これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
シノンがタスクとエンカウントした次の日。
とあるガンショップに来ていたシノンは、後ろの男2人組の話し声に耳を傾けていた。
「なあなあ聞いたか?」
「いきなりなんだよ、聞いたって……?何をだよ」
「あの、噂の眼帯マスクスナイパーの話!」
「眼帯……?ああ、それか」
「そう!それが、このまえ8人スコードロンをヘッドショットだけで壊滅させたんだと!」
「8人のをか!?そりゃ大したもんだなぁ」
「だろ!?すごいよなぁ、眼帯はともかく、そいつのマスクをとった顔を見たものは誰もいないんだと」
「へぇ、でも、眼帯とか正直命中率落ちないか?」
「だよな、でもそいつは頭を一発でぶち抜くらしいぜ?」
「ひゃ〜おっかねぇ奴もいるもんだなぁ。武器とかわかってんの?」
「それがね……なーんも分かんないのよ」
「謎に満ちてんな……会いたくないもんだ!」
そう言って、その男2人は笑い合う。
シノンは、商品を見るふりをして考えていた。
《眼帯、それにマスク……あのスナイパーと一致している。彼も、戦場で笑えるだけの強さを持ってた。それにあの笑み……あの時私は、結局トリガーを引けなかった。引いたとしても、当たったかどうか……》
シノンは、あの時に出会った、あのスナイパーのことを考える。
彼女はまだタスクの名前を知らない。でも、くっきりとあの光景を覚えていた。
あの時の弾の正確さ、撤退する時の笑み……
どれをとっても、シノンから見てみたら強いことに変わりない。
《いつかまた戦いたい。そして勝ってみたい!》
いつの間にかシノンは、手をぎゅっと握りしめていた。
✣
「〜♪弾っ弾〜タマタマさんを買わなくちゃ〜♪」
一方、タスクは、そろそろ切らしてきたスナイパーライフルの弾を買いに、これまたとあるガンショップに来ていた。
いつも通っているガンショップ。ここの店主はおまけしてくれる事が多く、お金を後払いに先に商品をくれることもあるいいお店だ。
例えば、前に一度、仕事する前に弾を切らしてしまい、先に弾を貰って仕事の報酬で支払った事がある。
そんなハイリスクな事を、この店主は平然とやってくれたのだ。
タスクは、そんな店主さんが大好きだった。
……それに、数少ないタスクの正体を知る人物の1人でもある。
「こーんにちわ!」
「おーう、いらっしゃい!」
タスクは、扉を勢いよく開ける。
店主は、いつもの気前良い返事を返してくれた。
実はこの店主、本人自身プレイヤーで、たまに狩りに出たりする。
それ故に、融通がとってもききやすく、タスクのみならずやってくるプレイヤー達皆に好かれていた。
その店主が、タスクを見てにこやかに話しかける。
「おっ!来たねぇ、タスク君!お仕事はどうよ!」
「順調です!店主さんのおかげで、この前もぱぱっと終わりました!」
「お、そりゃあ良かったな!ちなみに……何人だい?」
「あはは……あまり言えないのですが、8人です」
タスクと店主がここまで話した時、店の中にいた一人のプレイヤーが、反応した。
何を隠そう、シノンである。
シノンは、即座に振り向いてしまう。
だが、そんな動きなど全く気にとめず、店主とタスクは話を続けた。
「おお、そりゃまたすげえ事すんな!どれ、なにかサービスしたろうか」
「ええー?いいですよ店主さん。それはまた今度、僕が困ったときに!」
「……ふふ、タスク君。よく言った!」
「店主さんが毎回やるからです!」
そう言って、タスクと店主が笑い合う。
傍から見れば、ただの仲が良いプレイヤー同士の談笑だろう。
だが、タスクはきちんと見抜いていた。
この店の中に、つい昨日エンカウントした
それもそのはず。あんな目立つ髪の色のプレイヤーだ。忘れるわけがない。
故にタスクはシノンをチラりと見る。
……が、すぐに店主へと視線を戻した。
店主は、何気ない優しい顔で、タスクを見る。
だが同時に、店主も見抜いていた。
タスクとシノンが昨日、エンカウントしている事に。
さっきも言ったが、この店主は融通がききやすく、皆に好かれている。
それはつまり、皆から雑談を交えて様々な情報を得られるという事だ。
様々なプレイヤーから聞く「眼帯マスクスナイパー」の噂。
そして、その話に対するシノンの反応と、今さっきのタスクの目の動き。
それに加え、タスクが来る前にシノン自身が相談してくれた、その「眼帯マスクスナイパー」に関しての話。
実際のプレイヤーである店主からして見れば、上記の事から推測してこの2人が昨日、エンカウントしている事は明白だ。
だがもちろん、タスクの秘密はバラさない。店主自身も、タスクの事が大好きだからだ。
だからあえて、たわいのない話を続ける。
「はは、すまんすまん。タスク君がかわいいからさ、ついやりたくなっちゃうんだよ!」
「か、かわいいって!?僕男ですよ!?」
「関係ない!僕みたいなオッサンは、お前みたいな小さい子を可愛いと感じてしまうんだよ!」
「え、ええ!?」
「こっちに来い!」
そう言って、タスクの頭をわしゃわしゃと撫でる。
タスクは「やめろー!」と抵抗する素振りを見せつつも、すんなりと店主の腕の中に収まった。
それをずっと見ていたシノンが、ため息をつき、後ろを向く。
そしてポツリと、自分に言い聞かせるように呟いた。
「まさか彼な訳……ないよね」
と。
確かに、さっき聞いた噂と彼らの話の内容は一致しているし、あの時見たスナイパーの髪の色は、タスクの髪の色に似ている。
……だが、身長があまりにも小さいのだ。
目が合ったあの時、寝そべっていたために体は見えなかった。
だが、第一、そんな低身長プレイヤーが、あんな大きなスナイパーライフルを担げるわけが無い。
あの時、目が合って、あのスナイパーがスナイパーライフルを
故に、シノンはタスクが噂のスナイパーである可能性を頭から消した。
いくら何でも、不確定要素が多すぎるからだ。
それに、例え確定要素だらけでも、あの大きなスナイパーライフルをあの小さな体でどう持ち運んだのかを問えば、一発でその説が否定されてしまう。
やはりこの説は違う。そうシノンは結論づけた。
そう頭の中で区切りをつけて、店を出るシノン。
そんな後ろ姿を、タスクと店主は見ていた。
そして、そこから視線を逸らさず、唐突にタスクが口を開く。
「店主さん?気づいてるんでしょ。あの話」
「うっ!やっぱり分かった?」
「分かりますよ。店主さん、癖が出てましたから」
「癖?どんな癖だい?」
「言ったら対策されてしまいますので、言いません」
「ちぇー、かわいくない子だな」
「さっきと言ってる事が真逆なのですが?」
「これはこれ!それはそれ!」
そう言って、また店主とタスクの掛け合いが始まった。
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