オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし   作:ArAnEl

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新年明けましておめでとうございます。北海道や東北はスカイリム並みに寒くなったかと存じます。

決してノルドやドヴァやドヴァキンの皆様を除いて裸で外をうろつきませんよう願います。寒さ耐性ないですからね。

あと今回長めです。もし長さで意見などあればご指摘お願いします。


ご注文はヴォーリアバニーですか?いいえ、巨龍ましましで

 

 

「「……」」

 

 

そこにいた自衛官たちは一切言葉を発しなかった。

 

先ほど見た光景が信じられなかったからだろうか。

 

戦闘機が()()したという情報が入り、その地点へ近づいた矢先にいきなりドラゴン同士が戦い始めた。

 

そして優勢と思われたドラゴンが無数のメテオが変な直線軌道を描いて吸い込まれるように衝突してゆく姿も見た。もちろんミンチを超えて木っ端微塵である。

 

 

「隊長、命令の変更は来てませんか?」

 

 

覆面の隊員がぼそりと呟く。

 

 

「……ああ」

 

我が社(自衛隊)がここまで馬鹿だったなんて……」

 

「……ああ」

 

「この状況でパイロット救出せよとか、頭おかしいでしょぉぉお!」

 

「……ああ」

 

 

加藤の目は虚ろだった。

 

 

(今回ばかりは本気で死ぬかも……)

 

 

***

 

 

「……何が起きたのか説明してくれぬか?」

 

「この我に説明しろと?貴様もう一回ソブンガルデかオブリビオンに送ってやろうか?」

 

「すまぬ、何を言ってるのかよく分からぬ」

 

「ならば分かりやすく言ってやる。もう一度死ぬか?」

 

「……我は死んだのか?」

 

 

状況を理解できていないアンヘルにアルドゥインは仕方なく、簡単に説明する。

 

 

「……誠か?」

 

「ではもう一度証明してやろうか?」

 

「遠慮する」

 

「では決まりだな、我の配下になれ」

 

「唐突な……」

 

「我が勝者だ。異論は認めん」

 

「不本意だが、結果が全てだ。お主に従う」

 

「よろしい。では早速我の他の配下共にも会ってもらいたいところだが、まだやり残したことがあるのでな。Laas() Yah(捜査) Nir(狩り)

 

 

囁くようにスゥームを発すると森林の中から赤い炎のようなものなポツポツと現れる。数にして10前後。

 

 

「ふん、小賢しいジョールどもめ」

 

 

***

 

 

「隊長、パイロット見つけました」

 

「こちらもコパイ見つけました。命に別状ありませんが非常に怯えている様子です」

 

「了解。様子を見に行く」

 

 

加藤は無線から部下の示すところ行くと、墜落した戦闘機のパイロットとコパイの様子を見に行く。

 

 

「く、来るなー!!」

 

 

誰であろうと拒否をする。

 

 

「パニック発作か……これじゃ静かにさせるのは大変だな」

 

「やばいっすよ、もしかしたらドラゴンたちに感づかれますよ」

 

「多分もう遅い。まあ一応静かにさせろ」

 

 

上官の指示に従い、パイロットとコパイを柔道で言う締め技で落とす。

 

 

「よし、急いでヘリにまで戻る……」

 

「グォォォオオオ!!」

 

「散会!散らばれ!」

 

 

突如音もなく漆黒の龍がかなり近くの頭上に現れる。

 

 

「各人、ほふく等でヘリの回収ポイントへ前進!」

 

『『了解!』』

 

「全員ついたら10分経って俺が戻らなければ発進しろ」

 

『隊長、何勝手にかっこつけてんですか。厨二病ですか』

 

「ふん、こんなんで生き残るのはフィクションだって知っとるわ。でもな、艦長は最後まで残るんだよ」

 

『艦長じゃねえし』

 

『そもそも船じゃねえし』

 

『てか全員が海というわけじゃねえし』

 

『これだから厨二病は……』

 

『誰だこんなやつ幹部自衛官にしたのは』

 

 

無線なので独り言がだだ漏れである。というか切ってないということは故意的に聞こえるようにしている。

 

 

「てめーら覚えとけよ。俺には別任務があるだよ。ま、俺が死んでも代わりはたくさんいるし」

 

 

そう言って加藤はヘルメットちつけてあるカメラをオンにする。

 

 

「さあ来やがれ。貴様の情報を得るまで俺は死なんぞ」

 

 

そう言ってカメラを漆黒龍に向ける。

 

そして漆黒龍はこちらを見ると、(わら)った。気がした。

 

 

