これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode58 ダメ元 〜No claim〜

《ほんとに!?やったぁー!!》

「お……おう。なんとか……ね」

《よかったじゃない!私も楽しみだよ!》

 

東京の、とある一軒家の一室。

 

落ち着いた男性の肉声と、少し電子音のようになった女性の声が、部屋いっぱいに響く。

 

《でも……ほんとによくOKしてくれたよね。正直、提案しといてなんだけど、半分ダメ元だったから……》

「おいおい、半分ダメ元って……!」

《あはは、ごめんね。でもそうでしょ?》

「ま、まあ……」

 

椅子に座り頭の後ろへ手を置いた青年は、画面いっぱいに映っている少女の言葉に、すこし驚き気味に食いついていた。

 

もうお分かりだろう。

キリト、もとい和人と、画面越しのアスナ、もとい明日奈である。

 

彼らは、今、例の「決闘」について、話し合っていた。

 

「……でもまさか、アスナがあんなこと言うなんてなぁ」

《……え?》

 

すると和人が、天井を見上げてそんな事を呟く。

 

「「強さが知りたいなら、戦うしかない!」なんて、らしくないなぁと思って……さ」

《ああ……そのこと》

 

画面の中の明日奈は、そんな和人の言葉に、妙に納得しているかのような返事を返してくる。

 

そしてそのまま、ニコッと笑って少し頬を赤くしつつ、話し始めた。

 

《いやその……なんかね?》

「ん?」

《死銃事件が解決しても、キリト君の顔色は良くなくて、その……何か悩み事なのかと思って聞いてみたら……》

「ああ……」

《で、その話してくれた内容、実は私もそう思ってて、じゃあいっそ戦ったらどうなのかなって……私は、キリト君の戦うところ、すごく好きだから……》

「……!」

 

不意打ちの甘い言葉に、和人は意識が遠のく。

 

実は、タスクに決闘を持ちかけようと、最初に提案したのは明日奈なのだ。

 

毎日ではないが、定期的にこうしてテレビ電話をする中で、明日奈は和人の顔色が死銃事件の発生直後と解決以降、ほとんど変わっていないことに気づいていた。

 

そこで、色々聞き出してみたところ、どうやら「ビッグ・ボス」なる人物について、まだ思うところがあったらしく、明日奈はその時、同時に()()()やってきた2()()()()()()()()を思い出したのだ。

 

《でも……それだけじゃないんだよ?》

「……?」

 

すると明日奈は、ぼんやりしている和人に話しかける。

和人は、そんな明日奈の言葉に、素直に耳を傾けた。

 

《私とて、元はあの血盟騎士団の副団長だしね。()()()に惹かれたり、剣を交えてみたい気持ちは良くわかるもの》

「……!」

《もし、あの時あの世界で、キリト君と互角かそれ以上の強さを持った人がいたのなら、私だって見てみたいし、戦ってみたい》

「……」

《でも、それはキリト君だから出来ること。強い者と戦うには、そこまで登りつめなきゃいけない。ただ強くなるだけじゃなくて、もっといろんな意味で……ね》

 

そこまで話して、明日奈は和人を画面越しで見つめる。

和人は、そんな明日奈の視線を見て、ふっと肩の力を抜いて微笑んだ。

 

《そうよ!その顔。リラックスして》

「……え?」

 

するとその時、いきなり飛んできた言葉に、和人は疑問を持つ。

その顔……って、この世界ではこの顔しかないはずだ。

 

……が、その疑問はすぐ解消された。

 

《最近、ほんとに力み過ぎなのよ!キリト君は!学校でもそうよ?いっつも仏頂面……》

「……!あ、ああ。そう……だな」

 

そういうことか、と、和人は納得する。

「その顔」の「顔」とは、「顔色」のことだったのだ。

 

《また何か、相談があれば言ってね。いつでものるし、他にも沢山仲間がいるんだから……》

「ああ。ありがとう」

 

