最近、よく夢を見るようになった。
赤い龍と会話をする夢。
話の内容は⋯⋯正直あまり覚えてないけどな。
何かが起こる前兆とかか?
あんまりそういうのは気にするタイプじゃねぇが、どうも引っ掛かる。
⋯⋯まあ、所詮は夢だ。深くは考えなくていいだろ。
それよりも、今は飯だ!飯!
「おふく⋯⋯母さん、おかわり!」
「ふふ、朝からよく食べるわね」
空になった茶碗、もとい丼に追加を頼もうとお袋に差し出し、米を盛ってもらう。
危ねぇ。危うくお袋って言うところだったぜ⋯⋯。
あの時、一瞬視線が鋭くなっていた。
俺があのまま“お袋”と言っていれば、確実に拳骨を貰ってたに違いない。
お袋の拳骨は
だったら火の体で受け流せばいいじゃねぇかって思ったこともあるが、それはそれでマズイしな。
意識して体を流動させねぇようにするの、結構きついんだぜ?
「そう言えば、おや⋯⋯父さんっていつ帰ってくるんだ?」
テーブルを挟んで座るお袋は、綺麗に巻かれた卵焼きを口に運びながら、うーんと頭を捻る。
「そうねぇ。あの人ってば気紛れだから、分からないわね。まあ、そのうち帰ってくるわよ」
軽すぎだろ、お袋よ。
俺、まだ一度も会ったことないぜ⋯⋯。
親父も親父で、世界を旅してるらしいけど、妻と息子をほったらかしってのはどうなんだよ。
帰って来た時は一発覚悟してもらおうか。なんて考えていると⋯⋯。
「大丈夫。私はあの人を信じてるもの。何せ、私の夫で、エースのパパなんだから!」
お袋は、とびきりの笑顔でそう言った。
何でそこまで信頼出来るんだ⋯⋯と言うのは無粋だろう。
家族だからだ。だから何よりも信頼している。
そして、俺もその中に入っているんだ。
こんな俺でも、お袋は俺に愛情をくれる。
親としたら当然と言われたらそこまでだが、それでも⋯⋯嬉しかった。
ありがとな、お袋。
まあ、それでも親父の顔面は殴らせてもらうが。
▽▼▽
今日は土曜日で、面倒な学校は休みだ。
お陰で一日中山に籠れるぜ!
朝飯を食い終えたら直ぐに、何時も通りお袋には公園で遊ぶと伝え、俺は山へ向かった。
因みに季節は冬。
春と夏に生い茂っていた木々も、この時期になればとうの前に素っ裸になり、変わりに雪が乗っかっている。
すれ違う人は皆、耳や鼻を真っ赤にさせて寒そうに歩いていた。
お袋からマフラーと手袋を渡されたが、俺は寒さとは無縁でね。必要ないと言えば必要ない。
けど、お袋の手作りだからな⋯⋯。
着けなきゃ失礼ってもんだろう!てな訳で着けることにしている。
「⋯⋯暖かいな」
俺は住宅街を抜けて、山へと入っていった。
普段修行をしている場所は山の中腹辺りで、そこに至るまでの道のりも随分と慣れたもんだ。
俺は軽い足取りでさっさと登っていく。
目的地に到着すると、俺は雪で覆われた地面の一部分を能力で溶かし、水気まで飛ばす。
そして、マフラーと手袋、コートを脱いでそこに置いた。
汚れでもしたら困るからな。
「よし、やるか!」
今日は炎の精密な操作と覇気の特訓だ。
火力が出ないからって、能力を使わないで錆びさせる訳にもいかない。
将来的には、生きてた頃よりも使いこなせるようになりたいと思っているからな。
まあ、この世界ではあんまり意味のない事なのかもしれないけど⋯⋯。
俺は自嘲気味にそう思いながら指先から火を出し、丸や三角形、星形など、形を変えながら色々と作っていく。
一見簡単そうに見えて、実は結構面倒だ。
大きすぎても駄目、かと言って小さすぎるのもアウト。
それに、形作るには明確なイメージが必要になる。曖昧なイメージだと直ぐに形が歪んじまうんだ。
大技も大事だが、こういう細かい操作も慣れといた方がいいだろう。多分。
んで、慣れてきたら次は両手で。
最初は両方同じ形にするけど、それも慣れたら片手ずつ違う形を作るようにする。
後はずっと繰り返しだ。
感覚さえ掴めばそれぞれの指━━━十本の指でも出来るようになったりするぜ。
覇気に関しては、白ひげ海賊団一番隊隊長のマルコと、同じく五番隊隊長のビスタから教わった事をそのままやろうと思う。
相手がいればかなり捗るんだけどなぁ⋯⋯。
まあ、贅沢は言ってられねぇか。
その後も俺は修行に没頭した。
▽▼▽
今日の修行を終えて山を降りている道中。
「ん?」
不意に視界の隅で何かが動くのを、俺は見逃さなかった。あまり大きそうには見えなかったから小動物か何かか⋯⋯?
