バカとテストとウチの弟   作:グラン

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海人、英雄、智也以外の野球部員が大活躍


第百九十八問 文月野球部員の活躍

英雄にホームランを打たれた新藤だったが、ショックは受けていない

むしろ・・・喜んでいた

 

 

(文月学園・・・やっぱり彼らは最高だ!)

 

 

彼は勝負に飢えていた

それは去年、打撃力に定評のあるチームとの練習試合でのことだ

新藤は得意の落差の違う三つのフォークで相手を圧倒

打撃陣も絶好調で大差がついた

そして打者一巡した二打席目のこと・・・

彼らは・・・勝負を諦めてしまった

 

 

(なんだよ・・・そのやる気のないスイングは・・・なんで諦める?なんで喰らいついて来ない?野球が好きなんじゃないのかよ・・)

 

 

まるでさっさと終わりにしたいと言わんばかりの敵の表情

試合はコールドゲームで終了した

しかし彼は満足できなかった

そんなある日のこと、野球雑誌で見た文月学園の島田海人のインタビュー

 

 

(島田海人・・・トモを再び野球の道に戻した少年か・・・)

 

 

何気なく見ていると、ふとある記事に目が留まった

 

 

(右腕を事故で故障!?それにより左投げに転向!マジかよ!?元からサウスポーじゃなかったのか!)

 

 

その記事を見た彼は胸が躍った

 

 

「すげぇ・・・なんて凄い野球への情熱なんだ。彼となら・・・熱い戦いができるかもしれない」

 

 

彼が海人に興味を持った瞬間だった

そして迎えた夏の甲子園

彼らは予想通り勝ち上がってきた

しかし新藤の予想を超える出来事もあった

それが英雄の存在だ

彼は点には繋がらなかったものの、新藤の球を完璧に捕らえていた

投手の海人も星凰の強力打線に一歩も引かない

これこそ彼の望んだ最高の勝負

 

この戦いがいつまでも続いてほしいと願っていた

が、皮肉にも戦いを終わらせたのは自身のバットだった

当然、勝つつもりで戦っているのだから手加減する気はさらさらない

しかし完全に詰まった打球が偶然風に乗りホームランになってしまった

こんな勝ち方は望んでいなかった

勝っておいて贅沢と言えばそれまでかもしれない

それでも彼はもっと海人達と戦いたかったのだ

 

そして今、その彼らが目の前にいる

しかも先制点を取られたのは久しぶりだ

 

 

「おい新藤。大丈夫か?」

 

「ああ、少し考え事をしていただけだ」

 

 

新藤を心配して捕手がマウンドに駆け寄る

 

 

「なぁ、今の甘い球だったか?」

 

「・・・いや、コースも球威もキレも完璧だった。あれは打った打者を褒めるしかない」

 

「そっか」

 

 

彼が投げたのは落差の最も大きいフォーク

おそらく狙われたのだろうと推測した

 

 

『五番キャッチャー北条君』

 

 

(気持ちを切り替えないとな。トモはホームランを打つタイプじゃないが、気の抜けた球を見逃すほど甘い打者じゃない)

 

 

気合を入れなおした新藤はその後をきっちり抑え、この回を終えた

 

そして二回裏の攻撃

 

 

『四番ファースト武蔵丸君』

 

 

「・・・おっさんじゃないカ!」

 

「この大会ってOBも参加するの?」

 

「二人とも・・・気持ちはわかるけど、あの人は高校生よ」

 

 

苦笑いしながらカールとフローラにそう告げる美波

 

 

「ってかアイツ二年だったのか」

 

「夏の大会でも四番を打っていたな」

 

 

パンフレットを見ながらそう言う常村と夏川

そんな話をしていると彼の打った打球がセンター前に飛び、ノーアウト一塁

 

 

「打たれちまったか」

 

「まぁあのパワーヒッターをシングルヒットで抑えたなら上出来だ」

 

「後続を抑えればいいですからね」

 

 

続く五番打者

打球はボテボテのショートゴロ

ショートはそれを捕球し二塁へ送球

しかし・・・

 

 

『セーフ!!』

 

 

思いのほか一塁ランナーのスタートが良かったらしく、間に合わず、セカンドは慌てて一塁に投げるがそちらもセーフ

結果、ノーアウト一二塁になってしまう

 

 

「判断ミスだナ。打球が弱すぎて捕球が遅れた以上、二塁は諦めてファーストに投げるべきダ」

 

「ここで経験不足の差が出たな」

 

 

カールがそう言うのに対し夏川がそう呟く

夏の大会まではショートには彼が入っていた

故に実践経験が少ないのだ

自身のミスに顔を曇らせるショートの松井

しかし・・・

 

 

「ドンマイだよ松井君!」

 

 

球数が増えれば一番キツイはずの海人が真っ先に笑顔で声を掛ける

 

 

「気を取り直していくで」

 

「指示が遅れた。すまなかったな」

 

 

英雄、智也も続けて声を掛ける

 

 

(俺は何をしている・・・?俺は今まで何のために頑張ってきた?あの尊敬する優しい先輩に勝ってほしいからだろ!!なのに・・・ここで足を引っ張ってどうする!!)

