これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode80 成功の代償 〜The cost of success〜

大人の風格をもつ男女が、宮殿のような煌びやかな通路を並んで歩いている。

 

少し前を歩くのは、細身で美しい体型をした女性。

体にフィットした鎧を身にまとい、腰には刺剣がさしてある。

 

対して、少し斜め後ろを歩くのは、ガタイのいい、どこかぼんやりとした男性。

女性とは対照的に、ゴツゴツしい鎧を身にまとっており、背中には珍しい「薙刀」を背負っていた。

 

「……それで、彼の状態は?」

「ああ……うん」

 

すると、前を歩く女性が、男性に質問を投げかける。

男性は、その質問に少し遅れて反応した。

 

「あい……かわらずだね」

「あいかわらず……というと?」

「部屋から出てこず食事もあまり。刀さえ机に置いて、ずっと外を眺めてるよ」

「そう……か」

 

男性の言葉に、女性は視線を落として眉間に皺を寄せる。

 

「ただね、塞ぎ込んでるわけじゃぁ……ないみたい。会いに行けば、誰だって部屋に入れてくれるし、言葉も交わしてくれる」

「……」

「ただね……」

「ん?」

 

その時、男性の言葉の語尾を濁りを、女性は敏感に受け取った。

 

男性も男性で、意味ありげに口をつぐんでいる。

 

「なんだ、話せ」

「う、うん……あのね」

「……」

 

そして次の瞬間、男性の言葉を聞いた女性は、ぎりっ、と拳を握り締めた。

 

「彼の部屋には、至る所に『戦略』に関する本が散らかってた」

「っ……!!」

「ジャンルとかは実に様々だったよ。1対1のデュエルに関するものもあれば、対フロアボスの指揮の仕方、とか何とか」

「やはり……な」

 

女性は、納得したような言葉を漏らし、ため息をつく。

 

裏血盟騎士団を支える2大柱と言われたカズ……もとい、アユムの戦死。

そしてその影響をもろに受けたもう1人の2大柱、大蛇(オロチ)……もとい、タスクの甚大な精神的ダメージ。

 

作戦自体は、()()した。

ただその分の()()が、大きすぎたのだ。

 

急いで戻ってきた先にあったのは、ジョニー・ブラックの毒ナイフのみ。

あとはそこには何も無かったと言う。

 

また別の者の話によれば、タスクはその光景を、毎晩毎晩夢に見て、うなされているらしい。

 

これでは、実質裏血盟騎士団を支えるに2大柱が両方折れたのと同義だ。

たとえ一時的とはいえ、このことは、本人達のみならず、裏血盟騎士団全体への歪みをも生じさせていた。

 

「……で? どうするの、()()

「……ん?」

「彼のこと。血盟側は、早急に出撃を要請、ラフコフの殲滅を……って言ってきてるんでしょ?」

「あ、ああ……」

 

そして、血盟騎士団からのこの威圧。

 

相手側の言い分としては、「敵の拠点が分かった以上、少しの猶予さえ与えてはならない。一刻も早く、()()()()()()()()()を投入せよ。」なのだが……

 

この要求は、その女性……裏血盟騎士団、団長には受け入れられなかった。

 

「まったく……僕としては、この要求は到底、飲み込めないけどぁ」

「……うむ」

「副団長としてもだけど、僕個人としても……ね」

「そ……! そうか……」

 

それは、どうやらその男性……もとい、裏血盟騎士団、副団長も同じであるようで、腕を組んでふるふると首を横に降っている。

 

「……私としても、この要求は断固、拒否するつもりだ。計り知れない精神的ダメージを負ったあの状態では、()()()()()だって、十二分に起こり得る」

「そうだよね。その通りだ」

 

そして、そんな彼を見て安堵したのか、団長も強くその意思を口にした。

副団長も、その言葉を強く肯定し、今度は首を縦に振る。

 

そんな様子を背後で感じつつ、団長はまた、眉間に皺を寄せていた。

 

なぜなら、彼は出すべきではない、とは言うものの、その代替策など到底思いつかないからだ。

 

それに、いくら甚大な被害を受けたとはいえ、いつかは、復帰してもらわねばならない。

その時期の目処は? と問われるのも、これまた困ったものなのだ。

 

またさらに言うならば、これは裏血盟騎士団全体への信頼度の低下にも繋がりかねない。

 

重要な局面である事もまた事実。

そんな時に、主力を出し渋るのもいかがなものかと自分でも思うのだ。

 

「それにね、団長……いや、()()()

「っ……!?」

 

するとその時、不意に副団長からプレイヤーネームで呼ばれる。

団長……もといユリエは、驚いて後ろを振り向く。

 

するとそこには、ぐっと口を噤んで、こちらを見据える副団長がいた。

 

「君は一人で背負い込み過ぎだ」

「っ……!!」

「僕は君と付き合って長い。だからいい意味でも悪い意味でも、君のことなら手に取るように分かる」

「そ、それは……!!」

「裏血盟騎士団の団長……()()()()としての自覚は分かるよ。でもね、副団長の僕…… 弁慶(ベンケイ)のいる意味を考えてほしい」

「べ、ベンケイ……!!」

「彼……大蛇(オロチ)くんが、()()()()()()なのは、僕もよく知っている。でもだからこそ、君の重荷を半分背負わせてくれ」

「……!!」

 

彼のまっすぐな眼差しに、思わずユリエは身じろぎしてしまう。

 

……だが、数秒の後、ふっ、と息を吐くと、しかと微笑んでその視線を見返した。

そしてその笑みをニヤリと歪めると……

 

「分かってるわ。()()()さん」

「……!!」

 

そう、一言だけ言葉を返して踵を返し、また歩き出す。

 

今度は、副団長……もとい、タモンが、ポカーンとしてしまった。

だが、彼もまた、数秒の後、ふっ、と息を吐いて、しかと微笑むと、また彼女の背中を追って歩き出す。

 

そして彼は、歩きながらも、まだふふふ、笑い出したのであった。

やれやれ、と言わんばかりにため息も交えて……。

 

 

そして二人は、ついに目的の扉の前へと到着する。

 

「さあ……行こうか」

「うん……行こう」

 

ユリエは、扉を睨みつけながら。

タモンは、不敵な笑みをたたえながら。

 

それぞれ一言呟いて、扉を開け、奥へと踏み行っていった。

 

今は亡き偉大な戦友のために。

亡き戦友を嘆く、一人の少年のために。

 

そして何より……

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()を、血で染めないために。




光と影編、残りあと【2】話。
新章情報、次話にて、公開予定。

お楽しみに……!!

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