これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode33 葛藤 〜conflict〜

バタン!

 

店主の店の扉が、勢いよく開けられる。

 

「やばい……!」

 

中から出てきたのは、黒髪ロングの()()、キリトだ。

彼は今、ものすごく焦っていた。

 

「間に合わない……!ってか、エントリーってどこでするの!?」

 

だんだん、彼の焦っている理由である、BOBのエントリーし忘れどころか、それ以前の問題まで発覚し出す。

 

「ええと……ええと……!」

 

そんな彼が、焦りと混乱の渦に巻き込まれようとした時。

 

バタン!

「ちょっと!ねえ!」

「ひっ……!?」

 

いきなり、背後にある店主の店の扉がまた勢いよく開いた。

キリトは、まさか自分と同じことをする人間がいるとは思わず、後ずさるどころか飛び上がる。

しかも、その人間が声をかけてきたのだ。反射的に顔がそちらへ向く。

 

そんな事をしてまで声をかけてきたのは、シノンだった。

 

「ねえったら!」

「シ……シノンさん!?」

「あんた、私を置いてくつもり!?」

「あっ……!!」

 

キリトは、シノンのあまりの怒り様に、少し狼狽える。

それもそのはず、キリトはここまで案内してくれたシノンなど、焦りからか、今の今まで視界に入っていなかったからだ。

確かに、悪いことをしたのは自分だが、それ以上に事態が切迫しているのも事実である。

 

もしここでBOB参加を取り逃せば、何が起こるかわからない。

そんな思惑を、キリトはシノンに説明しようとする。

 

……だが、その必要はなかった。

 

「で、でも……!!」

「分かってる!分かってるわよ!BOBに出るんでしょ!?」

「えっ……!?」

 

キリトは、一瞬固まる。

なぜ、シノンがその事を知っているのか。シノンにそんな話をした覚えはない。

 

「どうしてそれを……!」

「あっ……!いや、その、店の中だと、聞こえちゃって……そっ……そんなことよりも!エントリーする場所、分かってんの!?」

「そ、それは……!!」

「だから……その……案内してあげる!」

「ええ!?いいんですか!?」

 

シノンが何かを隠すようにどんどん話を進める中、ひょんな事から救いの手飛んできた。

なんか上手く話をはぐらかされた気もするが、それはいいとして、キリトはそれに飛びつかざるを得ない。

だが、それと同時に疑問も浮かび上がってきた。

 

「……でも、何故ですか?」

「え……?」

「何故、そんな、お店を飛び出してきてまで、案内してくれようと……」

「そ、それは、その……」

 

キリトの素朴な疑問に、シノンがふいっと顔を逸らす。

不思議そうに顔を見ていたキリトは、次の瞬間。

そんなシノンが放った言葉に、言葉を失った。

 

「だって……私も、出るから……その、忘れてて……!」

「……!!??」

 

今、シノンが放った言葉。

キリトが聞いたその言葉には、シノンがBOBに関する色んな事を知っている事の証明であると同時に、もう一つの事を意味していた。

 

まずキリトは、シノンがキリトがBOBに出ることを知っている理由を理解した。

シノンだって、BOBに出るということは並大抵のプレイヤーではないはず。

そんな彼女なら、あの狭い店内でBOBの話をされたら、自然と聞き耳を立ててしまうだろう。

それに、お互いエントリーを忘れているときた。

もうここまで状況が揃えば、一緒に行動してもおかしくない。

 

それはもう、分かりきっているのだ。

 

では、そのもう一つの意味とはなんなのか。

それは、「これから()()()は、シノンとキリトが対立しざるを得なくなる」ということだ。

 

もちろんキリトは、前提として無駄な争いは好まない。

勝ち上がるために他人を蹴落とす事はあっても、なんの利益も生み出さない戦いはしないのだ。

 

だが、今キリトは、その「()()()()()()()()()()()()()()()」対象になり得る人物の中に、ここまで案内してくれたシノンが含まれることを知ってしまった。

 

当然の如く、悩みが生じる。

 

いくら死銃を捕まえるためとはいえ、ある意味、ものすごく助けてくれた、そしてまた今から助けてくれるシノンに、そんなことは出来ない。

偶然とは言え、シノンがあの店まで案内してくれなければ、キリトは彼らに会うことは出来なかったからだ。

 

……が、シノンはそんなキリトの思惑など意に介さずに、そそくさに走り出す。

 

「こっち!急がないと間に合わないわ!」

「はっ……はい!」

 

キリトは、そんな葛藤を抱えた複雑な気分のまま、シノンに引かれるがまま走り出した。

 

 

……だがそれは、そんなキリトを引っ張っているシノンとて、同じだった。

 

その葛藤の種、それは、「店主からの仕事」である。

でもそれは、また後の話だ。




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