戦車』と呼んだかもしれない。もはや意味不明な例えである。

 

 

そんな竜の姿をした戦車に肉弾戦を挑んだアルドゥインだが、彼も負けてはいなかった。

 

アルドゥインの世界(スカイリム)の龍はほとんど龍同士の戦闘の経験がないので正直肉弾戦は苦手である。基本チビ(人間)しか相手しないので。しかしアルドゥインには不死という最強の(チート)を有している。なので負けることは絶対にない多分

 

そのため、いくらティガレックスが馬乗りで噛みつこうが、引っ掻こうが、殴ろうが、体当たりしようが、じゃがいも岩を叩きつけようと一向に効かなかった。これにはティガレックスも驚愕した。

 

 

「効かんなあ〜、その程度か?貴様今どんな気分だ〜?」

 

 

アルドゥインは(いや)らしく相手をおちょくるように言う。

 

ティガレックスが言葉の意味を理解したかどうかは不明だが、どうやら怒ってしまったようで、腕と額から血管のようなものが浮き出た。そしてまたも大咆哮を放つ。

 

 

「ほう、これほどの威力だったのか」

 

 

先程は離れていたから気づかなかったが、今は超至近距離で受けたため、直に咆哮の衝撃を感じた。人間が食らえば吹っ飛ぶが。

 

 

(ふむ、音の前に先に衝撃が来てるな。これならスゥームが破られるのも納得……などできるかぁ!)

 

 

やはりプライドが許さないようだ。

 

 

「まあよかろう。貴様のおかげで龍との戦いに少し経験を積めた。お礼にたっぷりと貴様の頭上にメテオを降らせてやろう。あの蟹やアンヘルのようにな。安心しろ、我は巻き込まれても死なんのでな」

 

 

そしてアルドゥインは目の前のティガレックスをロックオンする。

 

相変わらずティガレックスは必死に噛み付いたりしている。

 

そしてアルドゥインがスゥーム(メテオの雨)を唱えようとしたところでティガレックスの攻撃が一瞬止まる。

 

そして不自然な轟音が徐々に近づいて来るのを感じてアルドゥインの口も止まる。

 

 

そしてゆっくりと山の方を見ると、2頭は察した。

 

 

「「!?」」

 

 

大咆哮のせいで大きな雪崩が襲いかかって来た。

 

 

***

 

 

一方、ジョール(人間)側も色々とトラブルが起きていた。

 

ピニャ殿下の取り計らいで日本の使節団がほぼ正式に交流することとなった。

 

エリート官僚(菅原)少女趣味(ロリコン)疑惑が出てきたり、なぜか貴族の服装がコスプレチックだったり、なぜか巨龍の頭骨が帝国の城壁にぶっ刺さって(現在修復中)いたり、となかなかカオスな状況でもなんとか交流はできた。

 

式典で皇帝(モルト)が呆気なく死ぬまでは。

 

 

「皇帝陛下が倒れたぞ!」

「医者を、魔術師を呼べえ!」

 

 

皇帝が巨龍討伐の祝福を述べて盃を飲み干した途端にぶっ倒れ、そのまま帰らぬ人となった。

 

 

「……あら、死んでしまったわ」

 

 

物陰から様子を伺っていたテューレが残念そうな表情をする。

 

 

「もう少し苦しんで死んでもらいたかったのだけど。ヒト種は脆いわ」

 

「あら、貴女はやはりいい性格してるわね」

 

 

さらに奥の暗闇に紛れてデイドラ装備一式のデイドラの女がほくそ笑む。

 

 

「貴女が推奨した毒を入れたけど、まさかあんなすんなり死ぬとは思わなかったわ」

 

「あら、お気に召さなかったかしら?私の世界ではそこまで強力なものではなかったのだけど」

 

「まあいいわ。貴女の言う通りすれば、私の復讐を果たせるのね」

 

 

テューレは邪悪な笑みを浮かべる。

 

