火拳が転生しました。   作:しろろ

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3話 新たな力

 

 

 ━━━幼い頃に、両親が亡くなった。

 

 私に残っているのは妹だけ。

 ただ一人の家族。愛しい妹。守るべき存在。

 

 私は誓ったんだ。

 ⋯⋯妹は命に代えても守るって。でも、所詮私は小娘でしかなかった。

 

 身寄りの無い私達には、身を守るための場所は疎か、一日分の食料を用意するのだって容易じゃない。

 私は何とか耐えられるけど、まだ幼い妹には酷すぎる。

 

 何とかしなきゃ⋯⋯と、焦燥に駆られていた。

 

 ━━━そんな時だ。悪魔の連中がやってきたのは。

 

 

『お前には見所がある。もし、俺の下僕として悪魔に転生するなら、お前は勿論、妹の生活も保証してやるぞ?』

 

 

 切羽詰まっていた私は、兎に角何かに縋りたかったのかもしれない。

 だから、その当時は目先の幸せしか見えていなかった⋯⋯。

 

 

 私と妹は猫又という妖怪の中でも更に希少、猫魈という妖怪だ。

 今思えば、だから私を悪魔にスカウトしたんじゃないかって思っている。

 

 そして、私の才能は転生によって開花した。

 

 私自身もその事に喜んだ。

 現状の生活も、以前に比べて段違いに良くなったし、妹とも幸せに暮らせていた。

 

 ずっとずっと⋯⋯続けばよかったのに。

 

 事も有ろうに、私の主人である悪魔は、同じ血の繋がった妹にも目をつけ始めたのだ。

 妹ならば、秘めた力も相当なものだろう⋯⋯と。

 

 確かに、妹の潜在能力は高いと思う。

 悪魔に転生すれば、私のように開花するかもしれない。

 けど、それはあくまで体が成長していればの話。

 

 未成熟な妹では、力を使いこなせずに暴走⋯⋯最悪な場合は死に至るかもしれないのだ。

 

 しかし、主人はそれを承知で力を引き出そうとしている。

 

 私はこの時に漸く悟った。

 この悪魔は、私達を都合の良い道具としか見てないんだって。

 

 

 

 ━━━だから、主人を殺した。

 

 

 

 妹を危機に晒すものは全て敵だ。

 同時に、はぐれ悪魔となった私も⋯⋯。

 

 直ぐに追っ手が来るのは予想していた。

 妹は、私が唯一信用できて、温情のあるとある悪魔の元に置いていくことにした。

 

 ⋯⋯きっと、もう会える事は無い。

 

 恨んで当然だよね⋯⋯こんなお姉ちゃん。

 守ると誓っておいて、私自身が災いを招いたりして。

 

 ごめん⋯⋯ごめんね⋯⋯白音。

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

 もう、丸々一週間はまともに休んでいない。

 

 休む間も無く追っ手が来るせいだ。

 撃退しても撃退しても、逃げても逃げても、何度も追ってくる。

 

 自分で言うのも何だけど、私は結構強い。

 追っ手を相手に遅れをとったりなんて事もなかった。

 

 けど、それが一週間も続けば嫌でも消耗するに決まってる⋯⋯。

 

 魔力も底をつき始めた。体力も限界に近い。

 せめて、少しでも逃げる可能性を高めるために猫の姿に変化してるけど⋯⋯それも維持できなくなってきた。

 

 ふらふら、ふらふらと。

 危ない足取りで冬の山を進んでいく。

 

 

 ドサッ

 

 

 気付けば、私は雪の上で倒れていた。

 変化も既に解かれている。

 

 あぁ⋯⋯⋯寒いなぁ。

 

 寒さのせいか、感覚は既に無くなっていて体はびくともしない。

 朦朧とする意識の中で、私が思うのはただ一つだけ。

 

 白音に⋯⋯会いたいよ⋯⋯。

 

 片時も忘れたことの無い妹の姿を思い出しながら、私は静かに意識を手放した。

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

「くそっ、空飛ぶのは反則だろ!」

 

「ぬかせクソガキ!こちとら俺以外全員やられたんだよ!ノコノコと負けて帰れるか!」

 

 俺は上空で蝙蝠のような翼を広げて飛んでいるヤツに指を指して怒鳴った。

 ヤツの言うとおり、他の3人は俺がのしてやったさ。

 

 だが、思ったよりできる奴らだった。

 能力は使わないで倒すつもりが、逆にフル活用しちまったぜ⋯⋯!

