バカとテストとウチの弟   作:グラン

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少し長くなりすぎてしまったので予定を変更します
ハンカチのご用意は次話にてお願いします


第百五十五問 さやかとデート

「うぅ~わかんないよぉ~」

 

「・・・お前はなぜ毎回毎回ウチで勉強するんだ」

 

 

夏休み明けのテスト週間

さやかは当たり前のように智也の部屋に入り浸っていた

 

 

「そんなのトモ君の顔が見たいからに決まってるじゃん」

 

「・・・そうか」

 

「あれ?トモ君照れてる?あはは、トモ君可愛・・・いだだだだ!!ごめんなさいごめんなさい!割れる!私の頭が割れちゃう!!」

 

 

智也にアイアンクローを決められたさやか

 

 

「むぅ・・・女の子には優しくしなきゃダメなんだぞ!」

 

「安心しろ。俺はお前を女として見ていない」

 

「ひどっ!」

 

 

智也の発言にショックを受けるさやか

 

 

(しかしこれじゃあ勉強にならないな)

 

 

さやかの勉強を見てばかりで自分の勉強が進まない智也は頭を悩ませる

 

 

「そうだ。次のテスト、俺の手を借りずにどれか一つでも満点を取れたら何でも言う事聞いてやるよ」

 

「え?な、何でも!?ホント!?」

 

 

智也の思惑通り喰いつくさやか

『俺の手を借りずに』という部分がポイントである

 

 

「ああ本当だ。何でもいいぞ」

 

「何でも・・・トモ君と・・・えへへ♪」

 

「おいちょっと待て。何を想像した?」

 

「じゃあ私帰るね。一週間後を楽しみにね♪」

 

 

さやかは大急ぎで鞄を持って帰っていく

 

 

「・・・ミスったか?まぁどうせ無理だろ。さて、コレで落ち着いて勉強を・・・」

 

「トモ!勉強教えてくれ」

 

「・・・しまった。コイツがいた」

 

 

さやかと入れ違いで秀一が入ってきたことに肩を落とす智也だった

 

それから一週間が経過

試験期間中、さやかが智也の家に来ることは無かった

自分の理想通り、静かな環境で試験勉強ができた

なのに・・・なぜだろう?何かが物足りない

それは智也が今まで感じた事の無い感情だった

 

 

「ま、アイツはどうせ試験が終わったら部活の方に顔を出すだろ」

 

 

さやかの顔を思い浮かべて笑みをこぼす智也

智也は気付いていない

無意識のうちに『さやかに会いたい』と思っている自分の心に・・・

今日はテスト初日

智也はしっかりと準備して学校へ向かう

が、その途中、一台の救急車が止まっていることに気付く

そしてそこからは・・・聞き覚えのある声が聞こえる

 

 

「いや・・・離して」

 

「何を言ってるんだ!酷い熱じゃないか」

 

「離して・・学校に行かなきゃ・・・満点を取らなきゃダメなの。トモ君と約束したの」

 

 

救急車に乗せられそうになっているさやかは必死に抵抗する

顔色は悪く足元もふらついている

素人目でもわかるぐらい体調が悪そうだ

 

 

「お願い離して・・・トモ君に嫌われちゃう」

 

 

ボロボロと涙を流しながら訴えるさやか

とはいえ救急隊員もこの状態の彼女を離すわけにはいかない

 

 

「すいません。俺はこの子の友人です。説得は俺がするので早く病院へ」

 

 

放っておくわけにはいかないと智也はさやかの元に駆け付ける

 

 

「と、トモ君・・・」

 

「・・・もういいからゆっくり休め」

 

 

智也がそう言うとさやかは糸が切れたマリオネットのように崩れ落ちた

その後、智也は病院に付き添い、簡単な診療を受けたさやかを家まで送る事となった

 

 

「あ、あの・・・ごめんねトモ君。私のせいで学校休ませちゃって・・・」

 

 

罪悪感からか体調不良からか、いつもの明るさが全くないさやか

 

 

「過ぎたことは仕方ない。それで?あんなに必死になってお前は俺に何をさせるつもりだったんだ?」

 

「・・・デート」

 

「・・・は?」

 

「デートしてほしかったの」

 

「・・・それだけか?」

 

「うん」

 

 

たかがデートの為にあそこまで必死になるとは思わなかった智也は驚きを隠せなかった

『私と付き合え』くらいは言われると覚悟していたからだ

 

 

「私はトモ君が好き、でもトモ君は私の事が好きじゃない。命令で無理矢理付き合わせても意味がないもん」

 

「・・・そうか。っと、着いたぞ。じゃあな。安静にするんだぞ」

 

「うん。ありがとうトモ君」

 

 

さやかが家に入るのを確認してその場を離れた

学校には電話で事情を説明し、今日は休むと言ってあるので問題ない

 

 

「さてと・・・」

 

 

智也は何かを決意したような表情で施設へと帰っていった

 

 

  ※一週間後※

 

 

「う~・・・」(ウロウロ)

