オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし 作:ArAnEl
「みー、ミンチミンチで許すですよ」
「ただいまー、お帰りー」
暗いマンションのドアを開けて入室する。こんなとき、やっぱり奥さんいたら違うんだろうなと思う。もちろん、「あなた、ご飯、お風呂?それともワ・タ・シ?」なんて架空であることなんて知っている。それでも、こんな茶番は悲しくなってくるのだ。なんなの?俺ぼっちみたいじゃないか。
「みーちゃん、きーちゃん、元気にしてたかい?」
と隅の猫の人形に話しかける。別にぼっちなんかじゃないし。ちゃんと友達は別にいるし。と自分を正当化する。別に誰も聞いていなくても。
「はー、また休日が終わってしまう。伊丹は今頃どうしてるかな。エロ同人みたいなことしてるのかな?んなわけねぇか。あんなのも架空よ、架空。そーいうのはエロゲだけだよ。ん?」
携帯の着信画面を見るとあまり見たくない文字が見えた。
【緊急】草加3佐
「しょーがないなー、もう」
そして部屋の電気をつける。
しかし、点いたのはライトではなく、狭い部屋中を埋め尽くすコンピュータが一斉起動し、モニターを9つ繋げた巨大スクリーンも起動する。
「では始めますか」
***
「……こちらキャスター。異常はどうだ?」
『こちらセイバー、マスターとの通信が不可になった』
『同じくアサシン』
『同じくライダー』
『同じくアーチャー』
『同じくバーサーカー』
しばらくの沈黙。
「おい、ランサーから応答ないぞ」
『ランサーが死んだっ!?』
『この人でなし!』
『勝手に殺すな!近くに敵がいたから沈黙していただけだ!マスターとの通信は不可!』
「了解」
こんな意味深な会話をしながらも、特殊作戦群の隊員は任務を続行していた。
とは言うものの、現在
無論、自分たちはこのような事態に備えて、ハイテク装備の支援なしの作戦のための訓練も行ってきた。作戦の続行は可能ではあるが、先ほどのような成果を維持できる保証はない。ここでの決断が、指揮官として、自衛官として、大きなものであるとプレッシャーがかかる。
「全サーヴァントに告ぐ。聖杯が溢れた」
このコードは、知る人ぞ知る某原作はエロの昔から人気の作品が元ネタであるが、「聖杯は満たされた」で作戦開始、「聖杯は砕かれた」で作戦終了または中断、そして今回の「溢れた」で異常発生を示す。
この命令により各人は改めて指定されていた撤退ゾーンに集う。
「集まったな。皆に問う、作戦は続行すべきか?」
「「「……」」」
無理もない。特殊部隊とはいえ、実戦なのだ。先ほどとちがい、情報の優位性は相手とほぼ変わらない。つまりこの7名だけで対処しなければならない。
対して敵は工作員、下手すれば特殊部隊。そして現勢力も不明。
「……撤退と命令はまだだされていません。それに、警護対象を危険にさらすことはできません」
セイバーこと剣崎3尉が答える。
「そうだな、我々はまだ戦える。しかし、無理はするな。必ず生き伸びろ。それが命令だ」
「「「了解!」」」
「よし、それでは配置に……」
「キャスター!ドローンです!」
一同は全員伏せる。ドローンはゆっくりと近づく。
ばれたか、と出雲は舌打ちする。しかし、もしかしたら気づいてないかもしれないと心の奥で願う。
このような希望的観測「かもしれない」は非常に危険だが、今走って逃げれば確実に見つかる。よって、少しでも生存確率の高い方を選んだのだろう。
「……」
全員が息を潜める。顔を伏せる、或いは横に倒して伏せてるので上の状況は分からない、しかし音から近づいているのが分かる。
『ヘンタイ』
「……へ?」
ドローンから声がするなんて誰もが予想しなかった。理解した隊員は口元が口元緩んでしまったが。
「……あ、シンシ……」
出雲は思い出したように言う。
***
「ホントにぃ、子どもかなぁ?」
ロリBBAもとい、
事の発端は周囲での見えない戦いが彼女の身体に火を点けたらしい。特地では
絵的には完全にアウトだが、実年齢的に問題ないので、多分大丈夫だろう。
そもそも、伊丹を
しかしそこで空気を読まずに鳴る携帯。
残念ながら運の悪いこと(?)にそれによってロゥリィは白けてしまった。
