これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode32 術 〜Way〜

「あなたが……!」

 

ポカーンとするキリトに、立ったままそれを見下ろすビッグ・ボス。

そんな彼らの初対面を、面白そうに店主は眺めていた。

 

「いつからそこに……!」

「さあな」

「さあなって……!」

 

ビックボスの素っ気ない返事に、キリトは状況をいまだ飲み込めずにいる。

……いやむしろ、飲み込める訳がないのだ。

 

 

今までキリトは、命を懸けた歴戦を幾多もくぐり抜けてきた。

SAO時代の『攻略組』としての仕事や、その他モンスターとの戦闘。

ゲームであって遊びではないあの世界で、キリトは嫌という程の様々な経験を味わった。

 

仲間や命の大切さ、それに伴う責任、時にぶつかり合う価値観の違いや、それと並行して表面化していく殺気。

 

そんな経験をしていく中で、キリトはいつしか人の動きや気持ちに敏感になってしまった。

 

敵がどこに隠れていて、誰が黒幕なのか。

背後から忍び寄る殺気を感じたり、何故かいきなり恐怖を覚えることもあり、そんな事が常に頭を駆け巡ったせいで一時は孤独を好んだ事もある程にキリトを悩ませた。

 

だが、彼はそこから、ある()()()に救われる。

それがきっかけで、彼はそれを克服し、新たな(すべ)身につけたのだ。

その敏感な感性を、正しく使う(すべ)を。

 

 

「だ……だって、気配も何も……!」

「そりゃぁ……そういう世界の人間だからさ」

 

そして今、あの時身につけたはずだった「気配を感じる(すべ)」を、あっさりと破られ、背後に立たれている。

だからキリトは飲み込めず、混乱しているのだ。

 

ー今まで、そんなことが無かったから。

 

「どうやってそんな……!」

「仕事の関係で身についただけだ」

「……!」

 

なんとか飲み込もうと、ビッグ・ボスに質問を投げるキリト。

だがその質問は、もちろん、あっさりと跳ね返された。

 

「ふふ……驚いたかい?」

「店主さん……!」

 

そんなしどろもどろしているキリトを見て、店主が面白そうに口を挟む。

その顔には、殺気や敵意は一切なかった。

キリトは、そんな店主の顔を見て、黙り込む。

店主も、キリトが話の助けを求めているのを察し、口を開いて話し始めた。

 

「まあ。ボスもこう見えて、実はかわいいからね。怖がらないで」

「オ……オセロット!」

「それと、ボス?彼は敵じゃないんだから……。そんな素っ気なくしなくてもいいんだよ?」

「だ、だがな……!」

 

ビッグ・ボスは、赤面して店主を見る。

キリトは、そんなビッグ・ボスの意外な顔に驚きつつも、話を進めてくれた店主に感謝した。

 

少なくとも今の会話から、ビッグ・ボスと少しづつ打ち解けていけたからだ。

そして、

 

 

ーそれから、話は早かった。

 

 

ビッグ・ボスやキリトのお互いの紹介から始まり、キリトの武器・防具選びやら、今後の予定、ビッグ・ボスや店主らからのキリトに対するサポートについてなどなど……

様々なことを話し合い、その様々なことを着々と決めていった。

 

そして、最後の項目が決め終わった時。

店主ら三人は、ふうと息をついた。

 

「ふぅ……さて、このくらいかな」

「そうです……ね。あとは何も」

「……だな」

 

三人は、三者三様の答えを返して息を抜く。

なこれでもう、話すこと何も無いだろう……と、話の、終わりを誰もが感じ始めた時。

店主がふと、()()()()を思い出した。

 

「あれ……そういえばキリト君ってさ……」

「はい?」

「今日……コンバートしてきたんだよね?」

「そう……ですけど」

「どうしたんだオセロット?」

 

店主の恐る恐る聞くその姿勢に、キリトはおろか、ビッグ・ボスまで怪訝な顔をして店主を見る。

すると店主は、時計をチラリと確認した後、明らかに焦った顔をして、キリトにその()()()()を質問として投げかけた。

 

 

「キリト君……B()O()B()()()()()()()した!?」

 

 

「あっ……!!」

「おい……!?」

 

キリトの表情から、「そんな事は全くしていない」のは明白だった。

 

店主は「やっぱり」と言わんばかりに時計をまた見る。

エントリー締切まであと少ししかない。

キリトは、はっとその事を思い出して、顔からサーっと血の気が引いていた。

……そしてそれは、棚越しに話を聞いていたシノンもである。

 

「やばい!!!」

 

そう叫んで、キリトと()()()は走り出した。

 

「ふふ……行ってらっしゃーーい!」

 

店主は、そんな二人の背中に声を掛ける。

その声は、しっかりと二人の背中を押した。




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