バカとテストとウチの弟   作:グラン

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事件前後のさやかの母に視点を置いてみました
考えていた内容を全て詰め込んだので文法がおかしくなってるかも・・・




第百八十問 さやかの母

さやかの母は夫(竹原)と離婚後、一人でさやかを育ててきた

仕事と家事に追われる毎日

それでも彼女は幸せだった

 

 

「さやか、早く起きなさい」

 

「ふぁ~・・・おはよ~」

 

「お母さんは先に出るから。戸締りはきちんとしてね」

 

「うん。行ってらっしゃい」

 

 

そう言って急ぎ足で家を後にする芹沢母

一見冷たいように見えるが実は・・・

 

 

「はぁ・・・さやか・・・可愛いわぁ~」

 

 

かなりの親バカである

自分の机の上でさやかの写真を眺める彼女

 

 

「また親バカ発動っすか?」

 

「む、後輩君。さやかの可愛さが分からないとでも言うの?」

 

 

彼女に声を掛けたのは彼女の後輩

『後輩君』と呼ばれているのは、彼女から『一人前になったら名前で読んであげるわ』と言われているからである

 

 

「いやまぁ気持ちはわかりますけどね。たしかにさやかちゃん、大きくなりましたよね。特に胸元あたりが・・・ヒィ!」

 

「後輩君・・・どこを見ているのカナ?まさか私のさやかを狙って・・・」

 

「狙ってません狙ってません。ていうか僕、妻も子供もいますから浮気する気なんて微塵もありませんって。ですからそのカッターをしまってください」

 

 

後輩君の首元にカッターを突きつける芹沢母

 

 

「ふふ、ならいいのよ」

 

「でも、これだけ可愛いとクラスの男の子とかも放って無いんじゃないですか?」

 

「・・・たしかにそうね。さやかに好意を寄せる男子が百人や二百人いてもおかしくないわね」

 

「え?そ、それはちょっと多すぎじゃ・・・」

 

「でもまぁさやかが欲しければまずはこの私を倒してからね」

 

(さやかちゃん・・・一生恋人が出来ないんじゃないかな・・・)

 

 

芹沢母の親バカっぷりを見て溜息をつく後輩君だった

こんな彼女だが、仕事の方は非常に優秀

後輩君もその点『だけ』は尊敬しているのだ

 

そんなある日の事・・・

 

 

「出張・・・ですか?」

 

「ああ。今回の契約は我が社の将来を左右するほど重要なものなんだ。成績優秀な君に是非行ってもらいたいのだよ」

 

 

芹沢母は上司に出張を頼まれていた

しかも一週間以上にも渡る長期の出張だ

彼女の本心としてはさやかの事もあるし、引き受けたくはない

 

 

「君が子育てで忙しいのは重々承知だ。しかし君しか適任者がいないんだ。この件が上手く纏まれば、特別ボーナスと長期の休暇を約束しよう。どうかお願いできないだろうか?この通りだ」

 

 

深々と頭を下げる上司

彼女は断ることができず、承諾した

 

そして出発当日

 

 

「それじゃあ行ってくるわね」

 

「うん。お仕事頑張ってね」

 

 

少し寂しそうなさやかに見送られ、彼女は家を出た

これが・・・娘との最後の別れになろうとは知るはずもなく・・・

 

一週間後

無事契約を成立させ、出張を終えた彼女は自宅へと急いでいた

彼女の心は愛しの娘に一週間ぶりに会えるという喜びでいっぱいだった

 

 

「ただいまー・・・って、あれ?さやか?」

 

 

家にはさやかはいなかった

時間は夜9時

 

 

「どこに行ったのかしら?ん?」

 

 

彼女は足元の大量の新聞に目を向ける

 

 

「?なんで置きっぱなしなのかしら?」

 

 

芹沢母は首を傾げ、そう呟きながら買って来たお土産を持って冷蔵庫を開ける

 

 

「あら?いっぱいね・・・ん?」

 

 

