オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし   作:ArAnEl

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少し予告的な……

???「我々の出番はまだかのう」
???「グォアー!!」キッーン
???「早くして欲しいんだよ!して欲しいんだよ!」
???「グオー、ピギャーッ」

一応出るの確定さんたち。これで全員わかったらあなたは私の同類かも。


スタァァァァップ!(日本政府のライフポイントはゼロよ!)

 

「何なんだこいつらはぁぁああ!」

 

 

「緑の人」が民を襲っているという情報を基に、各地をパトロールしていた(特地の)帝国兵は悲惨な目にあっていた。

 

 

「お、俺たちの知っている『緑の人』じゃねえ!ギャァァア!」

 

「何だこいつらはぁぁっ!?」

 

「マラキャス様万歳!」

 

 

誰かを讃えながら()()()()()は大きな戦鎚を振り上げながら帝国兵士の群れに突っ込んでいった。到達までに矢を10本ほど鎧のない箇所に受けるも、突撃に衰えはなくむしろさらに凶暴化していった。

 

そしてその戦鎚を振り回し、ことごとく帝国兵士を蹂躙していく。

 

帝国の魔術師はもういない。全身を氷の槍のようなもので串刺し状態で横たわっているがそんなこと気にしている者は誰もいない。自分たちで精一杯なのだ。

 

 

「嘘だろ!?矢も剣も全く通さない防具とか反則だろ!プギャ!?」

 

「ウォオオ!死ねい!」

 

 

深緑の双剣で相手を切り刻まれ、大きな戦鎚で頭を粉砕され、ときには焼かれ、爆殺され、氷漬けにされ、あるときは氷に貫かれ、感電死、などとこのように全くもってカオスな状況が帝国各地で起きていた。

 

さて、なぜ帝国の武器が全く効かないのだろうか。それもそのはず、その鎧に使われている素材を聞けばファンタジーに詳しい人なら納得するだろう。

 

その名は『オリハルコン』

 

 

***

 

 

「みぃ、確かここのはずですよ」

 

 

1人の少女が焼け焦げた部屋の中を鼻歌を歌いながらを渡す。

 

 

「流石に榴弾撃ち込んだらまともな人間でもワンパンKOですにゃ。でもおかしいのです。バラバラ遺体がないのですにゃー」

 

 

いくら榴弾とはいえ、肉片ぐらいあってもいいと思うのだが、という表情をしながら探すが、やはり見当たらない。ほんのたまたま隣の部屋にも穴が空いていたので覗いてみる。

 

 

「みゃみゃ?」

 

 

自分が狙ったはずの部屋とそっくりの部屋である。

 

 

「……もしかして部屋間違えたかにゃ。お隣さんごめんなさいなのです」

 

 

そして隣の部屋をこじ開けて侵入する。中にはたくさんのパソコンしかない。

 

 

「みー、逃げられたのです。悔しいです」

 

 

ただ、何となく腑に落ちない気持ちであった。強いて言うなら直感的に嫌な予感がした。

 

念のために次の隣の部屋も確認した。

 

そしてさらに念のためにその隣の部屋も確認した。

 

その隣もその隣もその隣もその隣もその隣もその隣も……

 

 

「……ハメられたにゃ」

 

 

全て同じ構造、同じ家具の配置された部屋だった。

 

落胆しているところ、パソコンのモニターが勝手に起動する。そして誰もいないのに真っ白な画面に文字が打ち出される。

 

 

「なになに、

 

『このメッセージを読んで、

うしろをふり向いた時

おまえらは……

PUSH ENTER...』

 

……」

 

 

そしてゆっくりとキーボードのENTERキーを押す。

 

 

そして画面の真ん中に小さくこう書いてあった。

 

 

『死ぬ』

 

 

これが表示されてコンマ1秒で振り向く。そしてその意味を理解した。

 

 

GOOD BYE(さようなら)

 

 

