不死者の王と害虫の王   作:仮面の人

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第3話

第六階層に階層守護者各員は集まった。

 

「第一、第二、第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」

 

「第五階層守護者、コキュートス。御身ノ前ニ」

 

「第六階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ。御身の前に」

 

「お、同じく、第六階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーラ。お、御身の前に」

 

「第七階層守護者、デミウルゴス。御身の前に」

 

「守護者統括、アルベド。御身の前に」

 

各員は身長も体格も異なるのに跪く場所は一寸狂わず同じ。各員の忠誠の度合いがうかがえる。

 

「第四階層守護者ガルガンチュア及び第八階層守護者ヴィクティムを除き、各階層守護者、御身の前に平伏し奉る。……ご命令を、至高なる御身よ。我らの忠誠全てを御身に捧げます」

 

アルベドの宣言と同時にさらに頭を下げる階層守護者達。モモンガは予想だにしない忠誠の高さに翻弄していた。

 

ファッ!何かの忠誠の高さ!こんなの唯の平社員だった僕には耐えられないぞ!はぁ〜どうしよう、まさかこんな事に成るなんて思いもしなかったよ。はぁ〜ホント、どうやって切り抜けよう。

 

「面を上げよ」

 

ザッという擬音が似合いそうな動きで、全員の頭が上がる。

 

「では……まずはよく集まってくれた、感謝しよう」

 

「感謝なぞお辞めください。我ら、モモンガ様達に忠誠のみならずこの身の全てを捧げた者たち。至極当然のことでございます」

 

アルベドの返答にほかの守護者に口を挟もうという気配はない。ただし、アルベドのある返答に少しだけ疑問を覚えた。モモンガは困惑した、自分がナザリックの支配者としての振る舞いが出来るかどうか。

 

「……モモンガ様はお迷いのご様子。当然でございます。モモンガ様からすれば私達の力など取るに足らないものでしょう」

 

微笑をかき消し、決意に表情を固めた凛々しい顔でアルベドは告げる。

 

「しかしながらモモンガ様よりご下命いただければ、私たちーー階層守護者各員、いかなる難行といえど全身全霊を以て遂行致します。創造主たる至高の四十一人の御方々ーーアインズ・ウール・ゴウンの方々に恥じない働きを誓います」

 

『誓います』

 

モモンガは階層守護者各員の思いを受け取り、ナザリックの支配者としての言葉が口の中から出て来た。

 

「素晴らしいぞ。守護者達よ。お前たちならば私の目的を理解し、失態なくことを運べると今この瞬間、強く確信した」

 

モモンガは守護者全員の顔をもう一度見渡す。

 

「さて多少意味が不明瞭な点があるかも知れないが、心して聞いて欲しい。現在、ナザリック地下大墳墓は原因不明かつ不測の事態に巻き込まれていると思われる」

 

モモンガは守護者達の表情をもう一度確認する。全員真剣な表情で話を聞いている。

 

「何が原因でこの事態が誘発されたかは不明だが、最低でもナザリック地下大墳墓がかつてあった沼地から草原へと転移したことは間違い無い。この異常事態について、何か前兆など思い当たる点がある者はいるか?」

 

アルベドはゆっくりと肩越しに各階層守護者を見据える。全員の顔に浮かんだ返事を受け取り、口を開く。

 

「いえ、申し訳ありませんが私達に思い当たる点は何もございません」

 

「では次に各階層守護者に聞きたい。自らの階層で何か特別な異常事態が発生した者はいるか?」

 

各階層守護者が口を開く。

 

「第七階層に異常はございません」

 

「第六階層もです」

 

「は、はい。お姉ちゃんの言うとうり、です」

 

「第五階層モ同様デス」

 

「第一から第三階層まで異常はありんせんでありんした」

 

「モモンガ様、早急に第四、ハ階層の捜査を開始したいと思います」

 

「ではその件はアルベドに任せるが、第ハ階層は注意をしていけ。もしあそこで非常事態が発生していた場合、お前では対処出来ない場合がある」

 

アルベドは深く頭を下げて了解の意を示す。アルベドに続き、シャルティアが声を発する。

 

「では地表部分は私が」

 

「いやすでにセバスに地表を探索させてあたる最中だ。そしてもう一つ守護者達よ。朗報だ」

 

守護者達は全員モモンガの顔を見つめる。

 

「ナザリックが誇る害虫の王、ローチさんが帰還した」

 

モモンガの発言に守護者達は泣き出す者もいれば感激の声を上げる者もいる。そんな中、守護者達の後ろにローチが転移して来た。

 

「モモンガさん、もしかして遅刻しましたか?私。遅刻でしたら謝罪しますが」

 

申し訳なさそうに後頭部を掻きながらモモンガ達に歩み寄るローチ。

 

「いや、時間五分前だから平気だ。《支配者ロールプレイしてるんで口調は気にしないで下さい》」

 

「了解しました《二つの意味で》」

 

突然の出来事で階層守護者達は固まって仕舞う。一番最初に動け、喋れたのはローチのが帰還した事を知っていたアルベド。

 

「ローチ様、謝罪など要りません。私達は至高の方々に忠誠を誓った身。例えどんなに待たされ様と私達は至高の方々が来るまで待つ所存です」

 

ローチはアルベドの言葉を聞き、アルベドに近寄り肩に両手を置きこう答える。

 

