なので、美波の一人称は『私』になっています
SIDE 美波(幼少期)
「痛いよぅ・・・お姉ちゃん、もうやめてよ・・・」
「うるさい!いつもいつもアンタばっかり!」
私は今、自分と同じ顔をした男の子に暴力を加えている
「アンタなんか・・・海人なんかいなくなっちゃえばいいんだ!!」
いつからだろう・・・?
自分より優秀な弟が妬ましくなったのは・・・
勉強も運動も海人の方が上
周りからも『出来損ないの姉』とか『弟は優秀なのに』とことあるごとに海人と比べられる
お父さんもお母さんも優秀な海人ばかり可愛がって私の事はほったらかし
妹の葉月も海人には懐いているが私には懐いていない
誰も私自身を見てくれない
それが悔しくて・・・私は毎日海人に暴力を振るっていた
こんなことをしても何も変わらない
わかっていても私は苛立ちを抑えることはできなかった
そして海人を殴り疲れた私は部屋に戻って眠りにつく
毎日この繰り返しだ
そんなある日の事
私は・・・学校のテストで初めて海人に勝った
私が100点、海人は98点だった
クラス内でも満点は私だけだった
周囲の人たちは『カンニング』とか『海人と間違えられている』とかヒソヒソと言っていたけどそんなものどうでもいい
今度こそお父さんとお母さんは私を褒めてくれるかもしれない
そんな希望を胸に私は家に走って戻った
しかし・・・その希望は簡単に打ち砕かれた
家に帰った私の目に入ったのは大量の御馳走だった
何事かと思ったが、それよりもお母さんにテストの点数を自慢したかった
「お母さん、あのね・・・」
「あ、美波、お帰りなさい。今日はご馳走よ。海人がね、野球チームのエースに選ばれたのよ。10歳で選ばれるなんて凄いわ。お父さんもケーキを買って帰ってくるって」
・・・また・・・海人・・・?
お父さんもお母さんもなんで海人ばっかり褒めるの?
なんで私を見てくれないの?
もう・・・いいや・・・
私は・・・いらない子なんだ
私は鞄を投げ捨てて家を飛び出した
もう嫌だ!
お父さんも
お母さんも
海人も
友達も先生もみんなみんな大っ嫌い!!
そして・・・私は公園で一人佇んでいる
もうどこにも私の居場所はない
これから・・・どうしよう?
「お姉ちゃん」
海人が向こうから走ってきた
「・・・何よ」
「帰ろうよ。お父さんもお母さんも心配してるよ?」
「嘘よ!私の事なんてどうでもいいって思ってるに決まってる!アンタだって私がいなくなれば殴られることも無いんだし、せいせいするでしょ!?」
「そんなことないよ。お姉ちゃんがいないと寂しいよ。お姉ちゃんが居なくなったらお父さんもお母さんも葉月も悲しむよ」
「うるさいうるさいうるさい!!私の事はもう放っておいてよ!」
私は公園を飛び出した
すると・・・そこに大きな車が走り込んできた
どんどん近づいてくる
避けなきゃいけないのに足が動かない
私・・・死ぬんだ・・・
まぁいいや・・・どうせ生きていても楽しい事なんて何もないし・・
私は諦めて目を閉じた
「お姉ちゃん!!危ない!」
一瞬、何が起こったのかわからなかった
声が聞こえたと思ったら何かに突き飛ばされて、その直後、『ドンっ!』という大きな音がした
そして、気付いた時には・・・海人が血だらけで倒れていた
「なに・・・やってんのよ・・・?」
何で海人が倒れてるの?私を助けたから?
じゃあ・・・なんで私を助けたの?私は誰からも必要とされていないのに・・・
「海人?」
問いかけるが返事はない
嘘でしょ・・・海人・・・死んじゃうの・・・?