と書いてあった。『C4』と書かれた多数の包みに囲まれた赤いデジタル点滅ランプで。そしてその下の電光ランプが『00:00:00』になった。

 

 

***

 

 

「えー、もうおわりぃ?」

 

 

浴衣姿でハルバードを構えたロゥリィは残念そうに口を尖らせる。

 

周りには特戦たちが撃ち漏らした侵入者(工作員)の遺体が数体横たわっている。もちろん真っ二つだったりする。

 

 

「私もやりたかったのに〜」

 

 

栗林君、それはどういう意味で?と伊丹はそのツッコミを心に留めておいた。

 

 

「とにかく、まだ追っ手がいるかもしれないし、このままではまずい。移動するぞ」

 

 

伊丹の先導で皆準備をすぐに終えてその場を後にする。しばらく歩くとあら不思議。すごく不自然な場所にワゴン車がアイドリングした状態で、しかもすごく不自然な人が乗っていた。

 

 

「ごめんねぇ。悪いけど、降りてくれる?」

 

 

伊丹はニコ、と笑いながら鹵獲した銃を向ける。富田も念のために相手の頭を狙う。

死角から銃口を突きつけられたその白人の巨漢は両手を挙げ、ゆっくりと降りる。

 

 

「ねえ、こいつ悪者でしょ?撃ってもいい?撃っちゃってもいいよね!?」

 

 

栗林はまだ酔っているらしく、自衛官はおろか、人として発言が相当やばくなっている。バルバスの故郷なら問題ないが。

 

 

「でもこいつどうしようか?」

 

「無力化すると言っても縄や手錠もありませんからね」

 

「うっひょ〜う!」

 

 

伊丹と富田が相談している矢先、栗林は男を伏せさせて武装解除してその武器を見て歓声を上げていたりしていた。

 

 

「ねえねえ?やっぱり試し射ちだめかな?」

 

「だめです」

 

 

伊丹はキッパリと言う。

 

 

「でもだよ、こんなやつ放置してたら仲間に連絡されちゃうし、無力化するにも縄とか手錠とかテーザー銃とか麻酔銃も無いし、殴って気絶させようものなら間違って死んじゃうかもしれないし、締め技も間違って……」

 

 

栗林があれこれ提案する。どうしても試し射ちしたいようだが、伊丹は断固として拒否する。

 

 

「殺傷せずに無力化できれば良い?」

 

 

とレレイが口を開く。

 

 

「何か方法があるの?」

 

「ある」

 

 

そしてレレイは魔法を詠唱すると男はいびきをかいて寝始める。

 

 

「これで朝までぐっすり」

 

「これ、スゴ」

 

 

皆日本側は驚嘆していた。日本には魔法がないから仕方がないだろう。

 

 

そして一同はワゴンに乗ると特地へ繋がる門へと進むのであった。

 

 

「まっすぐ銀座に向かうのはまずいな。待ち伏せとかされたら厄介だし」

 

「戦闘地域の特地の方がまだ安全かもしれませんね。笑えませんが」

 

「隊長、今回の休暇台無しになったんだから後できちんと取り直させてもらいますよ」

 

「当たり前だ、俺も全然休めてないから、何としても柳田に休暇の許可をこじつけるぞ」

 

 

栗林の不満に伊丹も同調する。

 

このやり取りをみて、ピニャは伊丹に質問する。

 

「一つ質問したいのだが、なぜ妾たちはこのように逃げ隠れしなければならないのだ?」

 

「あ、それは私も疑問に思います」

 

「……実はな、俺にもよく分からない」

 

「隊長、何か隠してません?」

 

 

栗林は銃口を伊丹にに向ける。あれほど銃口を人に向けるな、と教育される陸自がこんな有様である。しかも上官に対して。ホントお酒は危ない。

 

 

「待て、落ち着け!話せば分かる!」

 

