オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし 作:ArAnEl
伊丹たちはコダ村の避難民と共に移動していたが、予想以上にトラブルが発生し、思ったようにうまくいかない。
避難民の中には疲労で歩けなくなる者、荷車が壊れたりして進めなくなる者、など少しずつ脱落する者も増えた。
荷車が倒れただけならまだいい、伊丹達が手伝って起き上がらせたよいのだから。
問題は荷車が壊れたときだ。避難民にとっての全財産を置いて行けるわけもなく、その場で立ち止まってしまう者も多い。
伊丹は村長と共に説得して必要な物だけ持ってあとは焼いて未練を無くさせる方法しかなかった。
伊丹たちは自分達の手で助けられる範囲のことはしたが、これがまた遅延の原因となった。
かといって彼らを放置して帰隊することはなかなかできない。無力な一般市民を危険に晒すことになるからだ。
逆に、特地の人間はなぜ緑の人が自分たちを助けてくれるのかが不思議に感じた。この世界で見捨てる見捨てられるは当たり前の世界なので、その好意はより彼らを混乱させた。
「全然進みませんね」
「そりゃな。ほぼ歩行スピードで車走らせてるからな」
倉田はつまらさそうにハンドルを握っていた。
ぼんやりと遠くを見ていると、何か人らしきものが見えた。
よく見ると黒い長髪の女の子が路頭に座っていた。
「え……えー!?」
服装は、アウト寸前であった。どれくらいきわどいかというとコミケとかによく出没する痴女同然レイヤーのお姉様ぐらいやばかった。
「ちょ、倉田ストップして!」
「隊長、もしかしてあの女の子お持ち帰りするとか言いませ……イデッ!?」
倉田は頭に強烈なチョップを受けた。
伊丹は慌てて車両を止め、隊員数名で事情調査させることにした。
「ねぇ、あなた達どちらからいらしてぇ、どちらへと行かれるのかしらぁ?
あとよろしければ何か着るもの分けていただけないかしらぁ?」
もちろん特地語なのでわかるわけもない。
しかし目の保養、ではなくて目のやり場に困るので、予備の迷彩シャツとズボンを貸すことにした。
もちろん官品ではないのでご安心を。
「ふふ、ありがとぉ。さすがにこの姿で人前に出るのは恥ずかしいからねぇ。それにしても、変わった柄だこと。でも着心地はいいわぁ」
しかし素晴らしい大変なことに、ズボンを履かずに車両に乗り込もうとする。
一応先ほどのよりはマシなのだが、これは角度によっては裸シャツになってしまう。
黒川はズボンを履かせようとするがおかまいなくあちこちに歩き回るのでぱっと見親が子供にズボンを履かせようとするように見えなくもない。
これが男性がやると危ない光景にしかならないが。
「うん、ここがいいわぁ」
あちこち探して座れそうなところは先客がいたので、彼女が選んだのは先頭車両の助手席であった。
つまり伊丹の膝の上。
「ちょっと待てー!」
「隊長!うらやしいっす!」
伊丹はやばいと瞬時に思った。もちろんこんなことは夢に思ったことある。
(しかし現実では裸シャツの女子を膝に乗せるなどやってはならないことぐらい俺のようなオタクでも知ってるわぁ!
ほら見ろ。黒川の冷たい目と栗林の殺意に満ちた眼差しがやべぇんだよぉ!)
と色々と思考している間に少女と席の奪い合い、押し合いの結果席を半々に座ることで落ち着いた。
「それでもうらやしいっす!」
倉田は何か羨ましそうな目で隣を見ていた。
***
避難民と共にして3日後、それは突然やってきた。
炎龍の活動区域を脱しているはずだが、その炎龍が獲物を求めてさまよっているところ、ちょうど避難民の列に遭遇したわけだ。
「怪獣と闘うのは、自衛隊の伝統だけどよっ!こんなとこでおっぱじまることになるとはねっ!」
桑原曹長が怒鳴りながら64式小銃で牽制射撃しながら怒鳴る。
地上に舞い降りた炎龍が村人に狙いを定めて襲いかかろうとする。
「ライトアーマー、牽制射撃だ!キャリバー叩き込め!」
軽装甲機動車上の50口径M2ブローニングのレバーを引いた。
補足するが、50口径は12.7mmのことである。
普段の自衛隊のようにちまちま正確に撃つわけではなく、もうそれはアクション映画のように撃ちまくった。
というかそれが牽制射撃における機関銃の正しい使い方だが。熱にさえ気をつければこれが正しい。
しかし、いくら12.7mmでも実際は
そんなものが炎龍の固い鱗に効くわけもなかった。弾が虚しく火花を散らして弾かれていく。
本当に生物の鱗なのか疑いたくなるが、龍たがらなんでもありなんだろう。
ダメージは与えられていないが、多少の嫌がらせ程度にはなっている。
そのおかげか、炎龍は狙っていた獲物(避難民)を取り逃がしてしまう。
