これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode54 紹介 〜Introduction〜

「えー、ごほん。では、改めまして」

「改めてって……お前が荒らしたんだろう?」

「う、うるさいわね!」

「は、はは……」

 

そんな、()()()()()での仲のよい会話が響く店主の店。

 

シノンと、その仲のいいプレイヤー二人は、カウンターの後ろにある対面式の席に座り、文字通り向かい合って座っていた。

 

「とっ……!!とりあえず!」

 

と、場を改めるように、そのプレイヤーは、また声を上げる。

そんな声に、シノンは半ば気圧されつつ強引に頷いて、その先を促した。

 

それを見た二人の内、最初に、シマシマのパーカーの上に防弾チョッキを着て、バラクラバをし、軍用セミフェイスヘルメットを被った、短い金髪のキャラクターが自己紹介をする。

 

「はじめまして。私の名前は「シャルル」。コードネームは「ウォッカ」よ」

「ウォッカ……さん」

「うん!気軽にどうとでも呼んでよ!」

「は、はい。よろしくお願いします」

「こちらこそ!でね、私の仕事は主に、偵察」

「て、偵察……!」

「ま、私は前線に潜り込むほうだけどね。でも大体はシノノンと一緒よ?」

「……!」

「だからよろしくね!狙撃支援、頼りにしてる!」

 

そう言ってウォッカは、いつかしたようなウインクをする。

 

「……!」

 

シノンは内心、ウォッカのその言葉に、自然と心が温かくなっていた。

 

狙撃手(スナイパー)は、地域によって多少違うが、大多数は「偵察兵」と呼称される。

 

なにも、敵の内部に潜り込んで情報を盗み取る事だけが「偵察」ではなく、味方の()()()()を、味方の()()()()から見渡しているだけでも、立派な「偵察」として成り立つのである。

 

結果、やり方はどちらでも、偵察があるのと無いのとでは作戦行動に大きな差ができるのだ。

 

……ただ、それを理解してくれるプレイヤーはそういない。

 

スナイパー型の偵察スタイルに関しては、一部では「芋」と呼ばれるほど、「役たたず」という認識が強い。

 

対して、ウォッカのような、直接侵入型の偵察スタイルは、むしろ賞賛され、「強者(つわもの)」という、全く正反対の認識がある。

 

これは、必要とされる「技術」の理解されやすさの問題だ。

 

直接侵入型なら、敵に見つからずに進むという()()()()()技術が要求される。

これならば、傍から見てもすごさが伝わりやすい。

 

だが、スナイパー型は、傍から見れば、ただ()()()()()()

当然、恐ろしいレベルの計算力や隠密行動に関する知識と経験が要求されるが、それはほぼ全て()()()()()()ものだ。

 

もちろん、分かる人間にはスナイパー型のすごさも分かるが、それはごく一部。

その結果、結局はスナイパー型の、「芋」という認識は定着してしまっている。

 

そんなことを察している、むしろ知っているから、ウォッカはシノンを気遣って、「自分達は同等だ」と、話してくれたのである。

 

「……今度は、俺か?」

「!」

 

そんなことを考え、少し嬉しい気持ちに浸っていると、そんな声が聞こえてくる。

 

シノンは、慌てて思考を引き戻し、またこくこくと頷いて先を促した。

 

すると、そのプレイヤー、目深くフードを被り、マスクをして、目の周りまで黒く塗ったキャラクターも、淡々と自己紹介を始める。

 

「……俺の名前は、「トレンチ」。コードネームは、「フォートレス」だ」

「フォート……レス?」

「そう。フォートレスってのは、英語で「要塞」。つまり俺の担当は、主に防衛戦とかで、罠とかを使って、そこを要塞化する役割」

「要塞化……!!」

「そう。防衛なら任せろ」

「な、なるほど……!」

 

目だけしか見えないが、フォートレスは純粋に笑う。

 

外見からか、寡黙なイメージだったフォートレスの、不意打ちの柔和な笑顔に、シノンはまた一段と心が温かくなった。

 

