これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode48 盲点 〜The blind spot〜

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

「はい?」

 

衝撃の事実が告げられ、妖精たちがディスプレイを眺め唖然としていたその時。

クリスハイトが、まるで抵抗するかのように、声を上げた。

 

「タ、タモンさん!?君は今、「標的はシノン」さんって言ったよね!?」

「ええ」

「君達はそれで、なぜそんな落ち着いていられるんだい!?」

「なぜって……?」

「……!?」

 

クリスハイトは、確かに覚えている。

 

ここに来る前、集合した酒場で、店主が

「うちもうちで、大事なシノンさんがいますからね、()()()()なんて言語道断。ありえませんから。」

と言っていたのを。

 

それなのに、いざその状況になれば、なにも動こうとしない。

そんな店主達に、クリスハイトは半ば怒りのような感情が芽生えていた。

 

自分とて、これ以上被害を出されるのは困る。

それに、本来この仕事をするべきはずだった人間達が、この状況で、何も動こうとしない。

 

たしかに、仕事を彼らから奪ったのも自分であり、それは事実だ。

だが、こうなることを予見して、

「この死銃事件の、()()()()でのみ、表での行動を許可」

したのだ。

 

それがまさに、今、ではないのか。

今ここで、助けに行けば、同時に死銃を倒すことだってできるはずだ。

 

「君……!!シノンさんの命が危ないんだよ!?」

「でしょうね」

「それで……そんな、というよりこんなところにいていいのかい!?」

「……」

 

クリスハイトの怒声に、店主は微笑みを保ったまま、押し黙る。

その声につられて、視線をこちらに向ける妖精たち。

 

その個室に、さっきまでとはまた違った、変な緊張感が張り詰める。

 

するとその時。

 

「だから。言ったでしょう?」

「!?」

 

店主ではない、またどこか、()()()()()()()()声が、店主の方から聞こえてくる。

 

「シノンさんは、たしかに僕らの仲間です。命の危険が迫っているのもわかってる。きっと本人も、分かっているでしょう」

「タスク……くん?」

「本来なら、今すぐ助けに行きたいですよ」

「な、そ、それじゃあ……!」

 

そんな声を上げたのは、もうお分かりだろう、タスクである。

クリスハイトは、なお落ち着き払っているタスク達に、抵抗する。

 

……が。

 

「それでも彼女は、()()()()()()()という()()を続行しようとしてる。ということは、()()()()()()()()()()()()ってことです」

「……!?」

「今ここで、助けに行ってもいいでしょう。BOB会場に乱入することなんて、僕らの技術があれば容易いことだ」

「……!!」

 

クリスハイトはもちろん、妖精たちも、今までとは違った、()()()()()のような話し方をするタスクに、どこか畏怖を覚える。

 

そんな感情などつゆ知らず、タスクはディスプレイを見つめたまま、まだまだ話し続ける。

 

「……でもね、もし、本当にそうしたとして、この事件が解決すると、思いますか?」

「……!?」

「クリスハイトさんが僕らに行動を許したのは、()()()()です。()()()()って、本当に今ですか?」

「な……何が言いたいんだい?」

「つまり、ここまで「大罪」を犯した死銃(あいつ)が、ここで……いや、この世界で、つまり()()()()()()()()()倒したところで諦めるか?ってことです」

「そ、それは……!」

 

クリスハイトはもちろん、話を聞いている妖精たちも、少しの間、考え込む。

 

たしかに、()()()()()死銃を倒したところで、諦めるのだろうか……と。

答えは明白だ。

 

諦めるわけがない。

 

「だから、僕はここでは手を出さない。言ったでしょう?」

「……!!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ってね」

 

「わ……わかったよ」

 

クリスハイトが、すごすごと引き下がる。

 

すると今度は、今まで黙ってカウンターに座っていたクラインが、タスクへ質問した。

 

「な……なあ?えっと……タスクくん……?」

「はい?」

 

今までディスプレイから目を離さなかったのに、クラインが呼んだ瞬間そちらへ首を回すタスク。

 

「っ…!?」

「……どうしました?」

「い、いや、その……さっきよ、あんた、この世界で倒しても意味がないって言ったよな?」

「ええ。確かにそう言いましたが?」

「じゃ、じゃあ……今キリトがやってることだって、やっぱり意味が無いんじゃ……」

「……!」

 

はっ、と、妖精たちが振り向く。

 

確かにそうだ。

この世界で倒したところで死銃が諦めないと分かっているなら、今キリトが繰り広げている死銃との決闘だって、意味が無いのだ。

 

そんな、ある意味「盲点」だった事を指摘されでもなお、タスクはニコッと笑ってクラインと向き合う。

 

「まあ……」

「?」

 

また虚を突くようなことを言い出すのかと、身構える妖精たち。

 

……が。

 

「そうなんですけどね」

「へ?」

「結局、シノンさんが殺られる殺られないは、リアルでの事ですし、今までの話は、「死銃がリアルとの連携を続行し続ければ」、ですから」

「ま、まあ……」

「いくらシノンさんを守るって言ったって、キリトくんが守っているのはこの世界のキャラクターですから、現実のプレイヤーは守れませんよ」

「そんな……!」

「だって、ここまで追い詰められてるんですよ?もうゲーム内から殺したように見せる細工なんてせずに、さっさと殺す可能性だってあるわけで……ね?」

「そうか……そうだよな」

 

今までの話とは一転、どこかあっけらかん話し方に、妖精たちは、ポカーンとする。

 

するとその時。

 

「そこで!クリスハイトさん」

「な、なんだい?」

 

いきなり、タスクが雰囲気をぶち壊すかのような声を上げる。

そんな声で呼ばれたクリスハイトは、少し驚きつつも反応する。

 

そして……

 

「シノンさんの、住所、教えてください!」

 

「はい!?」

 

ある意味、虚を突かれた妖精たちと、クリスハイト。

それに対して、タスクはニヤリと笑いながら、話し続ける。

 

「そこで、決着をつけます」

「決着……!」

 

その時、タスクの顔が、いきなり真剣味が出てくる。

 

「そうです。というのことはつまり、そこが『僕の出る幕』である」

「……!!」

 

 

 

 

 

「『最終局面』です」

 

 

 

 

 




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