これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
Episode1 氷の狙撃手 〜Ice sniper〜
「ふぅ……これで5人目っと」
一人の少年が、地面に寝そべりながらポツリと呟く。
手には大きな銃。俗にいう「スナイパーライフル」を携え、スコープを覗いている。
そのスナイパーライフルの射線上には、たった今撃ち抜かれたプレイヤーの残骸があった。
「あと3人……か。1人は脚を撃ち抜いて尋問でもしようかな」
その少年は、サラッと恐ろしい事を呟く。
そして……
「……いた」
バシュン!
この小さなスナイパーの6人目の獲物が、頭を撃ち抜かれた。
✣
「ん〜!稼いだなぁ……!」
場所は一転し、SBCグロッケン。
このゲーム、つまり「GGO」の、首都である。
その大都市の真ん中、歩道のような所を歩きながら、そのスナイパーの少年は背伸びをしていた。
短い黒い髪に、少し低めの背丈。このゲームでは珍しい、中性的な顔立ちだ。
プレイヤーネームは「タスク」。ガッツリ本名である。
この名前はどちらの世界でも通じるので、とても便利だった。
「さて、どうすっかな、今日は休日だし……」
その少年、タスクはふわぁと欠伸をすると、ふらふらと歩き出した。
今日は休日。タスクは学生なので、丸1日休みだ。
家族は出かけているので、タスクは1日この世界の中で過ごすつもりだった。
といっても、時間の流れが少し違うので感覚的には一日ではないが。
「……そうだな、もっかい稼ぎに行ってもいいかも!」
タスクは元気に走り出した。
✣
バシュン!
この射撃音が、また荒野に響く。
カチャッ……キン!
そして撃った後に銃の外へ排出される、空の薬莢。
その薬莢は、荒野の荒い土に落ちた。
「……まだかなぁ、あの人達」
タスクは、ポツリと呟く。
スコープを覗く視線は変えず、暇そうに欠伸をした。
「弾道計算も終わったんだけどな。全く、なんでこうも予定通りに来てくれないんだか……暇だしもう一発撃っとくか」
そう言って、さっきの着弾地点から少し奥に狙いを定める。
そしてまた、射撃音が響いた。
パン!と跳ねた土がスコープから見える。
「問題なし……と。これ何回やってるんだかね〜」
タスクはやっぱり、暇になる。
流石に飽きたのか、タスクがリロードしようとした時。
「ん……!?あれか」
タスクが、スコープから目を逸らし、トリガーから指を外して、裸眼で目を凝らした。
視線の先には、まだ遠くに見える、タスクが待っていたプレイヤーのチーム。
そう。タスクは、このプレイヤー達を待っていたのだ。
俗に言う、PK(プレイヤーキル)である。
先程から暇つぶしに撃っていたのは、そのプレイヤー達の頭を撃ち抜くための、あらかじめしておく弾道計算のためだ。
これをやるかやらないかで、命中率に天と地ほどの差が出てくる。
そのために、タスクはこの標的であるプレイヤー達がやってくるであろう時間の少し前に来ておいたのに、まさかここまで遅くなるとは思っていなかった。
「ふぃ〜待った待った、やっと来たね。それじゃ……お仕事の時間だ」
そう言って、タスクはマスクと眼帯をつける。
マスクはガスマスクのようなもの。ただし、口と鼻のみを覆うようなもので、目は何もカバーされていないものだ。
しかもちゃんと、ガスマスク特有のまーるい物が左右についている。
そしてそのマスクの上に、左目用の眼帯をつけた。
これは、タスクが仕事(?)をするときにつける、定番の装備だ。
訳あってこのような装備をしているのだが、それはまた後ほど。
そしてタスクは、自称お仕事であるPKの用意をする。
タスクはスコープ越しに敵の位置・陣形・装備などを把握していった。
「なるほど……敵は7人。光学銃持ち5、アサルター、いやありゃミニミだな、それが1、黒マントが1……か。歩行速度やマントの凹凸を考えて、あれはミニガンあたりか?なるほど。流石に対人装備を整えてきたな。」
