オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし   作:ArAnEl

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祝、50話突破!

これをよく50話まで懲りずに続けたと見るべきか、よくもここまでダラダラと書いていたと見るべきか……

ちなみに前回の題名はゲーム「勇者のくせに生意気だ」より。


○○になんか負けない!

アルヌスの陸自たちは、巨龍捜索を終え、今後起こりうる巨龍級害獣対策のため、巨龍(ラオシャンロン)の骸を回収し、実験調査を行うと同時に、その出所についても調査していた。

 

そしてその行き着いた先はアルヌスから北東に位置する雪山の麓だった。

 

 

「こちらランサー。奴の出所らしきものを発見。岩が不自然に陥没している」

 

『こちらキャスター、了解。速やかに記録を撮り、帰投せよ』

 

「了解」

 

 

特戦の隊員は周囲を警戒しつつ、その一帯を地図にメモしたり、写真を撮ったりした。

 

 

「よし、これでよしと。ん?うわ!?」

 

 

隊員の一人が驚いて尻餅をつく。

 

 

「なんだ、残骸が……」

 

 

それは大きなイノシシのような動物の残骸だった。

 

 

「まだ新しいな。気をつけろ、近くに何かいるかもしれない。そして作業を急げ!」

 

「「了解」」

 

 

幸い、特に魔物やドラゴンが現れることなく作業が終わり、彼らは無事ヘリで帰投できた。

 

 

「どうしたんだ?」

 

 

ヘリ内で記録したデジタルカメラの写真を確認している隊員が妙な顔をしていた。

 

 

「いや、ちょっと気になって見つけたものを記録したんだが、なんだろうなと思って」

 

 

岩に大きな傷跡が残された画像を見せる。

 

 

「……なんだろうな。巨龍にしては小さいが、大きな傷跡だな」

 

 

そう言ってヘリは去ってゆく。

 

 

そして小さくなったヘリを確認すると、()()は洞窟から出てきて獣の残骸を大きな口で貪り始めた。

 

 

***

 

 

制空権という言葉をご存知だろうか。

 

簡単に説明すると、近現代戦における航空機が戦場に登場して以来、敵の航空戦力の脅威が無いことを指す。

 

参考に、一時的でも、諸作戦を行う上で敵の航空戦力の脅威を排除した状態を航空優勢という。

 

 

ここ特地(ファルマート)の技術レベルは中世に魔法をくっつけた程度であり、航空戦力としてはワイバーン竜騎兵しかおらず、戦闘機、戦闘ヘリ及び対空兵器を有する自衛隊からしたら脅威ですらなかった。

 

炎龍も野生のドラゴンで、アルヌスを攻撃しようとしたこともないためこれも戦力外と見なしていた。

 

制空権は自衛隊が確保していた。

 

はずだった。

 

 

「やべーよ!手も足も出ねえよ!」

 

 

伊丹たちは岩陰に隠れて空中にいる龍たちの攻撃を避けていた。

 

かっこよく(?)ヘリを飛び出して助けにいっては何もできなかった。

 

そう、制空権はドラゴン(アルドゥイン)たちに()()に奪われてしまった。

 

 

伊丹(と美少女)たちはまだいい方だった。

 

逃げ遅れたり隠れ遅れた者は遠慮なく龍たちの餌食となっていた。

 

器用に飛び回り、火球を吐き出しながら飛んだり、時には地に降りて攻撃を加える雄火竜(リオレウス)

 

基本的に陸で肉弾戦を用い、時に火球や毒棘を用いるなど厄介な攻撃を仕掛けてくる雌火竜(リオレイア)

 

空中からホーミング機能付の魔法火球を放つレッドドラゴン(アンヘル)

 

その巨体の戦車並みの硬度で矢や魔法を跳ね除け、肉弾戦とブレスを器用に使い分けるバランサー炎龍(ヨルイナール)

 

そしてそれを統括し、絶対的な超えられない存在の漆黒龍、世界を喰らいし者(アルドゥイン)

