これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
「
「ア、アスナ?」
タスクの意味有りげな問いかけがトリガーとなって、アスナの中で彼女の記憶がぐんぐん遡っていく。
《裏……裏……!!どこかで、どこかでそれを……!》
忘れてしまった何か大切なものを思い出すかのように、記憶を探り散らかす。
《あっ……!!!》
そしてその捜索の末、ついに行き着いた先には、SAO時代、何気なく耳に入った、とある雑談の記憶だった。
✣
「なあなあ、聞いたことある?」
「え?」
そこは、血盟騎士団本部の、とある中庭。
白を下地に、赤のラインが入った服を着た男達が、休憩時間なのだろうか、木の下に座って駄弁っている。
アスナは、休憩時間とはいえ気を抜きすぎだと思いつつも、木の反対に座って自分も休んだ。
するとやはりなのか、その男達の声が聞こえてくる。
うるさいな、と思い、アスナが立ち上がろうとした時、それを引き止めるかのように、とあるワードが聞こえてきた。
「
「う……裏?」
「そう!」
またそんな、都市伝説みたいな……とアスナは内心で悪態をつく。
大体そうだ。何かが大きくなればなるほど、都市伝説のような噂がつくものだ。
その何かが、人であっても、物であってもだ。
歌や絵でさえ、「隠されたメッセージが……」とか言われる。
ばからしい、と思う。
……が、やっぱり立ち上がれなかった。
「血盟騎士団の副団長」という自覚からか、不審に思った種は、潰しておきたいと思ってしまったからだ。
その男達の話は、まだまだ続く。
「なんでも、この制服と
「へぇ……。対色ねぇ。じゃあ、その対色ってなに色なんだよ?」
「黒を下地に、青のラインだって」
「な、なんか、怖いな……見たことあるやつでもいるのか?」
「今のところそんなやつは聞いたことない。俺も見たことないし、他のやつから聞いただけさ。……でも、存在説は濃厚だぜ?」
「またまた……なんでだよ」
「あの、団長様が、そんなことを匂わせる発言をしているからさ」
「はぁ……?」
「聞いたことないか?【裏のものを……】とか」
「た、確かにな……」
「だろ?やっぱりいると思うんだよな」
確かにな、とアスナも思ってしまう。
確かに、血盟騎士団団長、ヒースクリフは、そんな発言を希にするのだ。
その裏の者ってなんなのよ……と思った節も、忘れていたがよくあった。
とは思うものの、口には出せなかったし、アスナはてっきり他の団員にそんな依頼をしているのだと勝手に思っていた。
だが、言われて考えてみれば有り得なくはない。
自分たちはあの「血盟騎士団」だ。どこに行っても他とは違う目で見られる。
そんなギルドのメンバーに、裏工作しろと言っても、正直、無理なのかもしれない。
そうなれば、あの団長、ヒースクリフはどうするだろう。
答えは明白だった。
「独立したそれ専用の機関を作る」
のだ。
もしそれが、その「
そう考えが至れば、アスナは尚更聞き耳を立てなければならない。
なぜ副団長である自分にすら教えられてないのか、その原因を突き止めねばならないからだ。
それに呼応するかのように、男達の話もクライマックスに向かう。
「だからよ、もしかしたら、本当にあるかもしれねんだ。あの団長様なら……な」
「……確かに」
「それに、もしかしたら、このすごい規模の血盟騎士団はそいつらに支えられているかもしれねんだぜ?よく考えてみれば不自然だろ?こんなに大きいのに誰も歯向かうやつがいねぇんだ」
「いやいや、いるじゃん、血盟騎士団を排除しろだのなんだの言うやつ」
「そりゃあ言ってるだけだろ?それに正面から来るわけないじゃん。俺が言ってるのは、
「……確かに」
「でも聞いたことは?」
「ないな」
「つまり?」
「それを裏で防いでるやつが……」
「いるってことよ!」
「はは、んなバカなぁ……!!」
そんなこと話しつつ、男達は立ち上がってどこかへ歩いていく。