 

「ええ、もちろん。そして私と主人はそれを見て楽しむ」

 

「貴女の主人は一体どんな方?是非お会いしてみたいものね」

 

「……よければいずれは紹介してあげるわ」

 

「そう。気が向いたらお願いするわ」

 

 

テューレとデイドラの女は小声で笑う。

 

 

***

 

 

(うむ、どうしてこうなった……)

 

 

アルドゥインは非常に困った。

 

 

(何たる失態。まさか我がこんな程度でこのような屈辱を味わうとは……)

 

 

雪崩に巻き込まれたところまでは覚えている。

 

なんせ初めての経験なので、雪から脱出するのに苦労したのだ。そしたな頭だけやっと出せたら、こんな結果になってしまったのだ。

 

 

(むう、生臭い……)

 

 

頭だけ出てるアルドゥインの口をティガレックスがガッチリと咥えているのだ。

 

 

(何で我がこんな野蛮龍の口に我の口を突っ込むような形になるのだ。しかも血生臭い)

 

 

こうなったのにも訳がある。

 

頭だけ出したアルドゥインは先に脱出して待ち構えていたティガレックスに口を顔面半分を咥えられてしまったのだ。しかもかなり強めに。アルドゥインでなかったら噛み砕かれていただろう。

 

 

(うむ、どうしたものか。他の身体の部位を出そうにも押さえ込まれて無理だ。しかも口を封じられているのでスゥームも使えんな……)

 

 

当たり前だが様子を伺おうにも視界いっぱいティガレックスの上顎なので無駄であった。横目でチラチラとしか周りが見えない。

 

少なくとも、相手は放す気はないようだ。

 

 

(ふん、我慢比べか。よかろう。時の狭間で至極長い期間を過ごした我にとっては他愛もない。貴様がその口を離した瞬間我の勝利だ)

 

 

そして漆黒龍と轟竜の長くて地味な戦いが始まる。

 

 

***

 

 

そんな中、緑の平原を満員の陸自高機動車が走っていた。

 

伊丹一同であった。運転手はレレイが務めていた。法的な問題は大丈夫なのだろうか

 

後ろの席ではテュカが小さなギターのような楽器を弾きながら歌っていた。

 

 

「次は何の曲がいいかしら?」

 

「陽気な曲がいいなあ」

 

「分かったわ、父さん」

 

「そろそろさ、父さんて呼ぶのやめない?」

 

「い、嫌よ……恥ずかしいじゃない……ヨウジ、って呼ぶなんて」

 

 

テュカは尖った耳まで真っ赤にしながら縮こまってしまう。

 

そして次の曲を弾き始める。

 

 

「無茶苦茶うまいけど、どれくらいやってたの?」

 

「そうね、百年ぐらいかな?」

 

「ひゃ、百年……エルフって凄いんだな」

 

「そうね、でも私くらいの歳になると皆んな得意な楽器を持つものよ」

 

「へぇ、じゃあヤオもなんかやってるの?」

 

「此の身は葦笛を……しかし嗜む程度だ。人前に見せれるものではないが、御身(伊丹)がご所望するのであれば喜んで披露しよう。そのときは人気のないところで、早速今夜あたり……痛っ!!」

 

「そんなことしなくてよろしい」

 

 

ロゥリィがヤオのつま先を踏んで制する。

 

 

(なんでぇ、てっきり『情熱的なアルゴニアンの吟遊詩人』想像しちまったじゃねえか)

 

 

後部座席のさらに後ろの荷物置き場に(バルバス)が寝たふりしながら聞き耳立てていた。

 

ところで、伊丹が停職明けからいきなり自衛官として単独行動できるのも、(偉い人)の都合上、炎龍討伐の際に特地の資源調査、という名目がそのまま『特地資源調査員』の任務を与えられてしまったからである。

 

そしてもう一つ、伊丹だけに与えられた極秘任務……

 

 

