忘れられた龍の秘跡 〜MonsterHunter Legend 〜   作:妄猛総督

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多分今までで一番書いたと思うよ。次回、最後の龍帝編は終わり、神龍へ。


今までかつてない絶望が現れる。【予告】


人の夢と書き儚きは、ただかつての守りし輝きなり

パリィっ………!ブゥンッ!!

 

 

ビリビリビリビリ……!

 

ピシャアアアアンッ!!!

 

まさに空気が震える、そんな表現が一番しっくりくる。

 

空間が歪み、姿を現した精霊王はなんと表せばいいのだろう。

 

どこまでも威厳に満ち、荘厳で優雅で、神聖で、不可侵で、いやもう表すことさえおごまかしい。

溢れ出る神気は、あの魔王でさえすくみ、その場を動かないのだから。

 

太陽の輝きさえ精霊王の背負う後光の一部に過ぎず、溢れ出る王のオーラはあらゆるものを畏怖の底へと突き落とす。

 

ーー白銀と淡い薄緑の外殻に、七色に輝く尾が焔のように動く。

琥珀色の瞳は獣のように冷酷で常に正せと象徴のように。腰の部分にある折りたたまれた扇のような外殻機関は薄緑色にラインが入り、時節発光し美しい。

 

前足にあるあまりにも目を引くブレードは爪が肥大し肘まで伸び敵を切り裂く。

王者の貫禄を讃える鬣は太陽の光を浴びて銀色に光る。

 

だが、眼下を見下ろしてソフォクレスに対し怒りを静かに放つ精霊王。星が望んでソフォクレスに命じ連れてきたことは遺憾だが認めようとした。

 

だが、魔王の復活、その事態を読めなかったことに怒りを抱いているのだ。

 

『むーー、そふぉくれすいじめちゃだめ!おうさまにはなんどもじきそしたのに!!きいてくれないんだもん!!』

 

ピクシーは抗議の声を上げながら精霊王の周りを飛んでいる。しかし、精霊王は牙を剥かせながら前足を叩きつける動作をした。それだけで地盤が砕け、空間は軋み或いはズレ、龍脈がズタズタに引き裂かれる。人型でない分、獣としての本能が滲み出るようだ。

 

『精霊王、流石にそれは今のこれを解決してからでいいんじゃないかな?堕ちた同胞は精霊王、貴方が処すると決めたのではないですか』

 

やれやれ、と肩をすくませながらソフォクレスは精霊王に意見を申し上げた。

すると、精霊王は獣としての姿がカッ!と光り輝くと人の姿に姿を変えた。以前と違うとすれば、人に獣の要素が多く含まれていることだろうか。

 

人の目より鋭い琥珀色の三白眼、スラリと美しい狼の耳に、白を基調とした七色に輝く尾が焔のように揺らめく。引き締まった腕は肘から爪が肥大したと思われるブレードが両腕にあり、刀身は尾と同じく白に七色に輝く。

 

上半身は裸で、下は袴である。上半身には常に胎動する幾何学模様の入れ墨のようなものが刻まれている。どうやら、今回は男性として現界したようだ。

 

【ふん、堕ちた同胞と聞いたが‥‥‥‥‥変砂の蠍王か。くだらん、我など必要ない。ソフォクレス、貴様が呼び込んだ勇者どもで十分だ】

 

 

『ーーっ!?いや、流石に無理じゃないかなっ!?いくらなんでも精霊王よ、無茶が過ぎるよっ!?』

 

精霊王の言葉に絶句し、更にはまくし立てるソフォクレス。上下身分などかなぐり捨てて精霊王に言葉を投げつけた。

 

【くっくっくっ、見る目がないなソフォクレス。それで伝道者か、戯け者が。『雲海の蜂王』や、『血河の豹王』ならばあやつらでは話にならん。だが、変砂の王であるならば、我は必要ない】

 

そういうと、手を何もない空間にかざすと時空の歪みが発生しその中に入ろうとする。

 

『お待ちをっ!!どうか考えを改めてくださいませんか!?例え、彼らが勝てるならば彼らに一つでも可能性の道を拓くことは出来ないのですか!?』

 

