バカとテストとウチの弟   作:グラン

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タイトル通り美波を本気で怒らせた人物がいます。誰でしょう?
答えは本編にて


第百六十一問 初めての魔王化

「・・・先日はウチの雄二がごめんなさい。お詫びに好きなだけ食べて」

 

「・・・悪かった」

 

 

セクハラ事件から数日が過ぎ、今日は休日

海人、美波、明久は翔子の家に招待され、昼食をご馳走になっていた

ちなみに雄二は普段なら『誰がウチの雄二だ!』などと反論するところだが、今回ばかりは完全に自分に非があるため大人しくしている

 

 

「僕の大好物のカロリーがこんなに・・・」

 

「凄く高そうだけどイイの?」

 

「僕、無関係なんダけどいいのカな?」

 

 

明久は久しぶりのまともな食事に目を輝かせ、美波は高そうな料理にたじろき、海人はほぼ無関係な自分が呼ばれてよかったのか疑問に思っている

 

 

「・・・構わない。遠慮せずに好きなだけ食べて」

 

 

翔子がそう言うと三人はいただきますと言い、一斉に食べ始める

明久は幸せそうに頬張り、美波は海人に英語で通訳してもらいながらレシピを聞いている

ちなみに・・・

 

 

「・・・おい翔子。手錠を外してくれ。箸が持てない」

 

「・・・また島田を襲ったら困る」

 

「だからアレは・・・」

 

「・・・それ以上言うならその悪い手を切り落とす」

 

「・・・」

 

 

雄二は鎖でぐるぐる巻き、手錠を掛けられ首輪をつけ、そして目の前には『ゆうじ』と書かれた犬用のエサ入れが置いてある

不満のある雄二だったが、反論できず大人しくしている

 

そんなこんなで食事を終え、三人は帰宅の準備を始める

 

 

「「「おじゃましました」」」

 

「・・・また来て。歓迎する」

 

『・・・島田、雄二に何かされたら連絡して』

 

 

海人は翔子の連絡先を手に入れた

 

 

「待ってくれお前ら!!俺を置いていかないでくr・・・(バタン)」

 

「・・・じゃあまた学校で」

 

「う、うん」

 

 

雄二の悲鳴が聞こえたが、翔子は無言でドアを閉め、何事も無かったかのように三人を送り出した

 

 

「それじゃあ僕の家、こっちだから。島田さん、島田君、また明日」

 

「うん」

 

「じゃあね」

 

 

明久と別れ、美波と海人は自宅に向かって歩き出す

 

 

『美味しかったわね』

 

『そうだね。葉月にも食べさせてあげたかったなぁ』

 

『仕方ないわよ。ご馳走になるのに妹も連れて行きたいなんて言えないわ。でも、レシピは聞いてきたから今度ウチが作ってあげるわ』

 

『ホント?楽しみだな♪』

 

 

何気ない会話を交わす二人

そして・・・その様子を背後から見ている人物が一人

 

 

(あの後ろ姿は美波お姉様!むむ、隣に男が・・・いけませんわ!お姉さまに纏わりつく虫は美春が排除します!)

 

 

美春の立ち位置からは美波の隣にいるのが男性と言う事しかわからず、それが誰なのかはわかっていなかった

そして美春は美波の隣にいる男を排除するために走り出す

それが・・・どんなに恐ろしい事かも知らずに・・・

 

 

『あ、そういえば海人。アンタ野球は・・・』

 

「お姉さまに纏わりつく豚野郎は排除ですわぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ふげぶっ!!」

 

 

走り込んできた美春は海人に背後から飛び蹴りを決め、海人は勢いよく吹っ飛んだ

 

 

『か、海人!』

 

「お姉様♪お姉さまに纏わりつく豚は排除しましたわ。さぁ、美春と一緒に参りましょう」

 

 

興奮状態の美春は気付いていない

美波の周りに黒いオーラがまとわりついていることを・・・

 

 

『き・・・』

 

「お姉さm・・・」

 

『キサマァァァッァ!!』

 

「ぐぺっ!」

 

『ヨクモ・・・ヨクモウチノダイジナオトウトヲォォォォ!!』

 

 

美波は叫び声を上げながら美春の首を掴み、そのまま壁に叩きつけて締め上げ始めた

 

 

『コロス!!コロスコロスコロスコロコロコロォォォ!!!』

 

「お、おね・・・」

 

『お姉ちゃんやめて!僕は大丈夫だから!』

 

 

海人の泣き出しそうな顔を見て正気に戻る美波

そして美春を掴んでいた手を離す

 

 

「ゲホッ!ゲホッ・・・お、お姉様が二人・・・?」

 

「・・・二度とウチと海人に近づクナ!」

 

 

美波はそう言い残して海人の手を引いてその場を去って行った

 

 

「・・・こ、怖かった・・・」

 

 

その場に残された美春はしばらくの間、腰が抜けて動けないのだった

 

 

 

  ※翌日※

 

 

「島田さんそっくりの男の子?ああ、それは島田さんの双子の弟の海人君だよ」

 

 

美春はクラスメイトで情報通の新野に話を聞いていた

 

 

「お姉さまの・・・弟・・・?」

 

「うん。あっ、島田さんは重度のブラコンで海人君の事を溺愛してるから、いくら男が嫌いだからって絶対に手を出しちゃダメだよ。もし海人君を傷つけるようなことがあったら島田さんに八つ裂きにされちゃうよ・・・って、清水さん?どうしたの?顔が真っ青だけど・・・ま、まさか・・・」

 

「み、美春はなんてことを・・・」

 

 

美春は自分のしてしまった事を激しく後悔し、顔を青くする

数分後、海人の元を訪れ地面に頭を擦り付ける美春の姿が目撃されるのだった

そしてその日の放課後・・・

 

 

「あぁびっくりシタ。あれガ『ジャパニーズ・ドゲザ』かぁ」

 

 

一人、自宅へと歩きながらそう呟く海人

 

 

(ん?あれは葉月と・・・ヨシイさん?)

