これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode166 英雄たる所以 〜Why she is a hero〜

桜散る、4月初めての土曜日。

時刻は午後3時を回ろうとしている。

 

丘陵の上のカトリック教会。

小さな人だかりが点々と。

 

その輪から少し離れた建物陰のベンチ。

そこには二人の女性が腰掛け、空を眺めていた。

 

栗色の長髪、明日奈と。

黒いワンピースのシウネー……もとい(あん) 施恩(しうん)である。

 

「……」

「……」

 

桜が舞う中、二人は静かに彼女……ユウキに思いを馳せる。

 

実感が湧かない……というよりかは、今もまだ……そばにいてくれているような。

どこかふわふわとした感情を抱えている。

 

……その時。

 

「「……?」」                   

 

二人は一人の足音が背後から近づいてくるのを感じた。

 

「……どうも」

「は、はい……?」

 

声を掛けられたので、思わず揃って振り返る。

 

するとそこに立っていたのは、一人の青年。

背丈こそ低めなものの、肩幅が広い、がっちりとした体躯。

歳もほぼ同じだろう。

 

顔は整っていて、目は黒く深い。

浮かべている優しげな微笑みは、二人の心を見ているような……。

 

言わずもがな。

二人は信じがたいが察する。

 

この人が、あの……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして……内嶺(うちみね) (たすく)といいます」

 

 

「……タスクくんは、どう考えるの?」

 

それからしばらくして。

お互いの現実での自己紹介や、彼女との思い出話に花を咲かせた後。

 

不意に、明日奈が祐にそう問うた。

 

「どんな風に……何を、ですか」

「その……何というか……」

 

あまりにざっくりしていたからか、祐が少し戸惑う。

 

……しかし流石の彼。

それとなく察すると、ゆっくりと話し出す。

 

それはおそらく、彼の経験からすると、この出来事はどう映るのか。

そしてどう受け止め、どう考えるのか。

 

「あぁ、まぁ……」

「……!!」

「確かに、友人の死は辛いです。でも……」

 

言葉を詰まらせ、空を向く祐。

そんな彼を見つめる二人。

 

 

 

 

 

 

「でも。その死の()()を、僕は考えるようにしています」

 

 

 

 

 

 

()()……?」

 

明日奈は視線を地面に落とし、少しだけ思案に耽る。

施恩も同じく、どこか考え顔だ。

 

祐は、そんな彼女らを見つつも話を続ける。

 

「確かに彼女は、あのまま生きていればアスナさん達のかけがえのない親友、戦友になっていたでしょう」

「!!」

「VRMMO界にも、革命を起こせたはずです。特にALOのような、肉弾戦のMMORPGではね」

「か、革命……!!」

 

『革命』、その言葉が二人の思い出とリンクする。

 

ユウキの戦闘に宿ったあの美しさと逞しさ。

そしてなんといってもそこから醸し出される強さ。

 

「……でも、彼女は亡くなってしまった」

「っ……」

「それは悲しいことです。僕も実はまだ、信じられない」

「タスクくん……」

 

黒い穏やかな目に、若干の悲しみが宿る。

 

「だから意味を、考えるんです。彼女がなぜ、命を落とさねばならなかったのか」

「……」

「そうするとね、ご存知ですか? 彼女の人生は、現代の最先端医療を少なくとも5年は推し進めた、という話を」

「……え?」

 

明日奈と施恩は驚いて祐を見る。

 

「僕の知り合いから聞いた話です。その人は医師で、主に仮想世界を応用した治療の研究に当たっている人なんですが……」

「……」

「その人が言うには、彼女の人生……つまり、どのように生まれ、どのように育ち、どのようにあの機械……メディキュボイドに入り、そこでどのように生きて、そして死に至ったのか。その全てが、もはや奇跡的、とも言えるほど貴重極まりないデータなんだそうです」

