これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode171 少女 〜Monster〜

「……ふぅ」

 

時刻は昼ごろ。

GGOは、『ガン・マリア』。

 

()()()()()が、店に帰ってくる。

 

「……お帰り」

 

みるからに疲れきった彼女は、店の奥から聞こえてくる声に頷きを返した。

 

「……お客は?」

「いない」

「……ん」

 

するとその少女は。

いきなり奥のソファーに倒れ込むなりため息をつく。

 

「……相当お疲れだな」

「そりゃそうさぁ……自分で行けって話だよ、()()()

「まぁまぁ……採集系はお得意じゃない」

「そうだけど……」

「今頃刀片手に暴れてるよ」

「はぁ……」

 

ソファーに顔を埋めて文句を垂れるその少女。

そんな彼女を見つつ、プルームはココアを持ってカウンターから出てきた。

 

「……ありがと」

「気にするな」

 

匂いを嗅ぎつけたのだろうか。

その少女は、プルームが近づいてくると即座に顔を起こした。

 

「……すっかり板についたね、プルーム」

「ん……そうか?」

 

その少女は熱々のココアを啜りつつ、店のエプロンをかけたプルームを眺める。

 

「今や店主さんも出撃()るようになったしな。代わりに張っていられる人間が必要なのは明白だろ」

「それは分かるけど……プルームってのが面白い」

「面白い……」

 

ココアをまた啜ると、その少女はケタケタ笑う。

プルームは呆れた顔をしながらも、自分もコーヒー片手にソファーに腰掛けた。

 

 

 

 

「……で、見せてくれよ。()()

 

 

 

 

滅多に笑わないプルームが、そう言って少し笑って少女を見る。

 

すると、対するその少女。

 

「ん……いいよ」

 

目を伏せてココアをもう一口。

そして何やらウィンドウで操作した、その瞬間。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()が、目の前のローテーブルに姿を現した。

 

 

 

 

 

 

「おお……!!」

 

プルームは思わず声を漏らす。

 

黒一色の全身。

トリガーの後ろにマガジンがくるいわゆる『ブルパップ』と呼ばれる方式の形状。

極め付けは上に大きく乗っかった遠距離スコープ。

 

「これが、噂の」

「うん。つい最近実装された新・()()()()()()()()()()()()……」

「……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ゲパード GM6 Lynx(リンクス)』、だよ」

 

 

その夜。

相変わらずいない店主の代わりに店番をしているプルームのところに、今日()()()()()()が現れた。

 

「あら……おかえり」

 

プルームは変わらず声をかける。

 

この少女も、外から帰ってきた。

ただそれは店の外、ではなく。

 

()()()()、から。

 

「……ただいま、です」

「……」

 

その少女とは言わずもがな。

シノンである。

 

「……いいのか、帰ってきて」

「……!!」

 

シノンには、プルームの言わんとしていることがすぐに分かる。

 

「ええ、まあ。タスクはまだALO(むこう)です」

「……そうか。今日は……たしか予選だったな」

「はい」

 

そう。

今日は、『ALO統一トーナメント』の予選当日。

 

タスクが、最後のリーファの試合を除いて()()()()()()()()()()()、あの日である。

 

「どうだった、予選」

「……無事に通過……しまし、た」

「……そうか」

 

プルームの問いに、静かに答えるシノン。

 

そんな彼女の声音はどこか上の空。

プルームはそんな彼女を不思議に思い、ふとそちらを見やると。

 

「……あれって」

「ああ、あれはね」

 

シノンは、ソファの奥の棚に置かれた一丁の黒い銃を見つめていた。

 

なるほど。

納得したプルームは、ちょうどできたココアとコーヒーを持ってカウンターから出る。

 

「ついさっき仕入れ……いや、この場合は調()()、か」

調()()、ですか」

 

そう言いつつローテーブルにココアを置くプルーム。

軽く会釈を返すシノン。

 

「そう。あれは……」

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボスの()()()()()()()()、だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!!」