「ほう、なかなか面白いことを言うではないか。それに興味深いジョールだ。緑のジョールがいれば黒いジョールもいるのだな。特に、貴様は非常に興味深い」

 

「…………嘘だろ」

 

 

加藤は耳を疑った。

 

 

***

 

 

アルヌスの避難民キャンプの屋台で働いてるの うさ耳(ヴォーリアバニー)ウェイトレスのデリラは悩んでいた。

 

 

(くそ……こんなのって、ないよ……)

 

 

アルヌスに来てこれほどの高待遇の働き口はなかった。

 

自分たち亜人、特にヴォーリアバニーは良くて奴隷や身売りのような仕事しかなかったからだ。

 

これも全ては国を帝国に売った女王、テューレのせい。

 

そんな彼女を救ったのがイタリカのフォルマル家であり、なんと給仕(メイド)の仕事までくれたのだ。(ここでいうメイドは秋葉原や同人誌にありそうな仕事は一切ないのでご安心を)

 

そしてそのフォルマル家をさらに超えた待遇がここ、アルヌスの自衛隊施設である。

 

実は彼女、フォルマル家から密偵として自衛隊の動向を探るためにも派遣されていたのだ。もちろん自衛隊は知らない。

 

そして日々の生活に充実していたところフォルマル家からこんな手紙が来たのだ。

 

 

『望月紀子という女を殺せ』

 

 

今の自衛隊とフォルマル家は決して悪い関係ではない。むしろ良好なのでこんなことはありえない。

 

しかし、命令は命令なのだ。絶対的な主君の命令である。

 

 

「……仕方がない」

 

 

戦衣に着替え、神々に祈り、体に塗料で模様を描く。

 

そして闇夜へと消えて行った。

 

 

そして周り目を気にしながら、主に自衛隊のパトロールを避けながら、医療施設付近に忍び込む。

 

対象はあっさり見つかった。

 

一人で外でタバコを吸っていたのですぐ見つかった。

 

どうも死んだ魚のような生気のない目はきになるのだが。

 

ここで補足すると、対象は異世界に拉致されてエロ同人みたいな目に遭わされたあげく、無事帰ってこれたと思ったら一家全員が行方不明、もしかしたら死んでいるかもしれないというバッドエンドの状態なのだ。

 

 

「いっそのこと、死んじゃおうかな……」

 

 

対象はそう呟いた。

 

 

「よかった、あんた死にたかったんだ。死にたくないやつを殺すのは気が引けるところだったよ」

 

 

デリラが返した。

 

 

「私を殺すの?」

 

「うん、ちょっと訳ありでね。ごめんよ、できるだけ痛くないようにするからさ」

 

 

そう言って喉元にナイフを構える。

 

 

「痛いのは嫌だなあ……」

 

「困ったなあ……痛くない殺し方なんて知らないし。それに死にたいやつのお手伝いするなんて思ってみなかったんだよ」

 

「くすっ、いまの貴女ってテューレさんみたい」

 

「今、何て言った?」

 

 

その名前を聞いた瞬間、デリラの雰囲気が一瞬で変わった。

 

 

「そこで何をやっている!?」

 

 

たまたまそこを通りかかった柳田は、紀子にナイフを向けているのを見て躊躇わず拳銃を構える。

 

 

「ちっ!」

 

 

デリラも反射的に動いた。

 

 

***

 

 

「隊長、びっくりしましたよ。一旦離脱して、龍たちが去ったのでもう一度捜索したら森の中で死にかけていたんですから」

 

「しかも無傷で。何があったんですか?」

 

「すまん……よく覚えていないんだ……動画も撮影したんだが、撮れてなくてな」

 

 

画面は砂嵐状態である。音声も乱れている。

 

 

「今日は遅いですし、点滴終わったら休みましょう」

 

「そうだな……それにしても基地内が騒がしいな」

 

 

ヘリから降りて医療施設に向かうと、ちょうど血まみれの柳田が運ばれてゆくところだった。そして間髪いれずデリラが運び込まれる。

 

 

「な、何があったんだ……?」

 

 

覆面の男の一人がつぶやく。

 

 

「……あー、なるほど」

 

「何か分かったんですか?」

 

「お前らは知る必要はない」

 

 

加藤は柳田の切り傷痕、デリラの出血量、柳田の拳銃が腰にないことから全て察した。

 

 

(……顔覚えたぞ。うさ耳女)

 

 

加藤は含みのある視線で二人を見送る。

 

 

その後、デリラが攻撃した原因などが徹底究明され、フォルマル家の老執事が尋問され、諜報作戦が始動したのは言うまでもない。

 

 

***

 

 

翌日の早朝

 

 

「弾ちゃーく……今!」

 

 