 俺がガキの姿だからってのもあるだろうけどよ!

 

 まあ、そんな事よりも⋯⋯だ。

 

「お前さん、本当に人間か?」

 

「それはこっちの台詞だ!まさか神器(セイクリッド・ギア)所有者とは油断したぜッ!ガキなんぞに悪魔である俺らがやられるなんてなぁ!」

 

「神器?悪魔?」

 

 分からん。

 聞いたことの無い言葉が出てきたな。それに、コイツらが悪魔だって?

 

 俺はてっきり悪魔の実の能力者なんじゃないかって考えてたんだが⋯⋯戦ってる最中にそれは違うと感覚的に思った。

 

 あくまで勘だけどよ。

 

 根本的に、俺達人間とは何か違うんじゃねぇか?よく分からねぇ球体を発射したり、妙な技を使ったり。

 そして何より、翼を生やして飛んでるんだぜ?

 

 ま、ヤツらからしたら俺も十分人間離れしてるだろうけど。

 

「っと」

 

 ヤツが空から例の球体を飛ばし、俺はバックステップで避ける。

 球体はそのまま雪を吹き飛ばしながら地面に着弾し、小さなクレーターを作った。

 

 ⋯⋯威力はそこそこ。

 得体が知れねぇから、まず自然(ロギア)だからって攻撃を易々と受けるのは止めた方がいいだろう。

 

「ちっ、余裕で避けやがる。⋯⋯なら」

 

 ヤツは両手を此方に向ける。

 そして、両の掌には先程とは比べ物にならない程の巨大な球体が⋯⋯!!

 

 ━━━だが。

 

「へっ、面白ぇ!パワー勝負なら受けて立つぜッ!」

 

 いくら火力が生前に届かなくたってなぁ。

 

 俺は腰を落とし、右拳を引く。

 

「押し潰されちまえッ!クソガキがぁぁぁッ!!」

 

 空から迫る無慈悲な圧力の塊。

 もし着弾すれば、小さなクレーターどころの話じゃなさそうだ。

 けどな、俺はもっとスゲェのを見たことあるぜ。

 

 それに比べれば⋯⋯こんなものッ!!

 

 俺は右手を炎と化し、凝縮させ━━━

 それを一気に解放するッ!!

 

 

「“火拳”ッ!!!」

 

 

 迫る球体に、炎の巨拳が衝突する!

 

 これが今撃てる最大の技だ!

 威力はあの頃の半分って所だが⋯⋯それでも俺の代名詞である技なんだ。

 

 負けることはねぇッ!!

 

「うぉらぁぁぁぁぁああッ!!」

 

「ぬぐぅぅぅッ!?ぐっ⋯⋯な、めるなクソガキがぁぁぁぁッ!!」

 

 拮抗していた二つのパワーだったが、ヤツの底力とも、プライドとも言える力が加算される。

 

 そして、拮抗が崩れた。

 

「ま⋯⋯まじかよ⋯⋯ッ!?」

 

 徐々に俺が押されてきてる。

 

 正直⋯⋯マズイぜ。

 今にも押し潰されそうなのを留めるので精一杯だってのによ!土壇場でそりゃないぜ!?

 

 

『ならば、諦めるか?』

 

 

 ━━━ッ!?

 

 どこからともなく聞こえてくる声。

 頭に直接響いてくるような感じだ。

 

『あの悪魔に勝ちたいか?それとも、ここで負けて死ぬか?』

 

 こんな時に幻聴か!?

 でも、この声⋯⋯どこかで聞いたことがあるような?

 一瞬でも気が抜けない状況なのに、こうも話しかけられると集中できねぇ!

