忘れられた龍の秘跡 〜MonsterHunter Legend 〜   作:妄猛総督

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今回は、精霊にスポットを当てます。短いですが、生態ムービーみたいなものなので、ご了承くださいませ


とある書記隊の精霊観測: 転輪する灼熱と不死の大羽

燃え盛る火柱が幾重にもほとばしる灼熱の秘境。

煮えたぎる溶岩の湖からもうもうと上がる噴煙の中、一つの輝きがある。

 

極彩色の長い尾羽があり、煌煌と輝く焔の翼。

 

天の輪に似た冠を抱き、黒曜石に似た嘴に朱色の羽毛。

 

爛々と輝く金色の瞳は、高貴なるそれ。

 

 

 

精霊種の一柱、【不死鳥: ニニギノカグツチ】

 

世に火がある限り、永劫不滅とされる精霊種で精霊王に匹敵する強大な存在。

一説には火そのものが肉体ではないか、とされるほどだ。

 

舞い踊るように、灼熱の空を飛ぶ。

 

不死鳥は、古来より存在すると密かに信じられてきた。

 

曰く、その尾羽より漏れ出る光を浴びれば、あらゆる怪我を治すという。

 

曰く、その涙を飲めばどんな病さえ癒すという。

 

 

曰く、その血を飲めば不老不死を得、精霊の王でもなければ殺せない無敵な肉体を得るという

 

曰く、曰く‥‥‥‥‥‥

 

 

数え上げればキリがないほど伝承に上がる逸話は多い。

 

数多の権力者が、かの者を追い求め、夢に散った。

 

かのシュレイド王国の国王も、ミラボレアスに滅ぼされる寸前でさえ不死鳥の力があれば‥‥‥‥と嘆いたという逸話があるほどだ。

 

また、竜大戦と呼ばれる大戦争の時も、時の権力者が、追い求めていた。

そもそも竜騎兵自体が、精霊種を捕獲するためではないか、という説もある。強大な精霊種を手に入れるために、竜騎兵を製造したのでは、という説だ。

精霊種と渡り合うために、何十と超える竜や龍を兵器の材料にしたとすればなるほど、妙に信憑性があるだろう。

 

 

ギルドもかの存在は古い書物に記されているのを知ってはいるが実在はしないと信じられていた。

 

これほどの存在が語られているにもかかわらず、一切の目撃例がないためだ。

 

目撃例がないとされるモンスターは前例があるためにこの不死鳥もその類と思われていた。

 

だが、この事実も今回で終わりである。

 

全ては巫女の同伴によるギルドの書記隊によって目撃されたからだ。

書記隊にはリッカートもいた。事実上、リッカートがこの書記隊のリーダーだ。

 

 

 

世界最大の火山帯、ゼエト・テュポン火山帯。

 

麓の村人からは、以下の二つ以外のことで入山することを禁じている聖なる山。

 

1、巫女の断りなく入ることを禁ず。偽って入ると、元の場所を永遠と彷徨う。

 

 

1、邪なる心を持って入ることを禁ず。聖なる鳥は、心を映し出すからだ。

 

 

随分と単純な決まり事だ。要は、巫女の容認なしで登るな、勝手に登れば、ずっと入り口に戻ってくることになる。

我欲で登るべからず、不死鳥は我欲を持つものを鏡のように移し、裁きを下すと。

 

 

今回は巫女の同伴であり、我々が知りたい真実を見ることが任務だ。我欲がないといえば嘘になるが、人として我欲を持つことは致し方ないのである。

 

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

 

険しい山道を登ること、三時間半。

 

ゼエト・テュポン火山帯の最高峰、ミオクリ山の山頂にして溶岩湖である。

 

 

「書記隊の皆様はここでお待ちください。」

 

巫女に呼び止められ、頷く書記隊の面々。

巫女は溶岩湖のすぐ近くにある小さな岩棚に立つと、唄を紡ぎ出した。

 

透き通るような声は轟音が響く火山に乗るように鳴り響く。

不死鳥は美しいものを好む。とりわけ美しい詩を歌う巫女を。

 

これについてはよくわかっていない。抑止の化身である精霊種の一柱である不死鳥が人の、人の歌声に惹かれる理由は一切わからない。

 

 

歌い出した巫女を見つめ続けて、何分経っただろうか。

 

立ち込める噴煙と吹き上がるマグマしか見えず、クーラードリンクを飲みながら現状を見つめるしかなかった。

やがて、変化があった。

 

立ち込める噴煙の中、キラキラの輝く光が舞うように巫女をめがけてやってくる。

 

それは溶岩の熱を浴びて、燃え上がると聖なる姿を現した。

 

巫女はなお歌い続ける。

巫女の歌声に合わせて、現れた不死鳥は火口の中で舞い続けた。

 

灼熱の中、聖なる炎の舞を、歌を聴いていると自分たちの心の汚れが落ちていくのがわかる。

 

 

舞い踊る不死鳥の体から朱色の羽毛がパラパラと落ちてくる。羽毛は地面に触れるとあっという間に燃え尽き、残るのは灰だけだ。

 

残念に思えてくるのは仕方ない。だが、伝説とされる精霊種、その中でお伽話に出てくる不死鳥を実際に目の当たりにできたこと自体、自分たちは幸運としか思えなかった。

 

 

このことを書記隊の面々は羊皮紙に書き殴るように記している。不死鳥の姿、幻想的な炎の舞、巫女との対話、伝承の差異。あげればキリがない。

 

リッカートも年季が入った調査紙に見た通りに書く。

 

これを皆でまとめ上げ、ギルドの大長老に届けるのだ、失敗は許されない。

 

 

やがて、巫女も歌い終えたのか静かに礼をした。そして、ゆっくりと目を開けいつの間にか接近していた不死鳥と対面する。

 

 

《クルルルルルルルルルルルルゥゥゥゥゥっ》

 

 

美しい。

 

ただのモンスターの声にかかわらず、耳に鮮烈に残る。

不死鳥は巫女に頭を近づけると巫女の髪の一房を抜いた。やがて、飛び立つと不死鳥は光に変わり、いずこかへと消え去った。

 

巫女がいた場所の近くに、煌々と輝く、極彩色の尾羽が落ちていた。

 

巫女は尾羽を拾うと、加工されたユクモの木箱に絹の布を敷き詰めそこに尾羽を入れた。

 

 

「さあ、帰りましょう。これ以上は、暗くなり帰れなくなります。」

 

 

書記隊の皆は、十人十色だ。

 

幻とされた存在を見れて涙を流す者、新たな神秘を探そうと決意する者。多くのものに見たことを語ろうと考えるもの。様々だ。

 

 

リッカートはまだ、満足していないほうだ。

 

精霊種だけじゃない、絶滅したとされるモンスターの生態や、古龍種の調査などやることは山積みだ。

 

だが、今回はしばらく余韻に浸っていたいと思っていた。

 

 

 

 

 


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