縋り付くように精霊王を引き留めようとするソフォクレスに精霊王はただニヤリと笑うのみ。

 

【これ以上監視対象が増えるのは我は気に入らん。下手に魔王を倒した、などと増長する可能性もある。新たに増えた監視対象の『蒼零』ラギアクルスとその血族、そして、ああ奴ら(ジェスト)の決戦に裁定者として分体を派遣せねばならん。彼奴らが決戦より後の未来だとしてもあの監視対象が多すぎる世界の出身者などに力を貸す義理はない。

 

ーーー我らの大義を忘れたか、ソフォクレス。我らは星の存続が最優先なのだ。それを忘れたら魔王として堕ちてしまうのだぞ?】

 

【しかし、貴様のいうことも一理ある。一手だけならば考えなくはない。どうする、あれらを呼び込んだのは貴様だろう?】

 

 

精霊王は空の上を指差しながらソフォクレスに問う。

ーーやはり、読めないお方だ。それがソフォクレスの内にこぼした感想だった。

 

『いいでしょう、精霊王よ一度だけお願いします。神龍の件も懸念される中来てくれただけ僥倖なはずなのに』

 

【ふん、決まりだ。なら、奴らをこちらに戻さねば話にならんな。

 

ーー時空調律、相位転移送 】

 

精霊王は空に向けて手をかざすとギュッと握りしめてそのまま切り捨てるように振り払う。すると、空間がねじれてそこからジェストを含む三人と三体が落ちてくる。

 

「きゃっ?!」

 

「うおっ!?」

 

「なっ!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

今まで空に逃げていた自分達と地中に撤退していた己がいつのまにか王のオーラを纏うそれに引き戻されていた。

それを面白く感じないのはいうまでもない、蝕星龍である。

 

ーージェストにも劣る人間風情が!如何なる所業で余を使うなど許さんっ!!!

 

去ね、人間っ!!

 

すべて、星を食らうアギトが精霊王に対し怒りのまま食らいつこうとする。

 

ガキンっ!!!

 

 

ーーゴバンっ!!!

蝕星龍の力を知る人ならばこれで精霊王と呼ばれた存在は掻き消えたと思うだろう。しかし、結果はーー

 

精霊王に頭を片手で押さえつけられて地面に伏せさせられた蝕星龍の姿が。

 

【ハハハ、なるほど!星を喰らうとはよく言ったものよ!!だが、この我に立ち向かうには少々力不足よ。分かるか?我は星の元に生まれたものに対し常に優位に立てる、という特性だ。残念ながら星の守護者である我に挑むのはーーー愚行であったな?】

 

驚いたのはジェストとエクセリアだ。一対一ならばほぼ無敗である蝕星龍が一瞬で無力化されたからだ。

 

ーーこれが精霊王。祖龍から断片的に聞いていた存在。それがここまでなんて!!

 

エクセリアの心中は分からなくもない。最強のオトモンである蝕星龍と精霊王。どちらが強いか、なんてエクセリアの目からしてもわかりやすいのだ。

 

 

ソフォクレスは蝕星龍を介抱しながら、精霊王に敵対はよせと遠回しに忠告をする。

『まあ、まがりにも精霊王ご本人で、その半獣体の形態だからねぇ。蝕星龍、せめてあの星焔龍を軽くあしらえるぐらいじゃないと土俵入りすら無理じゃないかな?

ーーそれと精霊王、少々脱線しております』

 

【ふっ、まあいい。貴様らを呼び寄せたのはな。お前たちであの魔王は倒せるからだ。だが、そうだな。慈悲として一撃だけ力を貸してやる、見ているがいい】

 

 

ふわっ、と重力を感じさせない軽やかな動きで魔王の前に浮遊するように立つ。

 

【久しぶりだな、我が同胞。いかに目覚めたかは知らぬが………その権能、剥がさせてもらおう】

 

《ギ、ギキキキキキキキキキ、キィーーーーーーーー!!!》

 

やめろ。と確かに聞いた気がした。

 

ーー星明決裁(パニッシュメント)

 