「なにぃ?この空気の読めない物はぁ?」
「これは携帯電話と言って離れた相手と連絡する道具でして……」
「時と場所を選ばなあなんてぇ、無粋な道具ぅ」
「ハハハ……ん?太郎閣下から?」
***
「ファック!こんなにジャップのアーミーが強いなんて聞いてないぞ!奴ら拳銃だけじゃないのかよ?警告射撃するから大丈夫って言った野郎は誰だ!?」
「黙れよ、まだ作戦中だ」
「ちっ、上の方でも交渉は失敗したらしい。だが、増援が来るらしい」
「やっとか。でもどっちみち変わらないぜ。
「その装甲車に許可が下りた」
「話の分かる大統領じゃねーか。増援までは待機だな」
そう言って工作員たちは見つからないようあちこちに待機する。
赤い光点がそれぞれの頭部に照準されているのを知らずに。
***
『熱源探知、暗視装置及ビ音源探知装置ニヨル結果、該当地域ニオケル全敵性目標ノ排除、及ビ護衛目標ノ安全ノ確認ガデキマシタ。以上ニテ作戦ノ支援ヲ終了シマス。コレヨリ、退却支援シマス』
「すごいな。マークスマンみたいに全敵を補足しやがった」
「おかげでこちらは射撃訓練になっちまったけどな」
と特殊作戦群たちが言う。そして緊張も一気にほぐれる。
「一つ聞きたい、君は我々と同じ組織か?」
出雲はドローンに尋ねる。
『情報保全ノタメ、ソノ問イニハ答ラレマセン。シカシ、我々ハ貴方方ノ味方デス』
「そうか。仕方がないな、だが次会うときはせめて直接会いたいな」
『モシ機会ガアレバ』
そしてドローンは隊員を誘導していき、森の奥へと消えていく。
(シット……ドローンだったのか……これならハッカーも連れてきたら……)
そして静寂を戻した森の中、消えかけていた命が沈黙した。
***
「ま、こんなもんか」
加藤は9に分割されているモニターを見ながら9つの某有名据え置きテレビゲームのコントローラーやキーボード、ジョイスティックを操作していた。しかもモニターはタッチパネル。
「ほんとは攻殻みたいに機関銃やミサイルでも撃てたらいいけどな。作戦支援が精一杯かねえ」
そして全ドローンを自動制御に切り替え、電話を取る。
「草加さん、試験型タチコマけっこううまくいきましたよ。え?名前はどうにかならないか?いやだなー、
そして電話を切り、間髪入れずまたかける。
「カール大尉、俺だ」
『オー、
「さすが
『ああ、いたね。だが、工作員の一部にはガチの国際指名手配犯やテロリストが雇われていたね。これでしばらくは黙らせるだろう』
「その手柄は全部そっちにやる。またよろしくな」
『OK。世界ハッカー大会の件も考えておいてくれよ』
「オーケー、仕事なけりゃね」
そして電話を切ると大きな背伸びをする。
「残業終わり。国家公務員なので残業代出ないのはつらいね。寝るか」
そしてコンピュータの電源を落とそうとしたが、その手が止まる。通話アプリから呼び出しがあったからだ。
「はい、加藤……」
『隊長……』
「どうした副長。呼吸がおかしいぞ?」
『猫を……逃しました』
「……マジか?」
『ええ……ただ、我々の知る『猫』ではありません……データは取れたので……写真を送ります……』
「おい、お前負傷してるな?今からそちらへ行く。安全を確保しろ」
『隊長……その必要はありません……早くやつを……やつは移動中です……』
「おい、どういうことだ!移動中ってどっちにだ!応答せ……」
加藤は送られたきた写真に絶句する。
彼の知ってる5年前の『猫』とは全く異なる容姿であった。
しかしそれは同一人物と確信する。
「俺はお前のその雰囲気、狂気的に満ちた目を知ってる。例えば5年前から顔、身長、人種、体格、年齢、性別を変えようとな……」
40秒で支度を終え、出る直前に最終確認を行おうと部屋を見る。
しかし彼は日本では普通絶対見ない物を窓の外に目撃してしまう。
煙をと火花撒き散らしながらこちらへ向かって来る飛翔物。よく映画などで見られるアレである。しかしながら、彼は映画だけではなく、実物を見たことがある。なので高速度のこの飛翔物が何なのか分かってしまった。
まだ夜は長い。
豆知識
アメリカ国防省が定義している戦場とは、
第1〜3 陸海空
第4 宇宙空間
第5 サイバー空間
らしいです。