彼女は冷蔵庫の中を見て違和感を感じた

中に入っていたのはさやかが買ったプリン

しかし賞味期限が四日前に切れている

それだけじゃない

自分が出張に出る前と冷蔵庫の中のものがほとんど変わっていない

トイレ、お風呂場、洗面所などを確認するが、使われた形跡がない

極めつけはリビングの日めくりカレンダー

日付は・・・彼女が出張に出かけた日のままだった

 

 

「さやか!!」

 

 

まるで生活感のない家を見て不安になった彼女は慌てて家を飛び出した

携帯で電話をしながら走る

 

 

『お掛けになった電話番号は電波の届かない場所におられるか、電源が・・』

 

 

さやかには繋がらず、芹沢母の心に焦りが広がる

誰かの家に泊まっているのならまだいい

しかし、さやかは冷蔵庫の中の物を放っておくような子ではない

特に大好物のデザートを腐るまで放っておくわけはない

 

 

「まさか何か事件に巻き込まれたんじゃ・・・」

 

 

そう思った彼女だが、それを調べている余裕はない

そこで彼女はある人物に電話をする

 

 

「もしもし!後輩君!?私だけど、大至急調べて欲しいことがあるの!この一週間前後で中学生が巻き込まれた事件や事故の情報は無い?」

 

『ど、どうしたんですか?急に・・・』

 

「・・・さやかがいないの・・・お願い、調べて・・・私にできることなら何でもするから・・・」

 

 

普段の彼女と違い、今すぐにでも泣き出しそうな弱弱しい声

その声を聞いた後輩君は

 

 

『わかりました。すぐに調べます』

 

 

電話を切った彼女は再び走り出す

当ても無く手当たり次第にただひたすら走った

 

 

「さやか・・・どこにいるの・・・?」

 

 

そんな時、彼女の携帯に電話が掛かった

 

 

「さやか!!」

 

『先輩、自分です』

 

「後輩君・・・」

 

『ネットで調べましたけどここ最近で公表されている事件や事故は特にありませんでした』

 

 

後輩君の言葉に安心半分、不安半分

事件が無いならさやかは無事かもという安心

結局何もわからなかったという不安

 

 

「そう・・・ありがとう。夜遅くにごめんなさいね」

 

『いえ、それより僕も手伝います。その方が一人で探すよりきっと早く見つかります』

 

 

と、その時・・・一台の救急車が彼女の横を通過

廃病院の前で止まったのだ

 

 

『何があったの?』

 

『女の子が転落したって』

 

 

周りの野次馬の会話を聞き、血の気が引いていく芹沢母

携帯を手から落とし、フラフラと現場に近づいていく

 

 

『先輩?なにかあったんですか!?先輩!?』

 

 

電話口からは後輩君の声が聞こえるが彼女の耳には届かない

嫌だ、そんなはずない、確認したくない

しかし足が止まらない

そこに倒れていたのは血まみれの女の子

顔は確認できないが中学生か高校生位と思われる

 

 

「さやかじゃない。さやかのわけがない。きっと一週間も離れたから拗ねてるのね。ふふ、しょうがない子ね。休暇を取ったらどこか二人で旅行に行きましょう。美味しいものを食べて、温泉に浸かって・・・それから・・・それ・・・か・・ら・・・」

 

 

言い聞かせるように呟く芹沢母だったが、その目には涙が流れていた

彼女は気付いていたのだ

あの血まみれの少女は間違いなく自分の娘だと

たとえ顔が衝撃で潰れてわからなくなっても大切な娘を見間違えるわけがない

 

 

「いやぁぁぁぁああああああ!!!!さやかぁぁぁ!!!!」

 

「な、なんですか!?あなたは!?危険です!下がって!」

 

「離して!!そんなのいやよ!!さやか!!返事をして!!さやかぁぁぁぁ!!!」

 

 

芹沢母の悲痛な叫びが鳴り響いた

検死の結果、死体はやはりさやかだった

 

さやかの死から数日が経過

後輩君は病院に来ていた

そこには芹沢母が入院していた

 

 

「・・・先輩」

 

 

腕には点滴、目は虚ろ

さやかの死がどれほどショックだったのかを物語っていた

 

 

「・・・私は・・・何をしていたのかしらね・・・ボーナス?休暇?そんなのいらない。さやかさえいればそれだけでよかったのに・・・」

 