 

 

さやかは施設の周りをうろついていた

傍から見れば完全に不審者である

 

 

「トモ君に会いたいよぅ・・・でも合わせる顔が無い。うぅ・・・」

 

「何してんだ?」

 

「ひゃふぁああ!!」

 

 

背後から智也に声を掛けられさやかは飛び上がる

 

 

「ちょうどいい。話がある」

 

 

さやかの引き摺って部屋に向かう智也

 

 

「さて、二日目以降の結果はどうだった?」

 

「う・・・」

 

「その様子だとダメだったみたいだな。約束は約束だ。満点を取れなかったから・・・俺の言うことを聞いてもらおうか」

 

「え?ちょ、ちょっと待ってそんな話聞いてないよ」

 

「ああ、今言ったからな」

 

「横暴だ!そんなのトモ君の方が有利じゃん!私に命令したいならトモ君も満点を取らなきゃダメ!」

 

「・・・言ったな?」

 

 

ニヤリと笑いながら満点の自身のテストを見せる智也と顔を青くするさやか

 

 

「さて、何をお願いしようかな?お前にはさんざん振り回されたしな~」

 

 

ビクビク怯えながら目尻に涙を浮かべるさやか

普段の彼女なら『エッチな事はだめだよ♪』とか言いそうなものだが、自分のせいでテストを休ませた罪悪感から現在ネガティブ思考になっている

 

 

(・・・やっぱりトモ君、怒ってるんだ。きっと『もう俺に付き纏うな』とか言われちゃうんだ)

 

「俺とデートしてもらおうか」

 

「・・・え?」

 

「なんだ?嫌なのか?」

 

(ブンブン!!)

 

 

大きく首を振るさやか

 

 

「この結果を見れば、お前がどれだけ頑張ったかわかる。よくがんばったな。行きたい場所を決めとけよ。どこにでも連れて行ってやる」

 

 

智也はいつの間にかさやかの鞄から帰って来たテストを抜き取りそれを見ながらそう言う

 

「う・・・」

 

「?」

 

「うえぇぇぇ」

 

「お、おい。何泣いて・・・」

 

「グス・・・だって・・・嬉しくて」

 

「と、とにかく泣き止めって。こんなところ桜さんに見られたら・・・」

 

(ガチャ)

「智也君、お茶・・・は、ここに置いておくわね」

 

「待ってください桜さん。せめて言い訳を聞いてください」

 

 

その後、さやかを泣き止ませたり、桜の誤解を解いたり大忙しの智也だった

 

 

  ※そして日曜日※

 

 

「あ、トモ君見て見て!可愛い!!」

 

 

結局、動物園に来た二人

超ハイテンションのさやかとそれについていく智也

そしてさやかは智也の腕に抱き着く

 

 

「お、おい」

 

「えへへ、デートなんだからいいでしょ?」

 

「はぁ、わかったよ」

 

「あ、もしかして照れてる?トモ君可愛・・あ、すいませんごめんなさいアイアンクローは勘弁してください」

 

 

攻撃態勢に入った智也を見て慌てて謝るさやか

そんなやり取りをしつつ二人はレストランへ

 

 

「はいトモ君、あーん」

 

「・・・」

 

「あーん」

 

 

無視していた智也だったが、しつこく食い下がるさやかに観念して素直に食べる

 

 

「どう?美味しい?」

 

「・・・ああ」

 

 

そう返事しつつそっぽ向く智也

 

 

「あ、ちょっと待っててね」

 

 

そう言ってどこかに歩いていくさやか

どうしたのかと思った智也だったが彼女が向かう先にトイレがある事に気付き大人しく待つ・・・が

 

 

「・・・遅いな」

 

 

10分位経ったがさやかが戻って来ない

混んでるわけでもなさそうなのにさすがに遅いと思い、智也は様子を見に行くことにする

するとそこには高校生位の三人の男に言い寄られているさやかの姿があった

 

 

(またナンパされてんのか)

 

 

さやかの顔はかなり可愛い部類に入る

同年代でもさやか程の美人はそうそういないだろう

さらに中学一年生とは思えない『おもち』を胸に持っている

故に彼女がナンパされることは決して珍しくない

しかし今日の男たちはなかなかしつこいようだ

さやかも困った表情をしている

仕方ないと思い、智也はさやかの元に向かおうとする

と、その時、男の一人がさやかの腕を掴んでどこかに連れて行こうとした

 

 

「さやか!!」

 

「あっ!トモ君!」

 

 

思わず声を荒げる智也

その声に嬉しそうに反応するさやか

 

 

「すいません。僕の連れに何か御用ですか?」

 

 

男とさやかの間に入り、そう言う智也

先程の智也の声で周囲の視線が集まっている

 

 

「・・・ちっ!リア充が!」

 

 

バツの悪くなった男達が渋々下がっていく

 

 

「大丈夫か?」

 

「こ、怖かった・・・」

 

 

智也の腕に抱き着き、涙目で震えるさやか

年上の男に囲まれ、挙句連れて行かれそうになったのだ

怖くなるのも無理はない

 