「奇跡的……な……」

「そしてそのデータは、あらゆる方面の研究に役立てられ、そしてそれが総合されると、進歩の度合いで言えば、少なく見積って、5年は軽く超えるんだそうです」

「す、すごい……!!」

 

ポカン、とした顔の明日奈と、目を落とし少し息をつく施恩。

そんな二人を見て、祐はまた微笑む。

 

「医療」という分野は、進歩がかなり早い。

それはただ単純に、「需要が尽きることがない」からだ。

 

ありとあらゆる知識、技術を持った人たちが。

莫大な資金を投じられ、誇りと重責を抱えて日夜邁進している。

 

そんな人たちが歩む道は、一年であっても壮大で、途方もない道のりだ。

 

それの5倍。

5年は5年でも、それは単なる5年とは比べようがない代物。

 

「だから、僕はこう考えています」

「!!」

 

 

 

 

 

「彼女は、彼女が単なる『戦士』であることをよしとしなかった」

 

 

 

 

 

「どういう……こと?」

 

祐の言葉に、二人は首を傾げる。

対して彼は、あくまで微笑みを崩さず続ける。

 

「『彼女は』、では無いかもしれません。神かもしれないし、もっと他の何かかもしれない。誰か、或いは何か、が、彼女を「素晴らしい人物」で終わらせられなかったんです」

「……」

「彼女が亡くなる……、その事によって、医療の進歩が5年は進んだ。考えてみてください。その革新的なデータは、様々な分野に役立てられているんです。その分野ごとに、患者さんがいらっしゃいます。複数の分野が必要な患者さんもいらっしゃるかもしれない」

「……」

「彼女の……ユウキさんのデータは、それら全ての患者さんを、救える可能性を秘めているんです」

「……!!!!」

 

こちらに向く祐の眼に、二人は今にも射抜かれんとしている獣のように息を詰まらせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰かあるいは何か、またもしかすると彼女自身は、彼女を、自らの命を賭けてたくさんの人の命を救った『本当の英雄』にしたんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当の……英、雄……!!!!」

 

二人の心に、確かにその言葉が響いた。

 

 

「……あれ」

 

一方、和人である。

 

式が終わり、各々が各々の輪で話を咲かせる中。

彼は、少し離れる、と告げてからあまりに帰ってこない明日奈を気にかけて、キョロキョロしていた。

 

離れるとは言ったが、視界にあまりに映らない。

和人はだんだん気掛かりになってくる。

 

そうして周りを見回していると。

 

「……あ」

 

見覚えのある背中が、一人ベンチに座り教会を眺めているのを見つけた。

 

「あ、あの……」

「……おや、久しぶり」

 

寄って行って、声をかける。

その男は、和人を見るといつもの微笑みを見せ、少し嬉しそうに答えた。

 

ガタイのいい、のほほんとした雰囲気のその男。

……言わずもがな、店主、もとい多門である。

 

「……あ、あの」

「ま座りなよ、ほら」

「い、いやそんな」

「いーからいーから」

 

和人は、多門に腕を掴まれ座らされる。

 

さすが、と言うべきか力が強い。

それどころか、腕が全く痛くなかった。

 

あくまで簡単に、ストンと腰が落ちる。

 

「……お、俺、今……」

 

 

 

「大丈夫大丈夫、アスナさんなら、今シウネーさんと一緒にタスクくんと話してるよ」

 

 

 

「え……」

「ほら」

 

あくまで全てを見透かした多門は、微笑んで和人を見る。

多門が顎で示した先には、確かにベンチに座る三人の姿が。

 

「あ……」

「ね、大丈夫でしょ」

「……」

 

にっ、と微笑む多門に、和人は苦笑いで返すしかない。

 

「……それより」

「?」

 

すると、不意に多門の声が低く、真剣になった。

和人も思わず身構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日の『SJ2』。もしアスナさんがまだ……()()なら、そばにいてあげて」

 

「!!!!」

 

和人の顔が、一段と強ばった。




あとすこぉーしだけ、ユウキ編は続きます。


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