オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし   作:ArAnEl

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また話が別の方向に……

これからも頑張りますのでどうかお許しを。

あと評価、コメント、お気に入りありがとうございます!


不幸中の幸い

「さて、どう話すべきか……」

 

 

左腕と左下肢の無いその老人は静かにつぶやいた。

 

彼は数アルヌス戦及び、漆黒の龍の襲撃を生き延びた数少ない生存者、エルベ藩王国の王、デュランであった。

 

彼に対面していたのは帝国皇女、ピニャである。

 

 

「デュラン殿、何なりと。話せることは全て話して頂きたい」

 

 

それを聞いて聞いたデュランは軽く溜息を吐くと、ゆっくりと口をうごかした。

 

 

「まずは聖地アルヌス奪還の戦いじゃな。あれは戦いというよりも一方的な殺戮じゃ。

第1遠征隊として派遣されたわしらじゃが、いざ戦闘開始したと思ったら一気に壊滅してしまった。

ヒュー、と音がしたと思ったら辺り一面から爆発が起きたのじゃ。それも所々ではなく。視界一面じゃ。

 

その結果、我々の肉体も精神もその一瞬で打ち砕かれた。

ご覧の通り、わしはこのような身体になってしまった」

 

 

そう言って自分のの失われた身体の一部を見せる。

 

 

「幾万もの尊い犠牲の上、わしは生き延びた。

しかしどうやら気を失っていたらしく、目が覚めた頃には第2遠征隊が後退してきたときじゃ。

わしはあの緑の者どもには到底敵わんと理解したよ」

 

 

デュランは右手でコップを取ると中の水を飲み干した。

 

 

「はぁ……そして第3遠征隊の攻撃準備ができたころじゃよ。やつが現れたのは……」

 

 

デュランは何かに脅えるように一瞬口を噤んでしった。

 

そして無いはずの元々あった腕と下肢の部分を抑える。

 

 

「どうなさいましたか、デュラン殿」

 

 

ピニャは心配そうに聞いた。

 

 

「いや、少し嫌なことを思い出してしまっての、傷が疼いたのじゃ」

 

 

デュランはしばらく傷口をさすったあと、水をまたすすった。

 

 

「漆黒の龍ですか?」

 

 

堪えきれなくなったピニャが最初に言葉を出した。

 

 

「さあ、どうかの。あれは形こそ漆黒の龍だが、わしにはどうもそんなものではないような気がするのだ」

 

「そんなものではない?」

 

「うむ、あれは悪の化身。いや、そもそも例えようの無いものだな。災害と言うべきか、天災と言うべきか……

約15分ほどで15万もの兵がやられたのだ。これを神の業ど呼ばずに何と呼ぶのじゃ」

 

 

ピニャは自分が聞いていることが信じれなかった。というか、理解を超えていた。

 

15分で15万の損害?

 

普通の大規模戦闘でもここまで酷いのはない。

 

過去の災害、疫病でもこのような数は少なくとも記録上はないはず、と頭をよぎった。

 

 

「うむ、到底信じれぬ、といった表情じゃな。そりゃそうじゃ、わしだって自分が見たことを信じれないのじゃから」

 

「詳しく話せますか、デュラン殿」

 

「あんなこと2度と思い出したくもないわい。じゃが、こうして生きてる以上、もしかしたら誰かに話すべき宿命(さだめ)なのかのう」

 

 

よっこらせ、とデュランは姿勢を正す。

 

 

「あれが現れたのはとき、その着地で地響きがしたのじゃ。

普通の龍でもある程度速度を抑えて着地するものじゃが、奴は落ちるように着地したのう、しかも無傷で。

 

それでも我々は迎撃準備は何とか間に合った。ここまではまだよかった。

すると奴は空に向かって何か魔法のようなものを放ったのじゃ」

 

「待ってください、龍が魔法を使ったのですか!?」

 

 

ピニャは何かの間違いだと思い、確認した。

 

 

「魔法か、何かその類かもしれぬし、そうではないかもしれん。ただ、わしが知っているような魔術、魔法、精霊魔法のどれにも合致しなかったのは確かじゃ」

 

 

ピニャはこれを聞いて驚愕した。タダでさえ龍は強いのだ。それが魔法を使うとなるとトンデモナイものができてしまったと思った。

 

 

「するとじゃ、まず晴れていた空がどんどん曇り始め、渦状になったと思ったら何かが空から落ちて来たのじゃ!