野戦特科(砲兵隊)の75式自走155mmりゅう弾砲数台が放った砲弾が目標に着弾すると同時に辺りを爆風で吹き飛ばしてゆく。

 

 

「「……」」

 

 

観測員、偵察、ヘリ部隊、オペレーター、そして作戦室でモニター越しに確認する隊員全員が息を飲んだ。

 

まだモニター越しには砂煙が舞ってよく見えない。

 

そして少しずつ、空が晴れるように煙も薄くなったゆくと同時に、奥から黒い巨影も濃くなる。

 

 

「「……え……」」

 

 

巨龍(ラオシャンロン)は無傷でその姿を現す。

 

 

「「はぁぁぁああああっ!!?」」

 

 

誰もが声を上げた。または絶句して開いた口が閉じない。

 

少し背中の岩が崩れた程度だと思う。しかし、全くダメージを受けた様子はない。

 

 

「ふざけるなー!」

「嘘だろ!?」

「これは夢だ、夢に違いない……」

「ゴジラが出たら自衛隊はヤラレ役だけどよぉ!」

 

 

隊員から次々と言葉が飛び交う。

 

 

「うわぁ、この前みたゴジラの映画思い出しちゃった……自衛隊ってやっぱり大したことないのね……」

 

「隊長、あんた今自分の雇い主馬鹿にしてますよ」

 

 

先日の任務の引き続き、陸自のヘリから監視を続ける特殊部隊たちであった。

 

 

「早く撃退してくれないかな。俺たちに仕事来る前に」

 

「それ、フラグですよ。絶対撃退できないパターンですよ!」

 

「そやね……空自も撤退して……航空優勢大丈夫かねえ。この前みたいに翼竜に落とされちゃいやよ。俺たち乗ってるし」

 

「一応対空砲用意してますから」

 

 

実は急遽対空兵器として87式自走高射機関砲が2両配備してあったりする。

 

 

「ま……155ミリで効かなかったら今後の展開も読めるけど……」

 

 

予想通り、155ミリ自走砲による飽和制圧も虚しく、巨龍を止めることはできなかった。

 

 

「巨龍、第一防衛地点突破しました!」

 

 

オペレーターが叫ぶ。

 

 

「これにて巨龍の明確な目的として、ここアルヌスであると判断する。戦闘用意!」

 

 

狭間陸将は正式に非常事態宣言を行う。

 

そう、これまではジャブ程度。

 

ここからが本番である。

 

 

「てい!」

 

 

指揮官の号令と共に155ミリ砲が一斉に火を噴く。

 

一定のリズムで榴弾が次々と発射される。

 

流石は練度は高いと言われる自衛隊。

 

全弾が命中する。

 

 

しかし命中しただけだ。

 

そのどれもが有効弾とはならなかった。

 

 

「一体どんな皮膚をしてんだこいつは!?」

 

 

ヘリに同乗していた観測員が叫ぶ。

 

 

「分厚い装甲相手にどんなに榴弾を叩き込んでも無理だ。ありゃ戦艦だな。ハープーン(対艦ミサイル)でもダメージ与えられか怪しいな」

 

 

加藤はのんきにつぶやく。

 

 

 

一方、作戦室でも慌ただしくなっていた。

 

 

「目標、間も無く第二防衛地点に到着します」

 

「なんとしてもここで食い止めろ!」

 

 

狭間陸将は珍しく焦っていた。もしかしたら最悪の場合、全隊員の本土への撤退がありうるからだ。

 

いや、撤退出来たらまだいいほうだ。まだ各地で任務を続けている隊員を残すことになるかもしれない。それとも、大半を残して門の破壊か。

 

 

「次の防衛地点を突破されれば、アルヌスはすぐそこだ。どうにか撃退しろ」

 

第二防衛地点で待機していたのは戦車部隊と攻撃ヘリ部隊。

 

 

74式戦車約10両と攻撃ヘリのアパッチとコブラ各10機。もちろん対戦車ミサイルをふんだんに搭載されている。戦車は万一のために対戦車榴弾(HEAT-MP)離脱装弾筒付翼安定式徹甲弾(APFSDS)を備えている。早い話、一番貫通力と威力の高い弾。

 

 

他に第二防衛地点は他に、約3階建建造物並みのバリケードも設けている。即席なので、コンクリートブロックを積んで補強したものだが、戦車でも押し返せない。なお、戦車部隊はバリケードの後ろから射撃できるようにしてあるので退避も可能。

 

 

「巨龍、目視確認!」

 

「でけえ……」

 

「倒せるのか……」

 

 

戦車部隊の乗員が次々と心境を言葉にした。

 