その嫌がらせにとうとう痺れを切らしたのか、今度は目標を伊丹達に定めた。
そして何やら深呼吸のようなものを始めた。
「やべっ!ブレス来るぞ!」
伊丹は咄嗟の判断で回避行動の指示を出す。
次の瞬間、炎龍は口から火炎放射器のように火を吐き出した。
それは追従するように車列を襲いかかったが、思ったより射程が短かったこと、そして炎の特性上威力が拡散してしまったことにより伊丹達は危機を免れた。
もし炎龍が見越し射撃や、光線のような収束した炎を出した場合、もしくは本物の火炎放射器のように炎ではなく、可燃性の液体を吐き出していたら結果は違ったかもしれない。
炎が上へ行こうとすることから、おそらく空気より軽い可燃性ガスによるものだと予想できる。
それでも、炎龍の近くにいた人たちは熱や酸欠によって倒れてしまった。
「撃て撃て!とにかく怯ませろ!」
64式やブローニング重機関銃じゃ効果がないのは理解してる。しかし今はまだこれでチャンスを伺うしかないと伊丹は判断した。
「Ono! Yuniyu!! Ono!」
後ろから女の子声がすると思ったら振り向くと金糸のような髪をした美少女がいた。
自分たちが保護したエルフの少女だ。彼女は自分の目を指して同じ言葉をを連呼する。
特地の言葉だと思うが、伊丹はそれが何を意味しているのかが分かった気がした。そして見てみると片目に矢が刺さっていた。
「目だ!目を狙え!」
伊丹の指令に皆一斉に目に集中攻撃を加える。
炎龍は残った片目を潰されまいとさらに怯んだ。そして顔を背けて動きが止まった。
「勝本、パンツァーファウストを使え!」
伊丹の指示に、ライトアーマー内に搭乗していた勝本3曹は笹川士長と入れ替わり、
しかし構えたはいいが、ついいつもの訓練通りの癖が出てしまった。
「後方の安全確認」
悲しかな、安全重視する自衛隊の宿命なのだが、これが他国との実戦経験の差なのかもしれない。
とっとと撃て!と思う者もいれば、自衛隊だもんな…と哀れに思う者もいる始末である。
しかしコンピュータ制御されていない本対戦車砲は行進射撃など芸当ができるわけもなく、しかもアクション映画さながらのカードライブ。
さらにガク引き(引き金の引く強さがあり過ぎて照準がずれること)でパンツァーファウストの弾頭は予定コースからそれてしまった。
発射機の後方にカウンターマス(またはバックブラストともいう)を放出すると、弾頭が勢いよく発射された。
空中で安定翼を出し、ロケットのように加速して突き進んでいった。
炎龍は空中へ逃れようと翼を広げていたところだが、その不審な飛翔物を避けようと後ずさりした。
しかしその瞬間炎龍がこけた。
柔道なら出足払い、他の例えなら透明な張りつめた紐に足とられてしまうような感じで、こけた。
その原因は高機動車に乗っていた先ほどの半裸美少女が自分の巨大ハルバードを炎龍に向けて投げつけたのだ。
それが見事膝に受けてしまい、テコの原理でこけたのだろう。
一体炎龍をこかすなどどれだけの重さとスピードがあったのだろうか。
よって、本来外れるはずの弾頭のコース上に炎龍が倒れこむようになった。
そしてそれが頭部に当たるとノイマン効果 (※1) によって発生したメタルジェット (※2) は炎龍の強固な鱗だけではなく、頭蓋骨も遠慮なく貫通していった。
グギャァァアアアアアアッッ‼︎‼︎‼︎⁇
炎龍はこの世ものとは思えない叫びを上げた。
そりゃ脳味噌に溶けた金属がすごい勢いで流されている訳ですから。
「「……」」
しばらくの沈黙。その場にいた皆が息を飲んだ。
しばらく沈黙していた炎龍は糸が切れた操り人形のようにプツリと地面に倒れこんだ。
その地響きが収まると今度は人々の歓声で空気が震えた。
「でかした、勝本!」
「俺外しましたけど!?」
「結果が良ければ良いのだっ!」
桑原曹長が喜んで怒鳴る。
避難民も歓喜を上げ、伊丹達に寄ってきた。
おそらくありがとう、と伝えているのだろう。
これでやっと一段落、と誰もが思っていた。
グォォオオオン……
遠くから、しかし誰の耳にもはっきりと聞こえた。
***
※1 ノイマン効果
わかりやすく説明すると、円錐に詰められた火薬などが爆発するとそのエネルギーが円錐の頂点から圧縮されてすんごいエネルギーで放出すること。
※2 メタルジェット
金属の液体(めっちゃ熱い)がすごい勢いで出ること。
映画「Fury」の最後の辺りでこれを喰らった戦車が中の乗員を殺傷するシーンがある。こんな死に方嫌だ。
初めてパンツァーファウストと聞いたときはナチスドイツの方思ってしまいましたよ。
あとM2ブローニングは第一次世界大戦末期に作られたみたいですね。今も現役であちこちで使われるとかさすが米帝クオリティ。
あとスカイリムプレイ済みの方は次の展開が分かるかも。