これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
「あ、あそこだ……って、ええ!?」
「「……?」」
決闘当日。
キリトに指定された場所へと並んで飛んでいた店主とシノンは、先頭で飛ぶタスクの声に、首を傾げた。
「どうかしたの?タスクくん」
店主が、先を覗き込みつつタスクに声をかける。
「……あーはは、そゆことね」
……が、店主はまるで自問自答するかのように、タスクの答えを聞く前に納得した。
そんな二人の謎な行動に耐えかねて、シノンも先を覗き込む。
少し位置をずらし、そこから更に首を伸ばして目を凝らす。
するとそこには、
「……あいつ、何考えてんのよ」
「……はは、彼は何気に人徳があるからねぇ」
シノンがそんな悪態を小声で呟く。
店主は、それに相槌を打って笑った。
「……」
そんな中、タスクだけが、沈黙を保ったまま真っ直ぐにそこへ飛んでいく。
そしてゆっくりと、キリトの前に降り立った。
「……おお、タスク!」
「こんにちは、キリトくん」
それに気づいたキリトが、タスクを見て笑う。
タスクも、それに応えて笑顔を返した。
すると、周りがざわりとざわめく。
タスクは、それを感じ取りつつ言葉を続けた。
「今日はよろしくお願いします」
「ああ、お互い本気でやろう」
キリトのその言葉に、周りはまたざわつく。
「あの黒いやつが本気でとか言ってるぜ……?」
「だいたい、あのタスクってやつ、だれなんだよ。強いのか?」
心做しか、そんな声も聞こえてきた。
それを少し気にして、なんとなくタスクは耳を傾けてしまう。
するとその時、不意に、前から……つまりキリトの方向から、あまり聞きなれない声が飛んできた。
「あ、あの……タスクさん」
「……!」
タスクは、慌てて意識を引き戻し、前を見る。
見ればそこには、キリトの従姉妹、直葉もとい、リーファが立っていた。
「あっ……ああ、すみません。どうしました?」
「あ……そ、その……ごめんなさい!!私のせいで……」
「……へ?僕何か……」
するとリーファは、いきなり謝罪をしながら、申し訳なさそうに見返してきた。
そんな彼女の視線に、タスクは違和感を覚える。
この人が、自分に何かしただろうか?
そんな考えが、タスクの中に浮かんだ。
だが、そんな思考虚しく、その答えはすぐにやってきた。
「い、いや、実はこの人だかり、半ば私のせいなんです」
「……!」
「お兄ちゃんにも怒られたんですが、私がサクヤとアリシャ……いえ、シルフとケットシーの領主を呼んじゃったんです。そしたら、次第に人が集まっちゃって……」
「……ああ、なるほど」
ああ、その事か。
と、タスクは内心でストンと腑に落ちる。
タスクが何気に気にしてしまった、この人だかりのことだ。
つまり、リーファは恐らく、キリトの決闘の話を、仲がいいと聞いているシルフ領主、サクヤに話してしまったのだろう。
……で、その後その話がケットシー領主、アリシャにも伝わり、キリトに一目置いている大物2人が肩を並べて見物に来てみたら、これだけ人が集まってしまった、という訳だ。
少し……と言うよりはほとんど、休日にアスナらとALOで遊んでいるシノンからの情報に基づいて推測した結論だが、あらかた間違ってはいないように思えた。
「本っ当にごめんなさい!!決闘を邪魔するつもりはなかったんです!」
タスクがそんな思案をしている間にも、リーファは必死に頭を下げて謝ってる。
そんなリーファを見たタスクは、はっと我に返ると、慌ててかぶりをふってその謝罪を否定した。
「あっ……いえ、いいんですよ!全然!」
「……え?」
「人が多い方が、彼の応援も大きくなるでしょうし……」
「で、でも、そしたらタスクさんは……その、アウェイというか……!」
「あー、僕はそういうの、慣れてますから」
「で、でも……」
「はは、いいんですよ!全然!」
「……!!」
タスクが、リーファをまるで元気づけるように、会話をどんどん広げていく。
そのお陰か、だんだんリーファの顔に笑顔が戻り始めたその時。
「……それに……ね」
「?」
不意に、タスクのトーンが低くなった。
リーファは、それに釣られて反射的にタスクをみる。
するとその時。
「もうなにも、隠す必要はありませんからね」
タスクが静かにそう言った。
リーファはその瞬間、ゾクリと何かが背筋を走り抜けたような、不思議な感覚を感じる。
だからなのか、彼の顔は、屈託のない笑顔から、少し何かを含んだ笑顔に変わっていた。
リーファは、何故かその顔から目が離せない。
……だが、気づいた時にはもう、その感覚は跡形もなく消えていた。
「……だから、本当に何も気にしないでください。ね?」
「……!!」
代わりにそこに居たのは、ついさっきまでと何ら変わらない、屈託のないタスクの笑顔。
そしてそこから感じ取れる、おおらかな優しさと、微かな親近感のみだった。
「は、はい……」
半ば呆然として言葉を返すリーファ。
するとタスクは、最後にニコッと笑って踵を返し、店主とシノンの元へと歩いていった。
リーファは、無意識的に安心感を求め、振り返ってキリトを見る。
だがそのキリトは、いやキリト自身も、不安げな顔でリーファを見返していた。
……緊張の決闘まで、あと僅か数分である。
次回!決闘開始!
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