オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし 作:ArAnEl
バルバス「おいふざんけんな」
「おはようございます、大臣」
「おはようさん」
嘉納太郎は部屋に入るとコートを脱ぎ、それを側の女性自衛官が預かる。
ここは某所にある作戦室。よく映画であるアメリカ軍が作戦室ででっかいモニターに地図、自軍、敵軍の情報が常に見えている感じを想像して貰えばよい。早い話、ゲーム好きなら『大戦略』、『ハーツオブアイアン』を想像して貰えばよい。それのもっと凄いバージョンと。
「指揮運用担当の竜崎2等陸佐です。よろしくお願い致します」
嘉納が作戦室の中心の椅子に腰をかけると制服姿の自衛官が名乗る。
「俺、正直言って戦争ってこんなんだと思わなかったぜ」
嘉納はモニターを見て感想を述べる。
「そうですね、第二次世界大戦映画のように大規模勢力がぶつかり合うという印象を抱いていることでしょう。ですが、現代戦は大きく分けて2種類あります。一つは警察活動とゲリラ戦が混ざったようなもの。そして2つ目は湾岸戦争のように準備を周到に行い、敵の弱点や要点のみを一気に粉砕して持続能力を無くす、というものです。昔のような戦争は映画か途上国のものです」
他にも前者はアメリカにおける中東の戦闘のように、ゲリラやテロなどの非正規戦に対するものであるなど、説明していく。
「その意味では、我々がこれから行おうとしている作戦は前者に当たります」
そして竜崎の指示により、モニターの縮尺がどんどん大きくなり、山に囲まれた温泉宿の1つが見える地図になる。
「温泉宿の山海楼閣です。本日来賓たちの宿泊地であり、作戦地域にもなります。ルールは至極簡単、予想しうる敵対勢力の襲撃から、こちらに泊まっている来賓を守り抜くことです。隊員は既に配置についています」
「おおっ、攻殻みたいだぜ」
流石は閣下、言うことが違う。
「ご来賓の方々は今何をしている?何、露天風呂で入浴中!?おい、誰か露天風呂の画像を送れる位置にいる者はいないのか?ちっ、いないのか」
竜崎は自衛官が公では絶対言えないことを発言し、周囲は苦笑する。一応緊張が弛緩してリラックスできたので良いとしよう。場合によってはセクハラだが、というか女性自衛官もいるのだからセクハラである。
「さて、配置中の隊員は我が国の精鋭『特戦』です」
「おう、伊丹の奴もその一員だそうだな」
「どのような経緯でお知り合いになったかは存じませんが、まぁ、その通りです」
そして竜崎は特戦は何も全員がスーパーマンやら忍者やらランボーやシュワちゃんのような人間ではなく、戦闘意外のことで特殊な技能を有している者もいると説明する。
「伊丹の奴がそうだと?」
「ええ、あれは逃げ足というか、危険察知能力が異様に高く、特戦の連中が追っかけまわしてもなかなか捕まりません」
「……俺が見た資料はちょっと違う内容だったけどなぁ」
「大臣、恐らくそれは非合法な方法で手に入ったものでしょう。破棄されると同時に入手経路を後で教えてください。防衛機密の漏洩ルート解明に使わせていただきます」
「どういうことだ?」
「特戦について、ハッキングや人を介した非合法な方法で入手すると、偽装された情報が出るようになっているのです。例えば格闘の達人、射撃の達人、爆発物の専門、などなど」
「ああ、そうだったな。そんな内容だった。でもなんで?」
「これは防衛機密ですが、大臣にはお教えする必要がありましょう。それは冗談です」
「冗談?」
「ええ、冗談です。あとまあ、怠け者の彼に対する一種の嫌味ですね。普通の隊員なら逆に控えめの設定などにしますが。まあ建前としては相手を騙すためですが」
「おいおい、嫌味かよ?」
「はい、嫌味です。特戦ならば自主的に自己、他者の技能を向上するよう努力しますが、アレだけらそんなこと一切しませんでしたし、怠けることが彼の仕事だと勘違いして、挙句の果てには群内部で漫画やアニメの布教に力をいれている有様です」