巨龍は相変わらず定速でこちらへ向かってくる。

 

 

巨龍の頭はこちらを向いている。背中は榴弾では攻撃が効かなかったが、生物なら頭部を攻撃されるのは嫌なものである。例えダメージが無くとも、撤退してくれるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら隊員は標準を巨龍の頭部に合わせる。

 

 

「てい!」

 

 

74式戦車の主砲が一斉に火を噴く。半分は徹甲弾。半分は対戦車榴弾を時間差で叩き込む。これはどちらのほうが効果的かを見定めるためだ。

 

 

「グォォオオ!?」

 

 

前半の貫通弾はあまり効果がなかった模様。しかし、後半の対戦車榴弾が顔面で炸裂し、巨龍は一瞬足を止めた。

 

 

「全車両対戦車榴弾に切り替え!」

 

 

指揮官の号令で全戦車が次の弾種を切り替え、照準する。

 

 

「てい!」

 

 

しかし今回はひるまなかった。

 

 

「グルルルル……」

 

 

むしろ怒らせてしまったようだ。少しスピードが速くなったきがする。

 

 

戦車は射撃を止めない。

 

 

「これ、我が社全面協力の某怪獣映画であったな。あのときは一〇式戦車だったけど」

 

「隊長、そこはもうゴジラって言おうぜ」

 

「そうだな。嫌な予感するぜ」

 

 

戦車の猛攻も虚しく、巨龍はコンクリートバリケードの手前まで来てしまった。

 

 

「安心しろ……このバリケードは超えられない……あんな短足トカゲに越えられるはずなんてないんだ……」

 

 

戦車隊の指揮官が独り言のようにつぶやく。まだ撤退指示は出してない。

 

 

(そうだ、そのまま止まって諦めろ。回れ右をして山へ帰れ。そすれば俺たちは攻撃しない)

 

 

巨龍はバリケードの前で止まると少し戸惑う。戦車隊も攻撃をせず待機する。

 

 

「「……」」

 

 

全自衛隊員が息をのんで見守る。

 

 

「……フー」

 

 

巨龍は鼻で深呼吸をすると、ゆっくりと立ち上がった。帝都近くでやったように。

 

 

「う、うわぁー!!」

 

 

取り乱した戦車の一人が発砲してしまう。

 

その弾は巨龍の腹部に当たり、少し出血させる。

 

 

「全車両撤退!繰り返す、全車両撤退!」

 

 

指揮官が戦車隊に命令する。

 

74式戦車がエンジンをフルにして後退する。

 

ヘリ部隊は既に今後の作戦のためにあまり攻撃せずに撤退した。

 

巨龍は2、3歩二足歩行で歩み出すと、前方に倒れこんだ。そしてその巨大を使ってバリケードを粉々に潰した。

 

戦車隊はなんとか脱出した。

 

 

「「……まじかよ」」

 

 

これなら大丈夫と思って作ったバリケードがまさかの全然大丈夫ではなかった。しかもたった一発。攻撃とも言えないような、単なるのしかかりで吹っ飛ばした。

 

 

「昔読んだ本で、ゴジラは科学的には重みで生存しえないとか書いてあったけど、科学って当てにならないんだな……」

 

 

今まで面白半分だった加藤も流石に驚いていた。

 

 

『加藤、何か良い案はないか?』

 

 

上司から無線で連絡が入る。

 

 

「草加さん。例の対巨龍決戦兵器があればなんとかなるかもしれませんが、今手元に無くて。せめてあと1カ月あれば我々の設備も整ったでしょうに」

 

『無い物を嘆いても仕方があるまい。他に方法は?』

 

「無くはないのですが。2通りほど」

 

『聞こう』

 

「一つは乗り込んで背中の隙間などにC4爆弾でこじ開けること。表面からの攻撃でも内部からすれば多少のダメージはあるでしょう」

 

『もう一つは?』

 

IED(即席爆弾)。航空自衛隊の航空爆弾やその他の爆薬を地中に埋めて腹を狙います」

 

『ふむ、興味深い。だが榴弾、徹甲弾が効かないがそれは効くと?』

 

「自然界では、基本的に背中が固く、腹は柔らかいことが多いです。例としてアルマジロ、ラーテル、カブトムシ、そして人工物でも戦車が良い例でしょう。さらに、奴は戦艦のような龍です。先ほどの攻撃からも見て、相当な体重があるでしょう。それを支えている腹筋を潰せば、現在の魚雷の原理と同様、キール(支え)を折れば……」

 

『自滅すると』

 

「はい。しかし乗り込みならともかく、IEDの設置には莫大な作業がかかります。少なくとも施設科の協力は必須です。乗り込みは時間稼ぎ、本命はIEDがよろしいかと思います」