「栗林殿、上官にそれはご法度だぞ。伊丹殿、立場上言えないことだから言えないのか、本当に知らないのかは存じないが、これは妾の憶測として聞いてほしい。もしかして、日本国内でも妾の帝国と日本の和平交渉を行うことに反発している勢力がいて、それで妾たちは狙われている」

 

 

本当はそういうことでないが、伊丹は説明しようと考えていると、携帯が鳴る。

 

 

『もしもーし、いつもにニコニコ這い寄るコウモリ、加藤でっす』

 

「あんためんどくさいな!普通に加藤と言ったらわかるよ。今めっちゃ忙しいんだけど!」

 

『知ってる』

 

「知ってんのか!?お前はストーカーか何かか?てか知ってるなら電話すんなよ!」

 

『へー、良いニュースと悪いニュースあるけど、聞きたくないならいいや』

 

「待てこら。そんなこと言われたらなんだか聞かないとフラグ立つみたいじゃないか。まずは良いニュースから聞こうか」

 

『しゃーねーな。良いニュースはな、猫を発見したぞ』

 

「へー、で悪いニュースは?」

 

 

伊丹は棒読みで応える。

 

 

『おいおい、もっと驚いたり泣いて驚けよ。全米が泣くほどのニュースだぞ』

 

「どーせ悪いニュースでオチがあるんでしょ?」

 

 

またも棒読みである。

しかしなんだか加藤も棒読みになり始めてきた。

 

 

『流石じゃねーか。流石は伊丹さんじゃねーか』

 

「いいから教えろ」

 

『逃げられました……はい、すみましぇん』

 

「だろうね、予想できたよ。どうせこんなもんだと思ったよ」

 

 

伊丹は大きくため息をつく。

 

 

「そしてな、そいつが今向かってるところが……」

 

 

 

刹那、伊丹の目の前に火花が散った。

 

これは比喩などではなく、文字通り火花が目ん玉の前で弾けた。

 

原因は金属と金属がぶつかることによる衝撃。伊丹視界はロゥリィのハルバードが7割、2割が別の金属。

 

そして残り1割には少女である。

 

 

『おそらく銀座だ』

 

 

ちなみに、服装はボロボロに焼き払われ、男の理想郷危ない部分がわずかな布て覆われている。例えるなら、美少女だらけの格闘系ゲームにおけるダメージを受けるとなぜか破ける素晴らしい不謹慎な服装や鎧である。

いいぞ、もっとやれハレンチなと叫びたくなる状態の少女であった。

 

 

しかし、普段なら興奮するテンションが高くなる状況に関わらず、伊丹全くそのような反応ができなかった。

 

その理由は何か。

 

恐怖か、怒りか、驚きか、それとも別の何かか。分からない。しかしこれだけは理解した。

 

今めちゃくちゃヤバイということ。

 

 

「みー、すごいすごいですにゃ。僕の攻撃を防いだのですよ」

 

「あらぁ、ありがとぉ。でもいきなり攻撃なんてぇ、ずるくなあい?」

 

「みー、攻撃にずるもくそもないのですよ」

 

 

そして手にしていた道路標識を構え直す。

 

え?道路標識なの?「止まれ」ってかいてるけど、それって俺たちへの当てつけ?てかロゥリィのハルバード受けて大丈夫な道路標識って一体なんだ!?と伊丹はすでに理解を超えていた。どこの奇妙な冒険だチクショウ!と叫びながら。

 

 

『なんだかそちらが騒がしいが、どうかしたか?』

 

 

と携帯から声がする。

 

 

「連絡おせーよ、ぼけ!」

 

『おやまあ、もう追いつかれたのか。でもよく一発で分かったな。見た目が前と全然違うのに』

 

「俺の勘ってやつだよ」

 

 

そんな携帯でやりとりしている中、ワゴン車の屋根では大変なことになっていた。

 

 

金属と金属のぶつかり合う音。

 

飛び散る火の粉。

 

(くう)を切る音。

 

そして殺意。

 

 