 

 

伊丹たちが屠られるのも時間の問題だった。

 

 

「ああ……ああっ……」

 

 

テュカがフラッシュバックを起こしたらしく、怯えて震え始めた。

 

 

「テュカ、大丈夫だ。安心しろ、俺がついてる」

 

 

伊丹がなだめるも、彼自身もかなり参ってしまってる。

 

まるで爆撃機がその場で停止して爆撃し続け、空飛ぶスーパー戦車が地面を蹂躙していた。

 

流石のオークたちもこれは隠れざるを得なかった。

 

 

「ロゥリィ、どうにかならないか?」

 

「無理よぉ、出た瞬間にバラバラにされるわぁ。死なないけどぉ」

 

「ですよね……」

 

 

例えるなら爆撃機に対して防空壕で耐え忍んでいるといったところか。

 

伊丹は自分の祖父母もこんな経験したのかなとか思いながらビクビクするのであった。

 

一方、空にいる龍たちは興奮していた。

 

 

「楽しい、これ楽しい。今まで私たちを散々な扱いをしていた下等生物を蹂躙する……最高過ぎる!」

 

 

ヨルイナールが歓喜の咆哮を上げる。

 

 

「うむ、我の血に流れておる(下等生物を滅ぼす)宿命もたぎっておる!」

 

 

アンヘルもどこか嬉しそうな様子だ。

 

 

「グフフ……最高だ、これこそ我が望む世界。我に屈するかソブンガルデ(あの世行き)か、そして貴様らは後者を選んだのだ。Daar lein los dii(この世界は我の物だ)!」

 

 

アルドゥインは龍語(スゥーム)で咆哮し、その衝撃波で空気がビリビリと震える。

 

 

『その辺で、満足してくれねーか?』

 

 

アルドゥインは驚く。誰かが直接頭に声をかけてきたのだ。

 

他の者が気にしていないところ、アルドゥインだけに話しかけてきているらしい。

 

 

(誰だ!?我に直接問いかける不届き者は!?)

 

 

アルドゥインはゆっくりとあたりを見回す。

 

いた。

 

大きな岩の上にちょこんと座っている……犬が。

 

 

(……貴様か?)

 

 

怒りを一周通り越してなぜか少し笑いそうになった。

 

 

『ああ、そうだよ』

 

(貴様のような、犬が……か。笑わせてくれる!)

 

『ああ、見た目は犬だよ。名はバルバスってんだ』

 

(ふん、名など聞いとらんわ。貴様が名乗っても名乗るつもりはないぞ)

 

『別にいいよ。俺はお前さんのこと知ってるからな。なあ、ワールドイーター(アルドゥイン)

 

(貴様、なぜそれを知っている)

 

 

アルドゥインは別に驚きはしない。世の中広いので一人くらい知っているだろう、という認識だった。

 

(貴様もスカイリムから来たか?それともタムルエルの別の地か?)

 

『まあ、間違っちゃいねーが、お前さんは勘違いしてるな』

 

(なんだと?)

 

『俺も送られて来たとはいえ、半分は自分で来たようなもんだからな。俺はデイドラ王子の友人だよ。まあ、使徒と言った方がいいかな?』

 

(ふん、デイドラか。食えない奴だな。デイドラの女といい、貴様といい、何がしたいのだ)

 

『まあ、俺は興味ないが、ご主人様の意向でな。事を面白くしようってだけだ。逆に、お前さんは何がしたいんだ?』

 

(ふん、デイドラに答える義理などないわ)

 

『おいおい、冷てーな。同じデイドラじゃねえか』

 

(……ふん、いずれ我はデイドラを超える存在になる。今は利用されてやるがな。いずれこの世界を支配し、龍の統治をするつもりだ、とだけ言っておこうか)

 

『へー、龍戦争の前みたいにか。まあ精々頑張りな』

 

(ふん、話はそれだけか)

 

『あーそうそう。ちょいっと今回ばかりはあいつら(伊丹たち)を見逃してやってくれねえかね?あいつら死んじまうとちょいっとご主人様たちが困るんでな』

 

(断る)

 

『だろうな。まあ、無理は言わねえけどさ。でも気をつけろよ、調子に乗り過ぎると痛い目にあうぜ』

 

(ふん、デイドラ如きで我を倒せるとでも?何千年も倒される事なかった我をか?)

