バカとテストとウチの弟   作:グラン

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今回はほのぼのパート
少し切ない物語


ほのぼの日常パート
第百二十九問 秀吉の想い


「おはよう」

 

「・・・」

 

 

連休明けの朝

竹原は学園に復帰し、校門で生徒に挨拶しているのだが、生徒からの風当たりは冷たい

それもそのはず、彼の悪事の噂(ほぼ事実)は全校生徒に流れているのだから

 

 

(覚悟はしていたが・・・なかなかキツイな・・・)

 

 

と、その時・・・

 

 

「おはようございます。竹原先生」

 

 

一人の生徒が竹原に挨拶し、辺りがざわめく

なぜなら挨拶した生徒は・・・彼の悪事の一番の被害者と言われている島田海人だったのだから・・・

 

 

「おはよっす。教頭」

 

「おはようさんや」

 

「「「「「おはようございます」」」」」

 

「「・・・おはようございます」」

 

 

海人に続いて雄二や英雄たちも挨拶をする(美波と優子は少し不満気)

 

 

「あ、ああ。おはよう」

 

「頑張ってくださいね」

 

 

海人は笑顔で竹原にそう言う

あれだけの事をされたにもかかわらず、自分に笑顔を向ける海人に竹原は『本当に優しい生徒だ』と思うのだった

 

 

「ああ、そうだ。島田君」

 

「?なんですか?」

 

「・・・頑張るのは君の方かもしれないぞ」

 

「?」

 

 

首を傾げる海人

竹原は校舎の方を指差す

するとそこには・・・

『海人君、優子ちゃん。交際開始おめでとう』

と、大きく書かれた横断幕が掲げられていた

 

 

「「恥ずかしいからやめてぇぇぇぇ!!」」

 

 

慌てて横断幕を回収しに向かう海人と優子

他の生徒もそれに続くように校舎に向かった

・・・一人を除いて

 

 

「・・・言っておくけど、ウチはまだアンタの事許したわけじゃないわ」

 

 

美波は竹原に向かってそう言う

 

 

「・・・でも、瓦礫の中から命がけで海人を救ってくれたことには感謝してる。海人からも『きっとこれからは心を入れ替えていい先生になってくれるよ』って言われているからこれ以上は責めないけど・・・もし海人の信頼を裏切るようなことをしたら絶対に許さないから」

 

「・・・約束しよう。二度とあんな愚行を起こさぬと・・・」

 

 

それを聞いた美波は返事を返すことなく校舎に向かって歩き出した

 

 

(・・・さやか。私はまだそっちには行けない。二度とお前のような被害者を出さぬよう、私は教師を続けるよ)

 

 

心の中でそう思う竹原

彼の耳には『頑張って』という娘の声が聞こえたような気がしたのだった

 

 

 

  ※昼休み※

 

 

「「疲れた~」」

 

「えっと・・・お疲れ様」

 

 

みんなで昼食をとるために屋上に集まっている一同

海人と優子はそれぞれ質問攻めに合い、クタクタになっている

 

 

「大体、アタシと海人君が付き合い始めたのは一昨日よ!?なんでもう情報が洩れてるのよ!」

 

「ま、まぁまぁ、遅かれ早かれわかる事なんだし・・・」

 

 

優子を宥める愛子

しかし、二人の交際をばらしてしまったのは実は彼女なのだ

昨日、街をうろついている時に偶然、放送部の新野すみれに遭遇し、うっかり喋ってしまったのだ

内心、優子に怒られないかヒヤヒヤしている

 

 

「そ、それより代表たち遅いね」

 

 

無理矢理に話題を変える愛子

クラス代表の集まりということで、雄二、翔子、友香の三人はまだ来ていない

 

 

「うーっす、待たせたな」

 

「・・・遅くなった」

 

「お疲れさんや。で?議題はやっぱり・・・」

 

「・・・ああ、根本の退学の知らせと後任のBクラス代表の事だ」

 

 

当然と言えば当然だが、根本恭二は学園を去った(形式上は自主退学)

となれば新しくBクラス代表を決めなくてはならない

 

 

「新代表は岩下律子。副代表は菊入真由美だ」

 

 

代表変更のルールは、まずBクラス内で決めてそれを代表会議に提出

そこで過半数の賛成があれば可決となる

 

 

「ま、四天王の誰かになるようだったら反対するつもりだったがな」

 

「・・・満場一致で可決された」

 

「ところで副代表って何?」

 

「副代表は欠席などで代表不在時に代わりに代表になる奴のことだ。ちなみにウチのクラスは明久だぞ」

 

「は?聞いてないんだけど?」

 

「ああ、言ってないからな。だが点数と操作技術を考えれば当然だろ?」

 

 

まぁそりゃそうだなと一同は納得する

 

 

「なら坂本君がいない日は戦争を仕掛けない方がいいわね」

 

「おいこら木下姉、そりゃどういう意味だ?」

 

