これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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第一章 ビッグ・ボス 〜The big boss〜
Episode1 氷の狙撃手 〜Ice sniper〜


「ふぅ……これで5人目っと」

 

一人の少年が、地面に寝そべりながらポツリと呟く。

手には大きな銃。俗にいう「スナイパーライフル」を携え、スコープを覗いている。

そのスナイパーライフルの射線上には、たった今撃ち抜かれたプレイヤーの残骸があった。

 

「あと3人……か。1人は脚を撃ち抜いて尋問でもしようかな」

 

その少年は、サラッと恐ろしい事を呟く。

そして……

 

「……いた」

バシュン!

 

この小さなスナイパーの6人目の獲物が、頭を撃ち抜かれた。

 

 

「ん〜!稼いだなぁ……!」

 

場所は一転し、SBCグロッケン。

このゲーム、つまり「GGO」の、首都である。

 

その大都市の真ん中、歩道のような所を歩きながら、そのスナイパーの少年は背伸びをしていた。

 

短い黒い髪に、少し低めの背丈。このゲームでは珍しい、中性的な顔立ちだ。

プレイヤーネームは「タスク」。ガッツリ本名である。

この名前はどちらの世界でも通じるので、とても便利だった。

 

「さて、どうすっかな、今日は休日だし……」

 

その少年、タスクはふわぁと欠伸をすると、ふらふらと歩き出した。

今日は休日。タスクは学生なので、丸1日休みだ。

家族は出かけているので、タスクは1日この世界の中で過ごすつもりだった。

といっても、時間の流れが少し違うので感覚的には一日ではないが。

 

「……そうだな、もっかい稼ぎに行ってもいいかも!」

 

タスクは元気に走り出した。

 

 

バシュン!

 

この射撃音が、また荒野に響く。

 

カチャッ……キン!

 

そして撃った後に銃の外へ排出される、空の薬莢。

その薬莢は、荒野の荒い土に落ちた。

 

「……まだかなぁ、あの人達」

 

タスクは、ポツリと呟く。

スコープを覗く視線は変えず、暇そうに欠伸をした。

 

「弾道計算も終わったんだけどな。全く、なんでこうも予定通りに来てくれないんだか……暇だしもう一発撃っとくか」

 

そう言って、さっきの着弾地点から少し奥に狙いを定める。

そしてまた、射撃音が響いた。

パン!と跳ねた土がスコープから見える。

 

「問題なし……と。これ何回やってるんだかね〜」

 

タスクはやっぱり、暇になる。

流石に飽きたのか、タスクがリロードしようとした時。

 

「ん……!?あれか」

 

タスクが、スコープから目を逸らし、トリガーから指を外して、裸眼で目を凝らした。

視線の先には、まだ遠くに見える、タスクが待っていたプレイヤーのチーム。

 

そう。タスクは、このプレイヤー達を待っていたのだ。

俗に言う、PK(プレイヤーキル)である。

先程から暇つぶしに撃っていたのは、そのプレイヤー達の頭を撃ち抜くための、あらかじめしておく弾道計算のためだ。

 

これをやるかやらないかで、命中率に天と地ほどの差が出てくる。

そのために、タスクはこの標的であるプレイヤー達がやってくるであろう時間の少し前に来ておいたのに、まさかここまで遅くなるとは思っていなかった。

 

「ふぃ〜待った待った、やっと来たね。それじゃ……お仕事の時間だ」

 

そう言って、タスクはマスクと眼帯をつける。

 

マスクはガスマスクのようなもの。ただし、口と鼻のみを覆うようなもので、目は何もカバーされていないものだ。

しかもちゃんと、ガスマスク特有のまーるい物が左右についている。

そしてそのマスクの上に、左目用の眼帯をつけた。

 

これは、タスクが仕事(?)をするときにつける、定番の装備だ。

訳あってこのような装備をしているのだが、それはまた後ほど。

 

そしてタスクは、自称お仕事であるPKの用意をする。

タスクはスコープ越しに敵の位置・陣形・装備などを把握していった。

 

「なるほど……敵は7人。光学銃持ち5、アサルター、いやありゃミニミだな、それが1、黒マントが1……か。歩行速度やマントの凹凸を考えて、あれはミニガンあたりか?なるほど。流石に対人装備を整えてきたな。」

 

そう呟いて、タスクが分析を終える、と思ったその時。

 