 

 

「葉月?」

 

「あ、お兄ちゃんです!」

 

「島田君。そっか、葉月ちゃんのお兄ちゃんって島田君だったんだね」

 

 

葉月は嬉しそうに海人に抱き着く

と、海人は葉月が青とオレンジの狐のぬいぐるみを持っていることに気付く

 

 

「葉月、ソレは?」

 

「お兄ちゃんとお姉ちゃんにプレゼントです!」

 

「僕達に?」

 

「はいです!二人ともいつも葉月と遊んでくれるお礼です!」

 

「葉月・・・」

 

 

心優しい妹の言葉に感激する海人

しかし、ふと疑問が浮かんだ

このぬいぐるみのサイズは葉月の身体の三分の一はある

葉月は無駄使いをするタイプではないが、これだけ大きいぬいぐるみを二つも買えるほど貯金があるとは思えない

ぬいぐるみを買ったと思われるお店を覗いてみると・・・

 

『ぬいぐるみ、15000円』

 

「ふぁ!?」

 

 

一体15000円

つまり二体で30000円

 

 

「は、葉月?お金はどうしたの?」

 

「えっと、バカなお兄ちゃんに足りない分を出してもらったです」

 

 

明久の方を指差しながらそう言う葉月

 

 

「す、すいませんヨシイさん!いくらシマシたか?」

 

 

慌てて財布を取り出す海人

 

 

「いいよいいよ。僕が好きでやったことなんだし、葉月ちゃんの気持ちを応援したいって思ったからお金を出したんだ」

 

「あぅ・・・本当にすいません」

 

 

お金を受け取ろうとしない明久に素直に頭を下げる海人

顔を上げた海人は葉月の目を見てドイツ語で・・・

 

 

『葉月。今、ヨシイさんにバカなお兄ちゃんって言ったでしょ?』

 

『はいです』

 

『そう言う事を言っちゃダメでしょ。葉月だって自分がバカな子って言われたら悲しいでしょ?自分がされて嫌な事は人にしちゃダメ。わかった?』

 

『はいです!』

 

『よし良い子だ。じゃあヨシイさんにごめんなさいしてきなさい』

 

 

海人は葉月の頭を撫でながらそう言う

そして葉月は明久の方を見て・・・

 

 

「あの・・・バカなお兄ちゃんって言ってごめんなさい」

 

 

ぺこりと頭を下げた

 

 

「い、いいよいいよ。僕がバカなのは本当の事だし」

 

 

ドイツ語で会話していたので二人が何を言っていたのかわからなかった明久だが、葉月が謝ってきたことで会話の内容を理解した

 

 

「じゃあ僕は帰るからまた学校でね。あ、この事、島田さんには内緒ね。別に恩を売りたくてしたわけじゃないから」

 

「はい。本当にアリガトウございまシタ」

 

「バイバイです!」

 

 

明久を見送る二人

 

 

『良い人だね』

 

『はいです』

 

『僕達も帰ろうか』

 

『はい。あ、お兄ちゃん』

 

『ん?』

 

『ぬいぐるみをプレゼントしようとしたのはもう一つ理由があるです』

 

『そうなの?』

 

『お兄ちゃんに元気になってもらいたいからです』

 

『僕?僕はいつだって元気だよ』

 

 

葉月の言葉の意味が分からず首を傾げる海人

 

 

『お兄ちゃん・・・本当は野球を続けたいんじゃないですか?』

 

『!!』

 

『お兄ちゃんが野球を続けないのは・・・葉月のせいです』

 

『ち、違うよ葉月。僕は・・・』

 

 

慌てて否定する海人

だが・・・図星だった

不在がちの両親、まだ幼い妹

野球部に入れば必然的に帰りは遅くなる

そうなれば葉月の面倒は美波が一人で見ることになってしまう

姉や妹を大切に想う海人は自分だけが好きな事を続ける気になれなかったのだ

 

 

『葉月はお兄ちゃんが野球をする姿が好きです。葉月の為に我慢して欲しくないです』

 

『葉月・・・』

 

 

妹の気持ちを聞かされ戸惑う海人

心の整理がつかぬまま自宅へとたどり着いた

 

 

「「ただいま」」

 

『おかえりって、どうしたの?そのぬいぐるみ』

 

『葉月から僕達にプレゼントだって』

 

『本当?嬉しいわ。ありがとね葉月』

 

『どういたしましてです!』

 

 

嬉しそうに葉月の頭を撫でる美波

 

 

『海t・・・』

 

 

美波が海人に声を掛けようとしたが、海人がテレビの野球中継を見て寂しそうな表情をしていることに気付いた

すると美波は押入れの段ボールから何かを取り出して海人に差し出した

 

 

『ね、姉さん。これ・・・』

 

『野球、続けたいんでしょ?わかるわよ。姉弟だもん』

 

『・・・うん』

 

『だったら思う存分やりなさい。家の事は何も気にしなくていいわ。ウチも葉月も海人の野球をする姿が大好きなんだから』

 

 

数分前に葉月に言われた事と同じことを言われ、さすが姉妹だなと思う海人

 

 

『ありがとう、姉さん』

 

『もう、いちいち泣かないの』

 

 

嬉し泣きをする海人を優しく抱きしめる美波だった

 

 




初めて美波を魔王化させたのは美春でした


美春「あの時は本気で死ぬかと思いましたわ」

美波「・・・あれ以降、本当に海人に手を出してないでしょうね?」

美春「神に誓って出しておりません」

美波「よろしい」


次回も頑張ります

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