(なんで俺が漆黒龍の調査及び接触を任されるんだろ……)

 

 

伊丹の報告により、漆黒龍は人間と意思疎通能力を有し、知的生命体の可能性があると(偉い人)が判断し、その任務に今までの死線を潜り抜けた伊丹が適任と判断したらしい。ちなみに、(偉い人)とは防衛省よりも上の人たちらしい。

 

 

(今度こそ俺死んだわ……)

 

 

美少女(と犬一匹)と和気あいあいとしながら伊丹の心の中は憂鬱になってゆき、車というメカに目覚めた(萌えた)魔法少女(レレイ)たちと一緒に取り敢えずの目的地、学都ロンデルを目指すのであった。

 

 

***

 

 

学都ロンデルに着くまでにそれほど時間はかからなかった。

 

問題はそこからである。

 

交通整理されていないせいで人混みに高機動車が埋もれてしまい、結局宿屋に着くまでかなりの時間を費やしてしまった。

 

 

「こっちよぉ〜」

 

 

宿に先回りしていたロゥリィが手を振ってこっちこっち、と合図する。

 

レレイが入門生と間違われたり、伊丹が下男に間違われたりと誤解はあったが宿で手続きを済ませてレレイに街を案内してもらった。

 

途中、実験の結果なのか色々と建物の屋根が吹っ飛んだり、窓から水が吹き出してヤオがずぶ濡れになるといった事案なども発生したが。

 

そして路地裏の小さな建物でレレイの義姉のアルペジオ(ボン・キュ・ボン)とその師の可愛らしいお婆さん、ミモザに会い、一緒に外食することとなった。ちなみにアルペジオは用があるので後ほど合流するとのこと。

 

 

「あとで妹にはみっちりとこの世の条理というものを聞かせてやろうと思ってますので」

 

 

アルペジオの言葉を聞いてレレイの頬から冷や汗が流れた。

 

 

***

 

 

店では皆は互いに紹介しあったり、食事を楽しんだり、談笑していた。

 

 

「お久しぶりね、ロゥリィ。もしかして、50年前に貴女が出した宿題の答えを聞きに来たの?」

 

「ミモザぁ、貴女老けたわねぇ」

 

「羨ましいでしょう?もうすっかりお婆ちゃんよ」

 

 

どこか誇らしげだった。そしてロゥリィも羨ましそうな表情をする。

 

 

「こちらが喋る犬、バルバス」

 

「まあ、可愛らしい。お利口さんみたいね」

 

「へへ、褒められちゃ悪い気しねえな。どっかの日本人たちとは違うな」

 

 

バルバスは尻尾を振ってミモザの撫でに応える。ミモザも別段驚いた様子はない。

 

最後に、伊丹の紹介がされる。

 

 

「まあ!門の向こうから来たのですね!是非とも色々と話を聞きたいわ」

 

「ミモザ老師、よろしくお願いします。老師は博物学に詳しいと聞いておりますので、有用な鉱物等、そして()()()においても色々お聞きしたいと思います」

 

「ええ、もちろんよ。でもそれはまたの機会にしましょう。美味しい料理が冷めてしまうわ」

 

「もちろん、しばらくはここにいますので」

 

 

この他にも、日本のことやロゥリィの宿題への答えや、ロゥリィがなぜ宿題を与えてるのかなど、色々と談笑していた。

 

そうして穏やかな時間が流れた。アルペジオが現れるまでは。

 

 

***

 

 

「喧嘩だ!魔導師同士の、しかも女の喧嘩たぁ!」

 

「しかも片方はあの鉄のアルペジオ女史だってよ!もう一人はレレイとかいう女の子だ!」

 

 

ことの発端はアルペジオの嫉妬(?)である。

 

レレイが導士号に挑むと聞いてその内容から学問で妹に越され、経済力も越され、そして伊丹に目を付けたが既に妹によって三日夜の儀の仲(予約済み)と知り、なにもかも越されたと思ったアルペジオがついレレイにスープをブチまけてしまったのだ。

