これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
《ほんとに!?やったぁー!!》
「お……おう。なんとか……ね」
《よかったじゃない!私も楽しみだよ!》
東京の、とある一軒家の一室。
落ち着いた男性の肉声と、少し電子音のようになった女性の声が、部屋いっぱいに響く。
《でも……ほんとによくOKしてくれたよね。正直、提案しといてなんだけど、半分ダメ元だったから……》
「おいおい、半分ダメ元って……!」
《あはは、ごめんね。でもそうでしょ?》
「ま、まあ……」
椅子に座り頭の後ろへ手を置いた青年は、画面いっぱいに映っている少女の言葉に、すこし驚き気味に食いついていた。
もうお分かりだろう。
キリト、もとい和人と、画面越しのアスナ、もとい明日奈である。
彼らは、今、例の「決闘」について、話し合っていた。
「……でもまさか、アスナがあんなこと言うなんてなぁ」
《……え?》
すると和人が、天井を見上げてそんな事を呟く。
「「強さが知りたいなら、戦うしかない!」なんて、らしくないなぁと思って……さ」
《ああ……そのこと》
画面の中の明日奈は、そんな和人の言葉に、妙に納得しているかのような返事を返してくる。
そしてそのまま、ニコッと笑って少し頬を赤くしつつ、話し始めた。
《いやその……なんかね?》
「ん?」
《死銃事件が解決しても、キリト君の顔色は良くなくて、その……何か悩み事なのかと思って聞いてみたら……》
「ああ……」
《で、その話してくれた内容、実は私もそう思ってて、じゃあいっそ戦ったらどうなのかなって……私は、キリト君の戦うところ、すごく好きだから……》
「……!」
不意打ちの甘い言葉に、和人は意識が遠のく。
実は、タスクに決闘を持ちかけようと、最初に提案したのは明日奈なのだ。
毎日ではないが、定期的にこうしてテレビ電話をする中で、明日奈は和人の顔色が死銃事件の発生直後と解決以降、ほとんど変わっていないことに気づいていた。
そこで、色々聞き出してみたところ、どうやら「ビッグ・ボス」なる人物について、まだ思うところがあったらしく、明日奈はその時、同時に
《でも……それだけじゃないんだよ?》
「……?」
すると明日奈は、ぼんやりしている和人に話しかける。
和人は、そんな明日奈の言葉に、素直に耳を傾けた。
《私とて、元はあの血盟騎士団の副団長だしね。
「……!」
《もし、あの時あの世界で、キリト君と互角かそれ以上の強さを持った人がいたのなら、私だって見てみたいし、戦ってみたい》
「……」
《でも、それはキリト君だから出来ること。強い者と戦うには、そこまで登りつめなきゃいけない。ただ強くなるだけじゃなくて、もっといろんな意味で……ね》
そこまで話して、明日奈は和人を画面越しで見つめる。
和人は、そんな明日奈の視線を見て、ふっと肩の力を抜いて微笑んだ。
《そうよ!その顔。リラックスして》
「……え?」
するとその時、いきなり飛んできた言葉に、和人は疑問を持つ。
その顔……って、この世界ではこの顔しかないはずだ。
……が、その疑問はすぐ解消された。
《最近、ほんとに力み過ぎなのよ!キリト君は!学校でもそうよ?いっつも仏頂面……》
「……!あ、ああ。そう……だな」
そういうことか、と、和人は納得する。
「その顔」の「顔」とは、「顔色」のことだったのだ。
《また何か、相談があれば言ってね。いつでものるし、他にも沢山仲間がいるんだから……》
「ああ。ありがとう」
明日奈は、そんなやけに納得した顔の和人に、画面越しで微笑む。
そんな微笑みに、和人は画面に触れつつ微笑みを返した。
そしてそれから数分後。
煌々と、ただひたすら明日奈を映し続けていた画面は、ついに暗転する。
明日奈の「またね。おやすみ!」の声と共に。
だが和人は、いや「
そして、一言呟く。
「ありがとう……アスナ」
……と。
そんな彼の脳裏には、今、あの純粋無垢な少年の、無邪気な笑顔が、映し出されていた。
✣
「じゃあ、そういうことで……」
「うん!わかったよ。……よろしくね」
「い、いえ、こちらこそ……」
少し申し訳なさそうにしつつ、その少年は、青く淡い光に包まれ、粒子となって消えていく。
時は戻って約2時間前。
タスクが、仲間たちに背中を預け、キリトがタスクの笑顔に畏怖を覚えた数分後。
たった今、決闘の場所、時間、ルールなど、それ関連についての議論が終わり、キリトがログアウトして消えていった所である。
「ふぃ〜……」
「……?」
「んん……!」
するとその時、タスクが、キリトが完全に消えたのを見届けて、大きな息を吐いて、腕を伸ばして伸びをする。
そんな彼を見て、店主はふふ、と微笑んだ。
最近まじまじと見ていなかったが、やはりタスクはかわいいな、と、店主は思う。
キリトも(黙っていれば)かなりの美青年(というより美少女)だが、タスクはそうではない。
身長が低く、まるでそう……例えるならば、小学生、または幼児を見た時のような、幼い外見からくる庇護欲のような感情だ。
まあその割には、いろいろ達観しすぎていたり、時折発せられる威圧感が並大抵のものではなかったりと、いわゆるギャップが大きいのだが、それもまたかわいらしい。
「ふふ……お疲れかな?」
「い、いえ……その……」
そんなタスクは、店主の純粋な優しさから来る言葉にぴくりと反応する。
「ただ、その……」
「ん?」
「楽しみな反面、やっぱり、怖いなって……」
「……おや」
珍しく弱気な発言だなぁと、店主は目を細めてまた微笑む。
思えば、最近はいろいろと立て込んでいて、タスクも忙しそうだった。
決闘が終わったら休暇でもあげよう、などと思いつつ、店主はタスクを見守り続けてみる。
すると、
「話……終わりました?」
射撃演習場の扉から、ラクスを先頭に、カチューシャ、ウォッカ、フォートレスがわらわらと出てきた。
その列の最後尾に、ちょこんとシノンも続いて出てくる。
「……!」
それを見た時、店主はふと、とある事を思いついた。
そしてそのとある事を、「成功」に導くために、すぐさま
「あのー……シノンさん?」
「は、はい?」
少し気を伺うように、店主がシノンに声をかける。
シノンは、そんな店主を伺うように、声を返す。
「さっきタスク君と話してたんだけどさ」
「は、はい」
すると店主は、次の瞬間、とんでもない爆弾発言を口にした。
「シノンさんもタスク君とキリト君の決闘に、付いてきてもらうよ」
その時、後ろのボックス席に向かいつつあったラクス達一行が、全力で振り返る。
カウンターに伏し、寝息を立てつつあったタスクが飛び上がって店主を見る。
そしてシノンはその場に硬直し……
店主はと言うと、ニコニコの笑みで、シノンを見ていた。
「「「「えええええぇぇぇぇ!!!???」」」」
タスク含め、その場にいる店主以外の全員が、驚きの声を完璧なタイミングでハモらせたのはもちろんのこと、
タスクが顔を真っ赤にし、今にも店主に殴りかからんとしているのは、言うまでもなかった。
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