これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
「……熱源を検知。人の形よ。場所は、
「……了解」
ここは、総督府の地下にある、BOB参加者待機エリアの個室の中。
とある男女二人組のプレイヤーが、照明を落としたその部屋でしゃがみ、女の方が何か腕についた画面のようなものを触っていた。
男の方は、目深くフードを被り、マスクをして、目の周りまで黒く塗ったいかにも「
女の方は、シマシマのパーカーの上に防弾チョッキを着て、これまた目だけが見えるマスクをし、軍用セミフェイスヘルメットを被ったキャラクターだ。
そのヘルメットの下から、短く切った金髪が見て取れるが、遠くから見たらわからないくらいにしか見えていない。
そんな彼らは今、とある「仕事」のために、この部屋にいた。
「……どう?」
「返信が来た。『了解、帰投せよ』としか書いてないけど…いいのか?」
「いいわけない。だって、シノ……いえ、クワイエットのリアルがもろバレしてるのよ?」
「うん、だよね」
「でも、きっとオセロットも何かあるんでしょ。さっさと帰るわよ」
「……うん。じゃあ……熱源の方は?」
「あのクソ機械ドクロは知らないわよ。それは彼の……キリトくんとやらの仕事。彼の周りなら、監視のクワイエットに任せればいいの」
「そうだね……了解。オセロットには、『
「うん、いいんじゃない?ってか、いちいち私の指示を要求しないでくれる?」
「だってリーダーはおまえだし……」
「うるさいわね?はやくして」
「り……了解」
そんな少し「友達」とは違ったニュアンスを含めた会話を交わしたふたりは、また、別々の作業に移る。
そのニュアンスは、「仕事」だからなのか、それともまた別のものなのか。
そんな彼らが、今、仕事を終えようとしていた。
✣
ピコンピコン!
エレベーターが指定された階に着いたことを知らせる音を鳴らし、扉を開ける。
中から出てきたのは、シノンとキリトだ。
同時に、BOB参加プレイヤーからの、恐ろしい視線を受ける。
「……」
「……!」
もう慣れた、と言わんばかりにしれっとしているシノンと、初めて来た上、シノンのすぐそばにいる故に、周りからの視線を集め、ビクリと怯えるキリト。
「……」
コツコツ……
「ああっ……待って……!」
そんな視線や、震えるキリトなどつゆ知らず、シノンは真っ直ぐ待機エリアの中にある個室へと歩き出した。
キリトは慌ててそれを追う。
参加者達も、さすがにシノンを知らない者はいない。
シノンはもちろんそんなこと承知の上であり、ビクビクと震えるキリトを後ろに、熱い、または違った視線を浴び続けながら歩いていく。
するとその時。
「……!?」
「……?」
シノンが
キリトもそれにつられて後ろを向く。
するとそこには、二人のプレイヤーが、エレベーターに向かって歩いている後ろ姿があった。
「どうか……しましたか?」
キリトが、そんな彼らの背中を見つつ、シノンに問いかける。
もちろん、キリトは彼らに会ったことはない。
それもそのはず、このゲームにコンバートしてきたのは今日なのだ。
シノンなら、そこそこの人脈があってもおかしくない。
なんてったってあの店主らの人脈ですら持っていた彼女だ。実際のところはそこそこ以上かも知れない。
だが、問題なのは、そのシノンですら会ったことのないプレイヤーを見るような目をしているのだ。
知り合いならその場で話せばいいし、知り合いでなければそもそも振り返らない。
なのに、いきなり振り返ったと思えば、その背中を明らかに驚いた目で凝視している。
どう考えても、辻褄が合わない。
だからキリトは疑問に思って質問したのだ。
するとシノンからは、キリトですら驚く答えが帰ってきた。
「あの……、先頭の女性プレイヤー……私にウインクして行ったんだけど……!?」
「え……?ウインク……!?」
キリトは、少し嫌な気配を覚える。
知らない相手から、いきなりされるウインク。
その行動は、SAOで少なからず身についた、「挑発」に対する感覚に引っかかった。
「なにか……怪しいですね」
「う……うん……」
お互いがお互いの仕事を持っている以上、あんな事をされたら放っておくのは少々怖い。
……が、彼らはもう、エレベーターで上の階に上がっていた。
キリトもシノンも、どこか引っかかるやな予感を押しのけつつ、仕事を続行せざるを得ない。
ただ、二人の思惑だけは、同じだった。
《彼女がもし死銃だとしたら、きちんとマークしておかなければならない》
という、思惑が。
そんな思惑から、キリトは死銃を捕まえる為、シノンはキリトを守る為に、「マークすべき」という共通の警戒意識が二人に芽生える。
だがその思惑は、二人とも、胸の奥にしまった。
お互いがお互いに、気づかれないように。
✣
「ふぅ……とりあえずは、任務完了ってとこだね……」
「う……うん……」
ところ変わって、エレベーター内部である。
任務の完了に安堵の表情を見せているのは、
今回の任務で
彼らもまた、裏世界のプレイヤーである。
そんな彼らのこなしたこの任務が、後に死銃事件の解決に多大な功績を及ぼすことを、彼らはおろか、シノンやキリト、はたまた店主やタスクまで、まだ知らない。
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