伊丹は運転に集中しなければならないので、いちいち上を確認することはできないが、その殺意だけはひしひしと伝わってきた。

 

 

「いいわぁ、もっと愉しませてぇ!」

 

「みー、ミンチミンチぃ!」

 

 

戦うことに悦びを見出す亜神と殺すことに愉しみを見出す少女。

 

伊丹の目にはそう見えた。

 

あの栗林ですら手を加えようとしない。

 

狂気と恐気がぶつかり合う、物理的ではない別の高次元の何かのぶつかり合いだとそこにいる誰もが感じた。

 

ロゥリィは本気でその少女を殺しにかかっている。しかしそれと同時に本気で楽しんでいる。

 

それに対し、少女は笑みこそ浮かべているものの、目は濁ったような目である。ロゥリィを強敵(とも)ではなく、何かめんどくさそうなものとして見ていた。

 

 

その意識の違いが表れたのか、少女の武器(道路標識)がとうとう根をあげて真っ二つに両断される。

 

その隙を見逃す訳もなく、ロゥリィはハルバードの慣性を殺すことなくもう一回転加えて斬りこむ。狙いは首。

 

 

「「「っ!?」」」」

 

 

その衝撃で車が傾くが、伊丹がうまくハンドルを切ることで事なきを得た。

 

 

「みー、僕ももう少し本気出すのですよ」

 

 

少女はどこからもなく両刃の斧を取り出す。それがロゥリィの攻撃を弾いたようだ。

 

 

「あらぁ、いいものもってるじゃないのぉ」

 

「うるさいにゃ。とっとと仕留めるにゃ」

 

 

そして乱舞が再開する。車の屋根の上で落ちないように、時に姿勢を低く、時には宙を舞い、時には手だけで保持するなどアクション映画のように打ち合う。

 

先ほどと違い、攻撃性はロゥリィの方が強くなっている。対して少女はどちらかと言えば防戦だ。時々隙を見つけては攻撃やカウンターする程度だ。

 

 

「あらぁ?先ほどの威勢はどこいったのかしらぁ?」

 

「知ってるかにゃ?日本のことわざに『弱い犬ほどよく吠える』って?」

 

「あらぁ!私が弱い犬と言いたいのねぇ?私最近あまり犬が好きじゃないのよねぇ!」

 

 

さらにスピードと重みが増す。その分、先ほどのような軽いステップではなくなり、車の屋根が軋み始めた。相当不可がかかっているようだ。そしてすぐに凹む。

 

 

「頼むから高速道路で車を木っ端微塵にしないでくれよ!」

 

 

伊丹は冷や汗をかきながらハンドルを握る。

 

 

止まりなさい、(スタァァアアプ!)そこのナンバープレートが無く、屋根で格闘している車止まりなさい!』

 

 

そして状況はさらに悪くなる。

白バイのおまわりさん(日本の衛兵)である。

 

 

「うわー、俺の人生終わったー。盗難車、ナンバープレート無し、銃刀法違反、道路交通法違反、その他もろもろ。終わったー!」

 

 

伊丹はもう涙目である。

 

 

「いや、待てよ。この場合は正当防衛や緊急避難が適用されるじゃないか?それでもダメなら駒門さんにお願いすれば……」

 

 

伊丹は自分を救うためにあの手この手思案する。やはり人間自分のことになると本気になる。

 

 

「あんたらも、うるさいにゃ」

 

 

そして少女は戦いの隙を見て手の平を白バイに向ける。そしてその手から炎の玉が勢いよく発射される。

 

 

「「「はぁ!?」」」

「なんじゃあありゃあ!」

 

 

そしてその火球は白バイ付近の地面にあたると小規模の爆発を起こし、白バイの警察官は吹き飛ばされる。

 

 

「あがぁ!!膝がぁぁあ!」

 

 

遠くなる一瞬、伊丹はミラー越しに一瞬だけ見えた。膝に紫色に光る矢を。

 

 

