これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
「っ……!」
今まで閉じていた瞼を、ゆっくりと開ける。
見えたのは天井で、アミュスフィアの半透明な赤いカバーを通しているからか、少し赤みがかかっている。
そんな天井を眺め、ふぅと一息ついた内嶺 祐、つまりリアルのタスクは、アミュスフィアを頭から外し、ベッドから起き上がった。
そう、たった今、タスクもといビッグ・ボスは、
パタパタパタ…
聞き慣れた床をスリッパで歩く音と共に、こちらに近づきながら声をかけてくるのは、タスクの母親である。
「タスクー?
そんな事を言いながら、近づいてくる足音。
そして、その足音が止んだと思ったら、タスクのいる部屋の扉が空いた。
「タスク……?あ、いたいた。おかえり」
「ん……?ただいま」
タスクは、扉からひょこっと顔を出した母親の言葉に返事をする。
するとその母親は、ニコッと笑って、着ていたエプロンのポケットから封筒を取り出し、タスクに差し出した。
「はいこれ」
「……え?」
「菊岡さんから」
「え!?」
しれっと言われた名前が、意外すぎる人物だったからか、タスクはベッドから飛び上がってその封筒を受け取る。
そしてその封筒を手に取った時、母親が部屋から出ていこうとしながら話し出した。
タスクも、それに続いて歩き出す。
「それね、わざわざ菊岡さん本人が来て渡してくれたの。なんの封筒か知らないけど、
「へ、へぇ……」
タスクは、相槌をうちながら、封筒を上から下からとひっくり返したりして眺める。
「私もね、最初はメールとかSNSでやれるじゃんと思ったけど、そんなまさか本人まで来て手渡しって事は、それだけ重要なことなんじゃないかなと思ってさ」
「……たしかに」
「ま、今の世の中バーチャル世界含め、そこら辺の世界は何が起こるかわからないからね……。ほら、今あんたも、何か問題に当たってるんでしょ?えーと、です……」
「
「そうそれ。そっちはどうなの?封筒もそれ系統っぽいけど……」
「うん……」
タスクとその母親は、そんな会話をしつつ、リビングへの扉を開ける。
そして母親は台所へ、タスクはその前にある食卓に座った。
「今、作るからね、少し待ってて」
「はーい……」
「あっ、タスク?今何時?」
「えーと、19時」
「19……7時ね。ありがと」
「ん」
今度は、先程までの会話とは打って変わって普通の会話をしつつ、それぞれ作業に入る。
その光景は、まるで部活帰りの息子と遅い時間ながらも夜ご飯を作る母親という、家庭によくある光景そのものだった。
タスクの母親はさておき、タスクは封筒を手に取り、びりびりと封を破りつつ、中を覗く。
「……?」
そしてその中に入っていたのは、一枚の折りたたまれた紙だけだった。
タスクは、不思議に思いつつその紙を封筒から出し、広げる。
するとそこには、
『やぁ、タスク君。元気かな?いつも御苦労様。この文章を読んでいるのならば、きっと君は今
さて、今回、このような形で君に連絡したのは、今から書くものが、そこそこの機密情報だから。SNSじゃいつ傍受されてもおかしくないからね。そこをご理解頂きたい。
その情報とはね、明日、つまりBOB本戦当日に、とあるところへ来て欲しいんだ。場所の座標は、下に書いてある。
この事は、もうタモンさんにも伝えてあるから、詳しいことは彼に聞いて、その座標地点まで行ってほしい』
……というような、まずはお決まりのような挨拶から始まって、連絡の本件がつらつらと書かれていた。
まぁ、本件といっても前置きのような文章が並んでいるだけで、何が何だかさっぱりなのだが。
そんな挨拶と前置きの文章を読み終えたタスクは、すっと視線を下に送り、その「座標」を読み取っていく。
そして次の瞬間、タスクは気づいた。
座標情報が示している先、それが『ALO』、つまり、
『
である事に。
「なっ……!?」
もちろんタスクは唖然とする。
座標情報を読み間違えた訳では無い。SAO時代から、ゲーム内座標は幾度となく読み、その場所で任務をこなしてきた。
そしてその経験は、SAOから脱出したあとも、GGOやその前の仕事のゲーム内外で、数え切れないくらい使ってきたのだ。
その回数は、タスクは座標を一目見るだけで、
「ザ・シード」で基盤が同じとは言え、各ゲームごとに少しづつ違う座標の特徴を、覚えてしまったのである。
そんなタスクが今更読み間違える訳もなく、その読み取った結果が、「ALO」だった。
「どうしてまた……はぁ……。」
タスクは、深いため息をつき、紙を折り畳もうと手を動かす。
……が、紙の一番下に、まだ文章が残っているのを見つけた。
「……?」
もう伝えることもないはずだ。タスクは疑問に思い、また紙を開いて今度はその文書を読む。
するとそこには、こんな事が書いてあった。
『追記 タモンさんから聞いたけど、最近タスク君、シノンさんとイチャイチャしているそうじゃないか。
いくら年頃とはいえ、若い衝動を暴走させないように』
「……(ブチッ)」
タスクは、無意識に紙をクシャクシャにし始める。
そして、ゴミ箱に投げようとしたすんでのところではたと座標情報が頭をよぎった。
「っ……!!」
結果、タスクはその手を無理やりズボンのポケットに突っ込み、何とか捨ててしまいたい衝動を抑える。
「全く……!」
タスクのそんな悪態は、ちょうど完成した夜ご飯を持ってきた母親をくすり、と笑わせる。
母親は、まるですべてを分かっているかのようだった。
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