バカとテストとウチの弟   作:グラン

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先週は投稿できず申し訳ない
相変わらずの駄文が何とか書きあがりました



第百六十五問 美波の想い

「それで?こんなところに呼び出して、話って何?」

 

 

ある日の朝、明久は美波に『放課後、大事な話があるから屋上に来てほしい』と言った

明久の目的は・・・美波に告白することだ

 

 

「え、えっと・・・」

 

「?はっきり言いなさいよ」

 

「し、しま・・しま・・」

 

「?しましま・・・!!アンタ!いつ見たの!?」

 

「へ?」

 

 

美波はスカートの裾を抑え、顔を赤くして明久に向かって叫ぶ

 

 

「だから!ウチのスカートの中をいつ見たのかって聞いてんのよ!」

 

「スカート・・?ち、ちがっ!誤解だよ!僕はただ島田さんに好きだって言お・・う・・と・・」

 

「・・・ぇ?」

 

 

怒り狂う美波に明久は慌てて弁明

そのまま勢い余って告白してしまった

途中で気付くが時すでに遅し

 

 

「い、今・・・」

 

「あ・・う・・その・・・僕は・・・島田さんの事が・・す、好きです」

 

 

後に引けなくなった明久はそのまま告白

美波は顔を赤くして驚き、その後、嬉しそうな表情をする

・・・が、直後に一転して顔を曇らせる

そして・・・

 

 

「・・・ごめんなさい」

 

「そう・・・他に好きな人がいるの?」

 

「そうじゃないんだけど・・・ごめん」

 

 

そう言い残し、踵を返し去って行く美波

明久はその場に呆然と立ち尽くすのだった

数分後、正気に戻った明久は屋上を後にする

 

 

「ん?明久、まだいたのか?」

 

「雄二か・・・何してるの?」

 

 

たまたま通りかかった雄二と遭遇

数日前のセクハラ事件以降、なにかと気が合う二人はよく遊ぶようになり、名前で呼び合うほど仲良くなっていた

 

 

「ちょっと教師に呼び出されててな。お前こそ何してんだ?」

 

「ちょっとね。ねぇ雄二・・・」

 

「あ?」

 

「僕の一番悪いところって何かな?」

 

「見た目と中身」

 

「全否定かよ」

 

 

軽口のつもりで言った雄二だったが、様子のおかしい明久を見て首を傾げる

 

 

「ま、一番悪いところは・・・やっぱりバカなところじゃないか?」

 

「・・・やっぱりそうだよね」

 

「?明久?」

 

 

それを聞いた明久はフラフラとその場を去って行った

そして翌日

 

 

「鉄人!」

 

「西村先生と呼べ馬鹿者」

 

「そんなことより・・・僕に補習をしてください!」

 

「・・・何を企んでいる?」

 

「どうしても成績を上げなきゃいけないんだ」

 

「む・・・」

 

 

普段と180度違う態度に戸惑う鉄人

しかしそう言う明久の目は真剣そのもの

 

 

「してくれないと言うなら学園中の窓ガラスを割って回ります」

 

「ま、待て!わかった。じゃあ放課後、生活指導室に来い」

 

「はい。失礼します」

 

 

そう言って職員室を去って行く明久

 

 

「アイツ・・・一体何があったんだ?」

 

 

鉄人は首を傾げるのだった

 

 

教室に戻った明久

美波と目が合ったが、美波は気まずいそうに目を逸らした

明久は美波の態度にショックを受けつつ、席に着き、予習を始めた

 

 

(しつこいって言われるかもしれないけど、僕は島田さんの事を諦められない)

 

 

時は流れ・・・中間テストの返却

 

 

「吉井。よく頑張ったな。以前とは比べ物にならないほど成績が上がっているぞ」

 

「本当ですか!?」

 

 

嬉しそうな表情をする明久

 

 

「これなら振り分け試験もDクラスは確実だ」

 

 

鉄人のその言葉に一変して表情が曇る

 

 

「・・・D・・・クラス?」

 

「ああ、元学年最下位とは思えないほどの・・・吉井?どこに行くんだ?」

 

 

鉄人の言葉を聞き流しつつ、明久はフラフラとその場を去って行った

 

 

(まだだ・・・もっと勉強しなくちゃ・・・)

 

 

さらに時は流れ・・・

 

 

「くそっ!まただ!またこんなミスを・・・」

 

 

自宅で問題集を解いて自己採点し、荒れる明久

周囲には解き終わった問題集が散乱している

 

 

「もっと・・・もっと勉強しなくちゃ・・・」

 