 

涙を流しつつそう言う彼女

 

 

「さやかは私の全てだったの。さやかに好きな事をさせられるようにお金を稼いで、幸せになれるように必死に頑張って・・・なのに・・・」

 

 

泣き崩れる彼女

後輩君は掛ける言葉が見つからず、そんな彼女を黙って見ていることしかできなかった

 

日を追うごとにやつれていく彼女

それでも後輩君は諦めることなく毎日病院にお見舞いに来ていた

しかし・・・

 

 

「先輩・・・」

 

 

ついには会話すら成立しなくなってしまった

 

 

「・・・さやかちゃんが亡くなって悲しいお気持ちはわかります。でも・・・」

 

「さ・・やか・・・?」

 

 

後輩君の励ましの言葉にピクリと反応する彼女

 

 

「そうです。さやかちゃんは母親のこんな姿を望んでいません。先輩はさやかちゃんの分まで生きて・・・」

 

「さやかは・・・どこ?」

 

「・・・え?な、何を言って・・・」

 

「さやかはどこ?私のさやかをどこに隠したの!?」

 

「せ、先輩、落ち着いて」

 

「私の大事な娘を!!さやかを返して!!返せかえせカエセ!!カエセェェェェ!!!」

 

 

狂ったように叫ぶ芹沢母

 

 

「芹沢さん!落ち着いてください!」

 

「申し訳ありません。今日の面会はここまでにしてください」

 

 

騒ぎを聞きつけ駆け付けた医者と看護師に後輩君は追い出されてしまった

彼はただ、厳しくも優しい尊敬する先輩を元気づけたかった

しかし彼は気付いてしまった

彼女が・・・もう正気に戻ることはないのだと・・・

その日から病室には面会謝絶の札が掛けられ、彼が彼女に会うことは二度となかった

 

 

 

 

騒ぎから数日後

芹沢母はぐったりとした様子で指先一つ動かそうとしない

その後の調べで分かったことは、彼女がさやかの死を受け入れていないということ

さやかはまだ死んでいないと思い込み、誰かの口から『さやか』というキーワードが出た途端暴れ出してしまうのだ

医師の判断は、とにかく心を落ち着かせるため、娘の名前は出さない事

そして彼女を刺激しないよう面会を全て断るよう指示をしたのだ

 

 

「芹沢さん。今日はいいお天気ですよ」

 

 

医師が声を掛けるが彼女からの返事は無い

 

 

『急患です!応援お願いします!』

 

「はい、すぐ行きます」

 

 

看護師にそう言われ、医師は急ぎ足で病室を離れた

この時・・・ドアは開いたままだった

 

 

「・・・さやか・・・」

 

『お母さん』

 

「え!?」

 

 

これは夢か幻か・・・彼女が視線を向けた先には愛しの娘の姿があった

 

 

「さ・・やか・・・そんなところにいたのね」

 

 

涙を流しながらそう呟く芹沢母

しかしさやかはまるで別れを告げるかのように手を振り、踵を返し彼女に背を向けふわふわと飛んでいった

 

 

「ま、待って!さやか!」

 

 

フラフラと倒れそうになりながら後を追う芹沢母

病室にある物に身体がぶつかっているが、そんなことお構いなし、彼女の視線にはさやかしか見えていなかった

 

 

「さやか・・・ずっと仕事ばっかりで一人ぼっちにしていたから拗ねてるの?ごめんね。もう一人にしたりしないわ。ずっとずっと一緒よ。さやか・・・」

 

 

そして・・・彼女がさやかを抱きしめると、辺りが光に包まれた

 

 

「あぁ・・・さやか・・・もう離さないわ。ずっと・・・一緒・・・よ・・・」

 

 

彼女がそう呟いた瞬間、光が晴れた

そこには・・・階段から転落し、頭から血を流している芹沢母が幸せそうな表情で、息を引き取っていた

実際は事故死なのだが、これまでの診断結果や彼女の精神状態から考えて、警察では娘を失った悲しみによる自殺と断定された

 




さやかの幻を抱きしめ、さやかの母はこの世を去ってしまいました

重たい話で申し訳ありません


次回も頑張ります

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