世界から色が消えて、白黒の世界に変わる。しかし、それも一瞬のことで、すぐ元の世界に戻るのだが、変化は激変している。

 

まず、峯陵龍とほぼ同じくらいの大きさであった魔王、シャドーナ・マキリスはいまや、蝕星龍と同じくらいまで縮小し。

 

万物を砂に変えていた紫色の霧は霧散し。

 

魔王の頭上に輝く円環は輝きが色あせている。明らかに弱体化している、いや堕ちたといえども精霊が持つ権能、すなわち力の源を奪ったのだ。例えるならばリオレウスに飛行する能力を奪うように。

 

初めて対峙した時より、威圧感は激減しており、たしかに自分達でも倒せそうに見える。あの程度ならば、超巨大に膨れ上がったオストガロアと同等だろう。

 

【こんなものか。勇者ども、あの蠍王は権能をこの我が7割封印した故なあとは貴様らに一任するとしよう。ーーせいぜい人の可能性とやらを見せてみるがいい】

 

そういうなり今度こそ精霊王は時空の裂け目に入ってしまい、空間の捩れはふさがってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あー、なんというんだろうね。すまないけど精霊王は君たちで決着をつけろ、と仰せだ。まあ、弱体化しているから倒せるでしょ多分。それにーーーえっ?】

 

先ほどまでの態度はどこへやら飄々とした口調でジェスト達に無責任に押し付けるソフォクレス。

だが、彼女が言い終わる前に魔王シャドーナ・マキリスの鋏が横薙ぎに振るわれ鞠のように吹き飛んでいく。畏怖の存在である精霊王がいなくなったことと、この矮小な人間ごときに倒されろ、などと舐められたことで徹底的に潰すことにしたようだ。

 

砂に変換する権能は失われたが、それでもこやつらを圧倒するには十分だと認識したから。

 

 

ーー身体も小さくはなったが、逆に小回りも利くようになった。踏み込むと同時に蝕星龍の背後に回り込む。黒星龍やディスフィロアがすぐに反応して攻撃するが、直撃したのは残像で蝕星龍の眼前に。

 

大きな方の鋏を開き、切断せんと迫るーー!

 

 

 

バゴォンっ!!

 

ーーーグチュリッ

 

 

 

 

 

 

 

《Ahaaaaaaaーーーーーーーーーーーーー!?》

蝕星龍は傷一つ負ってはおらずそのアギトには黒い外殻の鋏が加えられていた。

 

先ほどの激突音は、蝕星龍が眼前に迫ってきた魔王の腕を噛みちぎつたことで魔王の叫びでもあった。精霊王によって弱体されていなければ、おそらく結末は逆になっていただろう。

 

ーーここに形勢は完全に決定した。

 

 

蝕星龍は怯んだ魔王に踊りかかり右肩の部分をそのアギトで噛みちぎる。

その反動で、後ろにひっくり返った魔王は起き上がろうとジタバタと暴れながらよたよたとなんとか起き上がることに成功する。

 

次の瞬間に蝕星龍のタックルがぶちかまされクレーターの壁に激突する。

 

《ギ、a aaaaaa!?》

 

瓦礫を吹き飛ばし、残る片腕を伸ばして蝕星龍を搦め捕ろうとするが尻尾にいとも簡単に弾かれ逆に噛み付かれて投げ飛ばされる。その際に魔王の鋏は既に失われて残るのは胸元の宝玉を守る複腕のみ。

 

バリバリ、蝕星龍は魔王の腕を噛みながら飲み込み大きく咆哮。そのアギトから放たれたのは暗黒、だった。

 

魔王はすぐさまその場を跳躍して回避。魔王が先ほどまでいた場所はすべて消滅するのみならず、その場の空気の成分が砂に変わって一時的に真空と化す。

 

「嘘だろっ!?あいつ、魔王の力を取り込んだのかっ!!?」

 

「嘘、ですよね?ジョー君、嘘だと言って…………!」

 

 

 

魔王の力を取り込む。それはほとんど悪い意味をもたらす。その一つ、堕ちた精霊である魔王の力を取り込むことで制御不能になり暴走を起こすこと。これがなにより恐れていることで、現実的にあり得ることだった。

