これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode177 表の傭兵 〜Player〜

「……」

「……」

 

広い荒野。

寝そべる二人のプレイヤー。

 

「……シノン、さん?」

「……」

 

そのうちの一人は、シノンである。

へカートのスコープから目を離し、ストックの向こうの声がする方に顔を向ける。

 

「なに? ……えっと」

「みーしゃる」

「ああ、そう……ミーシャルさん」

 

そしてもう一人の方。

隣で寝そべる、小柄な女性プレイヤー。

 

……そう、言わずもがな。

()()()、である。

 

「……敬語やめよ、喋りづらい」

「……分かった」

「シノ……シノノンって呼んでいい?」

「!!」

「私はミィでもなんでも、好きに呼んでいいから」

「……ん、了解」

 

眠そうに目を擦りながらそういう()()()……もといミーシャル。

シノンは思わず少しだけ笑みがこぼれる。

 

背は低く、髪は栗色。

ふわっと膨らんだかわいらしいボブカットで、いかにも女の子、って感じ。

 

服装もいかにもで、一応コルセットリグを身に着けてはいるものの下は白ワイシャツにネクタイだ。

下はこれもふわっとしたかぼちゃパンツ。

 

その様子はさながら制服。

まるで……JKのよう。

 

GGOという殺伐とした世界で、こんな子がいるのか。

食事の時思わず見つめてしまった。

 

よく見れば、足は素足だ。

綺麗な細い足が、かぼちゃパンツから下に出ている。

 

うん、女の子。

 

「で……、なに? ミィ」

「……どう思う? あの話」

「あの話……、SJ?」

「うん」

 

どう思う? と言われましても。

シノンは少し考えこむ。

 

「店主さん、面白いこというよね」

「……」

「私よくわかんないや。なんだか話が複雑。ごっちゃごちゃだよ」

「……まぁね」

 

そう。

実はつい先ほどの食事の時。

 

店主に示された任務は、かなり複雑な要件をはらんでいたのだ。

 

「まずあれでしょ、護衛対象がいる」

「ええ」

「でその対象とSJ2に出る」

「……」

「で次に、その対象がどうしても倒さなくちゃいけない相手がいて」

「そう」

「それが、命を懸けてるんだよね」

「……そうね」

 

ミーシャルが空を見上げながら話す。

 

任務の内容は、あらかた彼女の言葉通りである。

 

ようは単純な話、ライバルをSJ2で倒したいプレイヤーがいて、そのお手伝いというわけだ。

 

普段なら断るような任務内容だが、どうやらそのライバルが勝ったらそのライバル本人が自殺をしてしまうらしく、店主が傭兵を出すことを決めた。

 

なんともぶっ飛んだ、とんでもない話だがどうやら本当らしい。

 

「こっからがわっかんなくなるんだよ私」

「……」

「向こうは、私たちが命が懸かった試合であることを知らないと思っていて」

「……うん」

「その上私たちは傭兵じゃないことになっている……んだっけ」

「ん……と、ちょっと違う」

「んぁあ分かんないよぅ」

 

ただ。

店主的には、やはり傭兵をそのまま出したくはないようで。

 

「えとね、ミィ」

「うん……」

 

シノンがスコープを覗きながら微笑む。

 

()()()()。簡単に言えば()()()()()()よ」

「……うん」

「普段の私たちみたいなガチガチの仕事はしないけど、軽い仕事をたまにやる傭兵さんがいる……」

「……」

「ってことにしたのよ、店主さんが」

「ことにした……?」

「そう」

 

ミーシャルの声にまた疑問符が乗る。

シノンはだよね、と言わんばかりにまた微笑んだ。

 

つまり。

店主が()()()()()()()()()、というわけだ。

 

当然の話、傭兵は出せない。

表の、注目度が高いところに、大っぴらに出して、何があるか分からないから。

 

ただかといって。

仮想世界で命を懸けた決闘を放ったらかしにするわけにもいかない。

そういうことを防ぐためのVRFなのだから。

 