 

 

アルドゥインは嘲笑う。

 

 

『忠告はしたぜ……』

 

 

バルバスはそれだけ言い残すと岩を飛び降りてトコトコと歩き去った。

 

 

(ふん、龍の統治はさらなる目的のための布石に過ぎんわ)

 

 

そしてさらに攻撃を続けるのであった。

 

 

***

 

 

「おーい、伊丹生きてるか?」

 

 

加藤が龍による弾幕をなんとか躱しながら伊丹たちの隠れている岩陰にスライドインしてきた。

 

 

「加藤!?お前何しに来てんの?てか入るな!狭っ!」

 

 

元々狭いのにさらに狭くなってしまった。

 

 

「いやあ、伊丹殿羨ましいですな。こんな狭い空間で美少女たちとギュウギュウで」

 

「いや、弾幕のせいでそれどころじゃねえから!だからお前何しに来たんだよ!」

 

「俺の目的はお前だと言ったろ?お前を生かすことだ」

 

「俺だけ帰るのはごめんだからな!」

 

「しゃあねえな。一緒に死んでやるよ」

 

「「えっ!?」」

 

 

そこにいた者全員が引いた。芸術(BL)をこよなく愛するピニャと騎士団の女性陣なら卒倒ものだが、ここにはそのような特殊な方々はいないので皆が耳を疑った。

 

 

「……おい、そんな目で見るじゃねえお前ら。冗談だよ、いや本当に」

 

「……そりゃ良かった」

 

 

伊丹と女性陣が胸をなでおろした。

 

加藤は匍匐で伊丹に近づいた。ゴスロリBB○や魔法少女を下敷きにしていることも気にせず。

 

 

「おい伊丹、よく聞け。これからお前たちをここから脱出させる作戦を開始する。チャンスは一度きりだ」

 

 

そしてその内容を耳元で囁く。

 

 

「加藤、それは危険すぎる……」

 

「ああ、危険だ。それは承知の上だ。だがな、ここにいれば確実にやられる。100%死ぬ。だかな、この作戦はすくなくとも1%は助かる可能性がある。ここにいる全員が生き残る可能性だがな。お前なら、どっちを選ぶべきか分かるよな?」

 

 

伊丹はしばらくの間の後、無言で頷く。

 

 

「俺の時計で3分後に作戦開始だ」

 

 

伊丹は加藤の時計に合わせ、その後テュカたちに急いで内容を伝える。そしてそれが伝令で各地の隠れている場所に伝わる。

 

 

1%は非常に小さな確率である。あくまでも理論上100回やって1回生き延びるという作戦は危険すぎた。

 

しかし伊丹は少しでも可能性が高い方を選んだ。

 

先ほどまで0%だったのが1%に跳ね上がったのだ。

 

もしかしてら100回のうちの1回が最初の1回に来るかもしれない。そう信じて伊丹は時計の針を睨みつけた。

 

 

「主人様、残るはあと隠れている下等生物だけです」

 

「うむ、虫けら一匹生かして帰すな」

 

 

ヨルイナールたちが隠れ岩に近づいた。

 

 

「みんな走れ!」

 

 

伊丹の号令で一斉に岩陰から皆ダッシュした。

 

 

ヨルイナールは一瞬驚いだが、逃げているだけと分かったため、もはや獲物でしかないと確信した。

 

 

(おろかな。やはり人間やエルフなど我々ドラゴンからしたら下等生物でしかなかったか)

 

 

そして急降下で襲いかかる。

 

 

「あっ!」

 