 

事実、エクセリアの声は聞いておらずディスフィロアや黒星龍、ジェスト達を無視し、魔王を食い殺さんと圧倒する蝕星龍。

 

弱体化させられたことで、力を振るえず為すがままにされている魔王を蝕星龍は噛み付いたり、蹴り飛ばしたりして魔王を蹂躙する。

 

それはある意味暴走と並行して八つ当たりかもしれない。精霊王に挑んで軽くあしらわれた怒りを魔王にぶつけて鬱憤を晴らすように。

 

 

 

ーー

 

あちこちをボロボロにされた魔王シャドーナ・マキリスは蝕星龍から大きく距離を取り、円環を回し始めた。それはある意味悪あがきかもしれない。しかし、この技ならば蝕星龍のブレス範囲外から放てる。

 

円環は収縮し、黒いエネルギー体を形成する。

 

そして、閃光。

 

暗黒のレーザーが蝕星龍を薙ぎ払うように放たれる。直撃したところは溶解し、煙を上げ、爆発を引き起こした。

蝕星龍もブレスの範囲外なために接近しないといけないのだが、魔王のレーザーによって近づけなくなっていた。

 

このレーザー、連射ができるようで弾幕と化していた。

 

 

蝕星龍としては無論、無理やり掻いくぐることも出来たのだが気付けば背後にエクセリア達がいたことに気づき、立ち往生を余儀なくされていたのだ。

 

ーー今現在、エクセリアやジェスト達、そしてオトモン含めて魔王を圧倒できるのは蝕星龍のみであった。

 

「ジョー君を援護します、手伝ってください!!

 

行くよ、レウス君。ライドオン、黒星龍!!」

 

《グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!》

 

「「おい、待てって!!ちい、ディスフィロア背中借りるぞ!!」」

 

 

ーー

 

 

光条の束が休みなく打ち出され蝕星龍に前進を与えない。しかし、魔王の攻撃は明らかに焦っており、複眼を回して蝕星龍の背後にいるであろう人間にも目を向けないといけなくなった。

 

下手に介入されて、蝕星龍が懐に入り込まれたら今度こそ終わりだからだ。

 

腕を両方奪われ、複腕は心臓部の宝玉(コア)を守るのに使っているためにこのレーザー以外対抗出来るものがなかった。

精霊王の介入は警戒してはいたものの、やはり格の違い故に何もできず能力を奪われた。

 

一心不乱に円環から光条を放ち、周囲が土埃で見えなくなっても放つ、放つ、放つーーー!

 

やがて、レーザーは撃てなくなったのか円環の運動が止まり魔王はその場で周囲を見渡す。風で土煙が晴れると、何も残っておらず荒野と化して頭上にある太陽が眩しい。

 

ーー流石に、死んだか

 

心はあるのだろうか、もしあるならばそう思ってはいた。

 

 

凛とした声が背後から聞こえてくるまでは。

 

「いいえ、これで倒せるわけがありません。あの子はあの程度で倒せるわけではありませんよ!!」

 

背後を振り返れば、黒いリオレウスに乗った人間の女。一度、捉え殺す一歩足手前までいけたはずだった。そして、注意がエクセリアに向いたことで蝕星龍から意識が外れてしまう。

 

それを見逃す蝕星龍ではない。前方の土が盛り上がり、勢いよく飛び出す蝕星龍は魔王の胸元めがけてアギトを開く。

 

円環を急いで回転し光条を放とうとするがーー

 

「おい、俺を忘れるなっつーの。このポンコツ」

 

「油断大敵だ、魔王シャドーナ・マキリス!!」

 

二つの剣閃が複腕をそれぞれ切り飛ばし、宙を舞う。

 

《ギ、ギィヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?》

 

ーーそして、露わになった胸元の宝玉(コア)に蝕星龍のアギトが大きく開いて

 

 

バクンッ!!

 

食い千切らられ、上半身を失った魔王が鮮血を吹き出して大地を『Ⅳ』の字に染めていった。

 


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