バカとテストとウチの弟   作:グラン

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今回は思いつき短編集四話を収録
サブキャラがメインとなるので主要キャラはあまり出てきません
予めご了承ください




第百二十二問 ショートストーリー

  ※英雄君と友香さんの日常※

 

 

小山友香は悩んでいた

英雄と恋人同士になったはいいものの、恋人らしいことは全くしていない

 

 

(だ、だってしょうがないじゃない!当初は英雄は甲子園予選の真っ最中だったし、それが終わってすぐみんなで旅行に行って、帰ってきたら今度はアタシの部の試合が近づいてその次は体育祭で・・・)

 

 

ビックリするほどのタイミングの悪さである

それに加え人前では素直になれず冷たく当たってしまう始末

 

 

(次の週末が勝負よ。今度は野球部は試合はしばらくないし、ウチの部の試合もだいぶ先だ。テスト週間前のこの週末、今度こそデートに・・・)

 

 

そんなことを考えつつ友香は英雄を探す

そして英雄の姿を見つけた

 

 

「ひで・・・」

 

「好きです!付き合ってください!」

 

「!!」

 

 

友香はびっくりして隠れる

そう、今まさに英雄は・・・女の子に告白を受けていた

 

 

(あの子・・・同じクラスの吉野さん?)

 

 

しかも告白しているのは同じクラスの生徒だった

物静かな子であまり話したことは無い相手だ

ただ・・・何度か話しかけたときは少し冷たい感じがある子だと思った

 

 

(・・・顔立ちが整ってて可愛い。それに・・・デカい)

 

 

友香は吉野さん(主に胸元)を観察しつつそんなことを考えている

瑞希や玲ほどではないものの、なかなか立派なモノをお持ちのようだ

 

 

「あー・・・その・・・気持ちは嬉しいんやけど」

 

(英雄・・・)

 

 

自分より可愛い子からの告白をちゃんと断ってくれたことに安堵の溜息を漏らす

 

 

「中島君がウチの代表と付き合っていることは知っています。でも・・・なんであの人なんですか!?いつも中島君の事を冷たくあしらって、ちょっとしたことで怒るような酷い人じゃないですか!私だったら・・・その・・・中島君が求めるならなんでも・・・」

 

 

(そっか・・・)

 

 

その言葉を聞いて友香は彼女の自分への態度の意味を理解した

彼女は・・・自分の想い人と付き合っているのに、それを冷たくあしらっている友香の事が嫌いだったのだ

英雄に暴力を振るっている友香の事が気に入らなかったのだ

 

 

「それは魅力的なお誘いや。ありがとな」

 

「!!」

 

 

その言葉を聞いた友香は胸が締め付けられるように痛んだ

 

 

(そっか・・・そりゃそうよね。アタシみたいな可愛げのない女より、吉野さんみたいな素直で可愛くて胸の大きい女の子の方が良いに決まってるわよね)

 

 

友香は自身の今までの行動を後悔しつつ、スカートの裾を握り締め、目尻に涙を浮かべる

 

 

「でも、やっぱりゴメンな」

 

(え!?)

 

「それでも俺は友香が好きなんや。たしかにちょっと素直じゃないところもあるで。でも、俺は友香の優しいところをたくさん知っとる。こんな気持ちで吉野さんと付き合うんは吉野さんにも友香にも失礼や。せやから俺はその想いに応えられへん。ごめんなさい」

 

「・・・そう・・・ですか。わかりました。ちゃんと答えてくれてありがとうございます。代表とどうかお幸せに」

 

 

英雄は静かに首を縦に振ってその場を去った

 

 

「・・・代表、そこにいますよね?」

 

「ご、ごめん。盗み聞きするつもりは・・・」

 

「いいですよ。人の恋人を奪おうとした私も悪いですから。これだけ愛されてるんですからちゃんと中島君に優しくしないとダメです。でないと・・・色仕掛けで中島君を奪っちゃいますよ?」

 

「だ、ダメ!・・・ハッ!」

 

 

吉野の言葉にとっさに叫んでしまう友香

直後、恥ずかしくなり顔を赤くして口を抑えるが時すでに遅し

 

 

「ぷっ、ふふっ、代表って意外と乙女なんですね。もっと心の冷たい性悪女だと思ってました」

 

