これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
by 駆巡 艤宗の心
「……ふふ、なるほどね、シノンさん」
店主が、すこし口をほころばせてシノンを横目に見てくる。
シノンは、その目を見て少し……
すると、そんな安心もつかの間、店主はまたふいっと視線を戻し、戦いを注視し始める。
……だが、声だけは、まだシノンの元へ送られてきた。
「……はは、大丈夫さ、シノンさん」
「え……!?」
シノンは一瞬、ギクリとしてしまう。
店主に、あの
普通、こんな状況で「大丈夫」なんて言葉は使わない。
それに、言葉を巧みに操る店主のことだから、尚更である。
すると案の定、店主が変に隠すのをやめ、直球で言葉を飛ばしてきた。
「……シノンさん、僕らはそんな事、思ったりしないよ」
「!!」
「あれでしょう?キリトくんやらその周りは皆SAO関係者だから、なんかな……みたいなさ」
「……!!」
やっぱり、そんな言葉がシノンの中でグルグルと渦巻く。
……と同時に、恥ずかしさがこみ上げてくる。
まだタスク達の戦いに皆が気を向けているからいいものの、もし向いていなかったら間違いなく注目の的となるくらい、シノンは顔を赤くしていた。
「……はは、案外素直なんだね、シノンさん」
「〜〜!!」
店主の容赦ないイジりにシノンはまた悶える。
そしてシノンは、そのもどかしさに耐えきれず、ぱっと顔を前に上げる。
「っ……!!」
すると店主は、首だけ回し、顔を真っ直ぐにこちらに向けていた。
今回は、前回みたいに声だけでもなく、横目でもなく、顔を真っ直ぐシノンに向けて、正面に見据えている。
シノンは、自ずとその店主の目を見てしまった。
すると、その視線を見返すように、店主が一瞬笑みを消した瞳を見せる。
「わかるさ、そりゃぁ……ね?」
「え……?」
「僕ら、何度も困難をくぐりぬけてきたじゃない」
「……」
「だからこそ分かるんだよ、シノンさん……君の気持ちがさ」
「!!」
「だって僕ら……」
そして店主は、そこまで言うとニッと笑って、言葉を続けた。
「
「なか……ま……!!」
店主は、満面の笑みでシノンを見ている。
彼も見ていたいだろう戦いから目を逸らし、しっかりと。
するとその時。
シノンは、自分の心が暖かみを取り戻したのを感じた。
「……はい!」
そんな気持ちは、彼女の返事に現れていた。
あまりの嬉しさに、微かに震える手も然り。
✣
背筋がゾクゾクと疼いている。
寒気を超えた畏怖が、背筋のみならず手や足をも震わせる。
でもその震えは、同時に彼の「闘志」をも、震わせていた。
「っ……!!」
今、目の前に立っている少年が怖い。
可愛らしい獣耳と尻尾を備えた、小柄なケット・シーが、この上なく恐ろしく、そしてなによりも怖かった。
「へへ……」
だが、キリトは同時に、心から歓喜していた。
この目の前の化け物と、対峙すること
散々感じた違和感も、竦んで動けなくなりそうなほどの恐怖も、この歓喜には遠く及ばない。
……ずっと、飢えていた。
この感覚を、そしてこの高揚を。
なぜならキリトは、その強さ故に、なかなか
SAO時代で言えば、それに該当するのは「フロアボス」だ。
……が、攻撃や回避パターンさえ覚えてしまえば、実際どうって事ない。
さらに言えば、フロアボス戦の場合、嫌でも連携を強要される。
それはキリトにとって、あまり好ましいものではなかった。
そして続く、ALO。
PK推奨なんていう、一見ぶっ飛んだゲームではあるものの、SAOの最前線を1人で生き残ってきたキリトにとってはそこでも満足いく相手には出会わなかった。
連携も強要されない上、相手は本物の人間だ。
パターンなんてものは、個人差はあるもののあまりない。
……それでも、今度はただ純粋に、「力不足」な相手にしか出会わなかったのだ。
SAOのフロアボスなら、プレイヤー達を圧倒すべく破格のステータスが付与されている。
でも彼らにはパターンという枠組みが存在し、「倒し方」なんていう、戦いを一辺倒にしかさせない要素がどうしても付属してしまう。
かといって、ALOのプレイヤー達では、確かにパターンなんていうある意味邪魔なものが無い分、キリトのステータスやスキルに追いつけるものなどいない。
そうして、自己慢心では無いが、満足出来る相手はもう居ないのかな、なんていう諦めの心が日に日に増す中。
「GGO」へと、キリトはやってきて、そしてそこで、やっと、出会えたのだ。
……もちろん、あの
もちろん苦戦はした。
苦戦はしたのだが、それはまた別の意味である。
では、その相手というのは、誰なのか。
いわずもがな、「ビッグ・ボス」である。
プロさえいるようなハードなゲームの、
そしてその彼は、予想通り、剣の腕も相当なもの。
しかもSAO時代でさえ、彼は
だから当然、キリトは歓喜する。
どんな恐怖があろうとも、どんな不安があろうとも、むしろ歓喜せざるをせないのだ。
「……さあ、ここからが」
「本番……だ」
タスクが呟き、キリトが続く。
そしてまた……彼らは剣を交錯させた。
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