「みー、惜しい惜しいですよ」

 

 

いつの間にか今度は紫色に光る弓を構えていた。

 

 

「あなたぁ、一体なにものぉ?」

 

「答える義務はないですよー」

 

「ほんとぉにこの世界の人?」

 

「だから答える義務はないですよ」

 

 

そしてまた乱舞(殺し合い)が始まる。

 

 

「なんだあいつ……火炎瓶でもなげたのか?」

 

 

富田が恐る恐る口を開く。

 

 

「カエンビン?あれは魔法だと思う」

 

「え、レレイ……魔法だって?」

 

「ほぼ間違いない。魔力の流れを感じた」

 

「嘘だろ、今ならともかく……あいつが確認されたのは門が開く5年前だぞ!」

 

「きゃあ!?」

 

「うお!?」

 

 

伊丹が次の言葉を発する前にロゥリィがボンネットの上に尻もちをつく。その視界が悪いが、何とか運転はできる。

 

 

「あらー?もう終わりですかにゃ?」

 

「嘘ぉ……私の体力が切れるなんてぇ……」

 

 

今まで漆黒龍との戦闘、イタリカ防衛戦などで一切疲れなど見せなかったロゥリィが、肩で息をしている。汗もぐっしょりしている。

 

 

「楽しかったですよ。くたばりやがれなのです」

 

 

そして斧を大きく振りかぶる。しかし振り下ろす直前に、酔いの覚めた栗林が後ろから思い切り顔面に正拳突きをお見舞いする。いつ屋根に登ったのとか聞いてはいけない。

 

 

「み゛ゃ゛あ゛!?」

 

 

一部の者は、顔から聞こえてはいけない音と、某青ダヌキの国民的漫画のように顔に拳が入ってはいけないところまで入ったのを見たり聞いたりしたという。

 

猫と呼ばれる少女はそのまま高速道路を転がって見えなくなった。

 

 

「ロゥリィさん、大丈夫?」

 

「栗林、貴女なかなかやるわねぇ」

 

 

パーキングエリアにつくと、栗林とロゥリィは屋根から降りる。幸い、深夜なのであまり人目にはつかなかった。

 

 

「栗林、あいつ()は仕留めたか?」

 

「……正直、倒しましたけど仕留めた自信はないですね。何というか、何か普通ではない感じでした」

 

「どうするか、すぐに門へ帰ったほうが安全かもしれないけど、このまま行くと待ち伏せされるかもしれないし。

でも待てばまたあいつが追いかけて来そうで怖いんだよね……」

 

 

伊丹は頭を抱える。

 

 

『門で待ち伏せ?誰が?』

 

「うおっ!?お前まだ携帯切ってなかったのか!電話代大変だろうが!」

 

『切らなかったお前にも非がある。で、待ち伏せって誰が?』

 

「誰って、旅館襲ってきた奴らだよ」

 

『ん?ああ、あいつらね。もう全員排除したぞ。門の付近にいた奴らも』

 

「え、ええ〜?もっと早く言ってくれよ」

 

『すまんね。恐らく帰る頃だと思ったから。片付けておいたわ。駒門さんにも感謝しろよ』

 

「そうだな、じゃあ俺らはもう行くわ。お前も来るんだろ?」

 

『こちらの仕事が終わったらね。じゃ、死なねーよにな』

 

 

こちらから返す前に切られてしまった。

 

 

「ふいー、もう終わったかな?」

 

「あらぁ、わんちゃん。怖気ついて隠れてたのかしらぁ?」

 

 

ロゥリィは意地悪そうに言う。

 

 

「別に怖気付いた訳じゃねーぜ!少し怖かったのは認めるが……」

 

「ふん。大口叩くなら行動力で示してほしいわぁ」

 

「へいへい、次から頑張りますよ」

 

 

そしてバルバスは自分たちが通ってきた方向を見る。

 

 

(あいつじゃなけりゃな。あの時俺が出ていたら殺されてたな、きっと)

