これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
「……ふぅ」
時刻は昼ごろ。
GGOは、『ガン・マリア』。
「……お帰り」
みるからに疲れきった彼女は、店の奥から聞こえてくる声に頷きを返した。
「……お客は?」
「いない」
「……ん」
するとその少女は。
いきなり奥のソファーに倒れ込むなりため息をつく。
「……相当お疲れだな」
「そりゃそうさぁ……自分で行けって話だよ、
「まぁまぁ……採集系はお得意じゃない」
「そうだけど……」
「今頃刀片手に暴れてるよ」
「はぁ……」
ソファーに顔を埋めて文句を垂れるその少女。
そんな彼女を見つつ、プルームはココアを持ってカウンターから出てきた。
「……ありがと」
「気にするな」
匂いを嗅ぎつけたのだろうか。
その少女は、プルームが近づいてくると即座に顔を起こした。
「……すっかり板についたね、プルーム」
「ん……そうか?」
その少女は熱々のココアを啜りつつ、店のエプロンをかけたプルームを眺める。
「今や店主さんも
「それは分かるけど……プルームってのが面白い」
「面白い……」
ココアをまた啜ると、その少女はケタケタ笑う。
プルームは呆れた顔をしながらも、自分もコーヒー片手にソファーに腰掛けた。
「……で、見せてくれよ。
滅多に笑わないプルームが、そう言って少し笑って少女を見る。
すると、対するその少女。
「ん……いいよ」
目を伏せてココアをもう一口。
そして何やらウィンドウで操作した、その瞬間。
「おお……!!」
プルームは思わず声を漏らす。
黒一色の全身。
トリガーの後ろにマガジンがくるいわゆる『ブルパップ』と呼ばれる方式の形状。
極め付けは上に大きく乗っかった遠距離スコープ。
「これが、噂の」
「うん。つい最近実装された新・
「……!!」
「『ゲパード GM6
✣
その夜。
相変わらずいない店主の代わりに店番をしているプルームのところに、今日
「あら……おかえり」
プルームは変わらず声をかける。
この少女も、外から帰ってきた。
ただそれは店の外、ではなく。
「……ただいま、です」
「……」
その少女とは言わずもがな。
シノンである。
「……いいのか、帰ってきて」
「……!!」
シノンには、プルームの言わんとしていることがすぐに分かる。
「ええ、まあ。タスクはまだ
「……そうか。今日は……たしか予選だったな」
「はい」
そう。
今日は、『ALO統一トーナメント』の予選当日。
タスクが、最後のリーファの試合を除いて
「どうだった、予選」
「……無事に通過……しまし、た」
「……そうか」
プルームの問いに、静かに答えるシノン。
そんな彼女の声音はどこか上の空。
プルームはそんな彼女を不思議に思い、ふとそちらを見やると。
「……あれって」
「ああ、あれはね」
シノンは、ソファの奥の棚に置かれた一丁の黒い銃を見つめていた。
なるほど。
納得したプルームは、ちょうどできたココアとコーヒーを持ってカウンターから出る。
「ついさっき仕入れ……いや、この場合は
「
そう言いつつローテーブルにココアを置くプルーム。
軽く会釈を返すシノン。
「そう。あれは……」
「?」
「ボスの
「!!!!」
シノンの目の色が明らかに変わる。
「え、じゃ、じゃあ『バレット M82A3』は……?」
「今日の朝売りに出したら、昼には売れたよ」
「え……!?」
「もともとそうするつもりだったらしい。店主の工房にずっと置いてあってね。ALO行く前には既にノーマルに戻してあった」
「……」
「そして
「……そうなんですね」
そもそも何故、とか。
色々疑問に思うところはあるが、シノンはとりあえず聞かないで置くことにした。
ふぅん、というような顔で銃を見つめるシノンに、今度はプルームが質問する。
「……で、君はなんで帰ってきたんだ?」
「……ああ、依頼を少し片付けっ……」
すると、その時。
ガチャリ、と扉が開く音。
シノンは咄嗟に口をつぐむ。
「いらっしゃい」
「……」
プルームが少し体をのけぞらせ、入口の方を見やると。
「ここに『バレット M82A3』があると聞いた。まだあるか」
✣
それからしばらくして。
プルームは、
手元には入荷したてのハンドガンと拭くためのウエス。
「……」
屈強な女戦士たちに囲まれるシノン。
プルームはそれを眺めては少しだけ哀れな気持ちになる。
先ほど来店したのは、例の『アマゾネス』達。
SJで暴れ回った末、レン単騎に崩壊を喫したあのスクワッドである。
彼女達はたまたまそこに居合わせたシノンを見つけるやいなや。
「お話を聞いてもいいですか」とかなんとか言って、彼女を取り囲んでいた。
シノンとの会話を聞けば、なんでも、
「レンに再戦をしたいが、となるとエムを破らねばならない」
「そのためにはあの装甲をぶち抜ける銃が必要」
だとかなんとか。
そんな折、今日の朝方『バレット M82A3』入荷の情報が出回り、遅くなったが駆けつけたわけだ。
「……でも、まだSJ2が開催されるなんて話は」
「別にSJじゃなくてもいいんです!!」
「あの練度、連携ならば、二人とも相当やりこんでいるはず!! フィールドで出くわせばそこででも!!」
シノンの言葉に前のめるアマゾネス達。
プルームは相変わらずその様子を眺める。
「……今日は
ボソリ、そう呟いて少し笑った。
プルームが思うに、おそらくアマゾネス達も中身は少女だろう。
SJのアーカイブを何度も見返している彼にはわかる。
戦闘中はもちろん、安静時も、そして今も。
ところどころ、『若さ』が所作の中に滲み出ているからだ。
「どこに行けばドロップしますか!?」
「どれくらいの装備が必要ですか!?」
気づけば、シノンが屈強な肩に囲まれて見えなくなっている。
なるほど。
ない、となれば自ら取りに行こう、というわけだ。
それでシノンに食いついた、と。
プルームは、哀れな目でその光景を見つめることしかできなかった。
✣
……ちなみに。
「これ、ちょうだい!!」
そう言って昼に『バレット M82A3』を買って行ったのは、
真っ黒なスーツに、顔を覆うようなタトゥー。
そして溢れんばかりの異様な殺気。
彼女に関しても、彼はちゃんと見抜いていた。
間違いなく、あれも中身は少女だ。
アバターの動きの一致率ですぐ分かる。
レンと同じだ。
最も、彼女は
相変わらず取り囲まれるシノンを見つつプルームは思う。
シノン、アマゾネス、
そして…………レン。
「……はは」
プルームは一人笑う。
「あれらは…………
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