バカとテストとウチの弟   作:グラン

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久しぶりにあの子が登場!


第百九十二問 鬼ごっこ

「さて、今日は各自個別練習だ。まず投手陣、海人は弱点のスタミナ強化の為走り込み。木下はそこの自転車で海人の見張りだ。次に藤本は昨日同様、新フォームの練習だ。これには俺がつく、次に内野手は守備の連係を強化、それから・・・」

 

 

次々に指示を出していく智也

 

 

「マネージャー二人は大変だろうが我慢してくれ」

 

「北条先輩、オイラまだ呼ばれてないッス。それになんでオイラはスパイクじゃなくてスニーカーなんスか?」

 

 

海人の自称一番弟子、野村球太郎は智也に質問する

すると智也はバツの悪そうな顔をする

そうしていると、真琴が手をあげる

 

 

「野村には特別な助っ人を呼んでるよ」

 

「助っ人ッスか?」

 

「そっ、更なるスピード強化の為にね。そろそろ来るはずなんだけど・・・」

 

「みなさーん」

 

「あ、来た」

 

 

そう言う彼女の視線の先には顧問の勝亦ゆかと・・・

 

 

「球ちゃぁぁぁぁん!!」

 

「ひぃぃ!!出たぁッス!!

 

 

最近彼を追いかけまわしている少女、玉野美紀だった

 

 

「玉野先輩、わざわざ来てもらってすいません」

 

「ううん。それより、例の約束は本当なんだよね?」

 

「はい」

 

(い、嫌な予感がするッス)

 

 

冷や汗を流しながらビクビクする球太郎

 

 

「野村の訓練は鬼ごっこだよ。ルールは簡単。一定時間、玉野先輩から逃げるだけ。捕まったら野村を玉野先輩の好きにしていい事になってるから」

 

「お、鬼ッス!!鬼がいるッス!!人権侵害ッス!拒否権を主張するッス!!」

 

「うふふ、セーラー服、スク水、チアリーダー、ナース・・・」

 

 

呪文のように衣装を呟きはじめる玉野

 

 

「くっ・・・捕まってたまるかッス!!」

 

 

拒否できないとわかると、球太郎は全速力で逃げ出した

 

 

「あらら、もう行っちゃった。じゃ、玉野先輩。1分経ったら追いかけていいですよ」

 

「了解だよ~うふふ、楽しみだなぁ~」

 

 

とてもいい笑顔の玉野

そして一分後、玉野美紀は走り出す

 

 

『みぃつけた!!』

 

『ぎゃああああ!!速っ!速いッス!!何なんスかこの人!!』

 

 

かなり遠くから聞こえる野村の叫び声に一同は苦笑いをする

 

 

「・・・北条先輩」

 

「・・・なんだ?」

 

「・・・正直、やり過ぎたと思っています」

 

「・・・後で謝っとけ」

 

 

玉野のスペックを甘く見ていた真琴は反省しつつ、後で野村に謝ろうと心に誓うのだった

 

 

 

  ※数分後※

 

 

(すっかり見失っちゃった。球ちゃんはどこかなぁ~)

 

 

結局、玉野と球太郎ではスタミナが違い過ぎるため、玉野が疲れて休んだ隙に球太郎がスパートをかけ、見失ってしまったのだ

 

 

「多分こっちの方だと思うんだけどな・・・」

 

 

 

玉野はそう言いながら山道を探索中

隠れる場所の多い山の方に逃げたと予想したのだ

 

 

(ガサッ!)

 

「そこだ!」

 

 

物音がした方に飛びつく玉野

その目はまるで獲物を仕留める狩人の目

しかしそこには・・・

 

 

「え、道が・・・?」

 

 

道ではなく崖に近い傾斜のような場所だった

 

 

「き・・・きゃあああああ!!」

 

 

とっさに近くの木を掴もうとした玉野だが、手が届かず、足を踏み外して転がり落ちてしまった

 

 

「う・・・痛い・・・」

 

 

周囲を見渡す玉野

頑張れば何とか登れそうだった

が、それは万全の状態であればの話だ

 

 

「うぅ・・・足、捻っちゃった」

 

 

どうやら落ちた時の衝撃で右足を捻ったらしい

緩やかな傾斜とはいえ、片足を怪我した状態で登る事は出来そうにない

 

 

「ニャー」

 

「・・・さっきの音はお前だったんだね」

 

 

泣き声をあげて崖を登っていく野良猫を見ながらそう呟く玉野

 

 

「どうしよう・・・」

 

 

ここから叫んでもグラウンドは遠すぎるから声は届かない

携帯は鞄の中・・・まぁこんな山道に電波なんて届いていないだろうが・・・

そして自力では歩道に戻ることができない

 