「そのまんまの意味だけど?」

 

 

雄二を挑発する優子

一昨日海人との時間を邪魔されたのを根に持っているのか、言葉に少々棘がある

 

 

「そ、それより早くお昼にしようよ」

 

「そうね。はい、アキ、海人、優子」

 

「ん?木下姉の弁当も作って来たのか?」

 

「もちろんよ。ウチの義妹になったんだから」

 

「ま、まだ籍は入れてないわよ!」

 

「ふーん・・・『まだ』ね?」

 

 

愛子がニヤリと笑いながらそう言うと、優子と海人は耳まで真っ赤にして俯いた

 

 

「ん?そう言えば秀吉はどうしたんだ?」

 

「なんか演劇部の方で集まりがあるから今日はパスだって」

 

「・・・」

 

「ん?どうしたの優子さん?」

 

「いや、なんでもないわ」

 

 

何かを考え込む優子に海人が声をかけるが、優子は何でもないと言い、一同は食事を始めるのだった

 

 

 

  ※一方その頃※

 

 

「はぁ・・・」

 

 

木下秀吉は比較的人通りの少ない場所で溜息をついていた

 

 

「ワシは何をしておるのじゃろうな・・・」

 

 

演劇部の集まりと言うのは嘘で食事もとらずぼんやりしている

 

 

「秀吉君?」

 

「?清水ではないか。こんなところで会うとは奇遇じゃのう」

 

「・・・何かあったのですか?」

 

「何の話じゃ?ワシは別に・・・」

 

「嘘です。一昨日のお兄様と優子さんの病室での一件を見てからずっと元気が無いでしょう。美春では頼りないかもしれませんが、話してみてくれませんか?美春は秀吉君の力になりたいんです。抱え込むより誰かに話した方が気持ちが晴れるかもしれませんよ」

 

「・・・そう・・・じゃの・・・どちらにせよこのままではいけぬからの・・・」

 

 

秀吉は溜息をつきながらそう言う

 

 

「ワシはの・・・姉上が好きだったのじゃ」

 

「え?」

 

「家族として、ではない。一人の女性として、じゃ。もちろん絶対にこの想いが叶わぬことはわかっておったのじゃ。じゃが、海人と姉上が結ばれたのを見て素直に喜べなかった。姉上が幸せになれるのに・・・いままでそのためにずっと応援してきたのに・・・いざこうなってしまうと、姉上がどこか遠くに行ってしまうような気がして喜べなかったのじゃ」

 

 

耐えられなくなった秀吉はポロポロと涙を流し始めた

 

 

「最低じゃろう?気持ち悪いじゃろう?実の姉に恋するなど・・・笑いたければ笑えばよい」

 

「そんなことありません!!」

 

 

秀吉の言葉に美春は叫んだ

 

 

「一番身近にいた女性を好きになって何がおかしいんですか!?全然おかしくないし、気持ち悪くないし、最低ではありません!」

 

 

美春はそう言うと、秀吉の手を握り・・・

 

 

「世界中の誰が笑っても美春は笑ったりしません」

 

 

秀吉の目を真っ直ぐ見つめてそう言った

 

 

「・・・ありがとうなのじゃ。おかげで少し気が楽になったぞい」

 

 

握られていない方の手で涙を拭いつつ笑顔でそう言う秀吉

それを見た美春は顔が赤くなる

その直後、未だに秀吉の手を握っていることに気付き慌てて離す

 

 

「げ、元気が出たのならよかったです。で、では美春はこれで・・・」

 

 

恥ずかしくなったのか、美春は顔を真っ赤にしたまま脱兎のごとく走り出した

 

 

  ※放課後※

 

 

「あ、やっと来たわね」

 

「姉上?こんなところでどうしたのじゃ?」

 

「アンタ、確か今日は部活が無いって言ってたでしょ?だからたまには一緒に帰ろうかと思ってね」

 

「?姉上は部活はどうしたのじゃ?」

 

「ちょっと体調がすぐれないから休んだのよ」

 

「!!」

 

 

ポリポリと頬をかきながらそう言う優子

しかし秀吉は知っていた

この『頬をかく』動作は優子が嘘をつくときの癖であることを・・・

そう、優子は元気の無い弟の事を心配して部活を休んだのだ

 

 

「・・・姉上」

 

「ん?」

 

「ワシは・・・姉上の弟に生まれてよかったのじゃ」

 

「何よ?急に・・・」

 

「別に、ふとそう思っただけなのじゃ♪」

 

「?変な子ね」

 

(海人・・・姉上の事を頼むぞい)

 

 

こうして木下秀吉の決して叶うことのない恋は静かに幕を閉じた

 




秀吉の想い人は優子でした・・・
過去にも秀吉がシスコンという感じはありましたけどね
たとえば第三十七問の辺りとか・・・
これが秀吉と美春がなかなかくっつかなかった理由です

次回も頑張ります

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