これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

42 / 189
Episode41 一つ目の要件 〜The first requirement〜

「で?きく……いや、クリスハイトさん。僕達に要件とは?」

 

「そこにやってくる」と教えられていた場所に、時間通りに来たプレイヤー、クリスハイト。

リアルでは、言わずもがな、菊岡だ。

 

彼は今、酒場の隅の席で、タスクと店主の二人と向かいあって座っていた。

 

クリスハイト曰く、この酒場のマスターはリアルでもクリスハイトと繋がっており、安全を保証出来るそうだ。

 

そういうことならと、タスク達も胸をなでおろし、落ち着いて話が出来ていた。

 

話題はもちろん、「何故ここに呼んだのか。」だ。

 

「ああ、うん。要件はね、2つほどあるんだ」

「ほう?」

 

店主が相槌をうち、先の話を促していく。

タスクは、黙って話を聞いていた。

こういう会話の場に関しては、店主の方が一枚も二枚も上手だからだ。

 

ビッグ・ボスの時と同じ、冷酷な目をして聞いていた方が、何かとタスクにとっても店主にとってもこういう場を回しやすいということは、長年一緒である二人はお互いに分かりあっていた。

 

そんな雰囲気を読み取ったクリスハイトは、ごほん、と咳払いをすると、また話始める。

 

「えっと、まず一つ目は、状況報告をお願いしようかな。最近どうだい?」

「はは、そうきたか」

 

すると店主は、後頭を掻いて、笑った。

まさかここでそんなことを聞かれるとは思っていなかったからだ。

 

「まあもちろん、今は死銃についてだよね。これは、随分前にGGO内メッセージで「表で手を出すな」とお願いしておいたけど…どうかな?キリトくんによれば、「すごく良くしてくれていて助かる」と言われたよ」

「そうですか……ならよかった」

「でも、表に出たいのは山々だろう?」

「もちろん、その気持ちがない訳では無いですが……。我々は現状、言われた通り、表では手を出していません」

「おや?珍しい。僕はてっきり耐えられなくなってもう手を出しているかと……」

「はは、流石に、そんな軽率なことはしませんよ」

「ふむ……」

「ですが、うちの諜報班(エスピオナージチーム)は一応送り込んでいます」

諜報班(エスピオナージチーム)……というと、シノンさんの事かい?」

「いえ、違います」

「ふむ……」

 

クリスハイトは、思考するように体を起こして店主をじっと見据える。

そしてちらりとタスクを見たが、タスクは目を閉じて「我関せず」というような態度を一貫していた。

 

その目の動きを見逃さず、店主は話を切り込んでいく。

 

「というのも、本当に諜報(エスピオナージ)に特化した二人のプレイヤーを、()()に送り込んでいるだけです。うちもうちで、大事なシノンさんがいますからね、()()()()なんて言語道断。ありえませんから」

「……」

「クリスハイトさんだって、キリトくんが殺られたら困るでしょう?だから一応、彼らにはキリトの護衛もお願いしています」

「護衛……?監視ではなく?」

「彼は仲間です。そんな信頼を裏切るようなことはしません」

「シノンさんは?」

「彼女は、また別です。シノンさんは、彼女自身の要望です」

「なるほど……ね」

「それに、もっと言えば、諜報班(エスピオナージチーム)の二人には、死銃の捜索もお願いしてあります。もちろん表ではなく、裏でですが。裏からなら、捜索しても問題ないでしょう?」

「……」

 

だんだん張り詰めてくる緊張感。

タスクはまだ、目を閉じて無言を貫いているが、クリスハイトのタスクを見る目が変わってきているのは、言わずともわかっていた。

 

そしてついに、その矛先がタスクに向く。

 

「そうか、まあ別に、表に出ていなかったのなら構わないんだ。今後に影響しなければ、何をしても構わない」

「ええ……そう解釈しました」

「ああ。それはそれで結構だよ。ただ……タスク君?君はどう考える?このことについて」

「……!」

 

クリスハイトの、試すような目を向けられるタスク。

だがタスクは、全くひるむことなく目を開いて、クリスハイトを真っ直ぐに見据えて、淡々と言葉を返した。

 

「僕は正直、あまり分かりません。ただ、送り込んでいる諜報班(エスピオナージチーム)の二人や、シノンさん、それにキリト君が、必ずこの先で解決に貢献できることを信じてます。だから、僕は店主さんの作戦に何も言わないです。仲間である彼らを信頼しているからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()状況がどうであれ、僕はそうするつもりです」

「ふふ……実に君らしい。だろうね」

 

クリスハイトが、その言葉と共に試すような目を引っ込め、いつも通りの目に戻る。

そして、ふう、と息を吐くと、決意したように話を続けた。

 

「分かった。とりあえず、君たちの考えは僕は受け取ったよ。だから、僕は君たちに、とある()()を伝えよう」

「「……!?」」

 

クリスハイトの言葉に、目を見開いて反応する二人。

この話筋からして、間違いなく何らかの行動を起こすことができるようになるはずだからだ。

 

そしてその予想は、見事的中した。

 

「君たちは、この死銃事件の、()()()()でのみ、表での行動を許可しよう。こちらとて、キリトくんに被害を出すわけにはいかない。そこは、素直に頼らせてもらうよ」

「了解です」

 

タスクは目を閉じ、店主は平然と言葉を返したが、内心では二人とも嬉しくして仕方がなかった。

 

今までは、何とかキリトやシノン、それに諜報班(エスピオナージチーム)の二人を支援し、解決に貢献しようとしてきた。

出るなと言われて、はいそうですかと黙って引っ込むわけには意地でもいかなかったのだ。

 

彼らの過去は、それほどまでに強力でなのである。

 

そして、その行動が、今クリスハイトによって認められ、一部分とはいえ実を結んだ。

 

もともと、最終的には無理矢理にでもやろうと思っていたタスクからすれば、これは、彼にとっては非常に大きい精神的優位性(アドバンテージ)を得られたことになる。

 

もしかしたら菊岡は、タスクの話した「僕も僕が出る幕になるまで、息を潜めておく」の意味を汲み取ったのかもしれない。

 

「すまなかったね。辛い思いをさせてしまって」

「はは、別に構いませんよ。今に始まったことではないですし」

 

緊張感が解け、お互いに笑みがこぼれだす。

そして話題は、「二つ目の要件」へと入っていった。

 

「さて、二つ目の要件だが……」

「「……?」」

「僕はね、この世界で、君達に会わせたい、」

「「……!?」」

 

 

 

 

 

 

「人()がいるんだ」




【作者Twitter】
https://mobile.twitter.com/P6LWBtQYS9EOJbl
作者との交流、次話投稿の通知、ちょっとした裏話などはこちら!!

【作者 公式LINE】
https://lin.ee/wGANpn2
公式LINE限定セリフ、各章あらすじ、素早い作中情報検索はこちら!!

【今作紹介動画】
https://youtu.be/elqnCcV7R_0
この動画にしかない物語の鍵があります……。

【感想】
下のボタンをタップ!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。