これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode5 二回目の決戦 〜Second time, decisive battle.〜

攻撃は、シノンが先だった。

タスクが装備を走りながら整え、あらかじめ決めておいた位置に着いて、双眼鏡であたりを索敵しだした時。

偶然、廃墟の建物の中で寝そべり、こちらに銃口を向けているシノンと目が合ったのだ。

 

「……!」

 

タスクは、前方へと飛ぶ。そしてそのまま寝そべると、横に転がって岩陰に隠れた。

シノンの銃声は、タスクが前方へ飛ぶのと全く同じタイミングで聞こえてきた。

結果、タスクは何とか回避できたが、危うく初弾必中される所だった。

飛んできた角度や着弾時の砂の跳ね方から、シノンは最初からタスクの頭を狙っていたのだと推測できる。

 

「こ、こえええ〜!」

 

タスクは小さく呟きを漏らす。

こんなところでやられては、元も子もない。

タスクは大きく息を吐いた。

 

「よし、行こうか」

 

そして、今度はタスクから動き出した。

 

✣(視点変更)

 

「いた」

 

そんなシノンの呟きは、銃声にかき消された。

その銃声のもとである銃……ヘカートIIの射線上には、そのシノンが狙っているプレイヤー、「ビッグ・ボス」がいる。

ビッグ・ボスは、一瞬だけこっちを見て、前に飛んですぐに岩陰に隠れた。

シノンは、流石に驚いた。

 

「なんであの弾を避けれるの……!?」

 

それもそのはず。

スナイパーライフルの弾を避けるなど、最初から撃ってくる方向が分かっていなければ到底不可能だからだ。

 

「何なのよあいつ……!」

 

そう言って、シノンはレバーを引く。

おそらくビッグ・ボスは、キャラクターの6つのステータスの割り振りが破格なのだろう。

そのことをシノンはすぐ判断し、第2射に向けて狙いを定めるべく、スコープを覗く。

だが、さっきビッグ・ボスが隠れた岩陰にはもう誰もいなかった。

 

「な……!?」

 

シノンは明らかに動揺する。

レバーを引くだけの短時間で、あの岩陰からどこへ移動したのか。

秒にしてたった3秒と言ったところだ。

 

「どこに……!?」

 

シノンは、慌てて索敵する。

ヘカートIIのスコープを使って、眼下に広がる荒野をくまなく探した。

するとその時、シノンの前髪を掠めるように、横から弾丸が飛んできた。

幸い当たらなかったものの、もう少しズレていれば確実にヘッドショットだ。

シノンは慌てて仰け反り、射撃位置を変えるべく移動する。

同時に、シノンは気づいていた。ビッグ・ボスも、アンチマテリアルライフル持ちである事に。

 

ビッグ・ボスは、シノンが位置を変えるタイミングと一緒に移動していた。

そうすれば、移動中に撃たれるなんてことはなくなる。そう思ったのだろう。

だからそれを見たシノンは、立ったままで移動中の影を撃った。

だがそこはやはり、跳躍されてよけられる。

 

「……!」

 

シノンは、その姿を見て移動を再開した。

そしてまた、今度は別の床に寝そべり、ビッグ・ボスの姿を探し、撃った。

 

 

それから戦うこと一時間。

戦況の展開は全く変わっていなかった。

 

ビッグ・ボスが荒野を駆け巡りながら牽制射撃をし、シノンが適度な間隔の時間で位置を変えて射撃する。

 

そんな戦闘が長々と続くと、流石に弾数が無くなってくる。

既にシノンの隣には、撃ちきったマガジンの山ができていた。

と言っても、シノンのSTR(筋力)の関係によってそこまでの量を持って来れないため、2〜3個重なっているだけだが。

だが、このマガジンはアンチマテリアルライフル用のものだ。重ねれば2〜3個でも山になる。

 

 

シノンが移動するタイミングでビッグ・ボスも動く。

ならばとシノンは自分自身が移動中、同じく移動中のビッグ・ボスを狙うようになった。

こうした方が、よっぽど効果的だと考えたからだ。

だがやはり、ビッグ・ボスには当たらない。

シノンは自然と速射になっていた。

ビッグ・ボスの移動速度に合わせ、数撃ちゃ当たると言わんばかりに弾を叩き込んでゆく。

 

ダンッ!パシン!カチャッ……ダンッ!パシン!カチャッ……

 

テンポよく聞こえてくる速射音。

その効果は、少なからずあった。

 

1回の速射につき1回は、ビッグ・ボスに弾が当たるようになって来ていたのだ。

ビッグ・ボスはよろめきながらまた跳躍して岩陰に隠れ、あちらもまたアンチマテリアルライフルでの射撃をしてくる。

 

アンチマテリアルライフル対アンチマテリアルライフルの戦い。

唯一違うのは、その戦闘スタイルだった。

 