「うーん、それは特戦はそんな奴も捕まえられない程度なのか、それとも伊丹がすごいのか……」
そこにいる者は深々とため息を吐くのであった。
***
「ふん♪ふ、ふん、ふーん♫」
1人の少女らしき者が市ヶ谷の防衛省の前をあるいていた。
「こら、今何時だと思っているんだ。早く帰りなさい」
「ふみゃ?」
そこの門番をしていた警備員が注意した。
「みー、ぼくの携帯電池切れてしまったのですよ。そして財布も落としてしまったのです。おじ様、電話貸してくれませんか?」
とそのボクっ娘が言う。暗くてよく見えないが恐らく常識的に考えて女子校生だと思う。え、漢字が違う?気にしなさんな。そこは皆様にお任せするのですよ。
「うーん、ちょっと待ってくれよ。おじさんの携帯あっちにあるから」
「ありがとうなのです」
と警備員が相棒の方に事情を説明して携帯を持っていく。
「お待たせ。あれ?」
もうその少女の姿はなかった。まるで幽霊のように消えてしまった。
「ま、ま、ままま……まさか幽霊?」
警備員は何も見なかったことにしようと持ち場に戻った。
「みー、楽勝なのですよ」
***
「なんだこりゃ」
伊丹と富田は目の前の
「やい、男ども、ちょっと顔出せや」
そしてなぜかロゥリィと栗林に文字通り引きずられる男性陣。もちろんこの後はエロ同人みたいに……んなことは起きるわけなかった。だってこのメンバーだもんな、と伊丹は思うのであった。
「あの、見えてるんですが……」
と富田は生真面目にボーゼスに注意したのが運の尽き。
「ムッツリスケベ」
「ほんとは見たい癖にぃ」
「後で連れ込んでムフフするつもりだろ」
と集中砲火を喰らい、見事撃沈。現在部屋の隅で沈黙。なので伊丹は何も言わないようにした。
「やいっ、伊丹っ!お間には言いたいことがあるぞぉ。お前には話しがある、じゃなくてお願いがありまふ」
これはまた難敵が現れた。栗林があぐらをかいて正面に座る。
「紹介してください!」
「何を……」
「私をですぅ」
「誰に?」
「特殊作戦群の人にです」
「なんでまた……この前誰か紹介したでしょ……」
「それは文字通り紹介した、だけじゃないですか!」
「そうだけど……」
「それに彼は彼、こっちはこっちで別です。いい人がいれば結婚を申し込みます!」
何?決闘?そりゃまずい。死人がでるな。
「何勘違いしてるんですか!?結婚ですよ、結婚!」
「え、マジ?いきなり?」
「いいじゃないですか。この未婚、少子化の多いご時世、しかも出会いの少ない自衛隊ときた。考えてもみて下さい。危険な任務に出ずっぱりの毎日、普通の女にはそんな人の女房って務まりませんよ。その点、私なら完璧ですっ!小さな身体に、高性能なエンジン搭載。清く、明るく、元気よく!格闘徽章もちで夫婦喧嘩も手加減なしです」
伊丹は最後の方に聞いちゃいけないことを聞いたようなきがする。そしてまだ続く。
「しかも、今や実戦証明済!そしてこの胸!報道されない、誰もが顧みない作戦で疲れた心と体を、私ならこの胸で癒してあげられます!」
と胸についた大きなミサイル並の決戦兵器を見せる。もちろん
「胸ったて、お前さんのそれ、
「違います!筋肉40パーセント、脂肪分60パーセントの複合装甲です。
「わ、わかったから、なんとかするから……」
まあ、一応見た目はすごくいいから大丈夫だろう、最初のうちは。友よすまん。こんなやつでもまだ貰ってくれるなら恋愛戦争を勝ち抜いてくれ。候補者全員特殊部隊だけど。
「やったぁ!」
栗林は機嫌よくして万歳する。しかし運悪くその殺人級万歳が被弾し、伊丹は夢の世界へと旅立つのであった。
***
そのころ、すぐ近くで静かな戦闘が起きていた。
「アーチャー、10時から11時の方向に熱源」
『こちらアーチャー、了解。排除する』
そして照星と照門に捉えられた敵は指の動き一つで倒れる。