 

テュカがお約束通りこけてしまった。

 

怪我はしてないが恐怖で腰が抜けて立ち上がれなかった。

 

 

「テュカ!」

 

 

伊丹は猛ダッシュから止まってテュカのところへ戻る。

 

 

「伊丹殿!」

 

「あんの馬鹿!」

 

 

ヤオと加藤もそれを見て戻る、そしてそれに気づいたロゥリィ、レレイとラーツも戻り、結局いつものメンバーが遅れをとることになった。

 

 

「テュカ!」

 

「お父さん!」

 

 

テュカは気づいてしまった。

 

炎龍が狙っているのは自分ではなく、自分を助けに来た伊丹だったということを。

 

炎龍の影が伊丹に迫り、その時始めて伊丹も自分が狙われていることに気づいた。

 

もう遅い。

 

伊丹が気づいたのも遅すぎる。

 

伊丹の後に続いたものが対応しても間に合わない。

 

唯一、間に合うとしたら……

 

 

そのとき、スローモーションで動くような景色と同時にテュカの頭にある景色がフラッシュバックした。

 

それは自分が井戸に放り投げられ、最後見上げたときに見た()の健やかな顔。

 

実の父親。

 

その姿が、彼の最期に背後から忍び寄る炎龍の姿が、全てを思い出させた。

 

 

「お父さん!!」

 

 

そう、唯一間に合うのは自分、誰よりも早く気づき、誰よりも早く動ける紛れもなく自分。

 

テュカは頭で判断するよりも速く手元に落ちていたオークの弓と矢を構える。

 

重い。エルフの弓よりも、日本のコンパウンドボウよりも重く、弦の引きも重い。

 

だがそんなのは関係無かった。

 

今自分にしか、やれない、やるべきことをテュカは果たすだけだった。

 

精霊魔法を瞬時に唱え、矢を放つ。

 

風の精霊魔法によって加速され、さらに稲妻も交えてその矢は炎龍の目に吸い込まれていった。

 

 

「!?」

 

 

突然の激痛と視界が狭まったことに炎龍はバランスを崩して地面に落ちた。

 

伊丹は間一髪で炎龍の刃のような爪を避けることとなった。

 

 

「テュカ!大丈夫か!?」

 

「うん……大丈夫。大丈夫なのに……涙が止まらないの……」

 

「そうか……」

 

 

伊丹はテュカが何もかも思い出したのを察した。そしてテュカ頭を自分の胸に寄せて頭と背中を撫でてやった。

 

 

「お二人さん、今そんな場合じゃないから……」

 

 

遅れて駆けつけた仲間たちが何とも言えない視線で二人を見る。

 

 

「そうだったな……はは」

 

 

伊丹は頬をかいてはにかむ表情を見せる。テュカに至っては顔を真っ赤にして手で覆う始末。

 

 

(ちくしょう、ちくしょう……)

 

 

ヨルイナールは失明した目を抑えながら起き上がった。

 

 

(くそ……痛い……あのエルフどっかで見たと思ったら……思い出したぞ、あいつの娘か……)

 

 

ヨルイナールもテュカが誰なのかを思い出した。その時点ではどうでも良い獲物でしかなかったが、思い出してかなりの苛立ちをみせる。

 

 

(そういえば今見えているほうの目はあいつの父親に潰されたのだな……一度死んで再生したときに治ったの幸いか……殺してやる!)

