忘れられた龍の秘跡 〜MonsterHunter Legend 〜 作:妄猛総督
昔の話をしよう。そもそもかの者はいつ生まれたのか?という話だ。
これは私もわからない。かの精霊王もその存在は知ってはいたがどのようなものなのかは分からなかったようだ。
これはマザー・ドラゴンだけが唯一知っていると思うだろう。事実、その通り。
私はかつてそれを問うたことがある。マザー・ドラゴンである彼女はポツポツと語ってくれた。
曰く、それは
生きとし生けるもの、全ての敵対者。かの黒龍に類似した、否、凌駕した己以外のものを認めず、喰らい、踏み潰し、薙ぎ払う。
生態系を自在に作り替えるわけでもなく。
逃れぬ運命でもなく。
世界を凍てつかせるのでもなく。
まさしく、かの龍こそ歪みそのものに身を置く概念なのかもしれない。
この星に今の文明が生まれるずっと前から、遥か彼方より現れし神と呼ばれし悪龍。それが忌龍。今まさにこの地に降り立つものこそ、一万二千年前に世界を滅ぼしかけた忌まわしき龍そのものであると。生物の6割が絶滅しかけ、その結果、その力を恐れた人々は禁を犯し、後世にて竜大戦に発展させた厄災にしてそこから古きシュレイドの愚を犯した。
さらに、その名は忌み嫌われたが故にこう名付けられた。
ーー『忌龍』 メドラヘリオス
暗黒の太陽と呼ばれた、モンスターハンターにあり得ざる
ーー
封魔殿の上空。そこに暗黒の光はあった。並行世界から現れたおびただしい数の刻竜が暗黒の光に飛び込んでいく。あらゆる概念を無視してそれに群がる刻竜は飛び込むごとに形を形成していく。
先ずは腕が。おそらく右腕だろうか?
艶もない漆黒の腕にドクンドクンと波打つ血管のような機関が気味悪く胎動する。
そして左腕。
次に胴体が形成された。露出した心臓が生々しく胎動しそれを守るかのように肋骨に似た甲殻が覆い、無数の目に似た器官がギョロギョロと動く。
次に翼。シャガルマガラのように翼爪、翼腕があり、翼膜は星から見上げた天の川のように。
次に下半身が。太く、強く、巌のような、重量感溢れる四肢。
そして、頭と尾が形成された。羊のようにねじれ曲がった角を持ち、その頭上に黒い円環が輝く。眼は虚で見る者の心を改竄する。尾はしなやかに、常に揺れて止まることがない。
ーーあまりに生物として異形。龍の名を冠するとしてもその姿は禍々しい。
星の外より現れし侵略者は永き時を経て再び現世に姿を表した。
【止められなかったか。奴の限界したことで並行世界がこの特異点と融合したのだ。奴が暴れれば世界が消えるというのを忘れるな】
時空が異なるある場所で。輝きの丘ではない。霊界と呼ばれる精霊たちが本来の力を封じ込めている場所。早い話が控室である。
そこには精霊王含めて、幻天狐、森猿、神魚、幻獣、妖精、そして、伝道者が揃い踏みであった。
神龍の覚醒を確認するやいなや精霊王は分体を全員呼び戻し、さらに精霊全員招集した。流石に霊位祖龍はここにはいない。
【最終確認だ、神龍が現界したことはこの際置いておくとして。
まずはソフォクレス、貴様はあの異常空間を閉鎖、隔離しろ。あのままだと奴の超重力で、この星が捩じ切られる】
『御意』
【幻天狐、妖精よ貴様らは人間と共に防御壁を展開せよ。防衛拠点を設置し、確実とせよ】
《クオオオオオオオオオオオオオオオオ!!》
『はいなの!!』
【他は各自に動け。だが、先ずは神龍迎撃に必要な環境を整えてからだ。それと、これだけは言っておく。この戦いが我々星の守護者としての最期の戦いとなるだろう。文字通り、最期だ。ここが我々の死地となるだろう】