「・・・どストレートに言うわね・・・」

 

 

満面の笑顔で暴言を吐く吉野

 

 

「中島君の事、大切にしなきゃダメですよ」

 

「・・・うん」

 

 

真面目な表情でそう言う吉野に対し、友香は顔を赤くし静かに頷いた

それを見た吉野は静かにその場を去った

 

 

そして翌日・・・

 

 

「英雄」

 

「ん?どうしたんや?」

 

「はい」

 

「?これは?」

 

「見てわからない?お弁当よ。アンタどうせ購買のパンでしょ。たまにはちゃんとした物食べなさい」

 

「わざわざ作ってくれたんか?」

 

「か、勘違いしないでよね!自分の分を作ったついでなんだから!!」

 

 

顔を背けながらそう言う友香

弁当箱を持つその指には絆創膏が巻かれており、それを見た英雄はクスっと笑う

 

 

「な、何よ。いらないんだったらいいわよ」

 

「あぁ!いるいる!ありがとな友香」

 

 

そう言って弁当箱を受け取る英雄

 

 

「友香」

 

「ん?」

 

「愛してるで」

 

「・・・バカ」

 

 

 

 

 

  ※暴走少女に目を付けられた少年※

 

 

「あ、優子さん」

 

「あら海人君」

 

 

放課後、海人が部室に向かって歩いていると同じく部室に向かっている優子を発見

余談だが、優子はすでに女子更衣室でジャージに着替えている

 

 

「さて、今日も練習頑張ろう!」

 

「ちゃんと休憩取らなかったらお説教だからね」

 

「お、お手柔らかにお願いします」

 

 

毎日必要以上に練習する練習狂の海人に対し、優子が海人を叱るのはもはや日課のようになっている

 

 

『助けてくださいッス!!』

 

 

そんな会話をしていると向こう側から後輩の野村球太郎が・・・パンツ一枚で走って来た

 

「きゃあああああ!!」

 

「き、球太郎君!その格好は・・・」

 

「へ、変な女の人に服を奪われたッス!それで・・・」

 

『待って!私の天使ちゃん♪』

 

「ヒィィィ!!き、来たッス!!」

 

 

野村は慌ててその場から逃げ去った

その直後・・・

 

 

「あれ?玉野さん」

 

「あ、優子ちゃん。こっちに私の天使ちゃんが来なかった?」

 

 

フリルのついたコスプレ服を両手に持った玉野美紀がやってきた

『天使ちゃん』と言うのは十中八九、野村の事だろう

 

 

「え、えっと・・・」

 

「待てよ、これ優子ちゃんに似合うかも・・・」

 

「あっちに行ったわ」

 

 

あっさりと野村を売る優子

それを聞いた玉野は『ありがとう』と言って走り去って行った

 

 

「ごめんね野村君。どうか御無事で」

 

「あ、あはは。まぁいくらなんでも球太郎君の俊足に追いつけるわけ・・・」

 

『いた!私の天使!』

 

『ぎゃああ!見つかったッス!!』

 

「「追いついた!?」」

 

 

野村と玉野の鬼ごっこはしばらく続くのだった

 

 

 

 

  ※ムッツリとスパッツの日常※

 

 

「ここはこの式を使って・・・」

 

「・・・なるほど」

 

「ふぅ、にしても康太君、保健体育以外の科目を勉強する日が来るとはね」

 

「・・・俺は他のみんなに追いつきたい。俺は雄二みたいに頭がキレるわけじゃない。秀吉や海人みたいに部活に力を入れているわけでもない。試召戦争でも強化合宿でもこの間の体育祭でも俺は役立たずだった」

 

「で、でもたしかBクラス戦で根本君を倒したのは康太君じゃ・・・」

 

「・・・結果はそうだが、あの時明久と島田が根本を追いつめていた。俺がいなくても勝っていたんだ」

 

 

康太の想いを黙って聞く愛子

 

 

「・・・だから俺は変わりたいんだ。知ってるか?明久の奴は今でこそAクラス下位並みの成績だが、入学当初は学年最下位だったんだぞ?」

 

「そうなの!?」

 

「・・・島田に惚れて相応しい男になるために努力したと聞いている」

 

「そうなんだ・・・なんか凄いね」

 

「・・・ああ、俺はアイツのそういうところを素直に尊敬している。俺もアイツみたいに変わりたいと思うほどにな・・・」

 

「そうだったんだ。そういうことなら協力するよ。厳しく行くからね♪」

 

「・・・お手柔らかに頼む」

 

 

そう言って二人は勉強を再開した

 

 

「・・・工藤」

 

「ん?」

 

「・・・次のテストで50位以内に入れたら言いたいことがある」

 

「?今じゃダメなの?」

 

「・・・ああ」

 

「わかった。じゃあ頑張らないとね♪」

 

 

(言いたいことってなんだろう?)