 

『分かった。IEDの件は私がどうにかしよう。航空自衛隊、陸自の施設科とヘリ部隊による運送が必要だな。もしこれがだめだったら?』

 

「……その時は、門を爆破するしかないでしょうね。準備はできています」

 

『随分と躊躇いがないな。おっと、お前にはあっちの世界は未練もないのだったな』

 

「ええ……もう失うものはありませんから」

 

『……わかった。そちらは頼んだ』

 

「了解」

 

 

上官との長い連絡を終えると、隣の隊員がふと質問する。

 

 

「隊長、今の何語ですか?」

 

「気にするな。作戦の秘匿のためだ。機長、あの巨龍の頭と背中の中間地点まで行ってくれ」

 

「作戦開始か?わかった。死ぬなよ」

 

「うわー、とうとう俺たちに仕事が回ってきやがった」

 

「ええい、お前たちうるさい。この作戦と次の作戦が終われば休暇申請してやるから死ぬなよ」

 

「「(休暇のために)了解」」

 

 

そして各々が懸垂降下(ラペリング)の体勢に入る。

 

 

「用意、降下!」

 

 

そして一斉に巨龍のゴツゴツとした背中に降下し、すぐに棘のようなものに安全索をかける。

 

 

「足場は悪いが、思ったより簡単だったな」

 

「ただ揺れがキツイですね」

 

「お、なんだこれ。ダイヤの原石?」

 

「なんだかよく分からんオブジェクトもあるし」

 

「こっちには金銀ぽいものが」

 

 

そんな感じで最初は背中の上を調査すていた。

 

ラオシャンロンは既に進行を開始していた。一旦落ち着いて元の速さで進行している。

 

 

「うっぷ……なんだかこの揺れ、昔体験したことあるような……」

 

「奇遇だ。俺もなんだかそんな気が……う……」

 

「なんだこの、既視感(デジャヴ)……」

 

 

ー なんだお前は!こんなこともできんのか!? ー

 

ー 貴様らは教育隊で何やってた。やり直せ! ー

 

ー このバカをCICから叩き出せ!ー

 

ー 税金泥棒とはお前のようなことを言うんだよ! ー

 

ー これだから初任幹部は……こんなこともできないのかよ? ー

 

 

「「……」」

 

 

各々の脳裏に浮かぶ懐かしき思い出(トラウマ)。一部の者の目は既に虚ろのなっていた。

 

 

「隊長、この艦艇……じゃなくて、巨龍を早く沈め……倒しましょう!」

 

「奇遇だな。俺も同じことを考えていたんだ」

 

「ちくしょう!こんなやつ潰してやらあ!」

 

 

そして背中の亀裂や溝の奥にプラスチック爆弾(C4)を敷き詰めてゆく。

 

 

「よし、全員準備はいいな。一斉に降下と同時に起爆。そして後方に退避だ」

 

「「了解」」

 

「3、2、1……降下!」

 

 

全員が同時に棘に固定していた降下ロープにて降下すると同時に、起爆スイッチを押す。

 

 

「グオ!?」

 

 

効果は一応あったようで、巨龍は足を止め、首上げる。

 

 

「よし、後方に退避!」

 

 

全員打ち合わせ通り後方に行く。つもりだった。

 

 

「隊長!道が狭いのと尻尾が邪魔で通れません!」

 

「ちっ、仕方がない。前方へ退避!」

 

 

急遽変更して巨龍の前方に出る。危険を承知の上で。

 

 

そして動きが止まっている間に全速力で走り続ける。万一動き出しても生存時間を少しでも長らえるため。

 

しかし予想に反して、巨龍は地響きをたてるとその場に伸びてしまった。

 

 

「「え?」」

 

 

誰もが呆気に取られた。

 

 

「倒した……のか?」

 

 

息をしていない。もしかして倒したのかもしれない。

 

 

「ははは……驚かせやがって」

 

「俺たちがやったのか……?……なんかテンション上がって来たー!」

 

「うぉぉおお!」

 

 

みんなが歓喜していたが、加藤だけは笑っていなかった。

 

 

「隊長、どうしたんすか。今夜はパーっといきましょうよ!」

 

「走れ」

 

「え?」

 

「てめえら死ぬ気で走れえ!」

 

 

隊員は状況が理解できなかった。

 

 

「こいつはまだ生きている!気絶しているだけだ!」

 

「え?そんなのどうやって……」

 

「フー!」

 

 

巨龍の鼻息を聞いた瞬間全員が走り出した。

 

巨龍もゆっくりと4つ足で立ち上がると、身震いをしてまた歩き出した。否、走り出した。

 

