大帝国劇場にやってきた男。ランタンを提げた男は、ある事情を抱えていた。

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サクラ大戦2  命を無視された兵隊

 その日、大帝国劇場に一人の男が雇われ、やってきた。

 その男はカンナ以上に身長が高く、顔を初めとする全身に生々しい傷跡が残っているが、そのような見た目にかかわらず性格はとても温厚であった。

 しかしその傷跡のせいか、モギリに立てるはずもなく主に裏方に仕事が回っていた。

 

 その男は、温厚な性格のおかげかその劇場で働く裏方や、一部を除く女優達にも概ね受け入れられていった。

 その一部―――レニ・ミルヒシュトラーセは、あまり彼を受け入れることが出来なかった。

 

 それはかつて、欧州星組の一員として欧州大戦で戦っていた時、別の前線から救援という形でやってきた他の部隊と共に戦っていたことに起因する。

 その部隊は、ドイツが戦争を始める前に同盟を結んでいた、別の帝国から派遣された部隊だった。やがて派遣した帝国が消滅するまでに、ごく一部を除き全滅するという被害を出したのである。

 そして彼らは敵味方双方から恐れられ、戦場のおとぎ話となった。

 

 その部隊の名は―――。

 

 

 

 

 

 

 「大神、お前口は堅い方か?」

 「は?米田司令、それは一体どういいうことですか/」

 「堅い方かって聞いてるんだ?」

 「…堅い方だと、自分は思います」

 「そうか」

 

 大神は自分の上官のその様子に、幾分怪しげなものを感じた。普段は飄々として好々爺のような姿だが、このような神妙な表情の時は決まって何か重大なことを口にすることが大半だったからだ。

 

 「新しく入ってきたでかい奴、別の所から引き抜いたって言ったよな?」

 「は、はい。確か欧州から来たと聞きましたが」

 「…大神よ、今から口にするのは他言無用だ。特に織姫や、レニの前じゃあ絶対に言うなよ」

 「それは一体?」

 「…………あいつはな」

 

 米田の口から出た言葉を耳にした時、その言葉に耳を傾けたことを、大神は少なからず後悔した。

 

 

 

 

 

 

 ある日、マリアと共に部隊の小道具などの発注をしに外出した時にそれは起こった。

 怪蒸気―――それは脇侍と呼ばれる怪物で、黒鬼会の「降魔兵器」であった―――が突如数体現れ、あちこちで破壊活動を始めたのである。

 マリアの銃では幾分力不足な感が否めなかったが、それでも彼女は周囲の人間や、付き添いで来てくれた者を逃がさんがために、囮になろうとした。

 しかしそれよりも先に、付き添いの大男は怪蒸気に向かっていった。

 

 「ちょっと、危ないわ!早く下がって!」

 

 だがマリアはそこで言葉を飲んでしまった。いつもの人懐こい温厚な表情とは打って変わって、無表情だったが、それは彼女もあまり見たことがないものであった。

 大きな拳銃のような物を持ちながらも、彼の腰から下げられたランタンは不気味に光り、それはまるで幽鬼のようであった。

 

 怪蒸気のすぐそばまで歩いた彼は殴られ、転がった。しかしすぐに立ち上がり、また怪蒸気に近づいた。

 怪蒸気―――脇侍は作られた存在であっても、目の前の男の異常性は気付いていた。いくら殴り、蹴っても立ち上がり、血まみれになっても向かってくる。

 それは正しく異常であり、思わず一歩下がってしまった。

 しかし石があったのか、尻もちをついてしまったが、その一瞬が命取りであった。

 

 その男は大型の拳銃を突きつけ、容赦なく引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 Töten sie…

 

 撃つ

 

 Töten sie…

 

 撃つ

 

 Töten sie…

 

 撃つ

 

 Töten sie…

 

 ただ、ひたすらに、撃つ。

 

 Töten sie…

 

 痛みを無視し

 

 Töten sie…

 

 恐怖を無視し

 

 Töten sie…

 

 ただ敵の戦車めがけて歩き、張り付き、そして撃つ。

 

 Töten sie…

 

 この身体を

 

 Töten sie…

 

 己の精神を

 

 Töten sie…

 

 己のすべてを

 

 Töten sie…

 

 ただ目の前の敵を殺すためだけに動かす

 

 Töten sie…

 

 相手を殺すことだけを考えればいい……そして獲物が動かなくなったら

 

 Töten sie…

 

 新たな獲物を求めて歩き出せばいい。

 

 

 

 

 

 マリアはその様子を一部始終見て、ふと一つのことを思い出した。それは革命中に耳にしたもので、その時は下らないと一蹴していたものだった。それは噂であった。

 

 