 

(・・・今のままじゃダメだ。もっと成績を上げてそして工藤に俺の想いを・・・)

 

 

この二人のゴールは・・・近い?

 

 

 

 

  ※須川君と佐藤さん※

 

 

「なんでこうなったんだ?」

 

 

とある休日、須川は今・・・駅前に来ている

その理由は佐藤美穂との待ち合わせの為だ

体育祭終了後、須川は佐藤に『す、須川君は次の休み、空いてる?』と聞かれていたのだ

 

 

(佐藤さんから呼ばれるとは・・・まさかこれってデートか?いやまさかな。きっと体育祭の打ち上げとかそんなんだろう。そうに決まっている)

 

「須川君!」

 

 

須川がそんなことを考えていると佐藤がやってきた

 

 

「遅くなってごめんなさい」

 

「いや、俺もさっき来たばっかりだから」

 

「よかった。それじゃあ行きましょうか」

 

「え?あ、あれ?」

 

「?どうかしたんですか?」

 

「い、いや、なんでもない」

 

(他の奴はいない?ってことはやっぱり・・・いやいや、そんなはずはない)

 

「佐藤さん。ところでどこに行くの」

 

「え?ああ!ご、ごめんなさい!目的地を伝えるの忘れてました!その、友達に水族館のチケットをもらったので一緒に行こうと・・・」

 

 

それを聞いて須川は再び考える

見たところ佐藤が持っているチケットは二枚しかない

やっぱり他には誰も来ないのか?などと考えていると・・・

 

 

「あの・・・迷惑でしたか?」

 

「い、いやいや!そんなことないよ!俺、動物は大好きだし」

 

「よかった。(近藤君の言った通りです)」

 

(やっぱりデートなのか?いや、きっとそろそろ『ドッキリ大成功』とか書いた看板を持った近藤が出てくるに違いない)

 

「?」

 

「あ、ごめん。それじゃあ行こうか」

 

「はい」

 

 

そう言って二人は歩き出す

そして近くの文月水族館に到着

チケットを係員に渡して入場

 

 

係員?『目標、館内に入りました』

 

『了解、なるべく接触は避け、静かに見守るんだ』

 

 

二人の背後でそんな会話が行われているとも知らずに・・・

そして二人は館内を見て回り、イルカのショーの看板を見つけてそちらに移動

休日ということもあり、かなり混んでいるため、座ることは出来ず立ち見となった

 

 

「おぉ!すげぇ!」

 

(須川君、凄く楽しそう。本当に動物が好きなんだなぁ。ふふ、来てよかった♪)

 

 

隣で子供のように無邪気な須川の姿を見てクスっと微笑む佐藤

が、そこに・・・

 

 

(・・・え?)

 

 

 

『近藤副会長、緊急事態です。佐藤さんが痴漢に遭っています』

 

「チッ、須川あのバカ!女の子放ってはしゃいでんじゃねえよ!」

 

 

離れた位置から双眼鏡で確認するとそこには、人ごみに紛れて佐藤のお尻を触っている男と涙目になって震えている佐藤、そしてそれに全く気付かずイルカのショーに夢中の須川の姿があった

 

 

『救出に向かいます!』

 

「待て!接触は避けろ」

 

『しかしこのままでは・・・』

 

 

たしかに痴漢男は手慣れた感じがある

このままだと最悪、彼女の貞操の危機だ

 

 

「わかっている。サバイバル研究部の武田。そこから狙えるか?」

 

『任せてくれ。痴漢男なんざ一撃で・・・』

 

「いや、そうじゃない。狙うのは・・・」

 

 

 

 

「おお!(ビシッ)・・・って、痛っ!」

 