「ふ、それに、別のPK狙いさんらがいらっしゃるな」

 

タスクが、少しにやけて言葉を続ける。

タスクの視線は、スコープと一緒に別の方向に向いた。

距離は、元々の標的から左に約1300mだ。

 

「おお、こっちはバリバリの対人だな。ええと、5人……かな、動き出してる」

 

タスクは、少しにやけながら遥か遠くを走っていくプレイヤーを眺める。

すると、タスクはあることに気づいた。

 

「あの走り方……あきらかに後ろを意識してる。なにか後方支援でもなければ、あんな走り方は出来ないな。なにかあるな。だとしたら同業者(スナイパー)か」

 

タスクが、にやけを超えてあきらかに楽しむ笑顔を見せた。

同時にコッキングをして、撃つ時にはトリガーを引くだけにする。

 

「いいねぇ、久々にいいものが見れそうだ」

 

そう言って、タスクはスコープをさらに左へと向け、スナイパーを探す。

そして、そのスナイパーを見つけた時、迷わず射線を向けた。

トリガーから指を外せば、弾道予測線(バレット・ライン)と呼ばれる、回避するためのシステムは見えない。

そしてタスクは、じっとスコープを覗き込む。

相手の顔さえ見れれば、相手するかどうか決めれるからだ。

 

タスクは、無駄な戦闘はしない。闇雲に乱入したところで、こちらは1人だ。後々面倒くさくなるだけである。

したがって、慎重に選ぶのが道理なのだ。

 

そしてそのスナイパーの顔が見えた時、タスクは高揚を感じた。

 

「シノン……か。なるほどな。どおりであれだけ突っ込めるわけだ。ここは一発撃って、挨拶だけして帰ろう。また会うかもしれないし……な」

 

そうタスクは決めて、狙いを定める。

 

タスクのスコープには、GGO最強と噂されるスナイパー、シノンが、映し出されていた。

氷の狙撃手と言われ、アンチマテリアルライフルと言われる、とてつもない性能を持った銃、「ウルティマラティオ・ヘカートII」を使用した最強のスナイパー。

アンチマテリアルライフルは、現時点でこの世界に十丁程度しかない。

そんな事実も、彼女の凄さを物語っていた。

そして今、その凄腕スナイパーが、タスクのスコープに横顔を晒している。

 

普通のプレイヤーなら、そそくさと退散するのが良策だろう。

だがタスクは、挨拶がわりの鉛弾をプレゼントして帰ろうと考えた。

なぜなら、タスク自身、GGO内のとある別の分野で、これもまた「最強」と言われているからだ。

先ほどのマスクをつけるのは、これが関係しているのだが…これ以上はタスクの機密事項(トップ・シークレット)だ。

無駄な戦闘は極力避けたいが、そのプライドが勝ってしまう。

 

そして……

 

バシュン!

 

タスクはあの発砲音を響かせた。本当ならもっとバカでかい音を出すのだが、今はサイレンサーが付いている。最低限の音しか出ないのだ。

 

そしてその発射された弾は、シノンに向けて、まっすぐ飛んでゆく。500m以上、下手すりゃ1000m以上の距離を、たった数秒でだ。

 

キン!

 

そして遂に、シノンへと、正確にはシノンの手元に着弾する。

シノンはあきらかに動揺していた。同時に、弾の飛んできた方向に銃を向け、射撃した主をスコープで探す。

 

すると、シノンとタスクの目がお互いスコープ越しに合った。

シノンが、トリガーを引こうとする。

……が。

 

シノンは驚きのあまり、トリガーから指を外してしまった。

なぜなら、目があった相手、タスクは、すっと視線を逸らすと、そのままスナイパーライフルを背中に背負って、撤退しようとしたからだ。

 

相手スナイパーに位置もバレ、標準も合わされたこの状況で、意味ありげににやけながら、背中をガラ空きにしてゆっくりと奥に歩いていく。

いつの間にか、シノンはスコープから目を逸らし、会ったこともない眼帯の小さなスナイパーに対して、唖然と呟いていた。

 

「強い……!」

 

と。

 

ーこれが、シノンとタスクの一番最初の戦闘(?)である。




はじめまして、駆巡 艤宗です。

今回から、ソードアート・オンラインの二次創作を書かせていただきます。
よろしくお願いします。

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