そこで店主は咄嗟に。

 

 

 

 

『傭兵は出せないけど、こちらから強い人を紹介することはできるよ』

 

 

 

 

そう提案したのである。

 

そこから色々聞かれ、あれやこれや説明を付け足していくうちに……

 

『傭兵として登録はしないけど、副業程度にたまに任務をこなして収益を得たい人のための制度』、すなわち。

 

『予備傭兵』、ができあがってしまったのである。

 

そこに所属するプレイヤーであることにすれば、傭兵ではない体で傭兵をSJに出すことができる。

 

任務を遂行するにあたり、傭兵である姿を見せずに済む、というわけだ。

 

「まぁ……私たちみたいに傭兵になるとさ」

「うん」

「行動がすごく制限されるじゃない」

「……うん」

「そこまでしたくはないけど、たまにGGOでお金稼ぎたいって人はいるじゃん」

「……?」

 

イマイチ掴めないのか、ミーシャルはシノンの方を向いて ? な顔をする。

シノンは思わず苦笑してしまった。

 

「あ、ま、とにかく。つまりまぁ……()()()()()()()()()()()()()もいるってことにしたの」

「あぁ!! 社員は出せないけどバイトさんならいいよって、そんな感じ!?」

「えっまっうーん、そ、そうね! そういうこと」

 

色々語弊が産まれそうな言い方をするミーシャル。

シノンはまた苦笑するしかない。

 

ま、でもいっか。

本人がなんとなく分かればOK。

 

「で、私たちはその『予備傭兵』として、依頼者とSJに出る、と」

「そう」

「あぁ、だから……」

「?」

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことね」

 

 

 

 

 

 

「……まぁ、そういうこと」

 

ミーシャルは合点がいったのか、なるほど。とか言って頷いている。

シノンはそんな彼女を尻目に、少しだけ不安な顔をしていた。

 

()()()()()()()()()()()、それ即ち。

シノンが、()()()()()()()()ということだ。

 

今まで任務は全てコードネームで遂行してきた。

それはただそうしろ、と言われたからに過ぎなかったが。

 

ただここに来て、コードネームがただの隠れ蓑ではないことを、シノンは自覚したのだ。

 

()()()として、負けたくない。

()()()として、任務に身を投じれる自信が無い。

 

コードネームによる隔てが無くなったが故に。

 

傭兵としてあるまじき、ある種()()が、シノンの中に予期せず巣食ったのである。

 

「……たぶん、私が呼ばれたのはそれもあると思うんだ」

「?」

 

すると。

ミーシャルが不意に話し出す。

 

 

 

 

 

「私、普段()()()()()()使()()()()から」

 

 

 

 

 

「……え?」

 

シノンは思わずミーシャルを見る。

ミーシャルもその視線を察してか、仰向けの姿勢から首だけ傾けてシノンを見た。

 

ふにゃっと笑った顔がかわいい。

 

シノンは思わず頬が緩みそうになるのをとっさにストックで隠す。

 

「そりゃ素性を隠せ、コードネーム使えーって言われたら、できるよ。その装備の用意はもちろんあるけど」

「……」

「私は素材集め専門。任務で人と関わること、ほとんどないんだ」

「あ、あぁ……そういうこと」

 

確かそんなことを、誰かが言っていたような。

朧気な記憶を思い出すシノン。

 

「さて!」

「?」

 

すると、ミーシャルががばっと起き上がる。

シノンは変わらずスコープを覗く。

 

「シ、シノノン」

「?」

「モンスターどんな感じ」

「……えと」

 

今一瞬躊躇ったわね。

シノンは内心で少しだけ微笑む。

 

「少しこっちに近づいた。大体……400m」

「400ね、ありがと」

 

何か後ろでゴソゴソしているがさすがシノン。

スコープを覗いて目を離さない。

 

すると次の瞬間。

 

「シノノン、見せたげる」

「ん?」

 

シノンは意味ありげな言葉に振り返る。

するとそこには。

 

「な……!? 何それ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故、私が素材集めに徹しているのか」




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