これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
大人の風格をもつ男女が、宮殿のような煌びやかな通路を並んで歩いている。
少し前を歩くのは、細身で美しい体型をした女性。
体にフィットした鎧を身にまとい、腰には刺剣がさしてある。
対して、少し斜め後ろを歩くのは、ガタイのいい、どこかぼんやりとした男性。
女性とは対照的に、ゴツゴツしい鎧を身にまとっており、背中には珍しい「薙刀」を背負っていた。
「……それで、彼の状態は?」
「ああ……うん」
すると、前を歩く女性が、男性に質問を投げかける。
男性は、その質問に少し遅れて反応した。
「あい……かわらずだね」
「あいかわらず……というと?」
「部屋から出てこず食事もあまり。刀さえ机に置いて、ずっと外を眺めてるよ」
「そう……か」
男性の言葉に、女性は視線を落として眉間に皺を寄せる。
「ただね、塞ぎ込んでるわけじゃぁ……ないみたい。会いに行けば、誰だって部屋に入れてくれるし、言葉も交わしてくれる」
「……」
「ただね……」
「ん?」
その時、男性の言葉の語尾を濁りを、女性は敏感に受け取った。
男性も男性で、意味ありげに口をつぐんでいる。
「なんだ、話せ」
「う、うん……あのね」
「……」
そして次の瞬間、男性の言葉を聞いた女性は、ぎりっ、と拳を握り締めた。
「彼の部屋には、至る所に『戦略』に関する本が散らかってた」
「っ……!!」
「ジャンルとかは実に様々だったよ。1対1のデュエルに関するものもあれば、対フロアボスの指揮の仕方、とか何とか」
「やはり……な」
女性は、納得したような言葉を漏らし、ため息をつく。
裏血盟騎士団を支える2大柱と言われたカズ……もとい、アユムの戦死。
そしてその影響をもろに受けたもう1人の2大柱、
作戦自体は、
ただその分の
急いで戻ってきた先にあったのは、ジョニー・ブラックの毒ナイフのみ。
あとはそこには何も無かったと言う。
また別の者の話によれば、タスクはその光景を、毎晩毎晩夢に見て、うなされているらしい。
これでは、実質裏血盟騎士団を支えるに2大柱が両方折れたのと同義だ。
たとえ一時的とはいえ、このことは、本人達のみならず、裏血盟騎士団全体への歪みをも生じさせていた。
「……で? どうするの、
「……ん?」
「彼のこと。血盟側は、早急に出撃を要請、ラフコフの殲滅を……って言ってきてるんでしょ?」
「あ、ああ……」
そして、血盟騎士団からのこの威圧。
相手側の言い分としては、「敵の拠点が分かった以上、少しの猶予さえ与えてはならない。一刻も早く、
この要求は、その女性……裏血盟騎士団、団長には受け入れられなかった。
「まったく……僕としては、この要求は到底、飲み込めないけどぁ」
「……うむ」
「副団長としてもだけど、僕個人としても……ね」
「そ……! そうか……」
それは、どうやらその男性……もとい、裏血盟騎士団、副団長も同じであるようで、腕を組んでふるふると首を横に降っている。
「……私としても、この要求は断固、拒否するつもりだ。計り知れない精神的ダメージを負ったあの状態では、
「そうだよね。その通りだ」
そして、そんな彼を見て安堵したのか、団長も強くその意思を口にした。
副団長も、その言葉を強く肯定し、今度は首を縦に振る。
そんな様子を背後で感じつつ、団長はまた、眉間に皺を寄せていた。
なぜなら、彼は出すべきではない、とは言うものの、その代替策など到底思いつかないからだ。
それに、いくら甚大な被害を受けたとはいえ、いつかは、復帰してもらわねばならない。
その時期の目処は? と問われるのも、これまた困ったものなのだ。
またさらに言うならば、これは裏血盟騎士団全体への信頼度の低下にも繋がりかねない。
重要な局面である事もまた事実。
そんな時に、主力を出し渋るのもいかがなものかと自分でも思うのだ。
「それにね、団長……いや、
「っ……!?」
するとその時、不意に副団長からプレイヤーネームで呼ばれる。
団長……もといユリエは、驚いて後ろを振り向く。
するとそこには、ぐっと口を噤んで、こちらを見据える副団長がいた。
「君は一人で背負い込み過ぎだ」
「っ……!!」
「僕は君と付き合って長い。だからいい意味でも悪い意味でも、君のことなら手に取るように分かる」
「そ、それは……!!」
「裏血盟騎士団の団長……
「べ、ベンケイ……!!」
「彼……
「……!!」
彼のまっすぐな眼差しに、思わずユリエは身じろぎしてしまう。
……だが、数秒の後、ふっ、と息を吐くと、しかと微笑んでその視線を見返した。
そしてその笑みをニヤリと歪めると……
「分かってるわ。
「……!!」
そう、一言だけ言葉を返して踵を返し、また歩き出す。
今度は、副団長……もとい、タモンが、ポカーンとしてしまった。
だが、彼もまた、数秒の後、ふっ、と息を吐いて、しかと微笑むと、また彼女の背中を追って歩き出す。
そして彼は、歩きながらも、まだふふふ、笑い出したのであった。
やれやれ、と言わんばかりにため息も交えて……。
✣
そして二人は、ついに目的の扉の前へと到着する。
「さあ……行こうか」
「うん……行こう」
ユリエは、扉を睨みつけながら。
タモンは、不敵な笑みをたたえながら。
それぞれ一言呟いて、扉を開け、奥へと踏み行っていった。
今は亡き偉大な戦友のために。
亡き戦友を嘆く、一人の少年のために。
そして何より……
光と影編、残りあと【2】話。
新章情報、次話にて、公開予定。
お楽しみに……!!
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