 

「速くなってる!」

 

「怒ってるよ、絶対怒ってるよ!」

 

「走れバカモン!」

 

 

最悪なことに、道が狭いので横に避けることはで書かないのだ。ここは谷らしく、両岸は少なくとも10メートルの高さはある。

 

 

「おい観測員!あとどれくらい走れば分かれ道とかある?」

 

『……大変申し上げにくいのですが……少くとも10キロはこのような道が続きます』

 

「ざっけんなー!」

 

 

全速力と言っても短距離走を全力疾走しているわけではない。フル装備の状態である程度中距離を本気で走る程度でやっと巨龍に踏み潰されないほどで走っていた。しかし10キロはさすがに無理である。

 

 

「隊長、どうしますか?」

 

「うむ。降下ロープを下げて捕まらせるのは可能か?」

 

 

ヘリ部隊の指揮官、健軍1佐が指揮官ヘリの中からこの状態を伺っていた。

 

 

「不可能ではありませんが、かなりの難易度です。さらに、万一掴めてもバランスを崩せば下の隊員は壁に叩きつけられるでしょう」

 

 

機長は健軍1佐の問いに答える。

 

 

「リスクが高すぎるか……」

 

 

しかしもたもたすれば下の隊員はスタミナ切れで全員潰されるだろう。そして恐らく生き残ることはできまい。

 

 

「ならば攻撃ヘリで安全距離で地面に穴を開けることは?窪地があれば中に入って助かるかもしれない」

 

「なるほど、それならできるかもしれません。確認取れました。アパッチがやってくれるそうです」

 

「頼んだぞ」

 

 

命令を受けたアパッチがが加藤たちの走っている方向に突如現れる。

 

 

「まさか俺たちを狙ってるわけないよな?」

 

「いやいや。例え巨龍を攻撃するにも結構危ない距離だから。アパッチ、早まるなよ……」

 

 

息を切らしながらもまだ無駄口叩けるところをみるとまだ行けそうである。

 

 

そしてアパッチがミサイルを放った。

 

 

「撃ちやがった!」

 

 

しかし加藤たちが予想していたところとは反して、彼らのはるか前方、約300メートル先の地面に命中した。

 

 

「え?下手くそなの?」

 

 

隊員の一人がつぶやく。

 

 

「いや、あれを見ろ」

 

 

ミサイル攻撃の跡が数カ所小さな窪地となっていた。

 

 

「全員あそこに入れ!そして伏せてじっとしろ!」

 

「もしダメだったら?」

 

「靖国で会おう!」

 

「「おい!」」

 

「冗談。俺は宗教違うから別かもしれないけど」

 

「いや、そうじゃなくて……」

 

「とにかく一か八かだ。行くぞ!」

 

 

全員それぞれの穴に入って伏せる。

 

 

巨龍はそんなこと一切知らずに突進してゆく。

 

 

「……」

 

 

健軍はヘリの窓から巨龍の跡を見守る。まだ砂煙でよく見えない。

 

しばらくすると人影があちこちから出てくる。

 

 

「何とかなったか。機長、彼らを回収する。降ろしてくれ」

 

「了解」

 

(加藤1尉、いや、3佐か。これで借りは返せたかな?)

 

 

ゆっくりと降下するヘリを見て安堵する。加藤たち。

 

 

「助けられちゃったな。副長、損害は?」

 

()()()、2名。他問題ありません」

 

「……だよな、これはあくまでも災害対策か害獣駆除だったな」

 

 

加藤はため息を吐くと、ポケットからタバコを取り出す。

 

 

「死んでいると思われないようにヘリに乗せろ」

 

 

***

 

 

時間は夕刻になろうとしていた。まだ日没までは多少時間はあるが。

 

 

「第三防衛地点の3000メートル先にIEDを設置しました」

 

「ご苦労」

 

 

草加2佐は書類を受け、目を通す。

 

 

「草加2佐、迎撃は可能とお前は思いますか?」

 

 

書類を渡した隊員が尋ねる。

 

 

「建前上は、我々はこれを迎撃()()()()()()()()()。しかし、そんな根拠のない精神論では勝てる戦も勝てなくなる。科学的理論に基づけば、可能性は低いと言わざるを得ない」

 

 

そして書類に印鑑を押して返す。

 

 

「だが、時には自衛隊にも負けが必要だ。負け方の被害を抑えるのも、自衛隊の仕事だ」

 

 

そう言って立ち上がり、装備を整える。

 

 

「最終防衛地点の指揮に、私も加わろう」

 

 

***

 

 

「草加さん、別にあなたが前に出ることは……」

 