 

こうして明久は壊れていった

そんなある日のこと・・・

 

 

「よ、吉井・・・お前、ちゃんと寝ているか?」

 

 

目の下にクマを作った明久に鉄人は問いかける

 

 

「はい。昨日は二時間も寝ました」

 

「や、やり過ぎだ!そんなことをしていたら身体を壊すぞ!」

 

「大丈夫ですよ。それよりもっと勉強・・・勉強しなくちゃいけないんですよ。ふふ、ふふふ・・・」

 

 

目的に向かって真っすぐに突き進み、狂ってしまった明久

そんな明久の想いとは裏腹に成績は全く伸びない

それもそのはず、こんな最悪のコンディションでいくら勉強しても頭に入ってくるはずがない

 

 

「吉井・・・」

 

 

そんな明久の様子を心配そうに見る美波

 

 

「お前にふさわしい男になりたいんだとさ」

 

「坂本!?アンタなんか知ってんの?」

 

「お前に振られた次の日からだったかな?『僕は島田さんを諦められない。悪いところを直してもう一度告白するんだ』ってさ」

 

「そんな・・・違う。ウチは吉井に不満があって断ったんじゃ・・・」

 

「だろうと思ったよ。お前、明久の事、好きだろ?」

 

「・・・うん」

 

「何で断ったのかは聞かねえけど、ちゃんと理由を言ってやらねえと、アイツ壊れちま・・・明久!」

 

「え?よ、吉井!?」

 

 

雄二の叫び声に反応して美波も明久の方を見る

するとそこには、地面に倒れ込んでいる明久の姿があった

二人は明久を連れて保健室へと急いだ

 

 

 

 

「う・・ん・・?」

 

「吉井!気がついたのね」

 

「島田さん・・・ここは・・・?」

 

「保健室よ。アンタは急に倒れたの」

 

「そっか・・・って!?五時!?」

 

 

時計を見て驚く明久

 

 

「こうしちゃいられない!早く帰って勉強を・・・」

 

「吉井!もうやめて!勉強するなとは言わないけど、こんなやり方じゃ身体を壊しちゃうわ」

 

「で、でも・・・」

 

「聞いて。ウチは吉井に不満があって告白を断ったんじゃないの。吉井に告白されて凄く嬉しかった。男の子にそんな風に言われた事なかったから・・・でも・・・ダメなの!ウチは誰かに好かれる資格も幸せになる資格も無い!最低な女なの!」

 

「な、なんで・・・そんなことを・・・」

 

「・・・ねぇ吉井。ウチのどこが好きなの?」

 

「え?えっと・・・全部好きだけど、一番好きなのは優しい所かな?弟の島田君の事も凄く大切にしてるし・・・」

 

「そう・・・じゃあウチが・・・昔、海人に虐待を加えて、殺そうとしたことがあるって言ったらどうする?」

 

「・・・え?」

 

 

美波は自身の過去を全て明久に話した

優秀な弟に嫉妬し、意地悪をしていたこと

海人を事故に合わせてしまったこと

そのせいで海人は利き腕を使えなくなり、一時的に野球が出来なくなったこと

 

 

「わかったでしょ?ウチには幸せになる資格なんてない。今でこそ海人は野球をできるようになったけど、大事な弟を傷つけて地獄に落としたウチが幸せになっていいはずない」

 

 

美波はポロポロと涙を流しながらそう言う

 

 

「島田さん・・・そんなのダメだよ」

 

「・・・なんですって?」

 

「そんなことがあったのなら島田さんが責任を感じるのも無理はないと思うよ。でも、島田君の気持ちはどうなの?」

 

「海人の・・・気持ち?」

 

「島田さんがそうやって責任を感じ続けて、島田君は喜ぶのかな?島田さんが過去の事を反省しているって島田君にも伝わってるはずだよ。相手は僕じゃなくってもいいから、島田さんは自分の幸せを考えてもいいんじゃないかな?」

 

「でも、ウチは・・・」

 

「吉井さんの言うとおりだよ」

 

「か、海人!?」

 

 

ドアを開けて海人が入ってきたことに美波は驚く

 

 

「まったくもう。最近元気が無いと思ったらそう言う事だったんだね。僕は姉さんの幸せを奪って夢を叶えたってちっとも嬉しくないよ」

 

「海人・・・」

 

「姉さん、仮に逆の立場だったらどう?例えば僕が自分の幸せを捨てて全部姉さんの幸せの為に生きるの。それで姉さんは嬉しい?」

 