 

(球ちゃんならこの近くにいるかも・・・)

 

 

一瞬、そう考える玉野だが・・・

 

 

(・・・ダメだ。球ちゃんはきっと私の事を嫌っている。助けに来てくれるわけがない)

 

 

ネガティブな思考に陥る玉野

 

 

(きっと罰が当たったんだ。球ちゃんは嫌がっているのに追いかけまわしたりするから・・・)

 

 

どんどん思考がマイナスの方向に進んでいく

 

 

「ぐすっ・・・怖い・・・怖いよぅ・・・」

 

 

不安で押しつぶされそうになったその時

 

 

「せんぱ~い!!」

 

 

上の方から声が聞こえた

 

 

「球ちゃん・・・?」

 

「あっ!玉野先輩!ここにいたんッスか!って、どうしたんッスか!?どこか痛むッスか?」

 

 

玉野が涙を流しているのを見て慌てる球太郎

 

 

「な、なんで・・・?」

 

「玉野先輩の悲鳴が聞こえてきたから様子を見に来たッス。って、怪我してるじゃないッスか!?」

 

 

傾斜をゆっくり降りながらそう言う球太郎

 

 

「歩くのは無理そうッスね。オイラの背中に掴まってくださいッス」

 

「う、うん」

 

 

球太郎は玉野をおんぶして傾斜を登っていく

 

 

「ねぇ球ちゃん。その・・・重くない?」

 

「この位へっちゃらッス!」

 

「結構、力があるんだね」

 

「鍛えてるッスから」

 

 

笑顔でそう言う、球太郎

 

 

「球ちゃん。何で助けてくれたの?私のこと、嫌いじゃないの?」

 

「・・・たしかに女装させてくるのはやめてほしいッスけど、それとこれとは話が別ッス。それにオイラは・・・海人先輩みたいな男になりたいッス」

 

「海人君?そういえば球ちゃんって海人君の弟子(自称)なんだよね?ピッチャーじゃないのに何で?」

 

 

ふと気になったことを聞いてみる玉野

 

 

「・・・オイラはこの通り、身体が小さくて力が無くて『すばしっこいだけのチビ』って中学の時までバカにされ続けてきたッス。それでもオイラはスピードさえあればどんなピッチャー相手でも対抗できるって信じてきたッス」

 

 

急に語りだす球太郎

玉野は黙って話を聞く

 

 

「高校に入って野球部でその頃有名だった海人先輩に勝負を挑んだッス。あの頃のオイラはバットに当てさえすれば、内野安打になる自信があったッス。今思えば恥ずかしい限りッス」

 

 

苦笑いしながらそう言う球太郎

 

 

「でも・・・結果は惨敗。バットに当てることすらできず、完敗だったッス。その日の練習終了後、海人先輩はオイラに声を掛けてきたッス。きっと今までの人たちと同じ、バカにされると思ったッス。でも・・・」

 

『野村君は凄く足が速いんだね。心強いよ。一緒に頑張ろうね』

 

「・・・嬉しかったッス。初めて誰かに認められたッス。その後も、海人先輩は長所を褒めることはあっても、短所をバカにすることは一度もしなかったッス。オイラは海人先輩のように優しい男になりたいッス」

 

「そっか・・・海人君の事を尊敬してるんだね」

 

「はいッス。そして、海人先輩なら今の状況で玉野先輩を見捨てるなんて絶対しないッス」

 

「・・・妬けちゃうなぁ・・・」(ボソっ)

 

「?何か言ったッスか?」

 

「何でもないよ。あ、もう後は大丈夫だよ」

 

 

話しているうちに合宿所の入り口まで来ており、玉野は球太郎の背中から降りる

 

 

「そういえば、私は球ちゃんを捕まえたから好きにしていいのかな?」

 

「そ、そんな!あんまりッス!」

 

「大丈夫、女装はさせないから。ちょっとだけ、目を瞑って」

 

「え?な、何をする気ッスか?」

 

「女装の方がいい?」

 

「目を瞑るッス」

 

 

慌てて目を閉じる球太郎

 

 

(チュ♪)

 

 

「・・・へ?」

 

「えへへ、お礼だよ。ありがとね。球ちゃん」

 

 

笑顔でそう言うと、フリーズしている球太郎を置いて、玉野は足を引きづりながら医務室へと歩き出した

 

 

「ふふ、逃がさないからね。球ちゃん♪」

 

 

その表情は以前の狩人のような顔ではなく・・・恋する乙女の顔だった

 




球太郎にフラグが・・・・

次回も頑張ります

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