今回の運用方法は『マスター・サーヴァントシステム』と呼ばれ、某元成人向けゲームから名前をとったものらしい。命名者?はて、誰だろう。
原理は意外と簡単。衛生、偵察飛行船、監視カメラなどあらゆる情報網を駆使した本部から得た情報を基に、オペレーターが前線隊員に指示する方法である。しかもマンツーマンの付きっ切りで。
「ランサー。ポイント3へ移行」
『こちらランサー、了解』
「キャスター、ライダーが移動中のため撃たないように」
『こちらキャスター、了解』
これが正しい運用かどうかは知らないが、今の所特戦が圧倒的有利であった。敵の数は多いが、そこまで問題とならなかった。
この様子をモニター越しにこの様子を見ていた嘉納は相手の思惑について考察していた。
「連中は何考えてんだ?こっちには備えがあることは、もう分かっただろうに」
いくら不意打ちとは言え、相手もそこそこの工作員か特殊部隊と思っていだが、それにしては損害が多すぎる。もしかして素人投入したの?と疑うぐらいである。なんせこちらは特殊部隊とは言え、
「考えられるのは、こちらがこれほど高度な装備で、周到な準備がされていたとは予想できなかったか。あるいはこちらの能力を探っているか、かもしれません。まあ、後者の場合ですと損害を出しすぎの気もしますが」
と竜崎が意見する。
現在、大まかに敵はA班、B班、C班と別れていた。そしてA、Bは既に退却し始め、Cは動かない。これがまた興味深い。それぞれが全く別のものかのように動いている。連携なんて取れてない以前の問題である。それが
「悪いけどよ、連中がどこの所属かしらべてくれないか?嫌な予感するぜ」
どうもこういう場合フラグを立てるのはお決まりのようである。伊丹がこの場にいたら突っ込んでくれただろう。きっと。
「まだ状況は続行中です。それに、装備などは偽装しておそらく無理なのでは……」
「そこを何とか……人種とかは偽装できないだろ?」
この場合、夜間で確認を行うということは光を使うことになる。そうすれば敵に位置をバラしてしまうし、せっかくから闇に慣れた目がまた慣れるまで時間がかかってしまう。
しかし、運よく現場の隊員も気になる点があるようで、嘉納の要望と重なって特例として許可が降りる。
「セイバー。ライトの使用を許可する。ただし、短時間だ。使用後はすぐに移動せよ」
『こちらセイバー。遺体を確認した。黒人と白人だ。繰り返す、黒人と白人だ』
白人なら分かる。ロシアの工作員の可能性があるからだ。東洋人なら中国や半島が考えられる。もしかしたら国内の反日団体かもしれない。しかし黒人となれば、現在利害関係を有しているのはあの国しかない。
***
「だ、大統領……この資料をどうやって」
『モトイ、それはほんの友人からの贈り物だよ。我々の友情の証としてな』
それは現在の本位内閣の汚職、不正などのスキャンダルましましの資料であった。
『我が国の調査機関がそちらのメディアに持ち込まれる寸前に押さえることができたのは幸運だ』
「ありがとうございます。大統領」
『そこでだ、モトイに頼みがある。聞いたところによると、そちらには特地からの高貴な方が来賓として来日しているようではないか。是非我が国にもお姫様をご招待したいのだよ』
本位はそれは難しいと言っても向こう押してくるし、それは非常識では?とソフトに言っても時には押しが必要だ。とこのようにあー言えばこー言う状態になった。もっとも、ダメですとすっぱりと言えるわけもない。相手は米帝国である。
一字一句口から出る度に舌の水分がどんどんなくなっていくのが分かる。このままでは緊張だけではなく、物理的にもうまく話せなくなってしまう。
しかし、本位には一つ切り札があった。
「大統領、この件とは別ののことですが、是非見ていただきたいものが」
『モトイ、なぜ今かね?なんの関係もないではないか』
「いえ、そうではないと思いますが。ぜひ、友人としてこちらからもまず贈り物を
既に、という言葉にディレルは心に引っかかった。