 ブルースチールのランタンを提げた歩兵と遭ったら味方と思うな。

 だが決して敵には回すな。

 そのランタンは持ち主の魂をくべる炉。

 奴らは――

 奴らは、蒼い鬼火と共に、やって来る――

 

 

 彼女は彼の様子を見て、それが噂ではなく本当の話であったことを、今知ったのである。

 

 

 

 

 

 

 「欧州大戦で、ドイツはある国と同盟を結んでいた。その国は、技術や人員をドイツに回していたが、その中には非正規の部隊もあった。それが派遣されたんだ」

 「非正規…ですか?」

 「ああ。そいつらは、不可視の9番(インヴィジブル・ナイン)と呼ばれていた」

 「不可視の9番(インヴィジブル・ナイン)…」

 「帝国軍にとって戦場では不吉とされる、“9”の番号を頭に持つ、非公式部隊の通称がそれだ。なんでも初代皇帝が9月9日に戦死したからだそうだが、ある異常性がその部隊には存在していた」

 「異常性?」

 「…欧州大戦では、多くの兵器が発達した。そしてその中で、戦車や人型蒸気に対抗するための方法が考え出された。今でこそ対戦車ライフルや、多くの戦術が生まれている。だがな、かつて「帝国」で生まれた発想の1つに、「戦場の主戦力である戦車に、歩兵の火力を増強して対抗できないか」 というものがあった。一見するとまともそうなこの案だが、これにはすぐに問題が露見したんだ」

 「問題…ですか?

 「ああ。個人が扱えるギリギリまで大口径化した銃でも、発達した戦車の装甲には通用しないと分かったんだ。その対策として、一つの方法が生み出されたんだ」

 

 米田は猪口に注がれた酒を飲み、大神を見据えた。

 

 「…大神よ、もし装甲を貫通できない敵が襲ってきたら、お前はどう対応する?」

 「え?………罠をはるか、もしくは懐に潜り込む、あるいは霊力を込めた一撃ならば」

 「霊力云々は華撃団の者の発想としては合格だ。だがもし、それを行うのが霊力を持たない一般人だったら?」

 「え…?それは、やはり罠をはるか、もしくは懐に…!?」

 「そうだ。「帝国」は決してやってはいけない方法を選択したんだ」

 「ま、まさか!」

 「ああ、大口径銃の銃口を装甲に押し付けての絶対零距離射撃。だが、その前提となる戦車への接近、つまり高速で戦場を縦横無尽に走り回っている鉄塊への肉薄は、正しく轢き殺されに行くのと同じだ。だからそれは却下され、実現に至ることは無かったんだ…表向きはな」

 「表向きは…では」

 「ああ、この発想は公式文書には載らない場で形を成し、懸念された通り、あの血みどろの戦場を引き起こしやがったんだ。公式文書に載らない。つまりは非公式な部隊だから、この部隊に所属した者は「存在しない」。だから軍への復帰すら認められなかったんだ」

 「そんな…それじゃ彼らは!」

 「ああ、文字通り捨て駒扱いだったんだ。だがな、戦場では『そいつら』に関する情報が大量に飛び交っていた。敵味方両方の兵士の間に様々な噂や逸話が残った。そうした虚実入り混じった状況の果てに、“表向き存在しない”『そいつら』は、『不可視の9番』で呼ばれることになったんだ。その中で“存在しない”対戦車戦闘に特化した部隊もあった」

 「それが…」

 「そうだ。そしてこんな噂が流れた」

 

 

 

 たとえその瞳を灼かれても

 

 たとえその腕をもがれても

 

 奴らは決して歩みを止めない

 

 死沼へ誘う鬼火(ウィル・オー・ウィスプ)に導かれるまま

 

 保身なき零距離射撃 を敢行する――

 

 

 

 「その部隊の名前は901ATT (Anti Tank Trooper)。その通称は」

 

 

 

 ”命を無視された兵隊(ゲシュペンスト・イェーガー)”

 

 

 

 「あいつはな、その部隊の生き残りなんだよ」

 

 大神は米田の言葉を聞き、信じられない思いを抱きながら思わず唾を飲み込んだ。

あの戦争では多くの技術が進んだ。しかし、それを真っ向から否定し、なおかつそのような非人道的な部隊があり、そして行為を認め行った国が存在したことに。

 

 

 

 

 

 

 傷だらけの男が、大帝国劇場でどんな立ち回りを演じるのか?

 そして彼女達はそんな彼にどう接するのか?

 

 次回、サクラ大戦2!「命を無視された男」

 

 太正桜に浪漫の嵐!

 

 そうだ。 ”どう生まれたか”じゃない。大事なのは”どう生きるか”だ!

 




スターウォーズや艦これの小説書かずに何やってんだろう…。


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