 

シノンの目の色が明らかに変わる。

 

「え、じゃ、じゃあ『バレット M82A3』は……?」

「今日の朝売りに出したら、昼には売れたよ」

「え……!?」

「もともとそうするつもりだったらしい。店主の工房にずっと置いてあってね。ALO行く前には既にノーマルに戻してあった」

「……」

「そして()()()に依頼だけしてALOに行った。今頃向こうで、予定通り調達できて安心してると思う」

「……そうなんですね」

 

そもそも何故、とか。()()()って誰、とか。

色々疑問に思うところはあるが、シノンはとりあえず聞かないで置くことにした。

 

ふぅん、というような顔で銃を見つめるシノンに、今度はプルームが質問する。

 

「……で、君はなんで帰ってきたんだ?」

「……ああ、依頼を少し片付けっ……」

 

すると、その時。

ガチャリ、と扉が開く音。

 

シノンは咄嗟に口をつぐむ。

 

「いらっしゃい」

「……」

 

プルームが少し体をのけぞらせ、入口の方を見やると。

 

 

 

 

 

 

「ここに『バレット M82A3』があると聞いた。まだあるか」

 

 

それからしばらくして。

 

プルームは、()()()()を眺めてカウンターに座っていた。

手元には入荷したてのハンドガンと拭くためのウエス。

 

「……」

 

屈強な女戦士たちに囲まれるシノン。

プルームはそれを眺めては少しだけ哀れな気持ちになる。

 

先ほど来店したのは、例の『アマゾネス』達。

SJで暴れ回った末、レン単騎に崩壊を喫したあのスクワッドである。

 

彼女達はたまたまそこに居合わせたシノンを見つけるやいなや。

「お話を聞いてもいいですか」とかなんとか言って、彼女を取り囲んでいた。

 

シノンとの会話を聞けば、なんでも、

「レンに再戦をしたいが、となるとエムを破らねばならない」

「そのためにはあの装甲をぶち抜ける銃が必要」

だとかなんとか。

 

そんな折、今日の朝方『バレット M82A3』入荷の情報が出回り、遅くなったが駆けつけたわけだ。

 

「……でも、まだSJ2が開催されるなんて話は」

「別にSJじゃなくてもいいんです!!」

「あの練度、連携ならば、二人とも相当やりこんでいるはず!! フィールドで出くわせばそこででも!!」

 

シノンの言葉に前のめるアマゾネス達。

プルームは相変わらずその様子を眺める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今日は()()が多いな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボソリ、そう呟いて少し笑った。

 

プルームが思うに、おそらくアマゾネス達も中身は少女だろう。

SJのアーカイブを何度も見返している彼にはわかる。

 

戦闘中はもちろん、安静時も、そして今も。

ところどころ、『若さ』が所作の中に滲み出ているからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこに行けばドロップしますか!?」

「どれくらいの装備が必要ですか!?」

 

気づけば、シノンが屈強な肩に囲まれて見えなくなっている。

 

なるほど。

ない、となれば自ら取りに行こう、というわけだ。

 

それでシノンに食いついた、と。

 

プルームは、哀れな目でその光景を見つめることしかできなかった。

 

 

……ちなみに。

 

「これ、ちょうだい!!」

 

そう言って昼に『バレット M82A3』を買って行ったのは、()()()()()()()であった。

真っ黒なスーツに、顔を覆うようなタトゥー。

 

そして溢れんばかりの異様な殺気。

 

彼女に関しても、彼はちゃんと見抜いていた。

間違いなく、あれも中身は少女だ。

 

アバターの動きの一致率ですぐ分かる。

レンと同じだ。

 

最も、彼女は()()()()()()だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相変わらず取り囲まれるシノンを見つつプルームは思う。

 

シノン、アマゾネス、()()()()()、『バレット M82A3』を買って行った()()()()()()()

そして…………レン。

 

「……はは」

 

プルームは一人笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれらは…………()()()()()()()()()()()()()、だな」




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