明日奈は、そんなやけに納得した顔の和人に、画面越しで微笑む。

そんな微笑みに、和人は画面に触れつつ微笑みを返した。

 

 

 

そしてそれから数分後。

 

煌々と、ただひたすら明日奈を映し続けていた画面は、ついに暗転する。

明日奈の「またね。おやすみ!」の声と共に。

 

だが和人は、いや「()()()」は、画面が黒く染まった瞬間、机に伏して頭を抱えた。

 

そして、一言呟く。

 

「ありがとう……アスナ」

 

……と。

 

 

 

そんな彼の脳裏には、今、あの純粋無垢な少年の、無邪気な笑顔が、映し出されていた。

 

 

「じゃあ、そういうことで……」

「うん!わかったよ。……よろしくね」

「い、いえ、こちらこそ……」

 

少し申し訳なさそうにしつつ、その少年は、青く淡い光に包まれ、粒子となって消えていく。

 

時は戻って約2時間前。

タスクが、仲間たちに背中を預け、キリトがタスクの笑顔に畏怖を覚えた数分後。

 

たった今、決闘の場所、時間、ルールなど、それ関連についての議論が終わり、キリトがログアウトして消えていった所である。

 

「ふぃ〜……」

「……?」

「んん……!」

 

するとその時、タスクが、キリトが完全に消えたのを見届けて、大きな息を吐いて、腕を伸ばして伸びをする。

 

そんな彼を見て、店主はふふ、と微笑んだ。

 

最近まじまじと見ていなかったが、やはりタスクはかわいいな、と、店主は思う。

キリトも(黙っていれば)かなりの美青年(というより美少女)だが、タスクはそうではない。

 

身長が低く、まるでそう……例えるならば、小学生、または幼児を見た時のような、幼い外見からくる庇護欲のような感情だ。

 

まあその割には、いろいろ達観しすぎていたり、時折発せられる威圧感が並大抵のものではなかったりと、いわゆるギャップが大きいのだが、それもまたかわいらしい。

 

「ふふ……お疲れかな?」

「い、いえ……その……」

 

そんなタスクは、店主の純粋な優しさから来る言葉にぴくりと反応する。

 

「ただ、その……」

「ん?」

「楽しみな反面、やっぱり、怖いなって……」

「……おや」

 

珍しく弱気な発言だなぁと、店主は目を細めてまた微笑む。

 

思えば、最近はいろいろと立て込んでいて、タスクも忙しそうだった。

決闘が終わったら休暇でもあげよう、などと思いつつ、店主はタスクを見守り続けてみる。

 

すると、

 

「話……終わりました?」

 

射撃演習場の扉から、ラクスを先頭に、カチューシャ、ウォッカ、フォートレスがわらわらと出てきた。

 

その列の最後尾に、ちょこんとシノンも続いて出てくる。

 

「……!」

 

それを見た時、店主はふと、とある事を思いついた。

 

そしてそのとある事を、「成功」に導くために、すぐさま()()()ではあるものの、行動に移ってみる。

 

「あのー……シノンさん?」

「は、はい?」

 

少し気を伺うように、店主がシノンに声をかける。

シノンは、そんな店主を伺うように、声を返す。

 

「さっきタスク君と話してたんだけどさ」

「は、はい」

 

すると店主は、次の瞬間、とんでもない爆弾発言を口にした。

 

 

「シノンさんもタスク君とキリト君の決闘に、付いてきてもらうよ」

 

 

その時、後ろのボックス席に向かいつつあったラクス達一行が、全力で振り返る。

 

カウンターに伏し、寝息を立てつつあったタスクが飛び上がって店主を見る。

 

そしてシノンはその場に硬直し……

 

店主はと言うと、ニコニコの笑みで、シノンを見ていた。

 

「「「「えええええぇぇぇぇ!!!???」」」」

 

タスク含め、その場にいる店主以外の全員が、驚きの声を完璧なタイミングでハモらせたのはもちろんのこと、

 

タスクが顔を真っ赤にし、今にも店主に殴りかからんとしているのは、言うまでもなかった。




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