「そ、そんなの嬉しいわけ・・・」

 

 

そこまで言いかけて美波は自分の失敗に気付いた

 

 

「僕も同じ気持ちだよ。だって僕、姉さんの事が大好きだもん」

 

「そっか・・・ウチ、また間違えてたんだ・・・ダメなお姉ちゃんね・・」

 

 

苦笑する美波

そして明久の方を向き・・・

 

 

「吉井、ウチは・・・アナタが好きです。ウチと付き合ってください」

 

「・・・ほぇ?」

 

 

この流れで告白されるとは夢にも思っていなかった明久は間の抜けた声を出す

 

 

「何よ?変な声を出して・・・やっぱり、さっきの話でウチの事なんか嫌いに・・・」

 

「ち、違うよ!ホントに僕なんかでいいの?」

 

「もちろんよ。よろしくね。アキ」

 

「う、うん。こちらこそよろしく、美波」

 

 

照れくさそうに頬を赤く染めて笑いあう二人

互いの呼び方も名前に変わっている

 

 

「あ、でももうあんな勉強のやり方、絶対ダメなんだからね!」

 

「うぐ・・・すいません」

 

 

ジト目で睨む美波

明久はたった今、寝不足で倒れてしまった事もあり、何も言い返せない

 

 

「勉強ならウチが教えてあげるわよ」

 

「?島田さんってそんなに成績良かったっけ?」

 

「ふふ、以前のウチとは一味違うわよ。なんせ自慢の弟に勉強を教わってるからね」

 

「そうなんだ。じゃあ・・・」

 

 

うんうんと頷く美波

しかし・・・

 

 

「よろしくね・・・島田君」

 

「ちょっと!?」

 

「あはは、あんまり姉さんをからかっちゃダメだよ、アキ兄さん」

 

「あ、アキ兄さん!?」

 

「うん。姉さんの恋人だからアキ兄さん。前から吉井さんってお兄さんみたいだなって思ってたんだ。ダメかな?」

 

 

コテンと首を傾げながら問いかける海人

 

 

(くっ、さすが美波の双子の弟。なんて可愛さ、とても男とは思えない)

 

「・・・なんか失礼な事考えてない?」

 

「と、とんでもない。呼び方だったね?好きなように呼んでいいよ」

 

「ホント?じゃあ義兄さんで」

 

「変わった!?」

 

 

ニヤリと悪戯っぽく笑う海人と顔を赤くする明久と美波

 

 

「もう!お姉ちゃんをからかって・・・お仕置きよ♪」

 

「あははは、ごめ・・あはは、ギブギブ!あはははは。助けてアキ兄s・・・あはははは」

 

「仲の良い姉弟だなぁ」

 

 

くすぐりの刑に処されている海人

その様子を明久は温かい目で眺めるのだった

 

 

 

 

  ※おまけ※

 

 

「~♪」

 

「島田君、なんだか機嫌がいいわね?」

 

「実は、(ガラガラ)恋人ができたんだ♪」

 

「・・・え?」

 

 

ちょうど二人の近くのドアが開き、海人のセリフが一部かき消されてしまった

海人は『姉さんに恋人ができた』と言ったつもりだが、優子には『恋人ができた』という言葉しか聞き取れなかった

 

 

「そ、そうなんだ・・・」

 

「うん」

 

「ち、ちなみに相手は?」

 

 

動揺を隠せない優子

しかし鈍感な彼女はなぜ動揺しているのかは自分でもわかっていない

 

 

「えっと・・・Dクラスの・・・」

 

(Dクラス?秀吉と同じクラスね。後で聞いてみよう)

 

「吉井明久って人」

 

「ふぁ!?」

 

 

吉井明久=♂

 

 

(り、リアルBL・・・お、落ち着くのよ木下優子)

 

「えっと、(海人君は)その人のどんなところが好きなの?」

 

「(姉さんは)その人の優しいところが好きなんだ」

 

「へ、へぇ・・・」

 

「?どうかしたの?」

 

「う、ううん。何でもない。問題ないわ。愛の形は人それぞれだものね。ア、アタシ、日直だから!」

 

 

動揺しつつその場を立ち去る優子

そして休み時間が終わり、授業が始まる

 

 

(まさか島田君が同性愛者だったなんて・・・)

 

(・・・?視線が気になる・・・?)

 

 

二人のギクシャクした関係は数日後、誤解が解けるまで続いた

 




今回で過去編は終わりです
次回からは現代に戻りますよ
主な登場人物は海人・・・ではなく『あの人』

次回も頑張ります

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