 

『もし、勝ちたいなら⋯⋯力を望め。そうすれば、俺が力を貸してやる』

 

 それだけ言い残して、幻聴が聞こえることは無くなった。

 

 ああ?何なんだよ一体!?

 “力を望め”だと?意味が分からねぇ!

 

「ハハハハッ!死ねぇぇぇッ!!」

 

 迫る球体の勢いは止まらない。

 それどころか、ますます力が上がっていっている。

 

 あぁ、もうこうなりゃヤケだ⋯⋯。

 幻聴に頼るなんざ、頭がおかしいと思われても仕方ねぇが。

 

 ━━━望んでやるよ、力ってやつを!

 

 

「俺に⋯⋯力を寄越せぇぇぇぇッ!!!」

 

 

 カッ!!

 

 

 俺が力の限りそう叫ぶと、赤い閃光が左腕を包みこんだ。

 光が止むと、俺は目を疑った。

 

「こ、籠手⋯⋯?」

 

 俺の左腕には、宝玉が埋め込まれた真っ赤な籠手が装着されていたんだ。

 

『Boost!!!』

 

 そして、鳴り響く音声⋯⋯と、同時にみなぎる力。

 まさか、本当に俺に力が⋯⋯!?

 

 未だに理解が追い付かないが、今は先にやるべきことがある。

 コイツを倒さなきゃならねぇッ!!

 

『Boost!!!』

 

 俺の気持ちを代弁するかのように力強く音声が鳴る。

 

「うおぉぉぉぉぉおおおッ!!」

 

『Explosion!!!』

 

 瞬間、自分でも驚くくらいに力が爆発した。

 “火拳”はあの頃と同じ⋯⋯いや、それ以上の業火の巨拳となった!

 

「なっ!?上級悪魔のこの俺が⋯⋯!?」

 

 俺の“火拳”は、直ぐそこまで迫っていた球体を瞬時に飲み込み、そのままヤツごと天へ放たれていった。

 

 

 

 

 ▽▼▽

 

 

 

 

「はぁ⋯ッ、はぁ⋯ッ、⋯⋯ふぅ」

 

 思わず二度目の死を覚悟したぜ⋯⋯。

 あの球体の攻撃も受け流せれば話は別だが、死戦の中で試してる余裕なんてないしな。

 

 俺は自分の左腕に目を見る。

 

「元に戻ってるな」

 

 まさか、あれも幻覚か?

 いやいや、あの力の高まりは今でも覚えてる。実際に起こったことだろうよ。

 

「はぁ、疲れた。一先ず女を連れて家に━━━」

 

 

 ゾクッ。

 

 

 嫌な感覚が背筋を撫でる。

 

 これは⋯⋯殺気!?

 

 俺がその方向に振り向くが、既に遅かった。

 気絶していた筈の3人の内、一人がうつ伏せに倒れながら、例の球体を俺に向けている。

 

 回避は間に合わねぇ。

 反撃も間に合わねぇ。

 

 攻撃を受け流せることを期待するしか⋯⋯!?

 

 

 ヒュッ

 

 

 後方から顔の横を高速で何かが通過した。

 

 球体だった。奴らが使うあの技。

 そして、それはそのまま俺を狙っているヤツに直撃。

 

 って⋯⋯は?

 

「ガハッ⋯⋯!?」

 

 軽くぶっ飛び、今度こそ気絶するのを確認した。

 俺は慌てて振り返って見ると、今の攻撃はあの女のものだった。

 

「だ、だい⋯⋯じょうぶ?ありがとう⋯⋯ね。ぼう、や⋯⋯」

 

 肩で息をして、体が震えながらそう言う。

 しかし、今の一撃が最後の力だったのだろう。女は糸が切れたように地面に倒れこんだ。

 

「おい、おい!大丈夫か!おい!」

 

 体を揺さぶるが、目を開けることはない。

 

 俺が助けるつもりが、逆に助けられちまった⋯⋯!

 くそっ!絶対に死なせたりなんかしねぇからな!

 

 俺は疲れも忘れて女を担ぎ上げ、急いで山を下りていった。

 

 

 




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