 

 

そして二人は道端で対峙する。そして周りは野次馬で埋め尽くされる。

 

 

「戦いの神、エムロイの名において私ぃ、ロゥリィ・マーキュリーがこの戦いにおけるルールを定めるわぁ。

1.不殺であること

2.女である故顔は傷つけないこと

3.敗北は、不正、降参、戦闘続行が出来ない時

そして戦闘の調停には従うこと。いい?」

 

 

アルペジオとレレイは同意する。

 

 

「では第13次レレーナ家姉妹会戦(げんか)開始ィィイ!」

 

 

それは姉妹喧嘩というには激しすぎるものであった。一歩間違えれば本当に死人が出てもおかしくなかった。

 

某世界(ニルン)辺りでいうファイヤーボルトやアイススパイクみたいなものが度々飛び交っては建物の一部を壊してしまったり、野次馬に突っ込んでいたりと破茶滅茶であった。

 

 

「やれ!そんな程度か?」

「誰に教わったんだ!?」

「誰かどうにかしろ!」

 

 

野次馬も興奮して怒声を浴びせる。

死人が出ないのが不思議である。

そして激しさは一層増して行く。

 

 

「そろそろ洒落にならなくなったんですけど!?」

 

「大丈夫よ、リンドン派(戦闘魔法)は最初に防御魔法を身につけるから!」

 

「そういう問題ですか!?」

 

 

伊丹はミモザ言葉に愕然とする。

 

両者は一歩も譲らない。しかしやはり限界というものある。最初に押していたアルペジオも今はレレイに押されて防御に回ってる。

 

 

「これが天賦の才ってやつかい。ちくしょう!でも私だってただ負けてられないんだよ!」

 

 

アルペジオは反撃の一撃を狙う。レレイも勝利となる一撃を狙っていた。

 

そしてその分け目がちょうど来ようとしたとき、突如野次馬から悲鳴が聞こえた。

 

 

「この卑怯者め!覚悟!」

 

 

そして胸を貫かれた大男は血を流して倒れる。

 

 

「おいおい、せっかく面白いもの見てんのに台無しにしやがって」

 

 

バルバスは残念そうな顔をする。

 

野次馬はパニックになってその場から一気に遠のく。

 

 

「このロゥリィが仕切る決闘の場を汚した理由、聞かせてもらえるわよねぇ、グレイ・コ・アルド?」

 

 

その男はピニャたちとイタリカ防衛戦にて共に戦った騎士補であった。

 

 

「はっ、お久しぶりにございます、聖下。こうして再びお会いできたことを光栄に思います。この場で説明致すの正当なことと存じますがここは危険です。この場で話し込むのは不適切かと」

 

 

そして倒れた男からある物をシャンディーが取り出す。

 

 

弓銃(ボウガン)です。この刺客これでレレイ様の命を狙っておりました」

 

「え、なんで!?」

 

 

アルペジオが声を上げた。

 

 

「それは今話している暇はございません。まずは一刻もこの場を離れましょう」

 

「よし、わかった」

 

 

グレイの提案に伊丹が賛同し、一同はすぐに移動を開始した。

 

 

 

その様子を遠くの高台から何者かが見守っていた。

 

 

「帝国人もやるじゃねえか。危うく俺たちが対処するところだったぜ」

 

「喧嘩が始まるからハラハラしたが、これなら大丈夫だな。おい、てめえはいつまでスコープでボンキュボンのお姉ちゃん見たんだ。ずらかるぞ」

 

 

そして男たちは夕闇へと紛れていった。

 

 

***

 

 

(こやつなかなかしぶといな…)

 

 

アルドゥインは口を咥えられたまま思った。

 

だいたいもう既に3日ほど経っていた。

 

流石に疲れてきたのか、ティガレックスのほうの咬力も弱っていた。

 