 

いや、落ちて来たというより降ってきた、じゃが。小さな岩が雨のように落ちて来たのじゃ。しかもそれが燃えながらものすごい勢いで」

 

「火山が噴火したのでは?」

 

「いや、あの地域には火山の活動区域外じゃ。それに、もし火山ならここ一帯も既に危ういはずじゃ」

 

 

確かに、火山なら帝国中心部からも分かるが、そのような報告はない、とピニャは思った。

 

 

「つまり、奴の魔法で岩が降り出したと?」

 

「そうとしか考えられんじゃろうな」

 

 

デュランはピニャの言葉に静かに答えた。ピニャの表情が強張っていくのに対し、デュランはなぜか健やかな表情であった。

 

 

「まず、その岩は奴が去るまでひたすら降り続けた。おそらくこれで10万は死んだだろう」

 

「じゅ、10万……!?たった一つの魔法で?」

 

「まあ、岩が降り続けたからのう。そして奴は他にも火を吹いたり、凍るような吐息を吐いたり、直接踏みつける、噛み砕く、など普通の龍のような攻撃もした」

 

 

ふむ、ここは特に普通の龍と変わらな……い?

 

 

「ちょっと待ってください、火と凍るような吐息?相反するものをか?」

 

「いちいち質問が多いのう……そうじゃよ、信じれんかもしれんがさっき言った通りじゃ」

 

 

本来龍にも得意不得意がある。炎龍は文字どおり炎は吐くが、氷の息を吐くことはない。

 

ピニャは頭が痛くなってきた。もやはおとぎ話どころか神の領域に達したような気がした。

 

 

「そして恐らくもう一つ奴の魔法じゃと思うのだが……奴がきて動物たちが急に暴れたのじゃ」

 

「……それは恐怖で?」

 

「最初はそう思ったのじゃが、奴がまた魔法のようなものを使って明らかに変わったのじゃ。と獣が全て周りの人間を攻撃し始めたのじゃ。主人にまでも。

馬、象、犬、翼竜、そして家畜までも!そこら辺にいたカラスやネズミも攻撃してきたのじゃよ。恐らくこれで2〜3万の命は下らんじゃろう」

 

「……」

 

 

ピニャの顔はもう強張るを超えて冷や汗脂汗をかいていた。

 

もしこの龍が帝国中心部に現れたら、と思うと卒倒しそうになるのだ。

 

 

「わしの話は、以上じゃ」

 

 

デュランはほっと息をつくと目を閉じた。

 

 

「もうこれ以上老人に辛い思いはさせないでおくれ」

 

 

もうそこにはかつて王の面影はなく、ただの老人がいるだけであった。人はここまで変わってしまうものなのか、とピニャは心の奥で思った。

 

 

「デュラン殿は運がよかったのですね……」

 

 

ピニャは(ねぎら)いのつもりで言ったが、デュランはそれを聞くと可笑しそうに笑った。

 

 

「運が良い?お主にはそう見えるのか。ククク、やはり痛みを知らぬようなお主にはその程度にしか見えんのだな。

わしは逆じゃと思っておる。ククク、2度の地獄を味わい、それでも生き地獄を味わえと神はわしに罰を与えたのじゃ。

もしかしたらまた奴に出くわすかもしれんしのう、ガハハハ!」

 

 

デュランは気が狂ったように笑続けた。

 

 

「姫殿、(ちまた)では帝国はグリフォンの尾を踏んだ、と言われますが、わしはそう思わん。

 

世界は今、龍の舌の上にある、と思っておる。精々足掻くがよい!異国の兵と漆黒の龍に滅ぼされるまでな!」

 

 

ピニャはその言葉を聞くと、すっと立ち上がり一礼した。

 

 

「デュランどの、本日は時間を割いていただき感謝します。また、忠告は肝に銘じておきます。

 

ただ一つ、貴方は間違っている。

 

帝国は負けない」

 

 

ピニャの目はまっすぐとデュランの目を捉えていた。

 

しかしデュランはそれを嘲笑うかのような目で睨み返した。

 

 

「ああ、一つ言い忘れておった。奴は何か言葉のようなものを発しておったぞ」

 

「龍が?話したと!?」

 

「恐らく我々の知る言葉ではない。まあ、参考聞いておくのも良いじゃろう。全てではないが、これだけは耳に刻まれておる。

 

『Zu'u Alduin』

『Zu'u lost daal』

『Daar Lein los dii』

 

以上じゃ」

 

 




その言葉の意味とは……

あ、そこのドヴァキンたち、答え合わせしないように。

ちゃんとあとで答えは出ますから。

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