これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode90 個性 〜Individuality〜

「ふわぁ〜……」

 

店主が、『ガン・マリア』のカウンターで、退屈そうに欠伸する。

現実世界ではもう夜なのか、客がほとんど来ないからだ。

 

店主はあまりに暇なので、もうお店閉めちゃおうかな、なんて考え始める。

 

するとちょうどその時。

 

「ただいま戻りました」

「あ、おかえりー」

 

ベネットが、視察から返ってきた。

店主は、彼の姿を見ようとカウンターから出る。

 

そして中央の通路から歩いてきた彼の顔を見ると。

 

「……!!」

「……」

「『答え』、見つけてきたみたいだね」

「……ああ」

 

ベネットの言わんとしている事を悟り、微笑んだ。

 

 

「……で、どうだった?」

 

その後、店主が二人分のコーヒーを入れ、カウンターに並んで座ったところで、店主はそう、話を切り出した。

 

それに答えベネットは、ゆっくりと話し出す。

 

「あなたに言われた通り、今日一日、いろんなプレイヤーを見てきた」

「……うん」

 

そう、実は、ラクスとカチューシャのテストを見終えたあの後、ベネットは、次から次へと傭兵達を見て回っていた。

 

電気工学に長けたプレイヤーや、4匹の銀龍を操るプレイヤー。

緑のドローンを操るプレイヤーに、ヒビ割れがひどいようにしか見えないゴーグルを使いこなすプレイヤー。

中にはお店を開いているプレイヤーもいた。

 

「今まで見たことがない、素晴らしいプレイヤーばかりだった。驚かされてばかりいたよ」

「……ふふ」

「同時に、俺はなんて狭い世界を見てたんだろう……って思った」

「……!!」

 

その時、店主は素直に驚いた顔をしてベネットを見る。

最古参の彼がそんなことを言うなんて、と。

 

……ただ、言われてみれば至極当たり前の話だ。

()()()のプレイヤー達とは、もはや乖離しているのが彼らなのだから。

 

ベネットは、そんな店主の驚き顔を気にもせず、話し続ける。

 

「菊岡の言う通りだった。ここの人たちは皆、()()()()()()

「っ!? あいつ……!!」

「確かに俺は……基本的な能力には自信がある」

「……うん」

「でも、店主さんがいる世界は、それじゃ通用しないんでしょう?」

「……!!」

「で、そう思った時に分かったんだ。あなた方に共通していて、なおかつ俺にはない、すなわち、『求められているもの』が」

「……!!」

 

するとその時、ベネットが椅子を回して店主を正面に見据えた。

店主は、それに応えて体を向ける。

 

そして……

 

 

 

「俺に足りないもの、それは『固有ガジェット』、だろう?」

 

 

 

「ふふ……正解だ」

 

そう、店主に問いかけた。

すると、店主は満足そうに頷いて笑う。

 

どうやら彼は、正しい答えを導き出せたようであった。

 

 

「あ、あの……」

「……?」

 

それから、数日後。

 

『ガン・マリア』のカウンター席の後ろにあるテーブル席に座っていたカチューシャに、ついこの間見た顔のキャラクターが話しかけてきた。

 

「カチューシャさん……ですよね」

「あんたは……たしか、ベネットだったか?」

 

そう、ベネットである。

 

「そうです。先日はありがとうございました。お休みのところ恐縮なんですけど、お話を聞いてもらっても……?」

「……ふ、まぁ座れよ。あと敬語はいい」

「……!!」

 

ベネットのあまりのぎこちなさに、カチューシャが(ヘルメットの中で)苦笑する。

 

対してベネットはカチューシャの言葉にあやかり、カチューシャと対極の席に座った。

 

「それで? 話ってなんだ」

「あ、ああ、それなんだけど」

「……?」

「今、俺の固有ガジェットを作ろうとしててさ」

「ああ……あんた最近入ったんだっけか」

「そうなんだ。それで、俺のやつはこれなんだけど……」

 

そう言うと、ベネットはおもむろに左手を動かし、カチューシャにメッセージを送る。

カチューシャはそのメッセージを開き、中に添付されている画像を開く。

 

「こ、これは……!!」

「……」

 

するとそこには、『エイミングシールド』と名のついた、一枚の設計図があった。

 

彼のメインウェポンであるG36Cの特殊ハンドガードに、大きなシールドがついている。

そのシールドは、上と左右に広がっており、全面が透明。

また、設計図の脇には「使わない時は取り外し可能」と書いてあった。

 

「見ての通り、これはあなたの固有ガジェットから着想を得たものだ」

「……!!」

「あなたの固有ガジェットは素晴らしかった。そしてそれと同時に、こう思ったんだ。「これを小さくしたら、室内戦に有利になれるんじゃないか」ってね」

「なるほど……いい考えだ」

 

カチューシャは、設計図を食い入るように見つめている。

そんな彼は、ヘルメットでよく分からないが、どこか楽しそうだった。

 

するとしばらくした後。

今度は彼が左手のウィンドウを動かし始める。

 

ベネットは、それを見て首を傾げた。

 

「カチューシャ?」

「まあ待て」

「?」

 

するとカチューシャは、用が片付いたらしく、左手のウィンドウを閉じ、設計図をまた一目見たあと、ベネットを見据える。

 

そして一言、こう、ベネットに笑いかけた。

 

 

 

「こういうのは、()()()()()()()()()()に聞いた方がいいだろう?」

 

 

数分後。

 

「ようカチューシャ、メッセージで言ってたのはこの人のこと?」

「あなたから言われることなんて滅多にないから、とんできたよ」

 

そんなことを言いつつ、2人の元に、2人のプレイヤーがやってきた。

2人ともベネットが視察に行かなかった人達なのか、初めて見る顔だ。

 

「そうだ、名前はベネット。最近入った」

「ベネットさんか、よろしく。俺はフォートレス」

「僕はプルーム。ポイントマンをしてる」

 

すると、カチューシャがベネットの名前を言い、2人はそれに準じて挨拶をしてきた。

 

ベネットは、2人の気さくさに正直驚いたが、慌てて言葉を返す。

 

「あ、よ、よろしくお願いします。ベネットです」

「はは、いいよそんな敬語なんて」

 

プルームが、ベネットのあまりの丁寧さに、思わず吹き出して言葉を制した。

 

するとカチューシャが、呆れたように言葉を付け足す。

 

「さっきも言ったが、敬語はいらない。連携の時に邪魔になる」

「……!!」

「俺たちはある種、連携して真価が発揮される。そのために個性を尖らせてるんだ」

「な、なるほど……!!」

「もちろん、個性を尖らせればその分弱点が顕著化する。だから逆にそこを尖らせた仲間の個性がカバーするんだ」

「……!!!!」

「そしてそのためには、皆が平等でなければならない。ボス以外はな」

 

なるほど、とベネットはカチューシャの言葉に頷く。

確かに、カチューシャの言うことには一理あるからだ。

 

現実世界では、警察という大きな組織の中で、個性は徹底的に否定されてきた。

だが彼らは、逆にその個性を逆手にとって、大きな組織を成り立たせている。

 

よくもまぁ、こんなことができたもんだ。

そんな感嘆符が、心の中で浮かび上がってくる。

 

そして同時に、もう一つの言葉が浮かび上がってきた。

菊岡の言った、あの言葉。

 

 

 

 

 

「彼らは、()()()()()()

 

確かに、そうだな。

ベネットは、そう、心の中で頷いた。




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