しかし少しでも抜こうとするとまた噛み締めて離さない。

 

 

(しつこい奴だ。まあ、時間が経てば我の勝ちだ。しかしここで時間を潰すのも良い気分ではないな)

 

 

そのような状況を遠くからパトロール中のアンヘルが発見した。首だけ雪から出てるアルドゥインと得体の知れないものが。

 

 

あやつ(アルドゥイン)は一体何をやっておるのだ?」

 

 

雪崩があったのでちょうど通りかかったら、アルドゥインと見慣れない龍が……

 

 

「ちょっと待て……あ、あれは……」

 

 

アンヘルが息を飲んだ。

 

 

「あれは……せ、せ、せせせ、接吻(キス)というものではないか!?」

 

 

もちろん彼女も単性龍(雌型だけど)なのでそのような概念はないが、何万年も生きてると下々(人間共)の文化について知る機会はあるわけで、そのように解釈してしまった。

 

本当は噛まれているだけなのたが。

 

 

「これは一体どうしたらよいのだっ!?」

 

 

アルドゥインは無理やりやられているのか?

 

それともアルドゥインはお取り込み中なのか?

 

助けた方が良いのか逆なのか。

 

どうしたら良いのか分からずその場をぐるぐる飛び回る。

 

 

(あやつは何をしているのだ。早く我を助けに来んか、ポンコツめ)

 

 

アルドゥインは気配でアンヘルがいることを察したが、なかなか来ないのでイライラしていた。

 

 

恐る恐る近くに降りたアンヘルはアルドゥインに尋ねた。

 

 

「アルドゥイン殿、お主は何をやっておるのだ?」

 

 

見て分からぬか、このアンポンタンめ。とアルドゥインは心の中で罵った。

 

しかしそのイライラした目つきからは予想しづらかった。

 

ただ、アルドゥインとティガレックスの間のただならぬ殺気から、少なくとも接吻(キス)ではないことは分かった。

 

 

「……助けた方がよいのか?」

 

「……」

 

 

アルドゥインは問いに対し無言で肯定する。

 

 

「おいそこの雌蛮龍、そやつ離してやってはくれないか?」

 

(む?こやつ雌だったのか。残念)

 

 

別にアルドゥインはそっち系ではない。というかそもそも興味がない。

 

雄で従順であればヨルイナールと番わせて龍を増やそうとか思っていただけである。

 

 

「……」

 

 

ティガレックスは視線をアンヘルに向けるだけであって、一向に離そうとしない。

 

 

「言葉の通じる相手ではないか。仕方がない……」

 

 

アンヘルはティガレックスが今後仲間になるかもしれないことを考慮して尻尾に狙いを定める。

 

そして火炎魔法を練ると刃のように鋭く放った。

 

 

「っ!!??」

 

 

尻尾が斬れてしまった。

 

あまりの痛みにティガレックスは口を離してしまう。と同時にアルドゥインはしめたと言わんばかりにスゥームを放つ。

 

 

Fus Ro Dah(揺るぎなき力)!」

 

 

ティガレックスはそのまま山の向こうまで飛ばされて見えなくなってしまった。

 

 

「良かったのか?」

 

「なんだ、不満か?」

 

「いや、なんでもない」

 

「それより、我をここから出してくれ」

 

「えっ」

 

 

しばらくして、アンヘルの火炎魔法によって雪を溶かしてもらい、ようやく脱出することができた。

 

 

「ふむ、礼など言いたくないがまあ感謝しよう」

 

(いちいち気の触る言い方だな……)

 

「我に新しい考えが芽生えた。急いでヨルイナールの元へ戻るぞ」

 

「心得た」

 

 

 

そしてアルドゥインたちが去ってしばらくすると、物陰から出てきた()()()は残されたティガレックスの尻尾に食らいついた。




ロンデルって平和ですね。

どっかの世間を騒がせた大学(ウィンターホールド)とはえらいちがいですわ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。