 

 

***

 

 

「いてて、応急処置だけじゃきついね」

 

「ソウヤ、よくそんな傷で来たな……」

 

 

と覆面をした白人らしき男が話しかける。

 

 

「こんなん入隊訓練に比べりゃ擦り傷よ」

 

「……そうかい。早めに病院行けよ」

 

「ところでカール、どうやって『ネズミ(工作員)』たちを捕らえた?あいつら後ろ盾チラつかせてきただろ?」

 

「なに、簡単なことさ。向こうが後ろ盾をちらつかせるならこちらも後ろ盾をちらつかせる。そして法律も出す。俺たちは単に治安維持活動をしただけ。やつらは日本の法律において違法に武器を所持していただけ。それだけさ」

 

「流石だな」

 

「まあ、こちらの指令は言ってたぞ。クサカ3佐に約束よろしくってな」

 

「はいはい」

 

「では、俺はここで。またな」

 

 

そう言って彼らは頭を黒袋を被せて後ろで手を縛った状態の者たちを連れてゆく。

 

 

『隊長、こちら副長』

 

「はいこちら隊長」

 

 

加藤は携帯を取り出して応答する。

 

 

『指示通り、旅館の武器弾薬及び遺体の回収終了しました。市ヶ谷における護衛についていた者たちの搬入も終わりました』

 

「鹵獲品は後で報告書で提出しろ。市ヶ谷の方は?」

 

『サーバー室が壊されましたが、予備を起動して復旧しました。あと、今回の諸々の件の責任をとるため、総理は辞任するそいです』

 

「そうか、こんだけ派手にやられたらマスコミもうるさいだろうね。あともう一つ。猫追跡隊はどうなった。まあ俺が襲撃された時点で予想はついてるけど」

 

『はい、全滅しました』

 

「やっぱし。報告書よろしくな」

 

『了解』

 

 

電話を切ると、一息ついて加藤はタバコを吹かし始める。

 

 

「しばらくこちらで仕事だな。それにしても、タバコの味が変わらないことはいいことだ」

 

 

そしてブラインドの隙間から伊丹たちが門に近づくのを見守るのであった。

 

 

***

 

 

門に入る前に梨紗と車を残し、残りの者は入門チェクに入る。

 

空港のように身体検査やら持ち物検査やら徹底的に行われる。

 

買ってきたお土産などを見てその量の多さから係員は嫌な顔するほどだ。

 

 

「これは何だ?」

 

 

それはピニャとボーゼスが隠し持っていた鹵獲品の拳銃。彼女らの顔がどんどん青ざめていく。

 

 

(なんということだ……まさかジエアタイがここまで規律ただしかったとは……妾は終わりだ……)

 

 

ピニャはそんなことを思っていると、思わぬ助け舟が来たな。

 

 

「あ、これは護身用に鹵獲していた物を預けていたんです。ほら、私たちも持ってます」

 

 

と栗林は鹵獲品の拳銃や短機関銃と弾薬を提出する。

 

係員たちは顔を見合わせて「嘘ー、やべー」みたいな顔をしていた。

 

 

「……俺たちは見なかったし、聞かなかったことにする。それらはお前たちが責任もって管理しろ」

 

 

というとソッポを向く。

 

というわけで、諸々の手続きを終えた彼らは無事(?)特地に帰ることができた。

 

 

 

 

そして彼らが入ると同時に、アルヌス駐屯地からかなり離れた山頂で瞑想していた()はこう呟いた。

 

 

「……何かとてつもなく強大なものが入ってきたようだな」




豆知識
DEVGRU : 海軍特殊戦開発グループの略称。別名チーム6。対テロ特殊部隊。某有名テロリストを射殺したのもこの部隊と言われている。精鋭中の精鋭のネイビーシールズからさらに選抜されているという訳のわからんぐらいやばい部隊。


そろそろ勘のいい人は今回でいろいろなことに気づいたと思います。

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