「い・・・や・・・・いやあああああああ!!」
私は狂ったように悲鳴をあげた
ずっといなくなってしまえばいいと思っていたはずなのに
今、頭に思い浮かぶのは海人が居なくなってしまうことへの恐怖と今までしてきたことへの後悔、そして・・・海人の笑顔だった
「そうだ救急車!」
車の運転手の人に救急車を呼んでもらおうと思い、顔を上げた・・・が
海人をはねた車はどこにもいなかった
どうやら逃げたらしい
慌てて周りを見渡すが、ここは人通りの少ない公園
もう夕方ということもあって近くには誰もいない
「いやあああああ!!誰か!!弟を・・・海人を助けてぇぇぇ!!」
私は一番近くの家のドアを叩いて救急車を呼んでもらった
数分後、救急車がやってきて海人を乗せ、私もそれに同行した
「お願いします!海人を助けてください!私が全部悪いんです!」
「落ち着いて、大丈夫。きっと助けるからね」
病院について医者にしがみついて泣きじゃくる私を看護師の人が優しくあやして、海人の治療が始まった後も傍にいてくれた
「美波!」
「お・・とうさん・・」
怒ってるかな・・・?
私のせいで海人が怪我しちゃったから・・・
そう思っていると・・・
「よかった・・・無事で本当によかった」
私を優しく抱きしめてくれた
なんで怒らないの?
なんで海人の事を聞かないの?
なんで・・・私の事をこんなに心配してくれるの?
「な・・んで・・・?」
「何がだい?」
「私は・・・いらない子じゃないの?海人みたいに優秀じゃないし・・・」
「そんなわけないだろう?美波も海人も葉月も・・・みんな僕の大事な子供たちだ。優秀かどうかなんてどうでもいいんだ。ただ元気でいてくれればそれでいいんだよ」
「う・・・うわああああああん!!!」
私は・・・お父さんの胸の中で大声をあげて泣いた
お父さんの言葉が嬉しくて・・・
自分が今までしてきたことが情けなくて・・・
そして・・・自分のせいで海人がいなくなってしまうかもしれないことが怖くなって、泣き続けた
そんな私をお父さんは優しく抱きしめてくれた
その後、葉月を抱えたお母さんがやってきてお父さんと同じように私を抱きしめてくれた
私は・・・今までなんて愚かな事をしてきたんだろう?
こんなに愛されているのに勝手に不貞腐れて・・・
何も悪いことをしていない海人を傷つけ続けて・・・
自分の努力不足を棚に上げて八つ当たりして・・・
暴走して、あげく海人に大怪我させて・・・
・・・最低だ・・・
最低の姉だ・・・
「お父さん、お母さん・・・私・・・」
私は今まで自分がしてきたことを全て告白した
怒られる
殴られる
今度こそ・・・いらない子だって言われる
「そう・・・美波は、自分が悪いことをしたって反省しているのね?」
私は・・・静かに頷いた
「じゃあ、海人が目を覚ましたらちゃんとごめんなさいして、仲直りできるわね?」
「でも・・・海人、許してくれないかもしれない・・・」
「そんなことないわよ。海人は優しい子だもの。美波が心から謝ればきっと許してくれるわ」
そう言ってお母さんは私を抱きしめた
その時、手術室からお医者さんが出てきた
「先生!海人は・・・」
「右腕と右足を骨折、他にも打撲や擦り傷などが見られますが、命に別状はありません。数か月の入院とリハビリで元の生活に戻れるでしょう」
「そうですか・・・」
お父さんとお母さんは安心したようにホッと安堵の息を漏らす
そして私たちはすでに病室に運ばれた海人の元に・・・
海人は全身に包帯が巻かれた状態でベットに眠っていた
「ほら美波、あっちで横になってなさい。海人が目を覚ましたら起こしてあげるから」
そう言ってお父さんは近くに設置された長椅子を指差す
葉月はすでにお母さんの膝枕で寝ている
「ううん・・・海人が起きるまで待ってる」
もう時間は深夜0時
いつもならとっくに寝ている時間だ
でも・・・一秒でも早く海人に謝りたい
そう思った私はこの状況で寝る事なんてできなかった
「う・・ん・・・」
「海人!」
そんなことを考えていると海人が目を覚ました
そして私の顔を見て一言
「お・・ねえちゃん・・・大丈夫?怪我はない?」
擦れるような小さな声でそう呟いた
こんな時まで私の心配・・・
なんでこんなに優しいのよ・・・
「バカ・・・怪我してるのはアンタよ・・・」
私は涙を流しながら海人の手を握り締め、そう言った
虐待を繰り返していた美波は自身の行動を反省しました
・・・が、まだ悲劇は終わってはいなかった・・・
絶望編に続く
次回も頑張ります