 

 

ヨルイナールは怒りの咆哮を上げると、羽ばたき始めた。

 

そしてまた逃げ始めた獲物を追った。

 

 

「やっべ、逃げろ逃げろ!」

 

 

そしてまたみんなで走る。

 

しかしいくら伊丹たちが坂を下る勢いで走っても所詮は人間の足。炎龍の飛行に勝るわけもなく、すぐに追いつかれる。

 

まだ身体能力の高いロゥリィ、伊丹、加藤、テュカとヤオ、そしてオークたちは良かった。まだ成長途中のレレイが、少し遅れてしまった。

 

 

「レレイ!がんばれ!」

 

 

伊丹が励ますがレレイの身体は悲鳴をあげていた。いつもポーカフェイスのレレイがすごくしんどそうに呼吸しながら走っていた。

 

そしてそれに合わせて皆の速度も遅くなる。

 

 

「イタミ・ヨージ、短い仲だがお別れだ」

 

 

オークのラーツがいきなり伊丹に声をかけた。

 

 

「願わくば、最後にもう一度お前と殴り合いして、ハチミツ酒で乾杯できる仲になりたかったぞ」

 

「え、ちょっとラーツさん?」

 

「では、マラキャス様の加護がお前にもあらんことを」

 

 

そう言い残してラーツは反転した。

 

そしてそれに続いて生き延びたオークたちも闘志をあげて反転する。

 

 

伊丹は彼らの姿を見届けることしかできなかった。

 

 

(許せ!)

 

 

「ドラゴンども、これがオークの真の力だ!」

 

Zun Haal Viik(武装解除)!」

 

 

オークたちは一斉に手に武器を構えて突撃したが、アルドゥインの放ったシャウトによって全員の武器が吹き飛ばされてしまった。

 

「くっ!?」

「しまった!」

「止まるな、行け!」

 

 

素手になっても突撃を止めなかったが、彼らは次の光景で止まらざるを得なかった。

 

 

「あ、兄上……!?」

 

 

ラーツたちは目の前に死んだはずの兄を始めとした生ける死体たちと対面することとなった。

 

空中でホバリングしているアルドゥインを見るとラーツたちを嘲笑うかのように見下していた。

 

 

(我が貴様らの低級魔法を知らぬとでも思っていたか?)

 

 

とでも言ってるかのように。

 

 

「おのれ、アルドゥイン。皆の者かかれ!」

 

 

生者と死者の死の殴り合いが始まり、ヨルイナールはあまり邪魔されることなく突破した。

 

結局、ラーツの決死の防衛戦は無駄に終わった。

 

 

「チキショウ!また来やがった」

 

「伊丹、あと少し、あと少しだ!」

 

「あと少しでなんだ!?支援が来てどうなる!?」

 

「来たぞ!」

 

 

空からSH60(ヘリ)が現れて炎龍に突撃していった。それはもうぶつかりそうな勢いで。

 

突如へんな物が現れてヨルイナールは驚いて後に一瞬引いたため、ギリギリぶつからなかった。と思われた。

 

炎龍は反射的にブレスを吐き、ヘリは緊急回避をとったものの、テールローター付近に当たってしまい、テールローターが壊れた。

 

そしてテールローターを失ったヘリは急速にバランスを崩し、回転しながら山の斜面に激突し、転がっていった。

 

 

「……おい、加藤……墜落したぞ!」

 

「……」

 

 

加藤は無言だった。

 

 

そしてヘリはそのまま転がり、谷落ちた。そして数秒後、大きな音がした。

 

 

「ああ、終わりだ。本当に終わっちまった!」

 

「伊丹たちは逃げて」

 

 

今度はレレイが立ち止まって炎龍と対峙する。

 

 

「レレイ、やめろ!」

 

「私には武器がある」

 

 

そう、レレイが研究に重ねて編み出した魔法。

 

それは物体を爆発によって瞬間的に加速させてぶつける魔法。

 

何を隠そう、ジエイタイの銃や火薬の知識を魔法に変えてみた技である。

 

本来は炎龍がC4によって倒れなかった場合に実験的に使用しようと思っていたが、もう仕方がない。

 

 

「これでくたばれ、トカゲ野郎ども」

 

 

まず周囲の剣、槍、などの武器を魔法によって浮遊させた。

 

そして爆発魔法をあと唱えるだけで発車できる。

 

 

Zun Haal Viik(武装解除)!」

 

 

はずだった。これさえなければ。

 