「それでもですアルベド。私にとってナザリックに所属する全ての者は家族なのです。家族を待たせる事など私はしたく無いのです。ですから、私は謝るべきだと思った時は立場など関係無く、謝る事にしているのですよ」

 

ローチの発言にまだ幼いアウラとマーレは声を上げ、互いに抱き合いながら泣く。シャルティアはハンカチで涙を拭く。コキュートスは涙を流すが決して拭く事はせずローチにさらなる忠誠を誓った。デミウルゴスは涙は流さなかったが眼に涙を溜めながら血が出るほど拳を握る。アルベドは泣きながらしかし決して笑顔忘れず「はい、了解しましたローチ様」と返事を返す。ローチはまさか泣き出すとは思っておらずあたふたしながらアウラとマーレを中心に慰める。

 

 

 

 

 

少しばかり時が過ぎ、まだ眼が赤いがセバスからの報告を受ける事にした。

 

「では、報告を開始します。まず周囲1キロですがーー草原です。人工建築物は一切確認出来ませんでした。生息していると予想される小動物を何匹かは見ましたが、人型生物や大型の生物は発見出来ませんでした」

 

「その小動物というのはモンスターか?」

 

「いえ、戦闘力はほぼ皆無と思われる生き物でした」

 

「草原の草は鋭く尖っていて、歩く度に突き刺さる。そんな草でしたか?」

 

「いえ、ごく普通の草でした」

 

「天空城などの姿も無しか?」

 

「はい、ございません。空にも地上にも人工的な明かりのようなものは一切ございます」

 

「そうだったな。星空だったな。……ご苦労だった、セバス」

 

モモンガはセバスを労わりながらローチに伝言(メッセージ)送り相談する。

 

《如何しましょう?余り情報が集まりませんでしたね》

 

《そうですね。取り敢えず警戒しながら落ち着いて情報収支に徹しますか?》

 

《そうですね、情報が無いと何も出来ませんし。そうしますか》

 

「階層守護者達よ、各階層の警戒レベルを1段階上げておけ」

 

「後、侵入者は生きたまま捕まえて下さい。理由としては私達の知らない世界の情報を少しでも得る為です」

 

「うむ、ローチさんの言うとうりだ。出来れば怪我をさせずに捕らえるのが望ましい」

 

「アルベド、ナザリックの運営システムって如何なってます?」

 

「各階層の警護は各守護者の判断に任されておりますが、デミウルゴスを総責任とした情報共有システムは出来上がっております」

 

「それは僥倖。ナザリック防衛戦の責任者であるデミウルゴス。それに守護者統括としてのアルベド。両者の責任の下で、より完璧なものを作り出せ」

 

「ハ階層は危険ですから基本立ち入り禁止。私かモモンガさんが許可出した場合のみ立ち入りを許可します。それから九、十階層の警備をお願いします、私達では手が回りませんので」

 

「よ、よろしのですか?」

 

アルベドが驚愕に彩られた声が上がる。後方ではデミウルゴスもまた、大きく目を見開き、その内心を吐露している。

 

「はい、構いませんよ。シモベだとしても私は信頼していますから。彼等は私達に創り出されていませんがナザリックに所属している以上、家族ですので」

 

シモベとはプレイヤーに創り出されたNPCでは無く、自動的にわき出(POPす)るものたちだ。

 

「か、畏まりました」

 

また守護者達が泣き出す5秒前でローチはあたふたし出す。モモンガはそんなローチを見てこう思う「何この叔父さん感」と。

 

「つ、次だ。アウラとマーレよ、ナザリックの隠蔽は可能か?幻術のみだと心許ないし、その維持費のことまで考えると頭が痛い」

 

アウラとマーレはすすり泣きながら顔を見合わせ、考え込む。暫くして口を開いたのはマーレだった。

 

「ま、魔法という手段では難しいです。地表部分の様々なものまで隠すとなると……。ただ、例えば壁に土をかけてそれに植物を生やした場合とか…………」

 

「栄光あるナザリックの壁を土で汚すと?」

 

アルベドが背中越しに声をかける。口調は甘く柔らかいが、そこに含まれた感情は対極のもの。マーレはびくりと肩を震わせ、ローチの背中に隠れ、チラチラとアルベドを見ている。

 

「あ、アルベド。落ち着いて下さい。マーレはナザリックの為を思って提案した筈です、ですよね?マーレ」

 

マーレは背中に隠れたまま、「は、はい」と答える。ローチはアルベドを見てから満足そうにマーレの頭を撫でる。

 

「ま、マーレよ。壁に土をかけて隠す事は可能か?」

 

「は、はい。お、お許しいただけるのでしたら……ですが……」

 

「だが遠方より観察された場合、大地の盛り上がりが不自然に思われないか?セバス。この周辺に丘のような場所はあったか?」

 

「いえ。残念ですが、平坦な大地が続いているように思われました。ただ、夜とういこともあり、もしかすると見過ごした可能性が無いとは言い切れません」

 

「そうか……。しかし確かに壁を隠すとなると、マーレの手が妙案。であれば周辺の大地にも同じように土を盛り上げ、ダミーを作れば?」

 

「そうであれば、さほど目立たなくなるかと」

 

「でしたら、この件はアウラとマーレを中心に進めましょう。アウラ、マーレ出来ますね?」

 

「「は、はい!!」」

 

「うむ、最後に守護者達。我々に対する印象を一人一人答えてくれ。先ずはシャルティアから」

 

モモンガさんと私は緊張しながら皆の言葉を待った。


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