これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
「ふわぁ〜……」
店主が、『ガン・マリア』のカウンターで、退屈そうに欠伸する。
現実世界ではもう夜なのか、客がほとんど来ないからだ。
店主はあまりに暇なので、もうお店閉めちゃおうかな、なんて考え始める。
するとちょうどその時。
「ただいま戻りました」
「あ、おかえりー」
ベネットが、視察から返ってきた。
店主は、彼の姿を見ようとカウンターから出る。
そして中央の通路から歩いてきた彼の顔を見ると。
「……!!」
「……」
「『答え』、見つけてきたみたいだね」
「……ああ」
ベネットの言わんとしている事を悟り、微笑んだ。
✣
「……で、どうだった?」
その後、店主が二人分のコーヒーを入れ、カウンターに並んで座ったところで、店主はそう、話を切り出した。
それに答えベネットは、ゆっくりと話し出す。
「あなたに言われた通り、今日一日、いろんなプレイヤーを見てきた」
「……うん」
そう、実は、ラクスとカチューシャのテストを見終えたあの後、ベネットは、次から次へと傭兵達を見て回っていた。
電気工学に長けたプレイヤーや、4匹の銀龍を操るプレイヤー。
緑のドローンを操るプレイヤーに、ヒビ割れがひどいようにしか見えないゴーグルを使いこなすプレイヤー。
中にはお店を開いているプレイヤーもいた。
「今まで見たことがない、素晴らしいプレイヤーばかりだった。驚かされてばかりいたよ」
「……ふふ」
「同時に、俺はなんて狭い世界を見てたんだろう……って思った」
「……!!」
その時、店主は素直に驚いた顔をしてベネットを見る。
最古参の彼がそんなことを言うなんて、と。
……ただ、言われてみれば至極当たり前の話だ。
ベネットは、そんな店主の驚き顔を気にもせず、話し続ける。
「菊岡の言う通りだった。ここの人たちは皆、
「っ!? あいつ……!!」
「確かに俺は……基本的な能力には自信がある」
「……うん」
「でも、店主さんがいる世界は、それじゃ通用しないんでしょう?」
「……!!」
「で、そう思った時に分かったんだ。あなた方に共通していて、なおかつ俺にはない、すなわち、『求められているもの』が」
「……!!」
するとその時、ベネットが椅子を回して店主を正面に見据えた。
店主は、それに応えて体を向ける。
そして……
「俺に足りないもの、それは『固有ガジェット』、だろう?」
「ふふ……正解だ」
そう、店主に問いかけた。
すると、店主は満足そうに頷いて笑う。
どうやら彼は、正しい答えを導き出せたようであった。
✣
「あ、あの……」
「……?」
それから、数日後。
『ガン・マリア』のカウンター席の後ろにあるテーブル席に座っていたカチューシャに、ついこの間見た顔のキャラクターが話しかけてきた。
「カチューシャさん……ですよね」
「あんたは……たしか、ベネットだったか?」
そう、ベネットである。
「そうです。先日はありがとうございました。お休みのところ恐縮なんですけど、お話を聞いてもらっても……?」
「……ふ、まぁ座れよ。あと敬語はいい」
「……!!」
ベネットのあまりのぎこちなさに、カチューシャが(ヘルメットの中で)苦笑する。
対してベネットはカチューシャの言葉にあやかり、カチューシャと対極の席に座った。
「それで? 話ってなんだ」
「あ、ああ、それなんだけど」
「……?」
「今、俺の固有ガジェットを作ろうとしててさ」
「ああ……あんた最近入ったんだっけか」
「そうなんだ。それで、俺のやつはこれなんだけど……」
そう言うと、ベネットはおもむろに左手を動かし、カチューシャにメッセージを送る。
カチューシャはそのメッセージを開き、中に添付されている画像を開く。
「こ、これは……!!」
「……」
するとそこには、『エイミングシールド』と名のついた、一枚の設計図があった。
彼のメインウェポンであるG36Cの特殊ハンドガードに、大きなシールドがついている。
そのシールドは、上と左右に広がっており、全面が透明。
また、設計図の脇には「使わない時は取り外し可能」と書いてあった。
「見ての通り、これはあなたの固有ガジェットから着想を得たものだ」
「……!!」
「あなたの固有ガジェットは素晴らしかった。そしてそれと同時に、こう思ったんだ。「これを小さくしたら、室内戦に有利になれるんじゃないか」ってね」
「なるほど……いい考えだ」
カチューシャは、設計図を食い入るように見つめている。
そんな彼は、ヘルメットでよく分からないが、どこか楽しそうだった。
するとしばらくした後。
今度は彼が左手のウィンドウを動かし始める。
ベネットは、それを見て首を傾げた。
「カチューシャ?」
「まあ待て」
「?」
するとカチューシャは、用が片付いたらしく、左手のウィンドウを閉じ、設計図をまた一目見たあと、ベネットを見据える。
そして一言、こう、ベネットに笑いかけた。
「こういうのは、
✣
数分後。
「ようカチューシャ、メッセージで言ってたのはこの人のこと?」
「あなたから言われることなんて滅多にないから、とんできたよ」
そんなことを言いつつ、2人の元に、2人のプレイヤーがやってきた。
2人ともベネットが視察に行かなかった人達なのか、初めて見る顔だ。
「そうだ、名前はベネット。最近入った」
「ベネットさんか、よろしく。俺はフォートレス」
「僕はプルーム。ポイントマンをしてる」
すると、カチューシャがベネットの名前を言い、2人はそれに準じて挨拶をしてきた。
ベネットは、2人の気さくさに正直驚いたが、慌てて言葉を返す。
「あ、よ、よろしくお願いします。ベネットです」
「はは、いいよそんな敬語なんて」
プルームが、ベネットのあまりの丁寧さに、思わず吹き出して言葉を制した。
するとカチューシャが、呆れたように言葉を付け足す。
「さっきも言ったが、敬語はいらない。連携の時に邪魔になる」
「……!!」
「俺たちはある種、連携して真価が発揮される。そのために個性を尖らせてるんだ」
「な、なるほど……!!」
「もちろん、個性を尖らせればその分弱点が顕著化する。だから逆にそこを尖らせた仲間の個性がカバーするんだ」
「……!!!!」
「そしてそのためには、皆が平等でなければならない。ボス以外はな」
なるほど、とベネットはカチューシャの言葉に頷く。
確かに、カチューシャの言うことには一理あるからだ。
現実世界では、警察という大きな組織の中で、個性は徹底的に否定されてきた。
だが彼らは、逆にその個性を逆手にとって、大きな組織を成り立たせている。
よくもまぁ、こんなことができたもんだ。
そんな感嘆符が、心の中で浮かび上がってくる。
そして同時に、もう一つの言葉が浮かび上がってきた。
菊岡の言った、あの言葉。
「彼らは、
確かに、そうだな。
ベネットは、そう、心の中で頷いた。
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