これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
「……」
「……」
「……」
案外あっさり決まった、シノンのコードネームの話の後。
シノン、ラクス、カチューシャの三人は、カウンターに立つ店主から、とある話を聞いていた。
その話の内容は聞かずともわかるだろう。「
彼らもやはり、話の冒頭はタスクや店主がそうだったように、「噂」程度にしか聞いていなかったが、話が進むにつれだんだん顔が険しくなっていき、黙りこくっていく。
必然的に、その場の雰囲気が重たくなっていた。
そんな雰囲気の中、ゆっくりと口を開いたのは、ラクス。
それに対し、これまたゆっくりと言葉を返したのは、店主だった。
「なんですかそりゃぁ……」
「……分からない、としか言えないよ。犯行なのは確実だけど、いつ、どのように、どんな方法でこれをやったのか、何一つさっぱりさ。それに、今回の場合、直接関われないから……なおさらね」
「……でも、だからと言って、放ってはおかないでしょう?」
「もちろんさ!こんな事件が起きたのに、そうやすやすと僕らが放っておくわけにはいかないよ。それに、なによりもボスが許さない」
「……ですよね」
「うん。でもね、」
「……?」
「くやしいけど、僕達に出来ることは、
「そんな……!」
「うん。わかるよ、その気持ち。でも、ここでその気持ちを抑えてないと、後々大変になりかねないんだよ」
「はい……それは、重々承知してますけど……」
そこまで話して、シン……と、店内が静まり返る。
行動できるのに、させてもらえない。
しかもそれが、人の命に関わること。
それ故に、彼らの葛藤は相当なものだった。
その場にいる4人は、それぞれの思いに顔を険しくする。
すると今度は、カチューシャが口を開く。
それは、ある「可能性」についてだった。
「あの……その……いきなりで話を変えてしまうんすけど、その犯行の種って、ウイルスではないんですか?」
「え……?」
「だ……だから、ウイルスではないのかって。」
「……どういう事?」
「その……苦しみながら消えたって事は、リアルで何か……ってのは分かります。なら、アミュスフィア自体に問題があってもおかしくない」
「なるほど……でも、その消えた理由は、アミュスフィアの安全装置だよ?もし壊れていたら、作動しないはずじゃないか」
「……だからです。別にウイルスなら、サーバー経由で個人のアミュスフィアにウイルスを送り込んで、一定の条件によってそのウイルスを発動させ、引き起こさせるようにすればいい。……そうだな、条件はもちろん死銃に撃たれた事として、ウイルスはアミュスフィアの電子系統を一時的に暴発させるとかすれば、リアルの人間は苦しむ」
「……確かに。それでその後に、普通に安全装置を作動させる……と。確かにウイルスならこんな感じのことは出来てしまうね」
そんなカチューシャと店主の言葉から残りの2人は彼らの前向きな姿勢を感じ取る。
「ここで嘆くより、すこしでも行動を起こす事」
最も基本的で、最も単純な教訓を、彼らは今一度確認した。
そしてそんな思考の転換があったのか、その場の雰囲気がだんだん明るくなっていく。
その次に口を開いたのは、シノンだった。
「ウイルス……なら、黒幕はザスカー本体ってことですか?」
「え……?」
「だって、ウイルスを直接サーバーに入れるなんて…私は、あんまりパソコンとかはわからないけど、難しいんじゃないでしょうか。だったら、本体であるザスカーが、なにかを理由にこんな事を……」
「いや……それはないよ、シノンさん。前にも言ったけど、今世界はVRMMORPGに対して少なからず懐疑的な目を向けている。今にも禁止しようとしているけど、今日本が禁止していないから、何とかやっていけている……そんな状態なのは、知っているよね」
「……?はい」
「で、このGGOの母体の企業は、「ザスカー」っていう、
「……」
「……ということは、つまりどういう事か。このザスカーという企業がもし、この事件の黒幕なら、彼等にどんな思惑があるにせよ、結果的には自らの首を絞めることにしかならないんだ」
「え……!?」
「だって、日本でそんな事件を起こして、日本がVRMMORPGの禁止に踏み込んだら、元も子もないじゃないか。全世界が一斉に禁止に踏み込むことになる。ザスカー唯一のビジネスが一気に失われるだろう?」
「た、確かに……」
「だから、そんなことはありえない。ザスカーも正体不明とはいえ『企業』だ。そんなに馬鹿なことはしないだろう」
「なるほど……」
店主の解説によって、シノンが引き下がる。
だが、その効果はあったようだ。
「ということは、死銃がザスカーを貶めようとしているのかも知れませんね」
「……どういう事?ラクスさん」
「だから、今、店主さんが話した事を、死銃は逆手に取ろうとしている……ってことですよ」
「ああ……!」
「こんな人の命を左右する事件を起こせば、ザスカーに疑いが掛けられるから……死銃はそれを狙っているのかも」
う〜んと、4人が4人、皆、頭を悩ます。
だが、ここでこんな風に頭を悩ませても、答えが出るわけがないのは誰もが分かっていた。
そんな雰囲気を察したのか、店主がゆっくりと口を開く。
「ふぅ……はは、まあ、こう言ってはなんだけど、ここでこうしていても答えは出ないよ。またなにかわかり次第連絡するからさ、今日はここで一旦解散しようか」
「……そうっすね」
「異論無し」
「分かりました」
そんな店主の提案にカチューシャが頷き、ラクスが相槌をうつ。
そしてシノンが、こくりと承諾した。
「……僕らも、なにか対策を練らなきゃね」
「ああ……」
ラクスとカチューシャが話し合う。
一方のシノンはなにもすることが無く、その席に座ったままだったが……
「ねえ、シノンさん」
話を終えた……とばかり思っていた店主から、いきなり声がかかってきた。
シノンはふと顔を上げる。
すると店主の口からは、驚きの言葉が飛んできた。
「急にごめんね。早速なんだけど……」
「はい……?」
「仕事を、してもらうよ」
「な……!?」
シノンが驚いたのは、言うまでもないだろう。
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