 

何かが頭に当たり思わず顔を覆う

 

 

(なんだ今の?・・・ん?佐藤さん、震えて・・・)

 

「い、いや・・・もうやめ・・・」

 

 

今まではしゃいでいて気付かなかったが、佐藤は擦れるような声でそう呟いている

よく見ると佐藤の胸とお尻を何者か(おそらく男の手)が鷲掴みにしており、佐藤は恐怖でポロポロと涙を流していた

それを見た須川の中で何かがキレた

 

 

「テメエ!何してやがる!」

 

「ちっ!」

 

「待て!」

 

 

須川がその手を掴み叫ぶと、男は須川の手を振り払い、一目散に逃げ出した

須川はそれを追おうとしたが、あいにく痴漢男の顔は見えなかった

これでは誰が犯人なのかわからない

それにこの状態の佐藤を放っておくこともできない

さらに先ほどの叫びで周囲から注目を浴びてしまった為、周りはざわついている

須川は慌てて佐藤を連れその場を離れた

そして人気の少ないベンチに座る二人

気まずい空気になっている

 

 

(俺はバカだ・・・女の子を放って一人で楽しんであげくあんな危険な目にさらすなんて・・・最低だ)

 

「佐藤さん」

 

「須川君」

 

「「ごめんなさい」」

 

「え?」

 

 

佐藤に謝られ、きょとんとする須川

 

 

「須川君、凄く楽しそうだったので邪魔したくなかったんですけど我慢できなくて」

 

「そ、そんなの我慢しなくていいよ!悪いのは俺の方だよ。二人で遊びに来てるのに一人で楽しんで・・・ホント最低だよ」

 

「そんなことないです。須川君は私の事をまた助けてくれたじゃないですか。ありがとうございます」

 

 

佐藤の笑顔を見た須川は顔が赤くなっていく

 

 

「さ、さて!嫌なことが吹き飛ぶ位楽しもう!今度は二人でね」

 

「はい!」

 

 

そう言って二人は歩き出す

そしてしっかりと水族館を満喫した二人は集合場所になっていた駅の近くの公園に来ていた

 

 

「今日は楽しかったです。ありがとうございました」

 

「俺もだよ。ところでなんで俺を誘ったの?せっかくチケットを手に入れたんなら俺なんかより好きな人を誘った方が・・・ひっ!?」

 

 

須川がそう言うと佐藤は不機嫌そうな表情で須川を睨む

 

 

「須川君には私がそういう女に見えますか?」

 

「へ?」

 

「だから、私が、好きでもない人をデートに誘うような軽い女に見えますかって言ってるんです!」

 

「え・・・いや・・・え?」

 

「私は・・・須川君が好きです。一年前、須川君に助けられてからずっと見てきました。人の恋を応援して仲間想いでとても優しい人だって思いました。そんな須川君の事が私は大好きです」

 

 

顔を真っ赤にしてそう言う佐藤

生まれて初めて告白を受けた須川の顔も真っ赤である

 

 

「俺は・・・俺も佐藤さんの事が好きだ。佐藤さんに出会う前の俺は嫉妬で人を傷つける最低の人間だった。でも君に出会えて変われた。体育祭で一緒に二人三脚をして佐藤さんの笑顔に見惚れて、自分が佐藤さんの事が好きなんだって気づいた。俺と付き合ってください!」

 

「はい。よろしくお願いします!」

 

 

そう言って二人は唇を重ねた

 

 

「えへへ、ちょっと恥ずかしいですね」

 

「そ、そうだね。それじゃ、帰ろうか。佐藤さん」

 

 

須川がそう言うと笑顔だった佐藤は一気に不機嫌な顔に

 

 

「ど、どうかした?」

 

「・・・美穂」

 

「え?」

 

「美穂って呼んでください。ここ、恋人なんですから」

 

「う、うん。わかったよ。み、美穂」

 

「うん!亮君♪」

 

 

そう言って二人は手を繋ぎ、駅に向かって歩き出した

余談だが、佐藤に痴漢を行っていた男は黒い集団によってどこかに連れて行かれたそうだ

 

 




字数が過去最高という
英雄編と須川編が長くなりすぎましたね
単独で一話でよかったかな?

次話からはいよいよ新章突入!

次回も頑張ります

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