これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
「……で、どんな依頼なの?」
すっかり日が暮れ、暗くなった荒野。
今から依頼の仕事をしに行くタスクと、それに同行するシノンが話をしていた。
「えーと、話が長くなるけどいいですか?」
「もちろん。敵状をしらないと」
「そうですか……なら一から説明しますね」
「うん」
「敵は大規模スコードロン。推定で130人くらい」
「ひ……130人!?」
「そう。そして、それだけの人を集めるってことはつまり、なんらかの利益を目的として、行動してるって事。ここまでは分かりますか?」
「うん……組織とか、ギルドみたいな?」
「そう!そんな感じです。それで、その組織的大規模スコードロン…面倒なので
「……と言うと?」
「例えば、いいモンスターの出現区域を独占したり、無理矢理安い金額でレアアイテムを交換させたりと言ったことですね」
「ひどい奴らね……運営は何も言わないの?」
「それが、何も言わないのではなく
「え……?どういう事?」
「だって、それを制限したらモンスターの取り合いでのPK戦やゲーム内通貨でのアイテム交換はダメなのかってことになってしまうじゃないですか」
「確かに……たとえ独占していても、ゲームシステムの扱い的にはモンスターの取り合いでのPKになるものね……」
「そうです。かと言って、スコードロンの制限人数を減らしたところでスコードロン同士の共闘と言う扱いで簡単に
「ん〜……」
「だから、今回の僕の……いえ僕
「なるほど……でも、回収って一体どうやるの?ログアウトされたら元も子もないでしょ?」
「流石シノンさん。いいところに目を付けますね。ご明察です」
「はは……ありがとう」
「いえいえ。で、その回収の方法なのですが、両手を切断し、顔に黒袋を被せます」
「えっ……!?」
「すこし残虐かも知れませんが、これしかないんです」
「……確かにね。拘束しただけじゃログアウトされてしまうかも知れないわ」
「そうなんですよね……でも、なるべくダメージは与えません。何度も言いますが、僕達の仕事は
「うん。手くらいなら死なないはず」
「はい。その通りです。……これで説明は終わりです」
「なるほどね。わかったわ。で、私の役割は?」
「シノンさんは、僕の援護をお願いします。と言っても、敵の位置などをヘカートIIのスコープを使って探知し、教えてくれるだけでいいです。あくまで隠密ですので」
「う〜ん。撃てないのは残念だけど、分かった」
「あ、でも、突入する時には射撃による援護をお願いします。合図は出しますので」
「了解」
「それと……」
「ん?」
「情報では、捕虜もいるそうです。見つけ次第教えてください。可能な限り回収します」
「分かった」
ここまで話をして、シノンとタスクが前を向いて歩き続ける。
そしてその2分後に
「見えました」
「これが……!」
タスクとシノンが、眼下に広がる光の塊を見下ろす。
今二人が歩いてきた所は、昼間にシノンがタスクに引き上げられた崖の先なのだ。
故にその本拠地も、眼下に見据えることが出来ていた。
その本拠地は、まるで街のようだった。
だが市場のような通りや、居住区のような建物の密集地はない。
代わりにあるのは、無数のように設けられた高台と、所々に設営された見張り待機用のテントだ。
シノンはその光の塊を見下ろしながら、今からここに潜入するのかとタスクを見る。
だが、タスクは余裕の表情でウィンドウを開いていた。
同時に、シノンの視線に気づき手を止める。
「……?どうかしましたか?シノンさん」
「い、いや、あんた、いまからここに潜入するの!?」
「はい。そうですが、なにか?」
シノンは、落ち着き払ったタスクの対応に驚きを隠せない。
するとタスクは、ウィンドウから服装を変えた。
一旦下着になり、一気にガタイのいい黄土色の鉄板が露出したゴツゴツしい服、いやスーツになる。
そしていつもの眼帯のマスクを取り出した。
口と鼻だけをカバーしたガスマスクのようなもの。
それを付けると、やはり彼がビッグ・ボスだと確認できる。
だが、シノンはあまりの変わりようにおどおどすることしか出来なかつた。
そんなことは気にせず、タスク、いやビッグ・ボスは今度はウィンドウのウェポンの所から、ウェポンを選択し、背中へと背負っていく。
そこからは、ビッグ・ボスの動きが早かった。
ウィンドウのアイテムの所からパパッと選択し、スーツの至る所に収納していく。
中には、折りたたまれたダンボールとかいう、訳の分からないものまであった。
そして全部の作業が終わった時、シノンの目の前には、タスクとは遠くかけ離れたガタイのいいビッグ・ボスがいた。
「……どうかしたか?」
口調と声の高さも変わっている。
タスクの時の幼い少し高めの声とは一転。
ビッグ・ボスは、威厳のある低い声だ。
もっと言えば、タスクがシノンに対して使っていた敬語もいつの間にか消えている。
シノンの戸惑いがわかったのだろう。ビッグ・ボスは優しめに声をかけた。
「すまん。一種の職業病のようなものだ。許してくれ。できれば……敬語も」
「あ……ああ、いや、そんな敬語とか気にしないから。……ただちょっと、驚いただけ」
「そ、そうか」
シノンは正直、こうも変わるものかと驚きをこして動揺していた。
……が、同時に納得もする。
ここまで変えなければ、簡単に正体が分かってしまうだろうな、と。
ビッグ・ボスは、そんなことは気にせず、シノンの前に立った。
タスクはシノンより身長が少し低かったのに、ビッグ・ボスはシノンより少し高い。
おそらくこのスーツの影響だろう、とシノンは予想をつけた。
なんてったってあの小さなタスクがガタイが良くなるスーツだ。身長も追加されると考えてもおかしくない。むしろそれ以外考えられなかった。
するとビッグ・ボスが、シノンに声をかける。
「用意は出来た。そっちは?」
「あ、ああ、いつでも」
「よし。そしたら、ここで援護してくれ。移動・射撃は指示する」
「了解」
そしてビッグ・ボスは、崖の下へと降りていった。
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