そう呟いて、タスクが分析を終える、と思ったその時。
「ふ、それに、別のPK狙いさんらがいらっしゃるな」
タスクが、少しにやけて言葉を続ける。
タスクの視線は、スコープと一緒に別の方向に向いた。
距離は、元々の標的から左に約1300mだ。
「おお、こっちはバリバリの対人だな。ええと、5人……かな、動き出してる」
タスクは、少しにやけながら遥か遠くを走っていくプレイヤーを眺める。
すると、タスクはあることに気づいた。
「あの走り方……あきらかに後ろを意識してる。なにか後方支援でもなければ、あんな走り方は出来ないな。なにかあるな。だとしたら
タスクが、にやけを超えてあきらかに楽しむ笑顔を見せた。
同時にコッキングをして、撃つ時にはトリガーを引くだけにする。
「いいねぇ、久々にいいものが見れそうだ」
そう言って、タスクはスコープをさらに左へと向け、スナイパーを探す。
そして、そのスナイパーを見つけた時、迷わず射線を向けた。
トリガーから指を外せば、
そしてタスクは、じっとスコープを覗き込む。
相手の顔さえ見れれば、相手するかどうか決めれるからだ。
タスクは、無駄な戦闘はしない。闇雲に乱入したところで、こちらは1人だ。後々面倒くさくなるだけである。
したがって、慎重に選ぶのが道理なのだ。
そしてそのスナイパーの顔が見えた時、タスクは高揚を感じた。
「シノン……か。なるほどな。どおりであれだけ突っ込めるわけだ。ここは一発撃って、挨拶だけして帰ろう。また会うかもしれないし……な」
そうタスクは決めて、狙いを定める。
タスクのスコープには、GGO最強と噂されるスナイパー、シノンが、映し出されていた。
氷の狙撃手と言われ、アンチマテリアルライフルと言われる、とてつもない性能を持った銃、「ウルティマラティオ・ヘカートII」を使用した最強のスナイパー。
アンチマテリアルライフルは、現時点でこの世界に十丁程度しかない。
そんな事実も、彼女の凄さを物語っていた。
そして今、その凄腕スナイパーが、タスクのスコープに横顔を晒している。
普通のプレイヤーなら、そそくさと退散するのが良策だろう。
だがタスクは、挨拶がわりの鉛弾をプレゼントして帰ろうと考えた。
なぜなら、タスク自身、GGO内のとある別の分野で、これもまた「最強」と言われているからだ。
先ほどのマスクをつけるのは、これが関係しているのだが…これ以上はタスクの
無駄な戦闘は極力避けたいが、そのプライドが勝ってしまう。
そして……
バシュン!
タスクはあの発砲音を響かせた。本当ならもっとバカでかい音を出すのだが、今はサイレンサーが付いている。最低限の音しか出ないのだ。
そしてその発射された弾は、シノンに向けて、まっすぐ飛んでゆく。500m以上、下手すりゃ1000m以上の距離を、たった数秒でだ。
キン!
そして遂に、シノンへと、正確にはシノンの手元に着弾する。
シノンはあきらかに動揺していた。同時に、弾の飛んできた方向に銃を向け、射撃した主をスコープで探す。
すると、シノンとタスクの目がお互いスコープ越しに合った。
シノンが、トリガーを引こうとする。
……が。
シノンは驚きのあまり、トリガーから指を外してしまった。
なぜなら、目があった相手、タスクは、すっと視線を逸らすと、そのままスナイパーライフルを背中に背負って、撤退しようとしたからだ。
相手スナイパーに位置もバレ、標準も合わされたこの状況で、意味ありげににやけながら、背中をガラ空きにしてゆっくりと奥に歩いていく。
いつの間にか、シノンはスコープから目を逸らし、会ったこともない眼帯の小さなスナイパーに対して、唖然と呟いていた。
「強い……!」
と。
ーこれが、シノンとタスクの一番最初の戦闘(?)である。
はじめまして、駆巡 艤宗です。
今回から、ソードアート・オンラインの二次創作を書かせていただきます。
よろしくお願いします。
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