「この作戦の立案者は私だ。指揮官が前に出なくてどうする」

 

「そうですが……」

 

 

加藤は何となく複雑な顔をする。

 

 

「別に君のことを信用してないわけではない。今後のことは、この戦い方によって決まる」

 

「今後のこと……ですね」

 

「今後のこと、だ」

 

 

そしてしばらくの静寂が訪れる。

 

 

「目標、視認!」

 

 

巨龍の背中の棘が地平線から現れる。そして次第に背中、頭部と現す。

 

 

「IED地点まで約15分で到達します」

 

「万一に備えて全部隊、第三防衛地点の後方に待機。文民、怪我人等は門周辺にて待機」

 

 

狭間陸将は一部は撤退させる方針を固めていた。しかし全員を撤退させる方法はない。最悪、自分を始めとしてこの世界に骨を埋めることになるかもしれない覚悟はできた。

 

 

「目標、IED地点到達」

 

「やれ」

 

 

草加の冷たい命令で加藤は起爆スイッチを入れた。

 

 

「ギィィィイイイ!?」

 

 

巨龍の叫び声が聞こえた。

 

 

瞬時、爆風が3000メートル離れたこちらまでに届いた。こちらに届くまでは弱い突風程度だが、爆破地点では黒煙がキノコ雲のように黙々と上がっていた。

 

即席爆弾(IED)。その名前から騙されることなかれ。現在でもテロリストや非対称戦として有りあわせの爆弾で正規軍を苦しめてきた。

 

種類は多岐に渡る。圧力鍋にパチンコや釘などを詰めたものから、航空機用の1トン爆弾を地中に埋めて対戦車地雷代わりなど。他にも、地雷を重ねて数て威力を補う、榴弾を敷き詰めて起爆などもある。

 

これにより、アメリカの主力戦車、M1エイブラムズを撃破した例など多くある。

 

 

「目標、損傷大!」

 

 

見ると腹から血をドバッと出して弱っていた。巨龍は苦しそうに肩で息をしていた。

 

 

多くの隊員はやったとばかりに喜んでいた。

 

 

「加藤、これをどう見る?」

 

「私の憶測ですが、腹筋を完全に潰せませんでしたね。熊同様、脂肪かなにか緩衝剤を考慮していませんでした」

 

「さすがだな。私も同意見だ」

 

 

皆の歓喜は巨龍の咆哮によって掻き消された。

 

そして、突進を始めた。

 

 

「全軍迎撃始め!」

 

 

陸自はありったけの火力を叩き込む。

 

戦車、りゅう弾砲、対空砲、なとなど……

 

先ほどより遅くなったとはいえ、その突進にはかなりの勢いがある。

 

 

「我々、人類の負けだな」

 

「ええ。陸自も予備弾薬は残すと思っていましたが。これでは門を破壊しても我々の戦略的敗北は確定ですね。巨龍の襲撃を越えても、帝国と戦えなくなりますね」

 

「ここは任せた」

 

「了解」

 

 

草加は門の近くに行くと、小さなため息をつく。

 

 

「……もし今門を破壊すらば、ここの者たちが犠牲になるな。もう少し様子を見るか」

 

 

門の前は文民と負傷者などで屯されていた。

 

 

『弾薬尽きました!』

『同じく第1戦闘団!』

『同じく第5戦闘団!』

 

 

次々と狭間の元に報告が上がる。予備弾薬を投入してもだめだった。

 

 

(今、門を閉鎖しなければ本土が危ない。しかし、多くの隊員が残される。弾薬も補給もないまま……そうすれば、帝国に勝つ見込みは……ない。その責任に私は耐えられのか……)

 

 

最終決断を迷っていた。

 

 

全軍撤退か、死守か。

 

 

 

一方、前線では。

 

 

「危ないですよ、ここに来られては」

 

 

カトー先生を始めとして、現地民たちが多く集まってきた。

 

 

「何を言っておる。今あなた方が困っている。今度はそれを我々が助ける番だ」

 

「しかし皆さんは民間人です……」

 

 

自衛官は困った顔をする。

 

 

「そうだにゃー、ここアルヌスは天国だにゃ。これもジエイタイのおかげたにゃ。ここはみんなで守るにゃ!」

 

 

とキャットピープルの女性が言う。

 

 

「僕も、コダ村で大変な目にあったけど、ジエイタイだけが助けてくれたんだ。今度は僕が助ける番だ!」

 

 

とコダ村出身の少年。

 

とこのように皆押し寄せてきたのである。

 

 

「この老いぼれも、こう見えてなかなかの魔術師じゃて。多少の時間は稼いでみせるぞ」

 

 

カトー先生が締めくくる。

 