『既に……それはいつだ?』
「確か、そちらの昨晩の夕方頃にはそちらのお偉いさんに渡したとは思いますが」
モトイの声が先ほどの怯えたような緊張した声ではなくなっていた。むしろ嫌味や含みのあるような言い方である。
昨晩の夜……急いでその辺りの時間帯のメールなどを確認する。そして見つけた。CIA副長官からの名義だ。そして開くと同時に心拍数が上がった。
『モトイ、これは……』
「ええ、我々が見つけ出した米国内のテロリスト等の情報です。これがそちらのテロリストにバレる前に見つけられたのは幸運でした」
モトイはテロリストと言っているがそんな貧相なものではない。
なぜなら、この名簿の一人ひとりが、現在日本で任務中のCIA工作員だからだ。
「っ!?」
それだけではない、本名、コードネーム、認識番号、生年月日、出身地、前職、エキスパート、犯罪歴など事細かく記されていた。CIAは作戦任務内容によっては元犯罪者や軍で問題を起こしていた者などを使うのか、犯罪歴が多いものが多い。
これがテロリストか工作員かどうかという問題ではない。
こちらの情報が筒抜けであるということが問題なのだ。
『モトイ……感謝する……』
「いえいえ、友人ですから」
この『忠告感謝する』、には怒りが込められているのがはっきりと分かる。
『招待の件は、また今度話そう』
「ええ、お願いします。では失礼します」
そして電話を先に切ったのは本位の方だった。
「ファッァァッ○!このジャップがぁ!なぜジャップが情報戦やってんだぁぁああ!ジャップは情弱ってのがセオリーだろ!サノバビィィイイ○!」
大統領の声はホワイトハウス中に響いたという。
「なんとか、一難は去ったのかね。感謝するよ、草加くん」
「首相、礼は入りません。仕事ですから。それに、労うのであれば私の部下を」
「これで、何事もなければいいな」
「そうですね。しかし、そんなことはありえないでしょうね」
何事もない、そんなこと誰も期待はしてなかった。願わくば、想定内であることだ。
***
「そうでしたか、そんなことが」
嘉納は本位に連絡をしていたが、既に対処済であることを聞き、胸を撫で下ろす。
『加納さん、今かなり厳しい状況ですが耐えてください。今後の展開が読めないものですからね』
「本位さん、まさかあんたがここまで計算高いとは計算外でしたよ」
『いえいえ、まだまだですよ。では引き続きよろしくお願いしまszz...z...』
「ん!?本位さん、どうしたんですか!?もしもし!?」
奇妙な機械音とともに相方の声がフェードアウトする。
「防衛大臣!モニターの様子が!」
女性オペレーターの1人が叫ぶ。
モニター画面が歪んだり、点滅したり、はたまたブラックアウトを起こしていた。そして一部では『警告』の赤いサインがでる。決して『パターン青、使○です!』なんて叫びたくても叫んではいけない。
「ハッキングか!?」
「ありえません!こちらのネットワークは外部のネットワークに繋げられていません!独立しているはずです!」
「外部からじゃありえねぇ、てことは内部しかないじゃないか!」
「ばかな!?」
「アメリカか!?」
「そんな……アメリカにもこの内容は教えていません!」
「じゃあ誰だ!」
状況は遥か斜めどころか、グラフの直角で下落する勢いで悪くなっている。
「大臣!市ヶ谷から緊急連絡です!」
「繋げろ!」
『防衛大臣、大変です!何者かがサーバ室その物を破壊しました!』
「誰なんだ!?」
『分かりません!姿が見え……ギャァァア!』
「おい、どうした!何があった!?」
そして沈黙から微かに聞こえた。僅かだが確かに聞こえた。
『いぬのおまわりさん』のサビの部分の歌声が。
口調はどっか別世界のロリババァに似てるかもしれませんけど、別人です。これほんと。というかオリキャラです。でもそのロリババァの口調参考にしたのは事実ですけど。見た目は皆さんのご想像にお任せ致します。そこ、○学生とか想像しない。