それにつられたからか、つい笑みを返してしまう。

 

「……よろしくな」

 

フォートレスは、それを察したのかまたニコッと笑って答える。

 

 

 

そして3人は、お互いに見合って笑いあった。

 

 

「……よかった。すっかり仲良くなったね」

 

レジから聞き耳を立てていた店主は、微笑んで安堵の息をつく。

 

実は店主は、彼らが話し始めた時から、仕事などそっちのけでただひたすら盗み聞きをしていたのだ。

 

まあ、といっても今の時間は、客などいないし来ないし、修理も急用の依頼もない。

 

だから、仕事()()()()のではなく仕事()()()のが正確だ。

 

「ふう……これでやっと、ひと段落かな」

 

すると店主は、そんなことを呟いて、背もたれに背中を預け、手を頭の後ろに置いて、天井を見上げる。

 

死銃事件もあらかた収束し、菊岡との事後報告だの報酬だの、色々な諸仕事も終わらせた。

 

あと気がかりがあるとすれば、()()()()に関することだが……

 

正直、それは時間の問題だし、店主から言わせてみれば、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「まあ、どうするにせよ……ってやつか」

 

そう言って、店主は思考にきりをつけ、立ち上がる。

 

そしてそのまま、シノン達の座る席の方に歩きつつ、「なにか仕事でも」と声をかけようとしたその時。

 

ガチャリ……カランカラーン……

「……!いらっしゃいませー!」

 

絶妙なタイミングで、お客さんがやってくる。

……が。

 

「……!!」

 

それは、単なる「客」ではなかった。

 

「おや、キリトくん……!!」

「こ、こんにちは」

「あはは、いらっしゃい。よく来たね」

 

そう、やってきたのは、キリトだった。

 

店主はもちろん歓迎する。

菊岡が()()()()をきちんと伝えたかは定かではないが、どちらにせよ歓迎することには変わりないからだ。

 

そんな理屈からか、それともただただキリトがかわいいからか、店主は微笑んでキリトに声をかけようとする。

 

するとその時、キリトが、それを制するかのように声を出した。

 

「今日はどうしたのかな?単なる気休め?それとも……」

「てっ……!店主さん!」

「……!おや、どうしたの?」

 

その声と、その時のキリトの顔から、店主は瞬時に()()()()()()()

 

店主は、キリトの事に関してはSAO時代から、()()()()()()よく知っている。

 

その経験から行けば、彼は仲間になることを拒否することぐらいなら簡単にすっぱりと言える人間だ。

 

だが今回は、顔から察するにそうではないらしい。

 

「……っ!」

 

その証拠のように、キリトは驚くほど緊張した面持ちで、何かを言おうとして、なかなか言い出せないでいる。

かと言って、店主が変に声をかけて、場を乱す訳にはいかないので、微笑んで待つしかない。

 

従って、しばらくの間、二人の間を気まずい沈黙が支配したのだが……

 

「あ、あのっ……!!」

 

やっとの事で、キリトが声を絞り出す。

そして続いて出てきたその言葉は……

 

()()()()、店主の予想の「斜め上」を行くものだった。

 

 

 

「俺と()()()、決闘させてもらえませんか!!!」

「な……!?」

 

 

 

店主は目を見開いて、あからさまに驚く。

 

……ただそれは、その「依頼」についてではない。

では一体何に、あの店主が驚き、目を見張ったのか。

 

それは、キリトが、

 

 

 

 

「なぜ君は、ボスの名前を知っているんだい……!?」

 

 

 

 

()()()」、この名前を知るはずもないからである。




いつもありがとうございます。
駆巡 艤宗です。

いやー、長かったですね。
遂に!死銃編、完結です!!

ありがとうございました!
次章はやっと、SJ編……

と、行きたいところですが。

ご覧いただきましたとおり、またキリトくんがなにやらやろうとしておりますので……
もうしばらく、お待ちくだいね。(笑)

では。

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