これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
「……お、キリト君じゃん」
ワイワイと盛り上がる店主の店。
前の試合の終了に合わせて切り替わった画面を見て、ラクスが口を開き、それに釣られるように、その場にいた全員がディスプレイに注目した。
店主やラクスは適度な頻度でコメントし、カチューシャやタスク、その隣に座る男女のプレイヤーは、無言でディスプレイを眺めている。
そこに映ったのは、体の大きさピッタリの石柱に背を預けたキリトだった。
彼は今、目を閉じて、集中するかのような仕草を見せている。
「ふふ……キリト君、早速やるね」
店主は、そんなキリトを見て、面白そうに目を細める。
そして次の瞬間、キリトが石柱から飛び出した。
そのワンテンポ後に、店内に一斉に疑問の声が広がる。
「「「「はぁ!?」」」」
それもそのはず。
石柱から飛び出し、敵の位置へ体を晒しながら向かっているキリトが手にしている武器は、フォトンソード、いわゆる光剣だったからだ。
ディスプレイの中のキリトには見えているであろう、
どう考えたって、むちゃくちゃである。
すかさず、ラクスが店主を見た。
店主は、面白そうに目を細めながらラクスを見返す。
「て……店主さんまさか……!」
「ん……なんだい?」
「キリトくんにフォトンソードを勧めたんですか!?」
「もちろん!」
「はいぃ!?」
「はは、そんなに驚くことでもないよ。彼にはあれがぴったりだったし……」
「い、いやまぁ、彼がSAO攻略者ってのは知ってますけど、流石にこの世界で剣は……!」
ラクスが半分焦った口調で店主に言葉を投げかける。
それは無理もない。彼自身だって、ちゃんとした裏世界プレイヤーだ。
キリトがもし、このBOB予選から落ちたりでもすれば、死銃に対する作戦を練り直さねばならないからである。
それだけは、絶対に避けたいし、避けなければならない。
なのに、早速突拍子もない武器を片手に、敵へ突撃し始めたのだ。
事情を知っている者ならば、裏世界プレイヤーではない者だろうが何だろうが、誰だって慌てるだろう。
それは、カチューシャ達も同じだったようで、同じく店主の方を向いている。
……ひとり、タスクだけは、ディスプレイから目を離していなかったが。
タスクはさておき、それ以外のプレイヤー全員からの視線を浴びている店主は、なおも落ち着き払ってラクスを見ていた。
そして、
「……ふふ」
「……なんです?」
「果たしてそうかな?」
自信と、確信ありげにラクスに言葉を投げ返した。
その余裕さに何かを感じ取ったのか、ラクス達はまたディスプレイに向き直る。
するとそこには、いつの間にか勝負がついたのか、「Congratulation!」の白文字を眺めるキリトの後ろ姿があった。
「あ……れ?勝ってる……」
「ふふ……ね?」
ラクス達はポカーンとしたままディスプレイを眺め、店主が微笑みながらそれを見る。
そんな中で、ディスプレイは「REPLAY」と書かれた見出しとともに、先程のキリトの戦闘シーンをもう一度映し出した。
✣
石柱に身を預け、目を閉じるキリト。
この行動自体は、ラクス達もよくする行動だ。
精神世界であるこの世界において、精神を安定させ、研ぎ澄ませれば、どんな些細な音でも、動きすらも感じ取ることが出来るからだ。
いわゆる、「上級者テクニック」と言われるものである。
そしてキリトは、そのまま少し静止した後、何かを感じ取ったかのように突撃を始める。
フォトンソードを展開し、敵の方角へまっすぐと突っ込んでいく。
するとその前方から、当然のように一つの人影が立ち上がった。
もちろん、銃を構えた敵である。
敵が、フォトンソードとかいう、この世界では正直言って需要のないような武器を片手に突撃してきたのだ。
どう考えたって有利なのは自分である。
だから、敵は体を起こし、立った状態でキリトに発砲したのだ。
タタタン!タタタン!
と、軽快な3点バーストの発砲音と共に、キリトに鉛玉が飛んでいく。
「あぁ……!」
ラクスが、内心「ここで蜂の巣に…」などという、事実と全く正反対な予測から、哀れみの目を
もちろん、キリトは蜂の巣になどならなかった。
ヴォンヴォン!
パキン!パキン!
「なっ……!?」
代わりに聞こえてきたのは、フォトンソードを振るう時の独特な音と、何かが弾き飛ばされた音。
ラクスは、それを瞬時に理解し、ポカーンと口を開けた。
それは、カチューシャ達も同じだったが。
「ま、まさか……」
「そう。」
事実を確かめるように、ポツリと呟くラクス。
店主は、その呟きに相槌を打つと、ラクス達の持ち続けていた疑問のその答えを、にこやかに口に出した。
「彼は、銃弾を剣で弾き飛ばしてるんだよ」
「……!」
ラクスは、なにか言いたげに口をパクパクし、何とか押し止める。
彼も彼なりに、納得したのだろう。
そんなラクスを見た店主が、後付のような形で、さらに突拍子のない事を口にした。
「ちなみに、フォトンソードを勧めたのは僕だけど、この戦闘スタイルを編み出したのは、タスク君だよ」
「え……!?」
「て……!店主さん!」
タスクは、頬を染めながら店主を見る。
だがその方向には、店主の他にもラクスやカチューシャ達がいた。
結果、タスクは彼らと目を合わせざるを得なくなり、みるみる赤くなる。
今、彼らの目は、「若いなぁ」とか、「かわいいなぁ」とか、まるで少年を見るような目。
仕事の時のビッグ・ボスを見る目とは、正反対な目線だった。
タスクは、リアルでは高校生。だけどアバターはそれより年下に見える少年。
もちろんそんな目線に耐えれるはずがなく、恥じらいが出てしまう。
「またまた……タスク君のとんでもないことを考える才能が発揮されたね」
「〜!」
「若さからなのか、経験からなのか……ねぇ?」
ラクスの言葉が、そんな恥じらいによる瀕死のタスクにとどめを刺していく。
タスクは、顔も耳も、真っ赤っかに染めて、机に突っ伏してしまった。
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