アルドゥインのシャウトによって浮遊した武器はおろか、レレイの魔法の杖も吹き飛ばされた。

 

 

「嘘……」

 

 

レレイ久し振りに絶望というものを味わった。杖を取りにいって唱え直す余裕などない。

 

それどころか炎龍の爪がもう目の前に見えた。

 

 

「うぐ!?」

「きゃぁぁぁああ!?」

 

 

間一髪、伊丹が身を挺してレレイを庇い、伊丹は横に吹き飛ばされて済んだ。伊丹とリンクしているロゥリィは背中がパックリお開きになって大変なことになっていたが。

 

 

「伊丹!大丈夫!?」

 

 

レレイは伊丹に駆け寄って倒れたいたところを起こす。

 

 

「はは、レレイもそんな顔できるだな」

 

 

レレイは自分がどんな顔しているかわからなかったが、伊丹から見ると涙目で今にも泣きそうな女の子といった表情が見えた。

 

 

「ちょっとぉ、少しは私のことも気にしてほしいわぁ」

 

 

もう既に回復し始めているロゥリィは頰を膨らませていた。

 

 

「ヨルイナール、何を手こずっている。残りはこやつらだけだ」

 

「はい、すぐに片付けます!」

 

 

ヨルイナールは高く舞い、攻撃態勢に入る。

 

 

「くそう、万事休す、か。みんな、ごめん」

 

 

そして皆が目を瞑って覚悟を決めた。

 

 

Joor Zah Frul(ドラゴンレンド)!」

 

 

どこからか放たれたシャウトを受けヨルイナールは地面に急降下し、縫い付けられるようにその場に固定される。

 

もちろん、アルドゥインが放ったものではない。

 

もちろんそこにいる誰もが放ったわけでもない。

 

 

(ドラゴンレンドだと!?まさか……)

 

 

アルドゥインはすぐに生命探知のシャウトを放つ。普段なら放たなくともある程度の気配なら感じ取れる。しかし今回は違った。

 

彼は忘れていた。

 

元の世界(スカイリム)でも隠密(スニーク)に異様に長けている者もいるということを。

 

 

そしてドラゴンの骨や皮で作った鎧と武器をまとった()()()は既に目の前にいた。

 

 

Fus Ro Dah(ゆるぎなき力)!」

 

 

アルドゥインは反射的にシャウトを放つしかし。()()()の左に構えていた異様な形をした盾(デイドラ・アーテュファクト)、『魔法封じ(スペルブレイカー)』によって吸収される。

 

 

「みー、アルドゥイン、お・ひ・さ・し・ぶ・り」

 

 

そいつは刃をヨルイナールに向けると一気に斬りかかる。

 

 

(まお)ぉぉお!」

 

 

加藤が神速の速さで腰の拳銃を構えてそいつに発砲した。

 

 

「ちっ」

 

 

そのおかげで一瞬、ほんの一瞬隙が生まれ、アルドゥインはそいつを体当たりで弾き飛ばし、ヨルイナールに近づいて自身共々に『霊体化』のシャウトをかけ、ヨルイナールの拘束を解く。

 

 

「ヨルイナール、撤退だ。この場を離れろ!」

 

「え、はい!」

 

 

霊体化したヨルイナールが飛び去る。

 

 

「アンヘル、お前もだ」

 

「わかった」

 

 

アンヘルも飛び去った。

 

そして残りの新生龍たちも呼ぼうとしたが、既に遅かった。

 

白骨化していた。

 

これではもう蘇生もできない。

 

 

「く、おのれ!」

 

 

アルドゥインも悔しながらも飛び去る。

 

 

(くそ、ありえん、ありえん、絶対にありえん!奴がここにいるなど。それに……やつは我の知ってるドヴァキン(ドラゴンボーン)ではない)

 

 

そして唐突すぎて何が起きたのかよく理解できないまま伊丹たちはドラゴンが去るのを見ているしかなかった。

 

ただ一人、加藤は辺りを執拗に誰かを探していた。

 