 

「悪かったな。もっと早く気づいていれば・・・」

 

「ううん。トモ君のせいじゃないよ。助けてくれてありがとう」

 

 

笑顔でそう言うさやか

その笑顔に思わずドキッとする智也

 

 

(なんだ?この感情は・・・そもそもなんで俺はさっきあんなに焦ったんだ?あの男がさやかの腕を掴んだ瞬間、頭の中が真っ白になって、つい大声を・・・)

 

「ね、トモ君」

 

「ん?」

 

「さっき初めて私の事をさやかって呼んでくれたよね?気づいてた?トモ君、私の名前を呼んだこと一度も無いんだよ?」

 

「・・・そうだったか?」

 

「そうだよ。えへへ、嬉しかったよ♪」

 

「そ、そうか」

 

 

さやかの笑顔に再びドキッとする智也

 

 

(なんなんだ?この感情は・・・さっきとは違う感じだ。さっきのは腕を掴まれたさやかを見てどこか遠くに行ってしまうような気がして焦って・・・焦る?なんで焦るんだ?今まで散々振り回されて迷惑しているはずなのになんで・・・)

 

「トモ君?どうしたの?難しい顔してるよ?」

 

「いや、何でもない。それよりさっさと続きを見に行くぞ」

 

 

そう言って智也はさやかの手を握る

 

 

「と、トモ君!?」

 

「こ、こうしておけばさっきみたいな連中も近づいて来ないだろ?」

 

「う、うん!」

 

 

さやかは繋がれた手を見て頬を染めて嬉しそうに返事をする

二人はその後も子犬のレースを見たりキリンに餌やりをしたりなど動物園を満喫した

 

 

「あー楽しかった」

 

「そりゃよかった」

 

「今日はありがとね」

 

「ああ、っとそうだ。これ」

 

 

そう言って智也はさやかに小袋を渡す

 

 

「これ・・・髪止め?私に?」

 

「ああ。テストで頑張ったご褒美だ」

 

「あ、ありがと。大切にするね」

 

 

嬉しそうに小袋を抱きしめるさやか

 

 

「ヘアゴムにしようかと思ったがお前は髪が短いからな」

 

「トモ君、もしかしてロングヘアの方が好み?」

 

「いや、人を好きになったことは無かったからよくわからないな」

 

「そっか~」

 

 

さやかは気付いていない。智也がたった今・・・

 

 

「さやか」

 

「ん?」

 

「俺と付き合ってくれ」

 

 

・・・人を好きになったことは『無かった』と言ったことに・・・

 

 

「へ?・・・ふぇ・・・?ええぇぇぇ!!?」

 

「近所迷惑だぞ」

 

「あ、うん。じゃなくて!どど、どういうこと!?」

 

「そのままの意味だ。俺と付き合って欲しい」

 

「そ、その手には乗らないよ!どうせ『買い物に』とかなんでしょ?」

 

「いや、男女交際という意味でだ」

 

「こここ、交際・・・」

 

 

顔を真っ赤にしたさやかの脳はもうオーバーヒート寸前だ

 

 

「さっき男がさやかの手を掴んだ時、すごく焦った。なんであんなに焦ったのか何度も考えて、それで何度考えても同じ答えに辿り着くんだ。俺はさやかを誰かに取られるのが嫌だったんだ。最初は鬱陶しいと思っていたのにいつの間にかお前が隣にいるのが当たり前になっていたんだ」

 

 

ストレートな告白にフリーズするさやか

 

 

「・・・黙られると困るんだが・・・」

 

「ハッ!え、えっと・・・そ、そこまでさやかちゃんの事が好きなら仕方ないなぁ。付き合ってあげるから感謝s・・・『やっぱり辞め・・・』あぁ!!ウソウソ!!トモ君大好き!愛してる!アイラブ智也!」

 

 

慌てて叫ぶさやか

 

 

「「・・・」」←恥ずかしくなって赤くなっている二人

 

「そ、それじゃあ・・と、トモ君は私の事が、すす・・・好きって・・こと?」

 

「そ、そうだ」

 

 

恥ずかしいのか赤くなって顔をそっぽ向ける智也

 

 

「そ、その・・・ふ、不束者ですがよろしくお願いします」

 

「こ、こちらこそ」

 

 

ぎこちなく言葉を綴る二人

二人はゆっくりと近づき抱きしめあう

そして目を閉じて静かに顔を近づけ・・・唇が重なった

 

 

「あ、あはは。な、なんだか照れちゃうね」

 

「そ、そうだな」

 

「あ、ここまででいいよ。今日はありがとね。じゃあまたね」

 

 

そう言って去って行くさやか

その後ろ姿を眺める智也

二人は幸せな日々がいつまでも続くと思っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが最後の別れになるとは、この時はまだ誰も知る由もなかった

 




交際を開始した智也とさやか
これから幸せな日々が始まる・・・はずだったのに・・・

次回も頑張ります

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