かつては、死に物狂いで戦い、生態系を一から作り直すレベルまで世界を荒廃させ、その末に一歩手前で封印できたが。しかし、現状目覚めてしまった。
【時間だ、ゆくぞ】
その日、忌龍から見れば小さな六つの光が天をかけて行った。
ーー
「お姉ちゃん?どうしたの、結界なんて張って?」
「妃星、貴方は神龍って知ってる?」
ーー知らない、少女はたしかに答えた。
「私たちはね、たしかに法則でほぼ無敵。インフレを通り越してナニカになっている。けどそれは世界から逸脱してないでしょ?」
ーーそれはたしかにあるけどさ。
「じゃあ、貴方、いくつも宇宙作り出しているけど、このモンスターハンターの世界を創生はできないでしょ?かくいう私も星における創生はできるけど基盤となる原始界の創生は出来ないんだけどね♪」
ーーそうだ、宇宙をいっぱい作ったけど。ブレス一つで宇宙消し飛ばせるけど。星を生み出して、ブラックホールさえできるけど、世界を創生はできてない。いや、出来ない。創生に必要なエネルギーがこの身では到底足りない。
「神龍はね、かつて世界を滅ぼしたことがあるの。いや、どちらかといえば完全に滅びる寸前かな?本当に本当に滅びる寸前まで抗い、星の生命の三分の二が消える代償に何とか封印した規格外。言っておくけど並行世界含めた生態系3分の2だからね?私も見たこともないし、話を断片的に聞いただけだから、雰囲気でなんだけどね」
ーーなにそれ、怖い。そんな化け物が目覚めた?ははっ、笑えないよ。
「うん、笑えないね。貴方の目なら見えるんじゃない?ほら、アレがーー全ての敵対者たる忌龍メドラヘリオスだよ」
指差してその方向を目一杯視力を注いで見た。
ーー絶句。いや、いやいやいや、ありえないでしょ!なにアレ!!あんなのどう相手しろと!?規模が既にオーバーヒートしてるんですけど!!?
「そうだね、禁忌みんなで攻撃すればワンチャンあるかもね。攻撃できていると認識が出来ればだけど」
ーー
「ありえねえ………どう相手しろと?」
庭園のあるエリアで祖龍から見せられた世界の異変の元凶。それを見た感想がこれだった。
勝つ、負ける以前に例えるなら人間を蟻、相手を溶山龍くらいのこの差をどう埋めろ、ということだ。
「今、精霊たちが戦ってるわ。けど、彼らではほぼ勝ち目はないといってもいい」
「そりゃ、そうだろ。前に出てきた精霊王でもビビりかけたのにこんなの、戦意なんてとっくに消えてるぞ」
なんて小さいんだろう、自分たちは。ダラ・アマデュラという規格外な古龍種がこの神龍を見れば何と小さいことか。
「覚醒直後で動きが緩慢なのが幸いだね。けど、慣れてきたらもう……。それまでに倒さなくてはいけないんだ、正直、私も逃げたい気持ちだよ」
ーー
『くう……!!なんて、パワーだ。今ので……銀滅の世界の境界線が破壊されたかな?!星焔は……霊位の祖龍が結界を張ってるからまだ待つけどいつまで耐えられるか……』
ーー既に繋がってしまった世界は少し、面白いモスの世界が。
『結界も壊れかけてるね、神滅の世界は。あのアルバトリオンでも神龍の攻撃は堪えるみたいね』
【ソフォクレス、なにをやっている!!幻天狐と同時に防御壁を展開しろ!!腕の薙ぎ払いがくるぞ!!】
『え、えわ、あわわわぁ!?』
大慌てで、杖を振るい、幻天狐の『黄泉の冥鏡』を強化して薙ぎ払いを阻む。
そして、凄まじい速度で横薙ぎに降るわれた右腕が強化された黄泉の冥鏡に直撃する。それはまるで壁。果てが見えない壁が押し寄せているように見えた。
ーーく、くぅぅぅ、アアアアァァァァァァァアアアア!!?
《クウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?》
阻止はできたが、余波で半径五キロの環境が粉微塵と化した。川が、湖が、山脈が、森が、平原が、街が。何もかもが砕け散る。いや、神龍にとってそれは砂でできた城を壊す脆い何かでしかないのだろう。
そして、きりもみに吹き飛ばされて木の葉のように吹っ飛んでいった。
その際に構築していた結界が破損する。破損したところから神龍の古龍種としての力、存在定理により消滅し、超重力の渦に取り込まれる。
【く、やはり。星のバックアップ持ってして防御を回しても防ぎきれんか。仕方がない。
ーー星よ!!容認したまえ!!】
広大な宇宙を翔けるように飛翔している精霊王は、全力を出せるよう制限をかけている抑止力に働きかけた。
【っ!?なにを、何を躊躇っている!】
しかし、この身に流れた力は本来の力の役八割しか流れてこない。やはり全力での現界を認めないらしい。神龍の現界になにを躊躇うのかはわからない。
空間を裂き、光を纏う。光の中から白銀を基調とし虹色に輝く狼が姿を現わす。
以前、姿を現した時と違うのはたなびく羽織のような器官が透明で七色に光る翼に変形していることだろうか。
翔ける精霊王の背後は彗星のように美しく軌跡を描き、神龍との距離を詰める。
距離があまりにも遠いところは森猿の遠心力を使い、距離を稼いでもらう。
しかし、神龍の異様さは常軌を逸脱している。たどり着くまでにすぐと思われるほどなのに、あまりにも遠い。
【ちぃ、また並行世界が!】
時間がもはやない。
すると、神龍が爪を振り下ろそうとしている。先程、防御壁を展開できる幻天狐はまだ、復帰していない。
さらに追い討ちとしてなのか、その体から幾億の刻竜が群れとなって押し寄せてくる。
【《ウオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーォォォン!!!》】
右腕のブレードが未知の属性エネルギーの奔流となって極極太の光剣が生まれる。それは神龍の爪と同じくらいの巨大さを誇り、渾身の力をもって振り下ろす!!
精霊種の力の源であり、星が生きていくための生命エネルギーである
爪と光剣がぶつかり、凄まじい振動が結界を完全に消し飛ばし、並行世界に伝わりその余波はさらに周囲を襲う。空間に亀裂が入り、疑似的なブラックホールとなって吹き荒れる。しかし、互いの威力は同じであったため、衝撃発生点を重ねることで最終防衛ラインに対する衝撃はゼロになった。
【オオオオオオオオオオォォォォォォォォァァァァァァァ…………… !!!!!!】
神龍のうなり声は、その口から漏れ出る吐息に触れた大地はドロドロに溶けた岩石になることもなく、気体と化した岩石、岩石蒸気となって熱風が吹き荒れる。
【《ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!》】
ただ息をしただけで精霊王は木の葉のように吹き飛ばされてしまう。森猿が吹き飛ばされながらとっさに受け止めなければどこまでも吹き飛んでいったに違いない。
同じように神魚も吹き飛ばされ、妖精は紙のように飛んでいった。
先程の一撃は、押し寄せていた刻竜、約七割を削ったが、まだ残っている刻竜が防衛拠点に押し寄せて破壊せんと群がる。
パギャンっ!!
あり得ざる雷鳴が刻竜を焼き払う。雷鳴を放ったのは幻獣キリンと特異点の祖龍である。
しかし、多勢に無勢。広範囲に吹き飛ばしても無限に沸くかのように刻竜は神龍の体から羽ばたいてくる。無限とも言える数が概念を飛び越えて襲いかかってくる。
《キュウゥゥゥゥゥゥン!!!》
《ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!》
幻獣キリンは角を制御して前方に向けて雷の剣を可能な限り形成する。
祖龍も真祖として力を解放して赤い雷撃を放つ。
白く染まり、閃光に飲み込まれていった。だが、忌龍にとってはそれは小さな光に過ぎなかった。侵略者は翼を羽ばたかせて侵攻する。
精霊と忌龍、初撃は精霊の大敗、圧倒的な数と巨体の暴力に撤退を余儀なくされたのだった。
忌龍による世界と生物、文明の完全なる蹂躙まで『ーーーー』