 

「皆さん……」

 

「そうだそうだ、民間人を盾に自衛隊が逃げられるかっつうの!」

 

「こんなのレンジャー訓練と比べたら屁でもないわ!」

 

「へっ、こういうのも悪くない。ゴジラ倒したらいいんだろ!」

 

 

落ち込みモードの自衛官たちが一気に戦意を取り戻す。

 

 

「「アルヌスを守れ!」」

 

 

現地民と一つになって再度立ち向かう。

 

 

その様子を無線越しに狭間も聞いた。そして決断する。

 

 

「全部隊に命じる。この場を死守せよ」

 

「「了解!」」

 

 

各戦闘団隊長が威勢良く答える。

 

 

「若いの、どうしたそんな目をして。まだ諦めるのは早いぞ」

 

「……呆れてるんですよ」

 

「まあ良い。ところで、何かの縁じゃ。名を何という?」

 

「……加藤」

 

「奇遇じゃ。わしもカトーというのじゃ。異世界に同じ名前があるとはなんとも奇妙じゃ。これ、そんな顔をするな」

 

「……しゃあないな」

 

 

加藤も小銃に弾倉を込める。

 

 

「俺より先に死ぬんじゃねえぞ、じーさん」

 

「これこれ、それは老人のセリフじゃ」

 

 

その後の戦闘は苛烈を極めた。

 

自衛官はもう小銃や迫撃砲や個人携帯対戦車弾しかなかった。

 

現地民も弓矢などで対応するが効果はない。

 

しかし、唯一の救いは、魔法であった。

 

エルフ、ハーピィ等の精霊種の亜人による精霊魔法でなんとか食い止めていた。

 

そしてカトー先生の攻撃が意外と効力を発揮した。

 

 

呪文を唱えると、大きな炎の玉が巨龍を直撃する。

 

そしてその効力を示すかのように巨龍も怯む。

 

 

「若いのには負けられんわい!」

 

「これが……魔法」

 

 

加藤は素直に感心する。新しいものを見た少年のように。

 

 

「グルルルル!」

 

 

巨龍は魔法を喰らいながらも前進してきた。

 

 

「うう……やっぱりだめなのかにゃ……」

 

 

少しずつ撤退してゆく。

 

 

「なんの、まだまだじゃ!」

 

「じいさん危ない!」

 

 

加藤はカトー先生を押しのける。そして間髪入れずに巨龍の足がカトー先生がいた場所にのめり込む。加藤の足と一緒に。

 

 

「うがぁぁぁあAAAAAGGGUU!?」

 

 

一瞬、変な声が響いた。人間が出せるような声では無い。

 

それに驚いた巨龍は一瞬だけ加藤の足を潰していた足を上げて少し下がった。

 

そしてその隙を見逃さなかった者がいた。

 

キャットピープルのような容姿だが、右手には大きな日本刀のようなものを持っていた。そしてその刀のようなものには稲妻が走っていた。

 

その者はニヤリと笑みを浮かべると、何か呪文のようなものを唱えて巨龍に炎を浴びせる。

 

そして驚いた隙に巨龍の鼻先の棘のようなものをその刀で切り落とした。

 

 

そして、巨龍は急いで向きを変えると逃げるように去っていった。

 

 

「「……お、うおぉぉぉおお!やったぞ!」」

 

 

自衛隊、現地民の誰もが喜び、抱き合った。

 

 

「うむ、足が潰れておる。しかし運が良い、わしが治癒魔法で直してやろう」

 

「さっきの猫のようなヤツは……どこに行った!?」

 

 

加藤がかすれた声で尋ねた。

 

 

「む?どこへいったのかのう。見失ったわい」

 

「……くそっ、まだあいつ生きてたのか……次は……ろ……す」

 

「む、まずい。おーい、そこのジエイタイの方!」

 

 

こうしてなんとかアルヌスは守られた。一時的ではあるが。

 

 

***

 

 

「アルドゥインとやら、お主、妙に気分が良さげだな」

 

 

飛行しながらアンヘルが先導しているアルドゥインに聞く。

 

 

「ふん、主人と呼ぶが良い。もしくは敬語をつけるか」

 

「……主人殿」

 

「まあいいだろう。先ほど、面白い玩具をみつけたのでな。少し弄ってやったわい」

 

「あの森で見つけた黒い服の人間か?趣味が悪いのう」

 

 

こうして2頭はヨルイナールが待っている(はずの)山脈へと向かった。

 




実はオリキャラの苗字はカトー先生からとってます。今更ですが。

次回、やっと炎龍(ヨルイナール)と対決だよ。その前に緑の蛮族なんとかしないと。

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