興味本位でその跡を追う。
足跡は鳥類のものじゃねぇな。
どっちかって言うと犬か猫っぽい。いや、山だと狐とかか?
ま、見てみれば分かる話だ。
海賊の性か、こういうのはついつい探しちまう。
暫く足跡を辿っていくが、残念なことに途中で途切れていた。
俺は肩透かしを食らって溜め息をつく。
━━━━が、思わぬ発見をした。
「っ!お、おい!大丈夫か!?」
一人の女が、木に寄り掛かるように気を失っていたんだ。
長い黒髪で着物を着ている。
かなり美人な方だと思うが、今は顔よりも体のあちこちに出来た傷に目が移る。
パッと見たところ、命に関わるような傷は無い。
だが、冬真っ只中にこんな薄そうな着物姿でいるとは正気じゃねぇな⋯⋯。
「おい!聞こえるか!?」
返答は⋯⋯⋯⋯無い。
念のため脈を取って生きていることを確認するが、体はかなり冷えきっていた。
医学に詳しくない俺でも、このままでは危険だということくらいは分かる!
俺は人一人が入りきるサイズまで雪を一気に溶かし、そこに女を寝かした。
自分で着ているコートも上から掛けてやる。
そして、直ぐに悪魔の実の能力で火を出し、体を暖めた。
にしても、何でこんな所に⋯⋯?
それに、足跡が途絶えたすぐ側でこの女が倒れていたなんて、偶然とは考えにくい。
何にしてもコイツが起きてから聞いてみりゃいいか。
炎の調整をしつつ、そう結論付けていると⋯⋯。
「やっと見つけたぜ⋯⋯って、何でガキがいるんだよ。結界を張ってるんじゃなかったのか?」
━━━ッ!?
突如背後から聞こえた声に、俺は直ぐに振り返った。
そこにはローブ姿の奴らが四人。
この女の知り合いかと聞いてみたい所だが、どうやら聞くまでも無いみたいだな。
コイツらから嫌って程に殺気を感じるぜ⋯⋯!
狙いはあの女っぽいが、どうする?
いや、それも愚問だな。
この状況でやることなんか一つだけだろう。
海賊と海軍、悪者と正義の味方以前に、男としてどうだって話だ。
「どんな事情か知らねぇが、女一人を複数で襲うとは良い趣味してるじゃねぇか」
俺は立ち上がってローブの奴等に向かい合う。
「あ?んだクソガキ?ヒーローごっこなら余所でやりな。じゃないと⋯⋯痛い目を見るぜ?」
『ははははっ!』
俺の姿を見るなり、奴らはゲラゲラと笑う。
大方、相手の実力も計れないような格下だろうよ。
こういう奴らを、俺は前世で何度も見てきた。
んで、その度に思う。
「精々、三流がいいところだな」
不敵に笑んで言ってやると、奴らはあからさまに激昂した。
「なっ!?」
「子供だからって、調子に乗りやがってッ!!」
「記憶を消すだけで済まそうと思ってたが、予定変更だ!」
「泣いて喚いても許さねぇッ!!」
四人同時にローブを脱ぎ捨て、憤怒の表情で俺を睨み付ける。
台詞まで三流とは救いようがねぇな⋯⋯。
まぁ、ガキの姿でどこまで戦えるか気になってたところなんだ!
相手には丁度良いぜ!
自然系能力者は意識すれば物理攻撃を受けることが出来る⋯⋯という、独自設定です。
あくまで自分で勝手に作っただけなので、深くは受け止めなくてオッケーです!
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