そしてその戦闘スタイルの違いが、ついにこの戦いに勝敗をつける事になったのである。

 

 

その戦いの勝敗は、意外な結末を迎えた。

 

だんだんお互いに疲労し、弾も尽きてきた頃。

先程から全く変わっていないこの戦況に、また乗ろうと移動し、シノンがスコープを覗いたその時。

 

突如として、眼下に広がる荒野から、ビッグ・ボスの姿が消えた。

先程までこの荒野を駆け巡っていたビッグ・ボスが、全く気配を消したのだ。

 

シノンはもちろん、動揺を隠せない。

どこだどこだと、ヘカートIIの銃身とスコープを右往左往していると、後ろから急に足音が聞こえてきた。

 

シノンは、咄嗟にスコープから目を逸らし、サブウェポンのG(グロック)18を取り出す。

 

このG18には、弾を通常より多く装填するためのロングマガジンが取り付けられていた。

しかもこのハンドガン、フル・オート、つまり連射が出来る優れものなのだ。

敵が間近に迫った時、このサブウェポンをとりあえずばら撒いておけば牽制になり、時間を稼ぐ事が出来る。

 

だが、そんな機構はビッグ・ボスの前では無意味だった。

 

「ぐっ……!」

 

シノンが、地面へと叩きつけられる。

それは、あっという間だった。

 

後ろからの足音で気づいた敵の奇襲に対抗すべくすばやく取り出したG18は、誰かの手によって……まあビッグ・ボスだろうが、そのビッグ・ボスの手によって簡単に叩き落とされ、やっと顔が後ろに回った時には世界が反対に見えていた。

そしてその直後に背中に痛みが走り、視界が暗転した訳だ。

 

そしてシノンは、ゆっくりと目を開ける。

するとそこには、デザートイーグルにサイレンサーをつけたサブウェポンを上から突きつけている、ビッグ・ボスの姿があった。

 

「……!」

 

シノンは、殺られる!と覚悟する。

 

……が、ビッグ・ボスはすっと銃口を上に向け、すぐに後ろ腰のホルスターに差し込んだ。

同時に、銃を持っていない左手を差し出す。

 

シノンは、すこし悔しそうにその手を握った。

すると、勢いよく起こされる。

 

「うわっ……!」

「ああ、すまない」

 

ビッグ・ボスは、案外あっさりと謝る。

シノンは、あまりのイメージの違いに驚いていた。

 

そんな中、ビッグ・ボスが身をかがめてシノンの手から叩き落としたロングマガジンのG18を拾う。

そしてそれを右手に持つと、慣れた手つきでロングマガジンを取り出し、シノンに差し出した。

シノンはおずおずと受け取る。

 

すると、ビッグ・ボスは淡々と話し出した。

 

「あんた、このロングマガジンのG18を、牽制用に装備しているんだろう?」

「え……ええ」

 

シノンは、少し狼狽える。

ビッグ・ボスは、そんな事は気にとめずに話を続けた。

 

「なら、こんな大きなマガジンをつけていちゃダメだ」

「ど、どうして?」

「いいか?ロングマガジンを付けるということは、それだけ重量と長さを追加するということだ。同時にそれは、取り回しをしにくくなるということでもある」

「そ……!それは……!」

「なら、即時に対応すべく装備しているそのG18に付けてはいけない。せっかくのフル・オート式が無駄だ。純正の弾数の少ないマガジンを付けて、取り回し重視にしなければ、牽制には向いてない」

「……!」

「さっきもそうだ。あんたがロングマガジンにしていてくれたから、俺はあんたのG18を抑え、叩き落とせたんだ」

「そ、そんな……に……?」

 

シノンは、唖然とする。

牽制なら、弾数が多い方がいい。勝手にそう思って付けていたロングマガジンが、今回の敗北の要因なんて、考えもしなかったからだ。

 

話を区切ったビッグ・ボスは、マガジンが取り外され、安全装置を付けたG18を、すこし回して弄んだ後、シノンに差し出す。

 

そしてまた、シノンがおずおずと受け取ったのを見て、また身をかがめて、今度は床にバイポッドを立てたまま放置してあったヘカートIIを手に取った。

これもまた慣れた手つきでマガジンを取り出し、ボルトアクションレバーを扱って、すぐに撃てないようにしていく。

 

そして一通り作業を終え、最後に安全装置をかけた後、銃口を上にしたヘカートIIを差し出した。

それと同時にビッグ・ボスは、笑みを含めながみこう呟いた。

もちろん、シノンに聞こえるように。そして、シノンを褒め称える様に。

 

「だが 、こいつを使った速射は見事だった。

 

 

 

……いいセンスだ」

と。

 

シノンは呆気に取られていたが、ビッグ・ボスはくるりと後ろを向き、建物の壁の後ろに消えていった。

 

 

ーそして、シノン対タスクの2度目の戦闘が、幕を下ろした。




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