 

***

 

 

なんとか本部と連絡がつき、陸自のチヌークが一機使えることと、そして龍の脅威が無いことが確認できたため、彼らは救出されることとなった。

 

 

生き延びたのは、結局伊丹たちと一部のダークエルフだけだった。

 

今回の代償は大き過ぎた。結果的にテュカの精神衛生も良くなり、龍たちを倒せた。しかし龍はまた復活し、今後の脅威になる結果を生み出した。少なくとも、彼らの活動領域が狭まったことを祈るだけだった。

 

 

通夜状態のヘリの中、伊丹は隣に座る加藤に問いかけた。幸い、ヘリのローター音で周りには聞こえていないし、ほとんどが疲労困憊で眠っていた。

 

 

「まさかと思うが……あれも作戦のうちとか言うなよな」

 

「……あれ?」

 

「ヘリが炎龍にぶつかりに行ったことだよ」

 

「結果的にこうなっただけ。それだけだ」

 

 

伊丹もそれ以上は聞かなかった。

 

加藤は表情には出さないが、部下たちを一気に失って辛いのかもしれない。

 

 

「伊丹、俺のことは気にするな。お前は自分がやるべきことをやれよ。俺は俺でやるべきことをするだけだ」

 

「ああ、そうだな」

 

 

そしてしばらくの沈黙。

次に口を開いたのは加藤だった。

 

 

「やつが、ここに来たな」

 

(マオ)か」

 

「やはり、やつはまた容姿を変えて現れたな。伊丹、このとは俺たちだけの秘密だ」

 

「……別に上に上げるつもりはないけどな。理由を聞いていいか?」

 

「知ってるだろ?」

 

「ああ」

 

「なら聞くな」

 

 

その後、彼らは到着までに終始無言だった。

 

 

***

 

 

「ふう、あの混乱に乗じて逃げだせたのはラッキーだぜ」

 

 

ジゼルはあの数日後、また戻ってきて調査をしていた。

 

 

「しかし、スゲー龍たちだったな。俺の手下に欲しいくらいだ。新生龍失ったのは痛いが、貴重なサンプルが手に入ったからな」

 

 

そして突如現れた大きな気配に、ジゼルは身を隠す。

 

 

「あ、あいつだ。漆黒龍だ!」

 

 

アルドゥインも戻って色々と調査などをしているようだった。

 

いや、魂を吸収しに来ているようだった。

 

 

「兄上……もうそろそろわたしもそちらへ……」

 

「何を戯けたことを言ってる。貴様の魂は我が喰らってやる」

 

「その、声は……ワールド……イーター……嫌だ、止めろ……やめろ!」

 

 

最期を悟った瀕死のラーツがそう囁いたが、彼女はアルドゥインの言葉によってどん底の地獄に落とされることになった。

 

そして彼女の魂は無情にもアルドゥインに取り込まれてしまう。

 

 

「やべーぜ、まじでやべーぜ。これが主神様が言ってた『厄災』ってやつか?早い所報告しないと……」

 

「そこでこそこそしておる不届き者、出てこい。さもなくば、後悔するぞ」

 

(やっべ、見つかっていた!?ここはすぐに逃げるのが……)

 

Joor Zah Frul (ドラゴンレンド)!」

 

「ギャァァァアアア!?動けない、なんで!?」

 

「ふむ、ドヴァ(ドラゴン)もどきと思ってたが、効くのか。まあ良い、貴様には酷い目にあってもらおう」

 

「やめろー!てめえ何する気だ!?」

 

「まずは我について来て全て洗いざらい吐いてもらおうか全部な」

 

「全部!?そんな、多すぎるぜ!」

 

「不届き者よ、時間はたっぷりとあるぞ。たっぷりとな」




まだ終わりじゃないぞ、もうちょっとだけ続くんじゃ。

次回から第4章。

それにしても、ジゼルとラスティ・アルゴニアンごっこしたいですなあ。

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