場所に飽きたのか、それとも食事を取りに行ったのか、そんなことは分からないしどうでもよい。
ただその木の反対側に座っていたアスナは、どこか悶々とした気持ちを抱えていた。
あの男達の話の真実を裏付ける証拠はない。ないのだが、やっぱり「そうだな、」と思ってしまう節がいくつか確かにあったのだ。
「……なによ」
考えがまとまらなくなってしまったのか、それとも隠し事をされた気分になったのか、はたまたくだらない噂だと思ったのか、自分でもよくわからないまま、アスナは一言悪態をついて立ち上がる。
ーそれ以来、その話を聞くこともないまま、SAOは攻略を迎えた。
✣
「ア……アスナ?アスナ?」
ぼーっとしたまま固まるアスナを、リズが揺さぶり、他の妖精たちが心配そうに見つめる。
「……はっ!ああ……ごめん」
そんな視線に気づいたアスナは、すぐに意識を引き戻した。
「思い出したかい?」
「……!」
そして即座に、今度は店主から再度の問いかけがくる。
するとアスナは、今回はきちんと答えを返した。
「なんとなくだけど、聞いたことがあるわ」
「なんとなく……か」
「ええ。その……誰かの噂話を聞いた程度だけ」
「……」
真面目な顔で、問いかけに答えるアスナ。
そんな顔を見て、微笑む店主と、ただただ佇むタスク。
彼らの間に、張り詰めた雰囲気が漂う。
「でも……仮にそうだとして、一体なんだというの?」
「……!」
アスナが、疑問というより、苛立ちをこめ、店主を睨む。
……が、店主は依然として、少し微笑んだままの態度を保っている。
クリスハイト含む妖精たちは、ただただそれを見守るしかない。
ただ、アスナの言うとおり、「それがなんなのだ」という気持ちは、皆が持っていた。
そんな気持ちをはねのけ、そして見透かし、店主は淡々と言葉を返す。
「……まあ、そんな気持ちになるのは分かる」
「……?」
「でも、
「……!何が言いたいの!?」
苛立ちが頂点に達したのか、アスナが店主に喰ってかかった。
すると店主は、少しの沈黙の後、今度はあの
その言葉に、そしてギラリと睨む店主に、少し怯む妖精たち。
「はぁ……わかった。なら短的に言わせてもらおうか」
「……!」
「さっきも言わせてもらったけど、僕らはもう死銃の正体も犯行の手口もすべて分かっている」
「……!?」
「というより、すべて
「知って……!」
店主はそんな妖精たちに、いつかキリトに言ったような言葉を放つ。
「なぜなら、僕ら裏血盟騎士団の仕事は血盟騎士団へのありとあらゆる妨害の防御と、血盟騎士団の敵に対する裏工作、攻撃だったから」
「……!」
「その敵の中で、最も強力だったのは、「ラフコフ」だった」
「ラフコフ……!」
「生存したのは、結成当初のメンバーの約1割。失った9割の大半は、対ラフコフ戦だ。僕らは数えきれない程こなしたよ」
「1割……!!ラフコフ……戦!?」
「ということは、だ。僕らはその
「……!だ、だから……?」
「そう。僕らは死銃の正体が一発でわかるのさ。裏工作時に盗聴した話や、死銃の体勢のクセ、その他少しの調査だけでね」
「……!」
妖精たちは、今までの気持ちをいつの間にか引っ込め、驚きに満ちた目をして店主達を凝視する。
そんな中、まだまだ店主は言葉を続けた。
「あんまり自画自賛みたいで嫌だけど、
「……!」
「それと、また言うけど、こんな僕らだから、状況はもうすべて把握しきっている……。よし、そうだな、言い切らせてもらおうか」
「……!!」
「次の死銃の標的は、キリトくんじゃない」
「な……!」
「だから……こう言っちゃあれだけど、安心してね」
今まで最大の不確定要素だった事を、バシッ、と言いきる店主。
そんな店主と隣に佇むタスクが、無意識にだんだん強く見えてきているのは、妖精たちは「無意識」の字の如く、自覚していなかった。
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