これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
キリトは、衝撃を受けていた。
そして今でも、その驚きが抜け切れてない。
「え、ほ、ほんとに……あなたが?」
「ああそうさ、僕が……店主だよ」
キリトがまるで信じられないと言わんばかりに確認するが、その……少し長い髪を後ろに結び、がっちりとした体格をしてはいるものの、どこかのほほんとした雰囲気の男は、そう言って笑ってのけた。
「あ、あなた……が……本当に……」
「……あれ、意外とびっくりしちゃってる感じ?」
そんなその男を見て、キリトはまた驚愕する。
すると、それを見たその男……もとい店主が、一言呟いてまた笑った。
あれは忘れもしない、決闘の二日前。
一人黙々と、決闘について考えていた時。
少し離れたカウンター席から、首を曲げて、話しかけてきた男がいたのだ。
まさかその男が、あの店主だったとは。
キリトはそんなこと、当然思いもしなかった。
「……!!」
ただ、確かに言われてみると、そんな気もしてくる。
雰囲気といい、体格といい、そして顔つきといい、確かにそれとなく店主だった。
「ま、とりあえず、座ろうか」
「……あっ、はい」
すると、その場にお互い立ちつくしているこの状況に不自然さを感じたのか、店主がそう切り出してそそくさとテーブル席へと移動する。
キリトも、慌ててその背中について行った。
✣
「……で、どうするんだい」
「あっ……ああ、はい」
それから、数分後。
キリトと店主の二人は、テーブル席に向かい合い、そしてそれぞれ好みの飲み物を注文して、早速本題へと入ろうとしていた。
キリトはこの店でお気に入りのカフェラテ。
そして店主は、やはりと言うべきか、コーヒーである。
ズズ……
「ふぅ……」
店主が、そのコーヒーをひと啜りし、小さく息をつく。
ただ対してキリトは……なかなかそこまでリラックスは出来ていなさそうであった。
「そ、その……」
「うんうん」
すると、そんなキリトがゆっくりと、そしてどこか、タジタジさが隠し切れていない声で話し始める。
店主はそれに、素直に耳を傾けた。
「やっぱり、俺は店主さん達の仲間に……入れてもらいたいと思ってます」
「……ふむ」
「実際、剣を交えてみて……分かったんです。あいつの……いや、タスクの剣は、俺やアスナの握ってきた剣とは違うもの、全くの別物なんだって……」
そう言って、キリトは店主を真っ直ぐ見据える。
すると店主は、疑問の意を示すかのように首を少し曲げ、コーヒーを啜りつつ疑問符を返した。
「……というと?」
「その……今まで、俺らが握ってきた剣というのは、いわゆる
「……」
「でも、タスクや店主さんは違う。あなた方の握ってきた剣というのは、いわゆる
「……!」
「一見すれば、必要ないと思われるでしょう。あの世界で、倒すべき相手は間違いなくモンスターですから…………でも、俺には分かる。店主さん達、「裏血盟騎士団」の存在は、間違いなく、俺達の攻略に必要不可欠でした」
「……はは」
すると店主は、あまりの言いように、照れくさそうに苦笑いした。
キリトは、そんな店主を見て自分も苦笑いすると、少し言葉を変えて、話し続ける。
「つ、つまり……店主さん達の剣は、俺達みたいな自らのためではなく、俺達のために、握っていてくれたのだ……と。そう言いたいんです」
「……!!」
「菊岡さんから聞きました。裏血盟騎士団は、攻略組への暗殺刺客を何人も退けた……と」
「まあ……ね」
「追い返し、防ぎ……時には
「……!!」
そう、キリトが言った時。
菊岡のやつ、なんてことを……と、店主は内心で悪態をついた。
確かに、キリトの言っていること……ひいては、菊岡の言っていることは、間違いではない。
そもそも、裏血盟騎士団なるものが創設された理由は、まさにそれなのだ。
ラフコフの出現に伴い、恐らく攻略を阻止しようとしてくるであろうという予測を立て、創設された機関。
……ただ、その機関のやっている事の聞こえは良くても、店主はそれを褒められたりするのがあまり好きではないのだ。
なぜなら、例えどんな理由があろうと、人を殺してはいけないという禁忌を犯しているから。
そうせざるを得なかった、もししなければ、もっと酷いことが起きていた、そんな事は分かっている。
だが店主達は、自分達の行いを、正当化すること……つまり、功績と捉えることに対しては、どうしても納得がいかないのだ。
この事に関しては、菊岡にタスク……いや、あえて言うならば
「僕らは、自分たちの功績を残すために戦ってきたのではない」
と、散々言い含めたはずだった。
……ただ、キリトの話を聞く限りでは、菊岡の意識はそうではなかったようであった。
また説教だなこれは、と、店主は今度は内心でため息をつく。
だが、そんな店主の内心のため息などつゆ知らず、キリトの話はまだまだ続く。
「それで……その、俺が思うに、それを成し得ることが出来たのは、ひとえに、
「……」
「そして今、俺が欲しているのは、そういう
「……」
「だから……その……俺を、仲間に入れて欲しいです。その
……と言って、キリトは話を切った。
そしてゆっくりと、店主を見て、そのまま固まる。
こうして、二人の間にしばしの静寂が訪れた。
キリトは店主を見て、店主はキリトを見て、その狭間に凄まじい緊張感が迸る。
……が、その永遠にも思えた緊張の数秒の後、不意に店主が、ふ、と微笑んだ。
その笑みを見たキリトは、無意識に眉間にシワを寄せる。
すると、そんなキリトを見つめたまま、今度は店主が、こう切り出した。
「ふふ……そうか」
「……!!」
「ひとまずは、分かった。君の気持ちも、思いも……ね」
「は、はい……!」
キリトは、そんなどこか遠回しな店主の言い方に少し違和感を覚えつつも、しっかりと返事を返す。
これでいい。
こうすることが、最善の道だ、と、キリトは内心で確信する。
……が、その時だった。
「ただね」
「っ!?」
店主がそう言いつつ、いつのまにか肘をついて、キリトを懐かしむような目で見ていた。
キリトは、その視線に直感的に何かを悟る。
すると店主は、その直感を裏付けるかのように、こう……切り出した。
「少し……昔話をしてもいいかな」
「な……!?」
キリトが驚いたのは、言うまでもないだろう。
いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。
今回は、とある報告をさせていただきます。
それは……
『店主さんのお店の構造図、やっと公開しました!!』
です。
大変長らくお待たせ致しました……。
設定集の店主の欄にて、挿入させていただきました。
是非一度、ご覧になってくださいね!!
では!
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