これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode168 遺品 〜The memento〜

「とりあえず」

「……ええ」

「お疲れ様。ありがとう……、助かりました」

 

シャンパンが入ったグラスが二つ。

二人の男の間で、小さく掲げ合わされる。

 

告別式のあった日の夜、都内のとあるバー。

言わずもがな、多門の行きつけの例のバーだ。

 

したがって、座る男の片方は多門。

もう片方は……。

 

「かなり……無理をさせたね、多中さん」

「いえ……」

 

ラクス……もとい多中(たなか) 従道(よりみち)である。

 

「菊岡さんの助けがなければ僕とてできなかった。僕だけではないですよ」

「……謙虚だな」

 

ユウキの遺品についての話だろう。

つい先ほど、倉橋医師から無事手渡されたとの報告が入り、二人はとりあえずひと段落……というわけだ。

 

「しかし……これから忙しくなるね」

「ええ」

「ここからは君たちの出番ってわけだ」

「……重いですね」

 

多門の言葉に微笑む従道。

 

従道は、普段は国の研究機関で仮想世界を用いた医療の研究に当たっている。

当然、ユウキのことは知っていたし、なんなら時折データ回収や診療で彼女の元に訪れていたくらいだ。

 

店主らの元にいるのはそれと全く関係なく、ただ単に趣味で楽しんでいたところをスカウトされただけだったのだが。

 

今回でGGOだけではなくなってしまった。

 

「まぁでも」

「?」

「現実でお役に立てるのは嬉しいです。何か……新しいスキルを手に入れたみたいだ」

「……ふふ」

 

そう言うと従道は、ぐいっとシャンパンを飲み干す。

 

()()()()に関しても、結局僕らのところに話がきそうですしね」

「……やっぱり」

「ええ、だから僕はすごく……奇妙な立ち位置になりそうです」

「……」

 

心なしか二人の顔が少しだけ暗くなる。

 

立場、仕事、関係。

人間特有のややこしい()()

 

「……大丈夫」

「?」

 

すると、多門が微笑んで従道を見た。

 

「ボスも僕も。たとえ君が敵対しても、見放したりはしないよ。約束する」

「……!!」

 

 

 

 

 

 

「僕らはそういうの、好きじゃないんだ。ボスなんかは特に……ね」

 

 

 

 

 

 

多門の優しい暗い声。

従道はなんのことなのか、すぐに察した。

 

 

同刻、GGO内。

タスクとシノンが、任務に行かんとログインした直後。

 

「あぁ……タスク、来てるよ」

「ん……ありがとう」

 

何やら箱を抱えたプルームが、店主の店『ガン・マリア』のカウンターの奥から出てくる。

 

店主が留守の時の店番としてすっかり板についた彼。

 

店主が店にいる時に必ずしているエプロンを彼もつけ、売り上げ管理や手入れ、修理に相談など、もはや独立できるほどになっていた。

 

「しかしまた何を頼んだんだい」

「ふふ……まぁ、見てからのお楽しみ……」

 

プルームが差し出した箱を受け取ったタスクは、早速その箱を開け、中身の梱包材を取り出す。

 

 

 

 

そうして中から姿を表したのは、()()()()

 

 

 

 

中は空洞になっていて、これが物体ではなく()()()()()()であることが窺える。

 

それもただ単に鉄でできた腕ではなく、いかにも機能が詰め込まれてそうなゴツゴツしい外見。

後から付け足せるようにだろうか、いろんなタイプのレールやソケットも見て取れた。

 

そしてこの腕の向きは……()()

 

「こ、これって……」

「僕の新しい装備です、『義手』をイメージして作ってもらいました」

「『義手』……か」

 

何かを察したプルーム。

相変わらずキョトンとしているシノン。

 

「つまりそれは……今は亡きあの()()の」

「ええ、そうです」

「……?」

 

合点が言ったような顔をして頷くプルーム。

シノンは完全に置いてけぼりを食らっていた。

 

すると、タスクがウィンドウを操作して……。

 

「俺は……」

「タス……いえ、ボス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今まで戦った偉大な戦士につけられた()()は、残しておく主義なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()…………ああ……!!」

 

一瞬で着替え、ボスになった彼の言葉で、シノンはやっと気づいた。

 

()()()()()()

間違いない。

 

 

 

()()()のことだ。

 

 

 

彼はユウキとの試合、最後の最後に左腕を切り落とされている。

厳密には、切り落とさせたのだが。

 

今はなき偉大な戦士につけられた大きな傷跡を残す、つまり左腕が切られたままの状態を示す()()を、今後常に身につけるということなのだ。

 

それで、『義手』。

 

「……じゃ、じゃあ……さ」

「?」

 

すると、不意にシノンがおずおずとボスの顔を覗き込んだ。

義手をつけて、手を握ったり振ったりしていたボスは少し驚いてシノンを見る。

 

「そ、その……」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その()()も、そういう傷跡…………なの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!」

 

今度はあからさまに驚いた顔をするボス。

シノンを見つめて、少し固まる。

 

しかしすぐ目を逸らすと微笑んで一言。

 

 

 

 

 

 

 

「…………まぁ、そのうち……な」




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