バカとテストとウチの弟   作:グラン

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智也の過去編はこれで終了です


第百五十七問 悲しき日々

さやかの葬儀から数週間が経過

智也は野球部の大会に出場していた

ヒットを打った

盗塁を阻止した

ホームランも打った

でも・・・隣で笑っていてくれた少女はもういない

そして・・・この大会を最後に智也は野球部を辞めた

 

 

「トモ!」

 

「・・・シュウか」

 

「野球、辞めちまうのか・・・?」

 

「俺、気付いたんだ。いつの間にか俺は・・・さやかの笑顔が見たくて野球をしていたんだって・・・大切な物は失って初めて気付くってやつだ。俺は本当に大馬鹿野郎だ」

 

 

自虐的な笑みを浮かべつつそう言う智也

秀一はそれを静かに聞く

 

 

「でも、さやかはもういない・・・あんなに楽しかった野球が、今はさやかの事を思いだして辛いんだ・・・」

 

「・・・そっか・・・わかったよ。でも、いつか心の整理がついたらまたグラウンドに戻ってこいよ!何年後でもいいからさ!俺、待ってるから・・・」

 

「・・・そう・・・だな。わかったよ」

 

 

そう返事をして去って行く智也

しかし、智也は内心ではもう野球をやることは無いだろうと思っている

そしてそのまま施設へと戻る

 

 

「ただいま」

 

「あ、おかえりなさい、智也君」

 

 

智也は夕食を作っている桜に挨拶をするとそのまま自分の部屋に直行

そしてドアを開ける

 

 

『あ、トモ君。おかえり。ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た・し?』

 

 

「!?さや・・・」

 

 

一瞬さやかの幻覚が見えた智也は叫びそうになるが、当然さやかの姿はそこにはない

 

 

「・・・我ながら女々しいな・・・」

 

 

  ※数日後※

 

 

「智也君、本当に出て行っちゃうの?」

 

「・・・はい。勝手な事をして申し訳ないと思っています。でも・・・ここにはアイツとの思い出があまりにも多すぎるんです」

 

 

智也は施設を出て一人暮らしを始める決意をする

理由はもちろん、さやかの事を思いだして辛いからである

 

 

「わかったわ。でも、困ったことがあったらいつでも頼ってきて。たとえここを出て行っても、私は智也君のことを大事な家族だと思っているから・・・」

 

「ありがとうございます。桜さん」

 

 

桜に一礼して、智也は施設を出て行った

 

 

そして2年が経過

智也はその間さやかを襲った人物について調べていた

復讐するつもりはない。たださやかを襲った理由を知りたかったのだ

それに・・・気になる点があった

まず、遺書に書いてある通りなら、さやかが襲われたのは智也とのデートの直後

なのにさやかが死んだのはその一週間後

この空白の一週間何があったのか?

真実を知りたいという一心で智也は調べ続けた

 

 

ある日、智也はさやかのお墓参りの後、電車に乗って帰宅

その電車の中で事件は起こった

 

 

「・・・いゃ・・・やめ・・くださ・・」

 

 

擦れるような声

そちらに視線を向けると一人の男がピンク色の髪の女の子のお尻を触っていた

女の子は泣き出しそうな顔で嫌がっているが、男は気にする様子も無くニヤニヤしながら女の子に触れている

それを見た智也は・・・

 

 

(・・・こういう奴が存在するから・・・さやかは・・・)

 

 

込み上げてくる怒り

智也は男に近づいて行った

 

 

 

 

 

 

ピンクの髪の少女、姫路瑞希はたまたま乗った電車の中で痴漢に遭っていた

嫌だ・・・気持ち悪い・・・でも恐怖で声が出ない

 

 

(誰か・・・助けて・・・)

 

 

「いい加減にしろよ」

 

 

と、その時、同年代位の少年が男の手首を掴んだ

 

 

「なな、なんだ君は!」

 

「黙って降りろ」

 

 

少年は殺気を撒き散らしながら男の手を引いて下車していった

 

 

 

 

 

「い、いい加減にしろ!なんだ君は!?」

 

「なんだじゃねえよこの痴漢野郎」

 

「ち、痴漢?な、何の事だ?言いがかりはやめろ!名誉棄損で訴えるぞ!」

 

「好きにしろよ。証拠はある」

 

 

そう言って智也は携帯を取り出す

そこには男が少女のお尻を触っている姿がバッチリと写っていた

 

 

「くっ!」

 

「ちなみに、これを奪おうとしても無駄だ。この画像はすでに自宅のパソコンにメールで送っておいた。それでも奪うなら暴行罪も付けてこっちがお前を訴える」

 

 

男は絶望に顔を歪ませる

 

 

「さて、後は駅員にアンタを突きだして終わりだな」

 

「ま、待ってくれ!見逃してくれ!この通りだ!ほんの出来心だったんだ」

 

「ふざけるな。アンタの身勝手でさっきの子は心に傷を負ったんだぞ」

 

「も、もう二度としないと誓う!これを見てくれ!俺には妻と子供がいるんだ・・・」

 

「それで許されるのは子供の内だけだ。大人しく裁かれ・・・」

 

「待ってください!!」

 

 

そう言って割り込んできたのはさっきの女の子だった

 

 

「・・・本当にもうしませんか?」

 

「は?」

 

 

少女の口から出てきた言葉に智也は唖然とする

 

 

「もう二度とこんなことをしないと約束してくれるなら私はアナタを許してこの事を忘れます」

 

「あ、ああ。約束するよ」

 

「奥さんとお子さん、大切にしてくださいね」

 

 

少女がニッコリと笑顔でそう言うと男は頭を下げて去って行った

 

 

「あの、ありがとうございました。それと、せっかく助けてもらったのに勝手な事をしてごめんなさい」

 

「被害者のアンタが加害者のアイツを許したんだ。第三者の俺が口出しすることじゃない。それに、別にアンタの為にやったわけじゃない」

 

「え?」

 

「何でもない。じゃあな。気をつけて帰れよ」

 

「あ、待ってください!私、姫路瑞希って言います。アナタのお名前は・・・?」

 

「北条智也だ」

 

「北条君ですね。あとその・・・画像は・・・」

 

「ああ、それならもう消したぞ。ちなみにパソコンに送ったって言うのはハッタリだ。なんなら確認するか?」

 

「いえ、北条君の言葉を信用します」

 

 

智也は瑞希に携帯を差し出すが、瑞希は智也を信用し、それを断る

 

 

「・・・あまり人を信用し過ぎない方がいい。でないといつか・・・いや、何でもない。じゃあな」

 

 

そう言い残すと今度こそ智也は去って行った

 

 

「北条君・・・かっこいいです・・・でも・・・なんであんなに悲しい目をしているんでしょうか・・・?」

 

 

智也の辛そうな表情が脳裏に焼き付いた瑞希

 

 

「また・・・会えるかな?」

 

 

瑞希は智也の後ろ姿を見ながらそう呟いた

数か月後、二人は入学した高校にて再会することとなる

 

 

 

 

怪我により野球が出来なくなった少年

大切な人を失ったショックで野球が出来なくなった少年

父親の犯罪により野球が出来なくなった少年

 

三人の少年が偶然にも同じ学校に進学

そこから物語は始まる

 




次回からは高校一年生編(本編の一年前)
主人公の海人君がようやく復帰
海人、智也、英雄の三人が出会う

次回も頑張ります

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