 

 

松井が闘志を燃やしだした瞬間、快音が響き、打球はセンター前に抜け・・・

 

 

「な、何!?」

 

 

・・・なかった

松井がセカンドベースのすぐそばで打球に飛びつきダイレクトキャッチ

打球が抜けると思ったランナーは飛び出している

 

 

「竹本!!」

 

「おう!梅﨑!」

 

 

それをセカンドの竹本に送球しツーアウト

竹本はファーストの梅﨑に送球

一塁ランナーも戻れずスリーアウト

トリプルプレーとなった

 

 

「ナイスショート。助かったよ」

 

「せや、抜けてたら一点取られてたかも知れへん」

 

「ナイスプレーだ」

 

 

松井に声を掛ける三人

一方、応援席では・・・

 

 

「良い反応ダ。あの打球に追いつける奴はなかなかイナイ」

 

「なかなかやるじゃねえか。松竹梅トリオ」

 

「・・・アンタのところの部って常夏コンビといい松竹梅トリオといい、芸人みたいな名前の奴しかいないの?」

 

 

智花の指摘に苦笑いする常村と夏川だった

 

 

それから一進一退の攻防が続き、互いに点が入らないまま五回表

 

 

「ふぅ・・・」

 

(海人の体力はそろそろヤバイか・・・聞いてもこいつは疲れたとは言わないだろう)

 

 

そんな時チャンスは訪れた

一番の野村が粘り、フォアボールでノーアウト一塁

打順は二番の大村

彼にはある作戦があった

ここまでの試合を見てのたった一つの違和感

この事はもちろん野村にも伝えてある

そして彼が取った行動は・・・

 

 

「盗塁!?いや、バントエンドランか!?」

 

 

新藤の投球と同時に走り出す野村

大村はバントで三塁線に転がした

 

 

「二塁間に合わない!一塁!」

 

 

捕手が指示を出し、三塁手は一塁に送球

 

 

(わかってるな?野村)

 

(はいッス!)

 

 

一塁は問題なくアウト

・・・が

 

 

「!!サード!ランナー走ってるぞ!」

 

 

野村は二塁を蹴り、迷うことなく三塁へ向かう

普通に考えれば無謀な行為・・・しかし

 

 

「な!?」

 

 

サード、ファースト、ピッチャーはバント処理の為前進守備。セカンドは一塁へショートは二塁へ入っている

本来ならこの場合サードに入るのはキャッチャーなのだが・・・彼はまだ三塁に到達していなかった

キッカケはこの捕手が打席に入り凡打したときの事だった

打った後は当然全力で一塁に向かうわけだが、大村が気付いたのはその速度

手を抜いているわけではないのに一塁に到達するのが遅かった

そこで気付いたのは彼が足が遅いということだ

そこまで極端に遅い訳ではないが、野村の足なら先に三塁に到達できると踏んだのだ

 

この策は一度使えば二度目はない

レフトが入るなり、サードが戻るなり対策を取られるだろう

そして大村の目論見通り、野村は三塁に到達

一死三塁で打順は海人、英雄と続くチャンスとなった

 

 

『三番ピッチャー島田君』

 

 

新藤が一球目を投げる

それと同時に内野手が突っ込んでくる

 

 

(スクイズ警戒か・・・ここまで徹底的に対策を取られたらさすがに球太郎君でも無理だな)

 

 

スクイズは無理と判断した海人

 

 

(とはいえさすが名門校。ショートとセカンドが嫌な位置に構えている。まぁ僕に智也君みたいな器用なバッティングは出来ないんだけどね)

 

 

狙い打ちが得意な相方を思い浮かべながらそう考える

 

 

(でも・・・球太郎君と大村君が作ってくれたチャンスを無駄にするわけにはいかない!)

 

 

新藤が二球目を投げる

その球を海人は・・・アッパースイングですくい上げた

新藤の持つ変化球は三種類のフォーク

つまり全て落ちる球だ

ならば下から救った方が当たる確率は高いと判断したのだ

打球はフラフラとレフトの定位置よりやや前方に向かっている

海人は当然アウト

レフトが捕球すると同時に球太郎がスタート

普通ならタッチアップも難しい位置だが・・・

 

 

『セーフ!』

 

 

彼の足なら充分すぎる飛距離だった

 

 

「ナイスバッティングや海人」

 

「飛距離が足りないかと思ったけど、三塁ランナーが球太郎君で良かったよ」

 

「せやな。さーて、まだまだ終わらへんで。追加点や!」

 

 

英雄が気合を入れて打席に入る

そして新藤の方を向く

 

 

(まだ目が死んでへんな・・・面白いで!)

 

 

何試合も失点ゼロで抑えてきた新藤

まだ中盤だというのに二失点

だが新藤はまるで焦る様子はない

そして英雄はツーストライクツーボールと追い込まれる

 

 

(ここでフォークが来るはず・・・でもなんや・・・なんか嫌な予感がするで)

 

 

追いこんでフォーク

これが新藤のスタイルのはずなのに英雄は直感で嫌な予感を感じていた

そんなことを考えていると新藤は振りかぶって・・・投げた!

 

 

(直球!?裏をかいたつもりかいな!?舐められたものやな!)

 

 

コースは内角高め、ストライクゾーンに入っている

英雄はバットを振る

タイミングはバッチリ

誰もが打ったと思った・・・が

 

 

『ストライーク!!バッタアウト!』

 

 

バットは空を切った

 




あの英雄がバットに掠りもせず三振!?
新藤が投げた球の正体は・・・

次回も頑張ります

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